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曹操聖女伝

作者:モッチー7
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曹操聖女伝第7章

 
前書き
趣旨は封神演技を題材とした作品やPSPのJEANNE D'ARC等の様々な作品の様々な設定をパクリまくる事で、曹操が三国志演義内で行った悪行の数々を徹底的に美化していくのが目的です。
モッチーがどの作品のどの設定をパクったのかを探すのも良いかもしれません。

この作品はpixivにも投稿しています→http://www.pixiv.net/series.php?id=376409

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曹操が董承を処刑していた頃、幽州でも血生臭い出来事が起ころうとしていた。切っ掛けは公孫瓚(字は伯圭)と劉虞との対立であった。
幽州では銀月族と呼ばれる亜人種の反乱に頭を悩ませていた。そこで朝廷は幽州刺史の経験のある宗正の劉虞を幽州牧に任命してこれに当たらせた。
銀月族に対し恩徳を以た懐柔策を採る劉虞に対し、公孫瓚は
「銀月族は制御し難いものである故に、彼女等が服従しない事を以て討伐すべき。若し今彼等に恩徳を与えたら、益々漢室を軽視するに違いない。劉虞の政策は一時の功名は立てても、長期的戦略ではない」
と反論し銀月族降参の使者を捕らえて殺害した。
また、橋瑁と曹操が董卓に対する挙兵を謀った際、袁紹や韓馥は、劉虞が漢王室の年長の宗室ということで皇帝に擁立しようとしたが、公孫瓚は
「皇帝になれるほどの人物なら、天から雨を降らせることができるであろう」
と強引な要求をした。時は真夏の最中だったが、結局雨が降らなかったため、劉協はなんとか今上帝の地位に踏みとどまれた。
更に公孫瓚は袁紹にこう告げた。
「馬鹿げている!それでは規律と大義に反する!そんな事は通せない!」
この一件が袁紹軍の遅参に繋がったのである。また、この一件から、元より悪かった劉虞と公孫瓚の仲はますます険悪になった。
やがて劉虞は公孫瓚が乱を起こすことを警戒し、異民族らと連携し数万余の大軍を集め公孫瓚を攻撃した。
ところが公孫瓚との決戦を前に、従事の程緒が
「公孫瓚の悪事過失は明白だが、処罰の名目が立っておらず、また勝算の見通しも立っていない。ここは兵を留めて攻撃せず、武威を示せば公孫瓚は降伏するでしょう」
と進言する。
劉虞は進言を退け、士気を沮喪させたとして程緒を斬首に処したが、かえって軍勢は混乱した。さらに従事の公孫紀は、公孫瓚と同族で彼に厚遇されていたため、討伐作戦の詳細を密告した。
公孫瓚は劉虞の陣へ火攻めを仕掛けて散々に討ち破り、ついに劉虞は捕らえられてしまった。
これに慌てたのが袁紹であった。曹操が董卓軍残党の魔の手から劉協を奪取した事で、まるで飛ぶ鳥を落とす勢いとなった事を憂いでおり、何とか曹操を今上帝の後ろ盾を得た状態から引き摺り降ろしたかった。
が、袁術の失敗を見た後では、皇帝僭称への踏ん切りがつかなくなる。そこで後漢の東海恭王・劉彊(光武帝の長男)の末裔である劉虞を皇帝に擁立しようと考えていた。
無論、劉虞を斃せば袁紹が動き出すのを読んでいた公孫瓚は、易京に防衛用楼閣を建造し、10年分の兵糧を貯め込んだ。
「兵法には百の城楼は攻撃しないとあるが、現在自分の城楼は千重にもなっている。(農事に励んで蓄えた)この穀物を食い尽くしている間に天下の事態の行方を知る事が出来よう」
其処へ1人の美少女がやって来た。
サイドを首筋で切りそろえた綺麗な水色の髪、スッキリとした鼻筋の通った端整な美貌、月光に輝く白い肌、ほっそりとした優美な肢体、だが胸元や腰回りは十分すぎる程女らしい豊満なラインを描いている。チューブトップとミニスカートを掛け合わせたような白い和装束にナースキャップという不可思議な格好を除けば、多くの男性を虜に出来そうな美貌だ。
これ程美しい少女がやって来てやったのに、公孫瓚はあからさまに嫌そうな顔をする。それにはちゃんとした理由がある。
「趙雲(字は子龍)……お前はまだその格好なのか?」
「良いではないか。私が好きで此処におるのだ」
「しかし……勇猛で重厚な武芸の達人であったお前がこの様な姿に成り果てるとは……勿体無い事だ」
「私が選んだ道だ。何も後悔は無い」
趙雲なる美少女……実は元男性だったのだ。だが、銀月族が行おうとした呪術の儀式を妨害した際、その呪いを受けて女性化してしまったのである。
「それより、お主がまだ私の許にいるのは予想外だったぞ」
公孫瓚が突然真面目な話をしてきたが、趙雲は人を食ったかのような感じて答える。
「袁紹……あの男こそ天下に一番近いと揶揄されておるが、あの男には民を尊ばせる力はあるまい。それに……幽州のメンマは中々珍味でな」
「メンマの良し悪しで主君を決めていたのかよ!」
「何を言う!料理は剣より強し!料理を制する者は世界を制する―――」
趙雲は自分達の敗北がすぐ傍まで近づいている錯覚に囚われ話を中断する。
「待て!何か様子がおかしいぞ?」
「今度は何だ!?趙う―――」
其処へ伝令兵が駆け込んで来た。
「袁紹軍がこの易京城に侵入!既に我が軍の被害甚大!」
これには驚きを隠せない公孫瓚。当然だ。易京に建造した防衛用楼閣は幾層もの城壁を備える堅城。よほど油断しているかよほど透明に近い存在感でない限り直ぐに見つかり……完膚なきまでに叩きのめされるのがオチの筈である。
それに対して、趙雲は冷静にこの事態を分析する。
「袁紹軍はかなりの労力と財力をこの戦いにつぎ込んだらしいな」
「どういう事だ?趙雲?」
趙雲、袁紹軍の軍略を見透かした(と勘違いして)目を細める。
「あ奴らは恐らく地下からやって来たに相違ない。だが、これだと進軍に時間が掛かるし、もし見破られれば……」
趙雲の推察通り、袁紹は地の底を掘って易京城に潜り込もうと考え、日夜トンネルを掘り進んで、とうとう城の中に達した。
予期せぬ場所からの奇襲に浮き足立つ公孫瓚軍。このまま袁紹軍に壊滅させられるのは時間の問題であった。
完全に諦めてしまった公孫瓚は、趙雲にこう告げた。
「私の首を刎ねよ」
これには冷静ながらおちゃらけた性格で悪ノリした言動が目立つ趙雲も激しく動揺する。
「正気か公孫瓚!」
「必勝を確約する筈のこの楼閣までもが破られた……私は敗けたのだ」
返答に困り茫然となる趙雲。
「趙雲よ、私の首は手柄になる。遠慮せずに―――」
趙雲、毅然とした態度で言い返す。
「断る!私の尻はそこまで軽くない!それに、袁紹が亡くなれば戦局も変わろう」
「死ぬ気か!?今戦っても袁紹に辿り着ける保証は無いぞ!」
「それはやってみないと解らん。それに、幽州のメンマを廃らせる訳には行かん」
趙雲は自信に満ち溢れた笑みを浮かべながら袁紹軍に斬りかかった。
「……趙雲……お前馬鹿だよ……」

