遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~
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ターンEX 鉄砲水と光、光、光
前書き
光光言ってる割には光の結社はちょびっとしか出てきません。
ここでやっとかないともうタイミングを逃しそうな、軽い過去話。
一人、また一人と光の結社へ入っていく仲間に不安を覚えながらも、遊野清明は明日の戦いに向けて静かに眠っていた。その寝顔の横に、ちろりと動く影がある。いや、影という言葉ではまだ足りない。薄く月明かりが照らす部屋の中で、その部分にだけは光がない。それは、まさに闇そのもの。
すやすやと眠ったまま起きない清明のそばをしばらくうろうろしていた闇は、やがて音も立てずにするりと窓の隙間から屋根の上へと出て行った。
人とはかけ離れた姿ながらも、まるでぽっかりと浮かんだ月を見上げるような形になる闇。その体のどこかから、小さな声が響いた。
『あの日起きたことを言ったら、貴方はどう答えるのだろうな………』
声の主である闇を、人はみなこの名で呼ぶ。地に縛られた呪われし神―――――地縛神 Chacu Challhuaと。
なぜ、このような台詞を独白しているのか。それは、少し前にさかのぼる。それは、ユーノが光の結社の手に堕ちる、ほんの少し前の話。
『んー?まーた来たのか、懲りねー奴』
その日は、きれいな半月が出ていた。そのうすぼんやりとした光に照らされながら、すやすや眠っている清明を尻目にぽつりとユーノが呟いた。
『行くのか?』
その声に応え、どこからともなく地縛神の声が響く。無論、なんと答えるかなどわかっていた。なのでこれは、質問ではない。ただの確認だ。
『おう。だからその間、また結界頼むわ。万一のことがあっても、全力で何とかしてくれよ?』
『そうなる前に、勝ってきてくれると有難いがな』
「ワハハ、そりゃそうか。んじゃなー」
ポン、と実体化して地面に降り立ち、本来のこの部屋の主………遊野清明のデュエルディスクを腕に付ける。2、3度腕を振ってしっかり固定されたことを確かめ、彼はいつも通り気楽そうに外に出て行った。その姿がレッド寮からある程度離れたところで、寮の建物自体が青く光る炎にぐるりと囲まれる。その炎は地面を走り回り、やがて巨大なシャチをかたどった姿になった。もし、その様子を上から見る者がいればさぞかし驚いたろう。その姿はまさに、去年一夜のうちに跡形もなく消え去ったナスカの地上絵の姿そのものだったのだから。
その様子を一切振り返ることなく、ゆっくりと歩くユーノ。レッド寮が立地している崖の上から少し行った先の浜辺で、その足が止まった。すでにそこに立っていた先客に、友人に挨拶するような軽い調子で右手を上げる。
「よう。久しぶりだな富野。まさかまたお前の顔見る羽目になるとはなあ」
「ああ、そうだな。俺だってもう会いたくはなかったけどな、これも仕事だし自分のミスは自分でケリつけないとな」
一見すると、お互いに口が悪いながらも穏やかな会話に見えなくもない。だが、それは違う。個人的に何を考えているかはともかく、この2人はお互いに譲れないものがある敵同士なのだから。
先にデュエルディスクを構えたのは、不敵に笑うユーノだった。
「さあ、かかってこいよ。返り討ちにしてやんぜ」
「寝言は寝て言え、奇跡は2回も3回も起きないってことを教えてやるよ」
「上等上等。…………っと、そうだ。1つ聞きたいんだけどよ、いつぞやお前が俺に泣きついてきたときのあのナルシスト野郎、あれどうなったんだ?」
いざデュエルで決着をつけようとした矢先、ふと気になっていたことを思い出してユーノが声をかける。それは忘れもしない数か月前、三幻魔の戦いが終わってから数日も経っていない頃の話だ。幻魔の皇と相打ちになる形で倒れた清明の魂を代価にすると持ちかけられ、暴走した1人の転生者狩りを2対1で倒したことがある。あの相手はかなりの実力者であり、2対1であったからこそわりとライフに余裕がある状態で倒せたものの1対1ならばほぼ確実に負けていただろう。
