普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
005 もう1人の転生者
SIDE ???
(あれ? ボクは確か死んだよね?)
思えば、〝あの人〟に守られてばかり──〝あの人〟の背中に隠れるばかりの人生だった。
―や~い、〝イチエン〟―
―〝イチエン〟って覚え易い名前って羨ましいよなー! ハハハハハ!―
あの時の事は今でもはっきりと思い出せる。
〝あの人〟に会うまでは気が弱かったボクは、自分の名前でからかわれている時はよく泣いていた。……いま思えば、ボクに対する嫉妬も含まれていたのだろう。
(ボクは自分の名前が大嫌いだったっけな。……〝あの人〟に会うまでは)
―〝イチエン〟を笑うな! 母さんが言っていたぞ。1円を笑う者は1円に泣くって!―
〝イチエン〟を否定出来ていない辺り、不器用な庇い方だったと思うけど、それでも嬉しかった。皆──それこそ、ある意味問題児であったボクの事を気に入らない学校の先生までボクの名前をバカにしたからだ。……尤も、ボクの事をバカにした学校の先生については社会的に抹殺してやった。
(嗚呼、一番最初に助けてもらったのは小学3年生の時だったっけ)
〝あの人〟にそう言われてボクは自分の名前がほんの少しだけ好きになった。
(それから〝あの人〟と一緒に居ることが多くなって)
〝あの人〟側は心地好くて──その内、〝抱いてはいけない気持ち〟を抱くようになった。……勿論、〝あの人〟には伝えてはいない。
中学に上がって、ちらほらと女子から告白されるようになった。……が、そういうヤツに限って、〝あの人〟の悪口を言うし──下心も見え見えだった。……ボクは所謂、天才と云うヤツだったのだろう。1つの事象を見聞きすれば10の事を知る事が出来たし、その10の事柄から幾つかの結果を推測する事も出来た。……そんなボクたからか、女子達はホイホイと告白してきたのだろう。
(でも……それでも……)
「〝あの人〟も──ボクも死んでしまったんだよなぁ……」
〝あの人〟がボクを突き飛ばした時は何事かと思ったケド、ボクらが居た場所に落下してきた鉄骨。〝あの人〟が助けてくれた。
……が、〝あの人〟はそのまま鉄骨に圧し潰されて死んでしまった。十中八九即死だっただろう。……〝あの人〟──〝だったモノ〟を見た。……見てしまった。それに戦慄いたボクは後退り、いつの間にか車が行き交う車道に飛び出していた様で──
「そう悲しそうな顔をするでない。……待たせたの、一 円よ」
突然この白と黒の空間に響く鈴の音の様に澄んだ、ボク以外の声音。
「誰?」
後ろを向くと正に〝絶世の美女〟を体現したかのような女性が居た。
……ボクはこの女性を見た時、〝識らない〟ケド〝知っている〟そんな妙な感覚に捕らわれる。
(うーん、なんだろ? この喉の奥に魚の小骨が引っ掛かったみたいな感覚は)
「妾は人が云うところの〝神〟と云う存在での。……予定外の事故が原因──今回の場合はあの鉄骨の落下事故が原因で死んでしまった人間を転生させて回っておる。……そして勿論、お主もこれに該当する」
「えっ? じゃあ──」
「そう、お主の言う彼──升田 真人も今さっき、転生させてきた」
「よかった……!」
神サマの言葉を聞いて、一番最初に浮かんだ感情は〝安堵〟であり、その次には〝歓喜〟の感情が湧いてきた。
(また……会えるんだ……!)