「ふっ……なかなか雄壮だな袁紹」
袁紹の三男である袁尚(字は顕甫)が趙雲を発見し公孫瓚軍に仕える事の無意味さを説き始める。
「最早公孫瓚に活路は無い!大人しく父上に仕えよ!」
趙雲は呆れ半分、困り半分でおちゃらけた答えを返す。
「私は最近あちこちに贅肉が付き始めて困っておると言うのに、何故が私の尻は軽いと勘違いする者が多い。何故だ?」
「ぬかせ!小娘1人にこの戦局を変えられるものか!」
「万夫不当が要らぬ事をやらかせばあるいは……趙子龍。今より歴史に向かい、この名を高らかに名乗りあげてみせよう!」
己の手に馴れ親しみ、身体の一部と化した槍と語らう為に、趙雲は演舞をするように槍を振るう。
「いさ……参る!」
趙雲はたった一振りの槍を構えて押し寄せる袁紹軍土竜戦法部隊の波に向かって強く地面を蹴りつけた。
「恐れる者は背を向けろ!恐れぬ者はかかって来い!我が名は趙子龍!この身これ刃なり!」

久々に天の声を聴いた曹操は、2万5000の兵を率いて官渡にある防衛用楼閣に向かった。
「もう直ぐこの防衛用楼閣が陥落する。天の声が言うのだから間違いないのであろう。だが、どうやって?」
そんな曹操の疑問は官渡にある防衛用楼閣に到着した事で更に大きくなった。
「敵兵がいない!天の声は崩壊ではなく陥落とハッキリ言った!なのに何故!?」
それでも曹操は天の声を信じて官渡にある防衛用楼閣に駐屯する事にした。

一方、公孫瓚の易京城に見事勝利した袁紹軍は、曹操の快進撃に立ちはだかるべく日夜トンネルを掘り進んでいた。
「さすがの曹操もこれは見抜けまい!気付いた頃には我が軍の刃は曹操の首元よ!」
冀州魏郡鄴県に袁紹の高笑いが木霊する。まるで勝利を確信したかのように。

官渡にある防衛用楼閣は平穏無事のままであった。本当にここが陥落するのか?疑いがいよいよ頂点に達したので二郎真君と趙公明が官渡の未来を占ってみた。すると……。
「いかが申す訳か幾度占とはも袁紹の兵、この防衛用楼閣に放火し、城門を開ゐて袁紹軍を導き入らるる光景しか見ゑぬ」
「ありえない!袁紹は未だに軍を動かしておらん!なのに何故!?」
2人の報告を聞いて首を傾げる曹操。
(一体……何を企んでいるのだ袁紹)
が、二郎真君と趙公明の不穏な占い結果とは逆に官渡にある防衛用楼閣は平穏無事のままであった。