よっぽど嬉しくない記憶だったのか、あまり思い出したくなさそうにする富野にさっさと喋れと無言のプレッシャーをかけるユーノ。
「あれな。色々あったけど、今はもう全く新しい人生やってんじゃね?記憶も消して、本当に1から別の人間として再スタート中、ってとこだろうな」
「ふーん」
話を振りはしたが、彼としてはそのことにあまり興味はなかったりする。ただ、ふと聞いてみたくなっただけだ。そして、もう用も済んだ。ここから先は、腕ずくで自分の居場所を守るための時間だ。
「さて、と」
「今日こそは……!」
「「デュエル!」」
「先行はくれてやるぜ?俺ドローしたいし」
「けっ、そりゃどうも、だ。俺のターン、手札からパワー・ジャイアントの効果を発動!このカードは手札のレベル4以下のモンスターを墓地に送り、そのレベル分レベルを下げて特殊召喚することができる。レベル2のゾンビキャリアを墓地に送って、特殊召喚!」
パワー・ジャイアント 攻2200 ☆6→4
「まだ俺は通常召喚をしていないな。来い、ドレッド・ドラゴン!」
ドレッド・ドラゴン 攻1100
「レベル4のパワー・ジャイアントに、レベル2のドレッド・ドラゴンをチューニング!大いなる風に導かれ、稲妻よりもなお速く。青きシリウスよ天を焼け!シンクロ召喚、天狼王 ブルー・セイリオス!」
☆4+☆2=☆6
天狼王 ブルー・セイリオス 攻2400
「くっ………また初手シンクロかよ」
思わずぼやく。いつもはエクストラデッキに融合モンスター以外のカードが入っていないデュエルばかり見ているので、久しぶりに見るこの生前と同じ高速環境に合わせた思考ペースに戻すのは若干骨が折れるのだ。もっとも定期的にこの男が来るおかげで勘が鈍らずに済んでいる、という面もあったりするので決して悪いことばかりではないのかもしれないが。
「カードをセットして、ターンエンドだ」
「俺のターン!」
心底楽しそうにデッキからカードを引くユーノ。どれほど口が悪かろうが、この男もやはりデュエルが大好きな人間の一人なのだ。もっとも、そんな人間でなければ最初からこちらの世界に招いたりなどしなかったろうが。崖の上から2人のデュエルを眺めつつ、そんなことをつらつらと考えるチャクチャルアであった。
「先制攻撃はもらってくぜ?キラー・ラブカを通常召喚、そして魚族のラブカを召喚したことで手札のシャーク・サッカーを特殊召喚だ」
キラー・ラブカ 攻700
シャーク・サッカー 攻200
「これで俺の場には、同じレベルのモンスターが2体。俺はレベル3のキラー・ラブカと、シャーク・サッカーでオーバーレイ!2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築。深海を裂く沈黙が、静かな夜に悪夢を魅せる。エクシーズ召喚!No.47 ナイトメア・シャーク!」
暗夜に広がる青い翼。鳥とも虫とも違う形のその翼の持ち主は、まるでどこかの悪夢から飛び出してきたかのように生物の常識を外れた姿をしていた。ただ、薄明かりに照らされた両腕の大きな刃のみが圧倒的な現実感を持って仄かに輝いている。
☆3+☆3=★3
No.47 ナイトメア・シャーク 攻2000
「ナイトメア………シャーク……」
その効果の恐ろしさは彼らが生前いたライフポイント8000の世界ではなく、この初期ライフ4000の世界でこそ生きる。そのことをよく知っている富野が、冷や汗とともにつぶやいた。
「ナイトメア・シャークの効果を発動。オーバーレイ・ユニットを1つ消費し、水属性モンスター1体を選択。他のモンスターがそのターン攻撃できなくなる代わりに、その1体は直接攻撃の能力を得る!ダイレクト・エフェクト!」
