普通だった少年の憑依&転移転生物語
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001 転性するのはちょっと……
SIDE OTHER
どこまでも広がっていそうな白色と灰色が混じり合う空間に年の頃は17、18歳くらいの茶髪の少年が1人で立ち尽くしていた。
「……たしか俺、死んだよな? いきなり〝アイツ〟の頭上に鉄骨が落ちて来て、俺が〝アイツ〟を突き飛ばして庇って──止めよ、鬱過ぎて死にたくなる。……あ、そういえば既に死んでるんだった」
「確かにお主は死んでしまったのぅ」
少年が立ち尽くしながらも周囲に聞こえない程度の声量でバカな事を呟いていると、その呟きを聞かれてようで……背後──少年の主観から見た背後からまるで鈴の音の様に美しい声が掛けられる。
「っ!? 誰だ!」
「まぁ、待て。今詳しく説明するからの」
少年が後ろを見ると、詩・医学・知恵・商業・製織・工芸・魔術を司る某最後な幻想のCCFF7に裏ボスとして出てきたローマ神話の女神の姿があった。……因みに、鎧は纏っているが顔は出ている。
「……もしかして、貴女の御名はミネルヴァとか云いませんでしょうか?」
「うむ! 妾の名確かにミネルヴァと申すが、お主の考えている様な存在とは少し違うからの。今はお主に妾が〝妾〟だと判りやすい様にこの姿をして居る」
少年のチグハグな敬語を気にした様子もなく、カラカラと笑いながらもミネルヴァは続ける。
「続けるぞ? 妾がここに来た理由はお主を転生させるためじゃ」
「へ? 転性? 女になるのはちょっと……」
「字が違うっ! 〝転生〟じゃ! お主には通常、このまま輪廻の輪に入ってもらうところを、記憶を保持したまま転生してもらう──否、転生してもらわねば妾が困る」
「……その話、断ったら──」
「お主も知っておるだろう? 無限ループと云う素敵な言葉を」
「拒否権は無いんですね。判ります」
取り付く島も無いミネルヴァの台詞に少年は頬を引き吊らせながらもミネルヴァの提案に承諾の意を示す。
「右ポケットに手を入れるんじゃ」
「判りました。……これはサイコロですか?」
少年はミネルヴァの示唆通りにポケットに手を入れると1つのサイコロが有った。
「左様。サイコロ以外に何に見えるんじゃ? そのサイコロを振ってみぃ」
「ていっ」
サイコロは地面で数回バウンドした結果、1の目を出してその運動を止めた。
「特典は1個か。通常3個とか4個なんじゃが、お主も中々ツイてないのぅ」
「特典……ですか?」
「……もしやお主、〝神様転生〟と云うワードを聞いた事が無いのか?」
ミネルヴァは先程からの少年の態度で気になっていた事を訊ねる事にした。
「字面から察するに、神様〝が〟転生する。……と云う意味でしょうか?」
「あ~、違う違う。確かにそういうパターンも無きにしも非ずじゃが、大抵のパターンは神様〝に〟転生させてもらう事の方が多いの。今回のパターンは後者のケースになるの」
「はぁ……」
「妾達、神と呼ばれる存在が不注意等で人間を死なせてしまい、そのお詫びにいくつかの特典を与えて転生してもらう。……それが〝神様転生〟の大まかな概要じゃ」
「えっと……じゃあ、俺が死んだのも──」
ミネルヴァは少年の台詞を遮り、「但し!」と言いながら続ける。
「何事にも異例はあってのぅ、お主のケースが良い例じゃ。……胸に手を当て、死んだ瞬間を思い出してみるが良い」
「えっと、確か……〝アイツ〟を落ちて来た鉄骨から庇って──あっ……
死の際の事を思い出したのか、ゾクリ、と少年の身体に怖気が走り少年の額に一筋の雫が流れ、その雫は重力に引かれやがて地面に落ち、白と灰の地面に染みを作る。
「……どうやら思い出したようじゃな」
「……ええ」
「鉄骨があそこで落下するのは少々予想外での──これも言い訳じゃな。妾の不注意の結果、お主を含めた数人が死んでしまったのじゃ。……妾が気を揉んでおれば、起きぬ事故だったのに誠に申し訳無い」
ミネルヴァは本当に申し訳なさそうに、少年を含めた散って逝った生命に謝罪する。
「ミネルヴァさん……俺は貴女を赦しましょう」
「っ! お主は妾を怒鳴らぬのか? お主の言う〝アイツ〟とも離れ離れにさせてしもうたのにか?」
「確かに〝アイツ〟と離れる事になってしまった事に思うところは無いと言ったら嘘になりますが、今に思えばこれで良かったのかもしれません」