曹操軍がもたもたしている間に……袁紹が待ち望んだ報告が遂に届いてしまった。
「袁紹様、朗報です」
「如何した?」
「例の坑道が曹操が官渡に建てた防衛用楼閣の真下に到着しました。これでいつでも官渡を攻撃できます」
袁紹が大喜びしながら言い放つ。
「宜しい。善は急げだ!明日の早朝に土竜戦法の総仕上げをするぞ!」
「はっ!」

そうとは知らない曹操軍は、今だ来ぬ袁紹軍への警戒を続けていた。
「今日も誰も来ませんでしたね」
(おかしい……天の声も趙公明殿の占いもこの防衛用楼閣の陥落を私に教えてくれた筈。どうなっているんだ!?)
その時、伝令兵が曹操の許にやって来た。
「どうした?」
「はっ、城門に奇妙な生き物がやって来ました。如何いたしましょう?」
袁紹が邪凶と手を組んだのか。最初はそう考えたが、その割には殺気が少ない。曹操は軽く混乱しながら現場に向かった。
するとそこには確かに変な生き物がいた。ラクダの顔に牛の耳、海老の様なピンと立ったヒゲ、手には鶯のカギ爪、足は虎、身体は魚の鱗に覆われていた。それが仙人の服を身に纏っているのだ。
「あっ、曹操はん。こん人達をなんとかおくれやす。うちは通天教主さんん命で此処にやって来やはったやけや」
曹操は通天教主の名を聞き、安心してこの変な生き物を迎え入れた。趙公明がこの変な生き物を見た途端驚いた。
「竜鬚虎!貴様も派遣させたとか!?」
哪吒が趙公明に訊ねる。
「知ってんのか?」
竜鬚虎が代わりに答える。
「うちは竜鬚虎とええます。通天教主さんに頼まれて曹操軍ん仲間入りしはる事になったんや截教ん妖怪どす。以後お見知りおきを」
曹操は快く竜鬚虎を迎え入れた。
「事情は分かった。これからも宜しく頼む」
「ウチこそ―――」
竜鬚虎が何気なく下を見ると、慌てて曹操に警告した。
「曹操はん!こん真下にどなたかが掘った坑道が有るんや。しかも完成しいやから日が浅い!」
「どういう事だ?一体?」
「竜鬚虎は土系の道術、大得意にて、土の中を見通しめるとでござる」
二郎真君は違う納得をした。
「成程……地下からなら敵兵の視線を気にする事無く進軍できるか……袁紹殿も考えましたな」
曹操が真顔で言い放つ。
「感心している場合では無いぞ!問題はどうやってこの坑道からやって来る敵軍を迎撃するかだ!」
「それこそこんうちん出番どす。一旦外に出まひょ」
竜鬚虎に促され城壁の外に出る曹操達。すると竜鬚虎が道術で地面を深く陥没させる。
「成程。こっちも坑道を造り敵軍の坑道に対抗する訳ですね」
哪吒が燥ぎ始める。
「それなら話は早いや!それ!」
哪吒も道術で地面を深く陥没させる。竜鬚虎が負けじと道術で地面を深く陥没させる。哪吒も負けじと道術で地面を深く陥没させる。それを呆れながら見ている曹操と二郎真君と趙公明。
「……弐人ともやり過ぎにては……?」

伝令兵の報告に驚きを隠せない袁紹。
「なにーーー!曹操も穴を掘りだしただとーーー!?」
「はい!城壁の傍に堀を掘りめぐらせている様子で……」
「その堀に官渡水の水を引かれたら、こちらの坑道は使えなくなってしまいますぞ!」
袁紹は心底悔しがった。
「折角の作戦も全て水の泡か……くそーーー!」

なんだかんだで袁紹軍の土竜戦法を破った曹操軍は、竜鬚虎をべた褒めしていた。
「いやーあんた凄かったんだな」
哪吒の言葉に謙遜する竜鬚虎。
「いやいや、うちは只土ん中を見たやけや」
そこへ賈詡がやって来て、
「何を言われますか。竜鬚虎が見抜かねば、今頃地中から湧いてくる伏兵の処理に忙殺されていたところでしょう。大手柄です」
許褚は不機嫌そうにその様子を見ていた。それに気付いた曹操が声をかける。
「未だに許せんか?」
「曹操殿、あ奴は―――」
「みなまで言うな。確かに私から典韋を奪った張繍の罪は大変重い!だが、来る者拒まず。それが私の生き方だ」
許褚は曹操の真っ直ぐな生き様に典韋が惚れ込んでいた事を良く知っている。だが、それでも許せないモノは許せないのだ。