体の周りを飛び回る2つの光る球体のうち、片方がナイトメア・シャークの刃に吸い込まれていく。その直後、その姿が闇に消えた。急にいなくなった敵の姿を探し、ブルー・セイリオスが3組6つの目で辺りを慌てて見回す。
だが、それでも少し間に合わない。全くの無言のまま、完全に無音なうちに、悪夢の刃が振り下ろされる。
No.47 ナイトメア・シャーク 攻2000→富野(直接攻撃)
富野 LP4000→2000
「ぐはっ………!」
その威力は、彼の初期ライフのきっかり半分を一撃で奪い去った。ダメージもさることながら、心構えのできていないタイミングで大きな一撃をもらったことで富野の体がのけぞる。そのリアクションにいささかやりすぎたと思い、自分の場にそっと戻ってきたナイトメア・シャークに軽く注意する。
「よくやった。だけど、もーちょっと手加減ってもんも、な?」
ユーノ。なんだかんだ言っても、根っこの方はどこまでも善人であった。
「俺は、これでターンエンドだ」
富野 LP2000 手札:1
モンスター:天狼王 ブルー・セイリオス(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
ユーノ LP4000 手札:4
モンスター:No.47 ナイトメア・シャーク(攻・1)
魔法・罠:なし
「チッ、甘いこと言いやがってよ………俺のターン!墓地からゾンビキャリアの効果を発動、手札1枚をデッキトップに戻すことで墓地からこのカードを蘇らせる」
ゾンビキャリア 攻400
「ダメージ優先は結構だが、まさかセイリオスを生き残らせてくれるとはな。レベル6のブルー・セイリオスに、レベル2のゾンビキャリアをチューニング!赤き王者が立ち上がる時、熱き鼓動が天地に響く。防御に回る臆病者に、生きる価値など欠片もない!シンクロ召喚!叩き潰せ、レッド・デーモンズ・ドラゴン!」
ゾンビキャリアが変化した2つのリングの間に狼の王が入り込み、さらに上の存在へと進化していく。赤と黒のコントラストが禍々しい悪魔名を持つ破壊のドラゴンが、地上に降り立った。
☆6+☆2=☆8
レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000
「レッド・デーモンズで攻撃!灼熱のクリムゾン・ヘルフレア!」
「わかってるとは思うが、墓地からキラー・ラブカの効果を発動!このカードを墓地から除外することで、その攻撃を無効にして次の俺のターンまで攻撃力を500ポイントダウンさせる!」
大きく息を吸い込み、灼熱の炎を吐くレッド・デーモンズ。だがその熱がナイトメア・シャークを丸焼きにする寸前、一匹の魚が炎の前に割り込んだ。いや、割り込んだだけではない。その身を少しずつ燃えていくのも構わず、炎そのものを弾き飛ばしたのだ。
レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000→2500
「ふっ、まあそう来るよな?当然そうするよな?なんてったって、この攻撃をしのげばもう1回直接攻撃できるわけだからよ。だが、そんなの俺に言わせりゃ甘すぎるぜ!ぬるま湯生活で腕が鈍ったんじゃねーのかよ、あー?トラップ発動、バスター・モード!このカードは特定のシンクロモンスターを対象とし、そのモンスターを強化する!」
「バスター!?」
油断していたのかもしれない。考えが甘かったのかもしれない。引きが弱かった、とも言うことができる。だが、それは全て言い訳でしかない。冷や汗を流すユーノをよそに、炎を弾き返された悪魔の竜が赤い光に包まれていく。もう1つの進化系、スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンのデザインに酷似した赤い甲冑に身を包み、より重くなったその体を持ち上げるために翼がもう一回り大きくなる。
レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター 攻3500