「……どうしてじゃ?」
ミネルヴァは信じられないと云った表情で少年に聞き返す。
「〝アイツ〟は俺が居ない方が前に進めるんです。……俺が〝アイツ〟の足を引っ張って、〝アイツ〟の成長を遮っていたからと云うのも有りますし──あのままでは〝アイツ〟の気持ちにも応えられませんでしたし。……まぁ、俺の思い上がりかもしれませんが」
「そうか。……お主に赦してもらったからか、肩の荷が降り
た気分じゃ。礼を言おう」
「その礼、確かに受け取りました」
少年の赦しを得たミネルヴァはコホン、と咳払いを1つすると、話が横道に逸れて投げっぱなしになっていた特典についての話に戻す。
「それでは、特典についての話に移ろうかの。……あ、そういえばお主は判らないんじゃったな」
「は、はぁ……」
ミネルヴァは「どう説明したもんかのぅ……」と唸りなが顎にてをあて策を巡らす。
「お主、Fateシリーズについての知識は?」
「……友人に聞いた程度なら」
「ふむ、要は特典と云うのはお主が〝“無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)”が欲しい〟と言えば、妾がお主に“無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)”を与えよう。……例えばの話だがの」
ミネルヴァは「但し」と言い、更に付け加える。
「妾の神格は上級の中級が良いところじゃから、〝Fateシリーズに出てきた宝具全部寄越せ〟とか言われても無理な話じゃ」
「……幾つか疑問が有ります。特典をもらったとしても、使い方が解らなかったら宝の持ち腐れだと思うのですが」
「その辺はこちらで使い方がお主に判るようにするから問題無いぞ。安心して選んでくれて結構じゃ」
ミネルヴァは、よくぞそこに気付いた! と云わんばかりに溌剌とした声音で言う。
「では、もう1つ。性別はどうなりますか?」
「性別はお主が望まぬ限りはそのままじゃ」
「そうですか。……最後に1つ。まだ転生する先の世界の情報を聞いて無いので、特典を選ぶのが難しいのですが」
「……特典の1つを使って行く世界を指定せぬ限りは、数多く存在する、アニメやマンガ、ライトノベルの世界のどれかだと言っておこう。……勿論、〝原作〟の平行世界の1つだぞ。転生者を放り込む専用の世界が有るのじゃ。……妾からはそれ以上は言えぬ。重ね重ね済まぬの」
「……そうですか」
少年は突っ込みたい衝動に駆られたが、これ以上突っ込んでも話が拗れるだけだと思い、話を進める。
「うーむ、特典の使い方は判る様になっていて、性別はそのまま。おまけに転生先の情報は無いと。……じゃあ、【めだかボックス】から“有言実行”で」
「“有言実行”。確か……言葉を実現させるスキルじゃったな。転生させて、お主の意識が復活した時点で発現する様にしておこう」
「ありがとうございます。……特典は以上ですね」
「そうか。……最後になるが、まだ聞きたい事はあるかの?」
「では1つだけ、ミネルヴァさんは俺が転生について断ろうとした時、〝困る〟と言っていました。……それは何故ですか?」
ミネルヴァは少年の質問に鷹揚に頷くと懐かしむ様に口を開いた。
「……〝神〟と呼ばれる存在になって幾星霜。妾は──否、妾達は娯楽に飢えて居るのじゃよ。今回のお主の件の様に人間を転生させてはその転生させた者を観察しては暇を潰しておる。……じゃから、お主も妾を楽しませてくれるのなら嬉しいのう」
「……出来る限り、ミネルヴァさんのご期待に沿えるようにしましょう」
「ふふ、善きに計らえ。……では、そろそろ送ろう」
「はいっ」
――ガコンッ
「升田 真人よお主に幸多からんことを──何、これも所謂〝お約束〟と云うやつじゃ♪」
「……え? あ~~~~~~れ~~~~~~!!??」
ミネルヴァは指を鳴らすと、少年の足元が開き、さも当たり前の様に少年は重力に引かれ、奈落の底へとアホ丸出しな叫び声を木霊させながら落下して往く。
「……往ったか。妾も次の者のところに行こうかの」
ミネルヴァはそう呟き、足元に複雑怪奇で幾何学模様な魔法陣を展開させると、どこまでも広がっていそうな白色と灰色が混じり合う空間からその姿を消した。
SIDE END
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