曹操が官渡に向かう3日前もそうだった。
「なんと、私に投降したいと?……判らんな。貴公と張繍は袁紹に就くものと思っておったが……」
賈詡はしれっとこう言い放った。
「確かに袁紹の勢力は兵力だけ見れば曹操の数倍。常識的に視ればとても勝ち目はありますまい」
それを聴いた許褚が怒りだした。許褚にとっては張繍と賈詡は典韋の仇である。その仇が曹操の悪口まで言うのだ。とても我慢が出来ない。
「な、何をーーーーー!」
「しかし、それ故に袁紹は私の忠告を聞く事は無いでしょうし、それに、袁紹は汝南袁氏の出身に胡坐を掻いている様に見えますな。故に曹操に勝たせたい。そう考えたのですじゃ」
「貴様ー!典韋殿を死に追いやっておいて何を今更!」
「才有る者なら例えどんな人物でも召し抱えるのが曹操殿の信条と聴いておりますぞ」
笑い半分、呆れ半分で聴いていた曹操は、賈詡にとっては予想通りであり、許褚にとっては予想外な答えを出した。
「評判通り、食えぬ御仁の様だな。気に入った!投降を許す」
「ははー。ありがたき幸せ!」
許褚はソッポを向いてしまった。
「フン!」

この曹操・賈詡・許褚のやり取りは、すぐさま袁紹の耳に入り、
「何ーーー!?張繍と賈詡が儂の招きを断って曹操に降った申すか!?訳が解らん!不愉快だ!」
郭図(字は公則)や審配(字は正南)らは公孫瓚を完膚なきまでに叩きのめした土竜戦法を主張した。
「こうなれば直ちに曹操を討伐し、張繍達を思いっ切り後悔させてやりましょう!」
それに対して、沮授や田豊(字は元皓)は持久戦を主張。
「それはならぬ!ここ数年、出兵続きで民衆は疲れ切っており、財政も逼迫しております!」
「田豊殿の申される通りです。国力さえ充実しておれば、曹操など恐れるに足りません!」
「だが、どこぞの白馬馬鹿のせいで曹操が今上帝の後ろ盾を得ている状態のまま!これ以上曹操が育てば手がつけられなくなる!その前に叩くのが上策!」
因みに、公孫瓚は武勇に優れ白馬に乗っていた。また公孫瓚は降伏させた烏桓族から、騎射のできる兵士を選りすぐって白馬に乗せ「白馬義従」と名づけたので、異民族から「白馬長史」と恐れられた。
袁紹は郭図の言を受け入れた。
「よくぞ申した!沮授や田豊の意見は臆病者の慎重論に過ぎぬ!天下の覇者たる袁本初には相応しからぬ愚論よ!」
こうして曹操軍への土竜戦法が開始されたが、前述通り竜鬚虎の道術に敗れ、大成功直前になって突如中止となった。

二郎真君が今後を曹操に訊ねる。
「あの袁紹の事だ、これしきの事では引き下がるまい」
賈詡が即座に付け足す。
「さよう!あんな坑道作戦を考えた連中じゃ、今頃とんでもない手を考えとるかもしれんて」
許褚が食って掛かる。
「貴様には訊いとらん!」
哪吒が呆れながら告げる。
「おいおい、反省はすれど後悔はするなと言う言葉を知らんのか?」
二郎真君が強引に話を押し進める。
「それなら、誰かが袁紹軍の様子を―――」
哪吒が即挙手。
「はいはーい。俺が行きまーす」
そう言うと、哪吒は官渡城を飛び出していったが、僅か3分で慌てて戻って来た。
「おいおい……ありゃ12万はいるぜ……」
「こちらの5倍ではないか!」
「河北四州中の兵士をかき集めて来たか!?」
「それに、物見櫓がうじゃうじゃいるぜ」
賈詡が首を傾げた。
「はて?我らの突撃への対応ですかな?しかし、数では袁紹軍が有利。突撃への備えは余り意味が無いような気が―――」
許褚が嫌味を言う。
「おやおや?張繍軍きっての名将も袁紹が相手では形無しですか?」
哪吒が完全に呆れていた。
「懲りねぇなー、仲康ちゃんも」

12万にも及ぶ袁紹軍と対峙する形となった官渡城。その城壁の上で敵軍を監視していた兵士達が奇妙な違和感を感じていた。
「おい、敵軍の櫓……昨日より大きくなっていないか」
「お前もそう思うか?俺もなんだよ」
このやりとりは即曹操に報告された。
「敵陣の物見櫓が大きくなった?」
「はい。門番や城壁にいる兵士達が口を揃えてそう言っております」
曹操は少し考え、あるとんでもない推測を言い始める。
「これで袁紹軍が櫓を大量に用意した訳が解ったぞ!」
「と言いますと?」
二郎真君がこれに続く。
「早い話が……近付いているんですよ。あの櫓は」
「つまり、櫓は動かないと言う決めつけが櫓の巨大化という錯覚を生み出したのだ」
許褚と哪吒が驚いた。
「動くのあの櫓!?」
「ひえーーー、やっぱりとんでもない事を考えていやがった!」
「其れにて、いかがしんす?」
そう、敵軍の櫓の巨大化の原因は解ったが対応策が無いのだ。これでは原因解明の意味が無い。
そこへ、賈詡がしゃしゃり出て来た。
「夏候兄弟と趙公明殿は道術が得意と聞く。そこで、幻を使って敵の移動櫓の動きを封じます。その後―――」