「受け取りな。バスターでもう一度攻撃………エクストリーム・クリムゾン・フォース!」
より勢いを増した破壊の一撃が、キラー・ラブカの守りを失いなすすべのないナイトメア・シャークを消し炭へと変えた。その時の衝撃波で浜辺の砂が派手に舞い上がり、すぐ横にいたユーノの体も爆風に吹き飛ばされていく。
レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター 攻3500
→No.47 ナイトメア・シャーク 攻2000(破壊)
ユーノ LP4000→2500
「くーっ、さすがに効くな。でもまあ、おかげで目が覚めたぜ」
「はっ、そりゃどうも、だ。ターンエンド」
実際、今の攻撃で彼はだいぶ目が覚めた。たった1ターンで最上級モンスターを出すことができるこの高速環境。これこそが彼のいた世界なのだ。このスピードに適応しなければ、待っているのは敗北のみ。
「ドロー、手札から爆征竜-タイダルの効果を発動。このカードと手札の水属性モンスターを墓地に送ることで、デッキのモンスター1体を落とすことができる。竜宮の白タウナギを使って、デッキの超古深海王シーラカンスを墓地に送るぜ」
ひとたび本気を出せば、どこまでも回り続ける。例えデッキ枚数が規定ギリギリでセオリーガン無視であろうと、彼はこのデッキを使い続けていた。だからこそ、どこでどう動かせばいいのかはすべて知っている。
「魔法カード、死者蘇生を発動。俺の墓地から、今墓地に送ったシーラカンスを蘇生させる」
超古深海王シーラカンス 攻2800
「シーラカンス………悪いな、その特殊召喚にチェーンして手札から増殖するGの効果を発動。相手が特殊召喚したことで、カードをドロー」
黒く光る、不気味な動きの小さな影。Gと一般的に呼称されるそれがシーラカンスの体から飛び立ち、富野のデュエルディスクに吸い込まれていく。その様子にユーノばかりか使い手の富野までちょっと表情を硬くしていた。なにしろ、このまま特殊召喚を行わずにターンを終えたらただのジリ貧になるので、ユーノとしては嫌でも展開を行わなければならない。だがそうする以上、2人はこの光景を何度も何度も繰り返し見せつけられるのだ。
「そ、それで俺の展開を止めたつもりか?上等。もう仕留めるルートは見つかってるんだ、俺が勝つのとお前がバトルフェーダーあたりを引くの、どっちが早いか見せてもらおうじゃねえか。手札を1枚捨ててシーラカンスの効果発動、魚介王の咆哮!デッキからレベル4以下の魚族を、フィールドに出せるだけ特殊召喚する!来い、俺のモンスター達!」
「この一斉召喚はあくまでも1度に行う特殊召喚………ドローするのは1枚だけだ」
4体のモンスターを代表し、白タウナギの体にくっついていたGが再び飛び立って富野のデュエルディスクに入り込む。うっという顔をしながら、カードをまたドローした。
フィッシュボーグ-アーチャー 攻300
ハンマー・シャーク 攻1700
ハリマンボウ 攻1500
ハリマンボウ 攻1500
「レベル4のハンマー・シャークに、レベル3のアーチャーをチューニング。仲間を守る力を求め、妖精は闇を受け入れる。シンクロ召喚!永久なる守護者、妖精竜 エンシェント!」
シンクロ召喚の合計レベルは、7。キラキラと鱗粉のような光を放つ羽根をもった流線形のフォルムの竜がひっそりとシーラカンスの横に降り立つ。だが、まだ終わらない。そのドラゴンの体にも、Gはひっそりと付いているのだから。
「ド、ドロー………なあ、もうそろそろやめてくんね?」
妖精竜 エンシェント 攻2100
「お前がやったんだろが、お前が。つーか、俺だってやめられるんならやめときたいんだぞ。さらに、レベル3のハリマンボウ2体でオーバーレイ!2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築。星をも喰らう海竜が、新たな時代の風を呼ぶ。エクシーズ召喚!No.17 リバイス・ドラゴン!」