ボクはこの状況は察しがついている。……神様転生。神様が人を不注意などで殺めてしまった時、殺めてしまった人間をその人間が元居た世界以外──大抵はマンガやアニメ、ライトノベルの世界などに転生させる。……それが神様転生。
「その表情じゃ大体察しはついている様じゃのう。右手に持っているサイコロを振ってみぃ」
「っ!?」
ボクはいつの間にか握っていた右手の中に有る違和感に驚愕するが、相手は〝神〟である事を思い出して勝手に得心する。
神サマからの指示を思い出し、見た目普通のサイコロを振るう。……出た目は5。
「5つか。特典を言うがいい」
「往く世界の情報はある?」
「特典を使って決めぬ限りは往く世界はランダムじゃ。……よくある二次創作みたいに、マンガやアニメ、ライトノベルの世界のどれかだとしか言えぬ」
「……じゃあ、1つ目は真人君と同じ世界に転生させて」
「あやつと同じ世界じゃな。あい、判った」
「2つ目。【烈火の炎】の八竜で。……出来る?」
アニメ等の世界なら〝力〟は必要だ。
「出来る。【烈火の炎】の八竜だな。……承知した──火竜の印は他者には見えない様にしておこう」
「……ありがとう。……じゃあ3つ目。転生した真人君と同じくらいの年齢にして」
「御安い御用じゃ」
「4つ目は誰が転生者か判る様に」
「判った。……それにしても、他の転生者達と比べてお主は欲が少ないのぅ、感心感心♪」
神サマは、喜色満面の笑みで言う。
「最後に……ボクを女にしてくれ」
「……正気か?」
「うん」
(今度は──今度こそは真人君と……!)
「……なら良い」
神サマが呆れた表情で頷いたのを確認した瞬間、ボクの意識は一瞬の浮遊感の後闇に沈んでいった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「此処は──ぐっ! があっ!」
『此処は何処』と言い切る前に酷い名状し難い頭痛と、頭にナニか得体の知れないモノを突っ込まれている様な不快感がボクを襲う。
(痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! いたい! いたい! いたい! いたい! いたい! いたい! いたい! いたい!)
頭は頭痛のお陰で正常に働かない。働いてくれない。……でも、頭痛の最中に出て来る〝覚えてない〟のに〝覚えている〟、家族──らしき人物との会話の端に挙がる単語の数々から1つの、正答である可能性が一番高い答えを弾き出す。
「〝ハルケギニア〟、〝魔法〟、〝トリステイン〟……なるほど、【ゼロの使い魔】の世界か」
(参ったな。殆ど二次創作の知識しか無い。確か、〝あの人〟──真人君は二次創作とかそっちの方向には疎かった筈)
それに、二次創作云々の知識に疎い真人君の行動はあまり読めなくて、それも心配になる。
「とりあえず今解る事は、ボクはトリステイン貴族の男爵家の次女で、名前はユーノ・ド・キリクリ。年齢は10歳でルイズと同い年」
容姿は某魔砲──某魔法少女の一番最初の魔法の先生だ。……別名が≪淫獣≫の人(?)の人間バージョンだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
〝ボク〟が覚醒して──家族等の前では〝私〟。……ボクが覚醒して早い事、4年が経過した。このまま〝知識〟通りにいけば戦争が起きるので、杞憂に終われば良いが一応訓練はしている。……家族には内緒で。
手早く杖を操り、杖先で虚空に[砕]の文字を書く。
「竜之炎壱式“砕羽”!」
ボクの前腕に緋色の、まるで鷲の羽を想起させる様な刃が顕現する。
ちなみに、ボクは火竜を宿しているお陰か火の系統への親和性が頗る高い。それで≪烈火≫などと云う2つ名を貰った。
――ヒュンヒュンヒュン
「やっと…火竜…も…後1匹…か!」
いつもの様に素振りをしながら1人ごちる。最初は竜之炎壱式の“砕羽”しか使え無かったが、四年の地道な訓練により最後の“烈神”以外は解放出来た。……尤も、“烈神”を使う状況になると云う事事態が最悪中の最悪なので、使う機会が無いに越した事は無い。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
訓練に身を窶しながら、社交界に辟易としているある日の事、父上の用事に付いてトリスタニアに向かった時、偶然寄った飲食店でハルケギニアには珍しい黒髪の──2つくらい年上の少年を見つけた。
その少年はまるで考え込んでいる様で、黒髪への懐かしさも加えられてついつい見入ってしまう。……父上に注意されるも、やはり見入ってしまう。
(まさか!)
顔を見て数秒。〝この時期〟にこの世界──ハルケギニアに居る筈のない人物に驚く。
「……もし?」
4つ目の特典──誰が転生者か判る様になる特典で判る事だが、どうやらその人物はボクと同類らしく、ついぞボクは我慢出来ず、父上の反対を押しきって話かけた。
SIDE END
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