数日後、袁紹軍移動櫓部隊の指揮を任された劉備が上機嫌で官渡城を見下ろしていた。
「ノー、グッド眺めだなー」
袁洪は上機嫌な主君に反して不安を隠せないでいた。
「本当に袁紹と手を組んで大丈夫でしょうか?私は袁紹から死相に似た不穏な空気を感じましたが」
「袁洪、君も随ミニッツスモールさくなったな?折角予期せぬ所でAの憎き曹操の戦死を高所から見シングキャンつまりできるチャンスだってセイのに」
曹操が徐州を邪凶から奪還した際、劉備は曹操軍の猛攻から逃れて袁紹軍に流れ着いたのだ。
その後は打倒曹操で利害が一致。劉備はこうして移動櫓部隊を借りる事が出来たのだ。
「さて、ここしばらくはチェンジな幻が ゴーするハンドを阻んBut、最早曹操のライフラックが 尽きたも同然だ!」
「やはり撤退した方が良いですよ!幻の妨害を受けてる時点で既にこの部隊の正体はばれてますよ!」
今回は袁洪の意見の方が正しいのだが、劉備は矢の豪雨を受けてもがき苦しみながら死んでいく曹操軍を早く見たいという欲望の方が勝り、袁洪の諫言を完全に無視してしまった。
「弓隊!並びに弩隊!構えーーー!」
「劉備様!」
姿形は貫禄が有り余っているチンピラだが、その表情はこの世を100年分も恨み続けてきた老爺のような、奥深い邪悪を宿している劉備。さすがは人間に転生した魔王その②である。
が、
「な、なんだあれは!?」
賈詡が曹操に提供した策が漸く完成したのだ。つまり発石車である。
曹操軍の狙いにいち早く気付く袁洪であったが、時すでに遅く、複数の発石車から次々と岩が放たれたのだ。これには袁紹軍自慢の移動櫓もひとたまりもない。
「ウワー!」
「おじゃずげーーー!」
さっきまでの上機嫌はどこへやら。怒りの治まらぬままの状態での敗走を余儀なくされた劉備は怒りにまかせて曹操を罵ったが、所詮は負け犬の遠吠えであり、曹操軍兵士は全く気にせず、発石車の猛攻による騒音のせいでよく聞き取れなかった者までいる始末であった。
「憶えておれよー!阿婆擦れの糞イヤー増ーーーーー!」

袁紹軍の土竜戦法に続き、移動櫓部隊まで撃破した曹操軍は上機嫌であった。
「発石車の効果は抜群!御蔭で矢の雨は止みました!」
「敵さんは霹靂(雷)車等と呼んで、すっかり怖気づいたらしい」
だが、曹操はそんな上機嫌を窘める。
「いや、袁紹はそこまで諦めの良い男ではない。警戒を怠るな!」

その頃、袁紹軍本陣では……。
「あれも駄目、これも駄目、となると……只攻めるより、あの楼閣から曹操を追い出す方法を考えた方が早いかもしれん」
懲りない袁紹、次はどのような手で曹操軍を苦しめる心算なのか。
それに引き替え、
「ホワットだよあいつら!全然使えないではないか!」
袁洪の嫌な予感を完全に無視した事を棚に上げて曹操軍の発石車に敗れ去った袁紹軍の移動櫓への悪口を言い続ける往生際の悪い劉備であった。
これにはさすがの袁洪も苦笑いである。

曹操軍と袁紹軍による官渡城攻防戦が続く中、1人の男性が曹操を訪ねた。
「許攸(字は子遠)と名乗る男が拝謁賜りたいと参っております」
趙公明が首を傾げる。
「はて、袁紹軍の軍師殿、何にて曹操に會ゐに参ったのでござる?」
「会ってみよう。ここへ通せ」
曹操と謁見した許攸は、袁紹を裏切った経緯を自慢げに話し始めた。
「あの馬鹿殿は折角用意してやった必勝の策を馬鹿にしおった!」
「自慢の策?許攸殿はいかがやとは曹操軍に勝つ所存にてあったでござるか?」
「されば、曹操軍をこのまま官渡に釘付けにしておき、その隙に許都を強襲して天子をお迎えすれば、天下は自ずと袁紹の手中に」
「成程……確かに左様な事をさせたら曹操殿は困り果ててしまう」
「だと言うのに……あの馬鹿殿め!家臣の忠告に全く耳を傾けず、自ら滅亡の道を突き進んでおる。最早付き合いきれぬわい!」
「じゃからとは、袁紹軍の内情を察すお主、此処に参ったのは不味ゐでござろう」
許攸と趙公明の遣り取りを只黙って聞いていた曹操は、何か形容しがたい違和感に襲われていた。が、口には出さずに許攸をじっと見るに止めた。
「それより……曹操殿にお伝えしたい事がございます」
「はい?」
「袁紹は現在、1万台あまりの輜重車を後方の白馬に集結させとるが、迂闊にも敵襲に対する備えを怠っておる!」
それを聴いた曹操は違和感の正体を知り、何も出来ずに硬直した。
「―――3日と経たずに……曹操殿、聴いてます?」
曹操ははっとした表情で答える。
「え?あぁ、白馬にある袁紹軍の兵糧基地を襲うので遭ったな」
戸惑いながら苦笑いする曹操。この苦笑いを見逃したのが後に許攸の致命的な失態となった。