翼に包まれた球体が、さながら巨大な眼球か黒真珠のように光り。そのオブジェがスルスルと展開されて青を基調としたリヴァイアサン、嫉妬の意味を持つドラゴンの姿へと変化していく。………そして、G。
No.17 リバイス・ドラゴン 攻2000
「も、もう終わりだよな!ここでダウナードとか出して来たらそろそろ本気で殴るぞ!」
「やんねーよ、持ってないし。そしてフィールド魔法、忘却の都 レミューリアを発動。この瞬間にエンシェント第1の効果が発動、自分ターンに1度、フィールド魔法発動時にカードを1枚ドロー」
落ち着いた様子でカードを1枚引くユーノ。新たなねぐらを得た2匹の竜が、レミューリアの周りを縄張りを守るかのようにふわりと飛び回る。
超古深海王シーラカンス 攻2800→3000
No.17 リバイス・ドラゴン 攻2000→2200
「エンシェント、第2の効果を発動。フィールド魔法が存在する場合、1ターンに1度相手フィールドの表側攻撃表示モンスター1体を破壊する!森葬の霊場!」
妖精竜の目が赤く光り、呪いを受けた悪魔の竜が頭を押さえて苦しみだす。痛みが限界に達したレッド・デーモンズが膝を折りかけた瞬間、富野の声が響いた。
「しっかりしろ、レッド・デーモンズ!?俺はここで/バスターの効果を使用!このカードが破壊された時、その鎧をパージすることで墓地から元のレッド・デーモンズを特殊召喚する!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000
全ての鎧が炎に包まれて消えさり、再びその身一つの姿で立ち上がるレッド・デーモンズ。だが、彼だって/バスターの効果も知らずにエンシェントの効果を使ったわけではない。その証拠に、さっきのお返しと言わんばかりにユーノがにやりと笑って見せた。
「当然、そこまでは想定済みだぜ?リバイス・ドラゴンの効果発動!1ターンに1度オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、攻撃力を500ポイントアップする!アクア・オービタル・ゲイン!」
「そんなことしたって………いや、そうか!」
何かに気が付いたようにうめく富野だが、時すでに遅し。リバイス・ドラゴンが己の周りをクルクルと飛び回る2つの光の球のうち1つに食らいついた。
「どうやら気づいたようだが、言わせてもらうぜ?墓地に送られたハリマンボウの効果により、相手モンスター1体の攻撃力は500ポイントダウンだ」
No.17 リバイス・ドラゴン 攻2200→2700
レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000→2500
「クソッ、俺のレッド・デーモンズがパワー負けするだと?」
「これで終わらせてやるよ、リバイスでレッド・デーモンズに攻撃!バイス・ストリーム!」
リバイス・ドラゴンのブレスが、動きの鈍ったレッド・デーモンズを飲み込む。
No.17 リバイス・ドラゴン 攻2700
→レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻2500(破壊)
富野 LP2000→1800
「シーラカンスで連撃、マリン・ポロロッカ!」
激流を起こしながら突進するシーラカンス。そのシンプルながらも力強い一撃も、富野の体をとらえることはできなかった。富野とシーラカンスの間に割って入った一つの振り子のようなモンスターが、シーラカンスを強引に押しとめたのだ。
「まだだっ!もうとっくにドローできてたんだよ、バトルフェーダーの効果を発動!相手のダイレクトアタック時にこのカードを特殊召喚し、バトルフェイズを終了させる」
バトルフェーダー 守0
これで、ユーノの攻め手はなくなった。いくらまだ通常召喚を行っていないとはいえ、バーンダメージを手軽に与えられるブリザード・ファルコンなどのカードが手札にない以上このターンではとどめを刺しきることができない。