許攸が去るのを見計らって趙公明が曹操に話しかける。
「やはり天の声の説と許攸の説は食ゐ違とはおり申したな」
「ああ、天の声は烏巣に向かえと言っておったが、許攸は白馬に敵の兵糧があると言った」
「天の声を信じるなら……かは罠かよしんばれん」
その可能性は否定できない。だが、曹操にはその可能性を否定した理由が一応あった。
「だが、許攸は私の旧知だ」
其処へ哪吒達がやって来てとんでもない事を伝えて来た。
「大変だ!汝南郡の連中が劉備に操られた!」
「許昌周辺を荒らし回っており、かなりの被害が出ております」
タイムリミットが迫っているのを感じてはいる曹操。だが、既に大事な人を沢山失っている曹操はやはり判断に迷う。
「曹操殿……」
曹操は漸く決断した。小さくか細い声で。

曹操が選んだのは―――天の声が示していた烏巣であった。そこには曹操のある思いがあっての事であった。
だが、その思いは吉報と言う形で無残にも打ち砕かれた。やはり天の声が示す通り……袁紹軍の兵糧基地は烏巣にあったのだ。
烏巣に駐屯していた淳于瓊(字は仲簡)はある事情から曹操軍の奇襲への備えを怠っていたので対応が遅れたが、それでも一度は曹操軍を押し返すも決死の覚悟で強襲を続行したために、遂に淳于瓊軍は殲滅させられた。淳于瓊は曹操の部将楽進に斬られ、眭元進ら四将も曹操軍により尽く討ち取られた。
曹操軍が烏巣にある兵糧を片っ端から焼却処分している隙を突いて逃走を図る許攸であったが、その前に趙公明が立ち塞がった。
「は!……趙公明……」
趙公明が皮肉タップリに言い放つ。
「それがしに“殿”を付けのうこざった辺り、未だ袁紹殿の身を案じてくらるるのみにてのこころもちは有るやうね」
「くっ!……なぜだ……何故我が軍の輜重部隊が烏巣に居る事を知っていた!?」
「いやはや、拙者等も此処に来る迄は此処、敵の兵糧貯蔵庫であるとは知らなんだ。ある者、烏巣に参上した者、良きと申したのみにてじゃ」
「何だと……儂は曹操の旧知じゃ!なのに儂よりその様な得体の知れん者を信用したと言うのか!?」
趙公明が悲しげに答えた。
「こたびは其れだけならばぬ。旧知の進云を無視したでござる進軍、自身の敗因になるなら甘んじて受けやう。しかして、旧知なりそなたの云葉を信じのうこざった結果、袁紹軍の輜重車を取り逃がす羽眼になると真剣にて信じておりき……曹操殿は真剣にて信じておりきのでござる!」
「そ、そこまで言うなら何故……何故白馬を選ばなかった!?」
「曹操殿、白馬を選ばのうこざったのは、旧知なりそなたの云葉をいさざかとはいえ疑った己への刑罰としてちょーだい、先程も申したでござる通り、烏巣を選みて墓穴を掘る事を望んじゃからにてござる!」
許攸が理解に苦しんだ。
「そんなに旧知の言葉を信じたいなら、普通白馬を選ぶだろう」
趙公明が嘲笑うように言い放った。
「人間とは弱ゐものでござるで候。乱世の奸雄を気取とはも中身はか弱ゐヲトメじゃ。しかも既に大事な人を沢山失とはゐる。故に旧知の謀反を直視するでござる勇気、無かりしであらう」
許攸が獣の雄叫びの様な奇声を揚げながら趙公明に斬りかかる。
「きいぃあがばあーーーーー!」
だが、苟も截教派の仙人である趙公明が旧知を平気で裏切る文官如き敗ける筈が無い。
「……いかがやら、まことに罰を得るべきは曹操殿ではござらず……お主のごとしな……許子遠!」
趙公明が所有する宝貝の1つである金蛟剪に噛み殺された許攸であった。
「そなたの口から“じゃから白馬に向かゑば良かったんじゃ!”と申して欲しかったでござるよ……曹操殿も其れを望みてゐる……」
趙公明の頬が涙で濡れていた。

その頃、袁紹は呑気に伝令兵の報告を待っていた。既に自分の策略が失敗に終わった事も知らずに……。
「うわっははは。予想通り、官渡城から多く兵士達が飛び出してきおったわ!もうじき、曹操も御終いよ!」
「白馬には我が軍きっての勇将である文醜と顔良が駐屯しておりますからな」
「そろそろ、良い知らせが届く頃です」
「うむ」
「伝令!」
「おっ、どうやら知らせが来たようです」
袁紹に片膝をついて礼をするのももどかしげに、
「淳于瓊様、烏巣にて敗北!」
袁紹の顔色が一気に真っ青になった。
「曹操が烏巣を!?うそーーー!」
袁紹にとっては訳の解らない事であった。白馬に誘き寄せる為に偽の裏切り者を生み出し、曹操の猜疑心の発動を遅らせる為に劉備を使って南方の豫州の汝南郡(元は袁氏の膝元の地である)に反乱を起こさせたのだ。
にも拘らず、曹操軍は白馬ではなく烏巣を選んだのだ。此処まで自分の策を見破られては立つ瀬が無い。
郭図(字は公則)が
「この間に官渡城を攻撃すれば、敵軍は必ず引き返すでしょう。そうすれば、援軍を出さなくても解決できます」
と言い、
張郃(字は儁乂)は
「敵陣は堅固なので勝てません。それよりも早く淳于瓊を救援するべきです」
と言った。
その結果、今までの奇策塗れが嘘の様に軽騎兵を烏巣に向かわせ、重装備の兵で官渡城を攻撃するという中途半端な選択をした。

このグダグダな作戦は許昌周辺を荒らし回っている劉備軍にも伝えられた。
袁洪は呆れながらこう進言した。
「最早袁紹軍に勝ち目はありません。このまま逃亡した方が身の為です」
しかし、劉備は変な予想を立てていた。
「ノー、ナウなら官渡キャステルを攻める事が 出来る。曹操の事だ、烏巣強襲の陣頭フィンガー揮はAサーヴァントが 執っている筈だ。つまり、官渡キャステルに曹操は居ない」
袁洪は引き下がらない。
「恐れながら、確信のある予想とは思えません!もし万が一曹操が―――」
劉備は邪な微笑みを浮かべながらこう答えた。
「ノープロブレム。曹操は居ない」
だが、袁紹軍と合流した劉備が見たモノは……神兵化した曹操であった。
「まさか……旧知に裏切られたその日に仇敵の顔を拝む羽目になるとはな」
劉備にとって最も避けたかった曹操との直接対決が実現してしまった。
「馬鹿な!?なぜユーが 此処に居る!?君は烏巣に居る筈だ!」
曹操は悲しげに答えた。
「私は万が一の事を考えてしまったんだ。烏巣強襲を強行した結果、袁紹軍への兵糧攻めが失敗する事を望んだ。旧知の言葉を疑った私への罰として。だが、現実は無情だ。そして、今の私にはその現実を直視する自信が無い」
「だからユーは此処に居るのか!くそー!演技パワーラックめ!」
曹操は少しだけ弱々しく微笑んだ。
「だが、この非情な現実による鬱憤を使命を果たしながら晴らせるとは、私の悪運も捨てたモノではないな」
「くっ!」
曹操は既に魔王級の邪凶に勝った屈強な神兵(ワルキューレ)だ。しかも3匹も。だからこそ劉備は曹操との直接対決を今日まで避けていたのだ。
だが殺るしかない。そう思いながら辺りを見回す劉備はとんでもなく邪悪な策を思いついてしまった。愛用の弩を曹操軍兵士に向けたのだ。
「貴様!」
効果覿面だった。背後に部下を庇っているせいで、いつもの反則的な強さを発揮できない。
「ははははは、サッチなおジェントルつまり優しいお馬鹿ちゃんが 乱世の奸雄だと?片腹痛いわ!」
その後も曹操軍兵士に向けられた劉備の攻撃を曹操が弾くを繰り返し続けた。正に弱い者虐めに抗う憐れな正義の味方という構図であった。
「どうやら邪凶の中で一番下衆なのは誰か決定したようだな!」
曹操は既に図星めいた悪口を言うのが関の山だと思い込んだ劉備は真に受けない。
「これだから学のナッシングサーヴァントはウォリードするのだ!勝てば官軍!敗ければ賊軍!とセイワードを知らんのか!」
劉備の卑劣な攻撃に曹操が屈するかと思われたその時、劉備の後頭部に激痛が走った。
「これは……フェスティヴァル玉!馬鹿な!董卓は既に死んだ筈だ!」
劉備は混乱した。祭玉を使える者がもう1人いる事を知らないのだ。
「曹操さん、御爺様の仇である呂布を死に追いやってくれた借りを返しに来ました」
「ユーは董ホワイトではないか。ユー如きが 僕に勝てると思っているのか?」
劉備はまだ知らない。董白が小凶級から魔王級に進化した事を。
「確かに私だけでは貴方に勝てません。でも、御爺様が私に力を貸してくれるなら或いは」
「御爺ちゃんのパワーだと?インタレスティング!董卓とはいずれワールドの覇権を賭けた戦いをしなければならないとシンクつまり思った事があったんだのだ!」
遂に始まった魔王級の邪凶同士の戦い。……かに見えた。
今度は劉備の左脇腹に激痛が走る。巨漢の兵士が槍を突き刺したのだ。
「余計な真似をするな!邪魔だ!」
劉備がマントを大きく翻すと、その下の肉を半ばまで断ち斬っていた。
「い、今で……御座います……曹操様……」
董白が戸惑う中、曹操が劉備に表一文字を見舞った。
(く!浅いか!)
やはり劉備の卑劣な攻撃が効いていたのか曹操的にはあまり良い手応えではない様だ。
それでも、最早劉備はワープ移動で逃げるしかなかった。たとえ曹操と董白のどちらかに勝っても、もう一方が劉備を斃してしまうからだ。
「Aとワン歩……Aとワン歩だったのにー!くっそーーーーー!」
どうにか劉備を追っ払った曹操。その切っ掛けを作ってくれた無名の巨漢の亡骸を悲しげに見ていた。
「大手柄だ!お前の働きは二度と忘れん!」
董白がバツが悪そうに言った。
「借りを返すのはまた今度になりましたね……さようなら」