「残念。カードを伏せてターンエンド」
富野 LP1800 手札:3
モンスター:バトルフェーダー(守)
魔法・罠:なし
ユーノ LP2500 手札:0
モンスター:No.17 リバイス・ドラゴン(攻・1)
妖精竜 エンシェント(攻)
超古深海王シーラカンス(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
場:忘却の都 レミューリア
「戦況は不利だ、けどまだ勝ち目はあるな。ドロー!魔法カード、死者蘇生を俺も発動だ。蘇生させるのは当然、レッド・デーモンズ・ドラゴン!」
このデュエルだけでも2度目の復活を果たす悪魔の竜。いくらレッド・デーモンズが軸とはいえ、この異様なまでのしぶとさにさすがの彼も内心舌を巻く。
レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000
「そして通常召喚、救世竜 セイヴァ-・ドラゴン!」
「バスターとセイヴァーの混合型で、もし前とデッキが同じだとすればスカーレッドも出せる構築…………もはや頭おかしいレベルだな、ったく」
「お前に言われたくねえな。デッキ枚数60で俺と互角にぶん回すなんて十分頭おかしいだろ」
どっちもどっち、という言葉をかける者がいなかったのは、お互いにとって幸か不幸か。
救世竜 セイヴァ-・ドラゴン 攻0
「レベル8のレッド・デーモンズ、レベル1のバトルフェーダーにレベル1、セイヴァ-・ドラゴンをチューニング。赤き王者の永久の魂、終末の世に光を放つ!シンクロ召喚、世界を統べろ!セイヴァ-・デモン・ドラゴン!」
レッド・デーモンズが先ほどとは違った白い光の輪に包まれ、またもやその姿を変えていった。両腕が消えていき、そのかわりに尾はさらに長く。竜の翼はまるでトンボのような4枚羽へと変わり、空中戦での素早さをさらに高める形へ適応していく。救世の天使としての神々しさと、破滅の悪魔としての禍々しさ。相反する2つの力を同時にその身に秘めた、他のレッド・デーモンズ系統とはまた違ったコンセプトを持つ第3のドラゴンである。
セイヴァ-・デモン・ドラゴン 攻4000
「セイヴァ-・デモン、お前の力を見せてやれ!1ターンに1度、相手のモンスターの効果を無効にしてその攻撃力を得る!パワー・ゲイン!…………だがその前に、用心に用心を重ねないとな。速攻魔法、禁じられた聖槍を発動、対象はシーラカンスだ。これでその伏せカードがなんであろうが、シーラカンスはその効果に対する完全耐性を持った。だが逆に言えば、その恩恵も受けられないぜ」
超古深海王シーラカンス 攻3000→2200
シーラカンスの体が赤い光に包まれ、苦しむ魚の王からなにかエネルギーのようなものがセイヴァ-・デモンの中に流れ込んでいく。その様子を見て、富野は勝利を確信した。レミューリアの効果を受けたシーラカンスの攻撃力は2200。それを吸収して攻撃力6200かつカード効果で破壊されないセイヴァ-・デモンの1撃ならば、それを止めることのできるカードは限られてくる。攻撃反応に絞るならば破壊ではなく除外を行う次元幽閉や攻撃力をそのまま跳ね返してくる魔法の筒あたりが警戒どころだし、その他フリーチェーンならば月の書などが危ない。が、そんなフリーチェーンで使うようなカードが伏せてあるのならばそもそもセイヴァ-・ドラゴン召喚時に使用してセイヴァ-・デモンの召喚を防げばいいだけの話であるのでこれは除外できる。そして破壊を行わないタイプの攻撃反応カードを使ってきたとしてもそれは十中八九トラップカードであろう。その場合は先ほどGの効果でドローしたカード、攻撃宣言時に相手が発動したトラップを手札から捨てることで無効にできるチャウチャウちゃんの効果を使えばいい。つまり、この効果が届くと同時に彼は勝利を手にするに等しいのだ。