袁紹軍は最早総崩れであった。
劉備による官渡城強襲は曹操に防がれただけでなく、張郃と高覧は袁紹を見限って曹操に帰服してしまった。
袁紹は命辛々河北へと敗走した。こうして官渡城争奪戦は曹操軍の辛勝で幕を閉じた。
だが、曹操の心は重かった。旧知に裏切られ、劉備殺害の最大のチャンスを棒に振ったからだ。

一方、戦勝のチャンスを棒に振るう形となった袁紹は落胆のあまり病を発し、
「解らん……解せん!天から選ばれた筈のこの儂が。なぜ曹操如きに敗北せねばならんのだ!何故だ……何故なのだー!?」
202年5月、失意の内にこの世を去った。
それから数年の内に曹操は袁紹の領土を悉く平定し、204年8月、遂に本拠地の鄴を陥落させた。
この時、曹操は袁紹の墓を詣でた。
「許攸には裏切られ、袁紹を死に追いやってしまった。己の人徳の無さが身に染みるよ」
趙公明が少々きつめに励ました。
「其れにて良きとでござる。覇王の道は孤独な道、人徳にては天下は取れませぬ!」
曹操の返答は無い。
「劉備などは、この先たとゑ運、向おりきとしてちょーだいも……小幕府の王になるの、関の山」
曹操が漸く返答した。
「こんな乱世は一刻も早く終わらせねばならん!急がねばならん!勝ってこの覇道を極めるのだ!」
曹操の肉体年齢と外見年齢が未だに15歳の美少女のままだが、実年齢は既に50代だ。はたして間に合うのであろうか?

一方の劉備は、袁紹軍の予想外の敗北の影響で大怪我を負い機嫌が悪かった。
そんな時、曹操軍に捕らえられていた劉備の妻子が羊の体毛と角を持つ重種馬に乗ってやって来た。
「劉備様!例の女を奪還しました」
だが、劉備は悔しさのあまり妻を斬り殺そうとした。羊の体毛と角を持つ重種馬と化した楊顕が慌てて割って入った。
「劉備様!お気を確かに!劉備様はこの女をまた孕ませたではないですか!」
だが、楊顕は劉備の妻諸共真っ二つになってしまった。
「な……何故……です……劉備……様?……この……女は……劉備様の……子を孕んで……おる……の……に」
楊顕にとっては予想外且つ不本意な死となった。さすがの魔王級の邪凶である劉備でも自分の子を孕んだ女を殺すとは思ってもみなかったのだ。
だが、自分の子供への愛着より不本意な敗北と大怪我への怒りが勝っていたのだ。
この様な自分の感情でしか物事を考えられない男に天下を任せて良い訳が無い!改めて曹操の使命の重さを思い知るエピソードと言って良いだろう。

さて、この戦いが中国の情勢を大きく動かす事は火を見るよりも明らかであった。
未だに生き残っている諸侯の話題は曹操の取り扱いで持ちきりであった。
現に曹操は、後漢王朝が開かれて以来置かれていた司徒、司空、太尉の三公を廃止し、丞相と御史大夫を置いて自らが丞相の座に就いた。
丞相とは、君主の補佐を目的とした最高位の官吏。今日における、元首が政務を総攬する国(大統領制の国や君主が任意に政府要職者を任命できる国)の首相に相当する。
 
 

 
後書き
漸く三国志における山崎の戦いと言える官渡の戦いが終了しました。我ながら物語開始から官渡の戦い終了まで大分時間が掛かりました。

さて、何故官渡の戦いを三国志版山崎の戦いと評したかと申しますと、豊臣秀吉も曹操もこの戦いを切っ掛けに天下人街道を突き進む事になるからです。
曹操の場合は、官渡の戦いの後は北伐を行い、一時難航するも、結果的には異民族烏桓と豪族公孫康を制し、それらがかくまっていた袁尚、袁煕を滅ぼした。ここに曹操は河北全域を支配する圧倒的な勢力へとのし上がった。
一方の秀吉は、この信長の弔い合戦に勝利した結果、清洲会議を経て信長の後継者としての地位を固め、天下人への道を歩み始める。
どちらも舞台となった国の行く末を大きく変えた戦いであった事は間違いないでしょう。

あと……閲覧数が中々増えない(涙)現状な為、ちょっとしたテコ入れの為に恋姫†無双の星(趙雲)を出してみました。この後もチョクチョク出していくつもりです。
こんなのに頼らねばならんとは……我ながら情けないです。
 
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