だが、その推測にはたった1つだけ欠点があった。それは、今の推測全てが前提条件としてセイヴァ-・デモン・ドラゴンの効果が通っていないと意味がないという点。実際その力が届く寸前、シーラカンスの力は本体もろとも一つの魔方陣に吸い込まれていった。
「何!?」
「あんまり好き勝手させるかよ!リバースカードオープン、水霊術-葵!このカードは自分の場の水属性1体をリリースし、相手の手札1枚を墓地送りにすることができる。俺はこの効果で、シーラカンスをリリースするぜ!!」
「だ、だがシーラカンスは聖槍の効果を受けた!なのになぜ………ハッ!」
痛恨の判断ミス。普段の彼ならば決してしないであろう、最悪の選択だった。この瞬間、勝負の流れは完全にユーノの方へと傾いたといえるだろう。シーラカンスが光の槍に貫かれてわななきながらも鏡の中に吸い込まれ、セイヴァ-・デモンの効果が不発になる。
「悪いが、水霊術の発動条件はコスト、さ。確かにこれが効果の一部だったらパーになってたろうが、聖槍といえどもモンスターをコストに使用するのだけは止められないぜ。それじゃ、改めて手札を………ほう、チャウチャウちゃんか。惜しかったな」
余裕めかしたセリフを吐きながらも、次に来るであろう衝撃に備える。なにしろこれでやることは全部やってしまったのだ、この次の攻撃を止める方法はない。2体のドラゴンのうち、どちらがやられるか。もっとも2体の効果を考えれば、そんなことはわかりきっている。
「まだ俺は攻撃宣言をしていない、妖精竜に攻撃!アルティメット・パワー・フォース!」
「まあ、そう来るよな………っ!すまん、エンシェント!」
灼熱の火炎放射とはまた違う、赤い光の奔流が妖精竜の姿を一飲みにした。たとえ効果が不発に終わっていても素の攻撃力だけで4000と圧巻の数値のそれは、またしてもその後ろにいたユーノを吹き飛ばす。
セイヴァ-・デモン・ドラゴン 攻4000→妖精竜 エンシェント 攻2100(破壊)
ユーノ LP2500→600
「ふー………」
先ほどの富野の判断ミスにこっそり感謝しながら、辛うじて残ったライフでデュエルを続けるために立ち上がる。実際、今のはかなり危なかった。もし先ほどの禁じられた聖槍を今の戦闘でエンシェントに対して使っていたら、ユーノのライフは0になっていたのだ。
だが、それもすべては過ぎた話。エンドフェイズを迎え、セイヴァ-・デモン・ドラゴンから救世の力が抜けていく。
「チクショオオオォォ!!エンドフェイズにセイヴァ-・デモン・ドラゴンはエクストラデッキに戻り、かわりに墓地のレッド・デーモンズを特殊召喚する!!」
レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000
もはや、勝負はついていた。リバイス・ドラゴンの効果を使い、攻撃力を上げつつハリマンボウを墓地に送る………あとは、このドローでモンスターを引きさえすればいい。そして………。
「来い、ツーヘッド・シャーク。そしてリバイスの効果をもう1回発動、アクア・ゲイン・オービタル!」
ツーヘッド・シャーク 攻1200→1400
No.17 リバイス・ドラゴン 攻2700→3200
レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻3000→2500
「これで終わりだ、富野。バイス・ストリーム!そしてツーヘッドでのダイレクトアタック!」
No.17 リバイス・ドラゴン 攻3200
→レッド・デーモンズ・ドラゴン 攻2500(破壊)
富野 LP1800→1100
ツーヘッド・シャーク 攻1400→富野(直接攻撃)
富野 LP1100→0
「チックショ、今回は俺が馬鹿だった。………もうこんなことはしないからな、次こそは覚悟してろよ」
「おうおう、3日4日ぐらいなら覚えといてやるよ。んじゃ、あーばよ」
しきりに悔しがる富野を余裕たっぷりに相手しながら、くるりと背を向けて寮に戻ろうとするユーノ。その背中に、最後の一言がかけられる。
「ところで。一応この辺りには最初に昔倒した転生者の技術を応用して永続魔法、フィールドバリアを張っておいたから一応今のは誰にも見られてないけどよ、なんかさっきからこっちに来ようとしてる奴がいるぜ。俺は帰るから、見つかったらテキトーに後始末やっといてくれ」
「あ、ちょっとこら待て!…………んなろー、また勝手に消えやがって」
あまりといえばあまりにぶっ飛んだ話ではあるが、それに何一つ疑問を持たない辺りはさすがにデュエリストというべきか。ぶつくさと誰もいない浜辺で文句を言いながら引き上げようとするユーノだが、それは少しばかり遅かったようだ。
「待ちなさい。そう、そこのあなたです」
当然、夜更けの浜辺に誰かほかに人がいるはずもなく。半ば諦めてゆっくりと振り向くと、そこにはかなり会いたくない相手の顔があった。
「斎王……琢磨……!」
「おや、私のことを知っていましたか。私も有名になったものです」
何が起きるかはわからないが、かなりよからぬことになってきた。なんとか脳をフル回転させてこの場から立ち去る方法を考えようとするが、それよりも先に斎王が懐から2枚のカードを取り出した。1枚はデュエルモンスターズのカードだが、もう1枚は違う。占い用に使われるトランプ、所謂タロットという奴である。
「聞きたそうですから先に教えておきますが、私のタロットが告げたのですよ。誰かの裏切りを暗示する月のカードの運命を持つものがここにいる、とね。私はあなたのことを知らないが、光の結社に入るにふさわしい力を持っているようだね」
「ご高説ありがたいがね、生憎と死んだじーさんの遺言で宗教に関わっちゃいけないって言われてんだ。じゃ、あばよ」
ちなみにこのじいさんとやら、完全に口から出まかせである。
「ああ、待ちなさい。せめてこのカードを受け取ってもらいたい」
「なに?」
受け取って、という単語についつい反応してしまうあたり、彼にも清明の貧乏性がいつの間にか移ってしまったのかも知れない。そんな彼の目が、斎王のかざした1枚のカード………時の魔術師のカードを捉えた。見てしまった。瞬間、時の魔術師が白い光を放ち、まるで意志を持つかのように斎王の手から離れてユーノの胸ポケットにすうっと入り込む。
変化は、すぐに表れた。
「これは!?」
「さあてね。このカードはアルカナでもなんでもないが、かなり強い光の意思が宿っている。だが案ずることはない。さあ、私とともに光を目指そうではないか」
「…………誰……が……」
必死に強がるも、さっきまでの闇のゲームに疲弊していた彼の精神は光の意思を抑えられない。地縛神の力があればまた別なのかもしれないが、肝心のカードは今レッド寮に残してきている上に、そもそも彼自身はダークシグナーではないのでその恩恵を受けることができない。下手に出ていけば返り討ちにされかねないほどの光の意志の強さにユーノも、チャクチャルアもどうすることもできないうちに彼の意識が遠くなっていく。どうにもできずに意識が完全に吸い込まれる寸前、せめてもの抵抗としてデュエルディスクを腕から外して砂浜の向こう側に放り投げた。それをチャクチャルアの作り出した闇が捕まえたのを確認し、彼の意識は…………。
彼は思う。ああそうだ、俺は光の結社のためにあの世から蘇ったのだと。
「………わかった、斎王様」
「お互いに分かり合えてうれしいよ。ところで、君の名前は?」
「俺は、ユーノ。光の意思を代弁する1人、ユーノだ」
『………結局は、これも私の力不足が招いたことか。いつかのラビエルとの戦いの時もそうだ。私には、力が足りない』
場面は、再びレッド寮屋根の上に戻る。自虐気味にそう言うチャクチャルアに、言葉をかける者はいない。虚しいほどに白い月のみが、ただぽっかりと輝いていた。
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