緋弾のアリアGS Genius Scientist
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イ・ウー編
武偵殺し
24弾 『武偵殺し』の正体
俺はミラに断ってから電話を切り、ドアを開けて部屋の外に出る。
狭い通路に出るとそこは大混乱になっていた。
12の個室から出てきた乗客たちと、数人のアテンダント――――文字通り老若男女が、不安げな顔でわあわあ騒いでいる。
銃声の下機体前方を見ると、コックピットの扉が開け放たれている。
「……やっぱりな」
そこにいたのは、さっきの小柄でマヌケなアテンダント。
そいつが、ずる、ずる、と機長と副操縦士を引きずり出している。
2人のパイロットは何をされたのか、まったく動いてない。
どさ、どさ、と通路の床に2人を投げ捨てたアテンダントを見て、俺は拳銃を抜いて安全装置を外した。
「――――動くな!」
俺の声にアテンダントは顔を上げると、にいッ、と、その特徴の無い顔で笑った。
そして1つウィンクをして操縦室に引き返しながら、
「Attention Please.でやがります」
ピン、と音を立てて、胸元から取り出したカンを放り投げてきた。
俺の足元に転がったそれに、思わず硬直する。
「ミズキっ!」
雷の恐怖を押して部屋から出てきたアリアが、悲鳴を上げる。
シュウウウウ……!
音で分かる。
これは――――ガス管だ!
サリン、ソマン、タブン、ホスゲン、ツィクロンB。装備科で習った毒ガスの名前が、頭の中を駆け巡る。もし強力な奴だったら、もうアウトだ。
「――――みんな部屋に戻れ!ドアを閉めろ!」
自分もアリアを部屋に押し込むようにしながら、叫ぶ。
ばたん、と扉を閉める一瞬前に――――飛行機はグラリ、と揺れ。
ばちん、と機内の照明が消え、乗客たちが恐怖に悲鳴を上げた。
暗闇はすぐに、赤い非常灯に切り替わった。
「――――ミズキ!大丈夫!?」
扉越しに俺の身体を心配してくるアリアに俺は、
「大丈夫だ。俺は薬とか毒があまり効かないからな。それに――――」
俺はそこでいったん言葉を切り、空気中に散布されたガスの成分を即席の解析装置で調べる。結果、このガスには何の害も無いことが判明した。
俺は再び扉越しのアリアに意識を集中させ、
「――――どうやら、無害なガスだったみたいだ」
と報告する。
「良かったあ……いくら毒が効きづらいからって、そういう危険なことするのはやめなさいよね……心配するじゃない」
「ん?悪い。最後の方、何言ってるか聞き取れなかった。もう一回言ってくれないか?」
「い、嫌よバカ!」
怒られた。何故だ。
「ところでミズキ、さっきの奴ってもしかして――――」
「ああ。あのふざけた喋り方……『武偵殺し』だ。やっぱり出やがった」
「……やっぱり……?あんた、『武偵殺し』が出ることが、わかって――――」
赤紫色の目が、まんまるに見開かれる。
俺はついさっき閃いたあの推理を、伝えることにした。
「『武偵殺し』はバイクジャック、カージャックで事件を始めて――――さっきわかったんだが、シージャックで――――ある武偵を仕留めた。そしてそれは、たぶん直接対決だった」
「……どうして?」
「そのシージャックだけ、おまえが知らなかったからだよ。電波、傍受してなかったんだろ」
「う、うん」
「『武偵殺し』は電波を出さなかった。つまり、船を遠隔操作する必要が無かった。奴自身が、そこにいたからだ」
あの金一が逃げ遅れた、というのもそもそもおかしいとは思っていたしな。
「ところが、バイク・自動車・船と大きくなっていった乗り物が、ここで一度小さくなる。俺のチャリジャックだ。次がバスジャック」
「……!」
「分かるかアリア。コイツは初めからメッセージだったんだよ。おまえは最初から、奴の手のひらの上で踊ってたんだ。奴はかなえさんに罪を着せ、おまえに宣戦布告した。そして金――――いや、シージャックで殺られた武偵を仕留めたのと同じ3件目で、今、おまえと直接対決しようとしている。この、ハイジャックでな」
推理の苦手なアリアが、ぎり、と悔しさに歯を食いしばる。
そこに――――
ポポーンポポポン。ポポーン。ポポーンポポーンポーン……
ベルト着用のサインが、注意音と共にわけのわからない点滅をし始めた。
「……和文モールス……」
アリアが呟いたので、俺は揺れる機内でその点滅を解読しようと試みる。
オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ
オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー ニ イルヨ
「……あからさまに誘ってるな」
「上等よ。風穴あけてやるわ」
アリアは眉をつり上げて、スカートの中から左右の拳銃をぞろりと出した。
「一緒に行ってやる。今の俺が役に立つかどうかは、正直わからないけどな」
「……ありがと」
おや?俺はてっきり、『来なくていい』的なことを言われると思ってたんだが……なんかこのアリア、素直すぎないか?
「ハッ!?まさか偽物!?」
「なわけないでしょ!バカみたいなこと言ってないでさっさと行くわよ!」
床に点々と灯る誘導灯に従って、俺たちは慎重に1階へと降りていく。
1階は――――豪奢に飾り立てられたバーになっている。
その、バーのシャンデリアの下。
カウンターに、足を組んで座っている女がいた。さっきのアテンダントだ。
「!?」
拳銃を向けながら、アリアは眉を寄せる。
彼女は、武偵校の制服を着ていた。
それもヒラヒラな、フリルだらけの改造制服――――だ。
パニエで花のように膨らませたスカートは、さっき台場で理子が着ていたもの。
「今回も、キレイに引っかかってくれやがりましたねえ」
言いながら……ベリベリッ。
アテンダントはその顔面に被せていた、薄いマスクみたいな特殊メイクを自ら剥いだ。
そして、その中から出てきたのは――――
「――――理子!?」
「Bon soir」
驚いた声を出すアリアに、流暢なフランス語で挨拶したのは、やっぱり理子だった。
俺はそんな理子を見て最後のごく僅かだった希望が無くなったことを確認し、皮肉気に尋ねる。
「もうアテンダントのコスプレはいいのか?理子」
「モチのロンだよ。もう充分に堪能したからね。それにミーくんには最初からバレてたみたいだし、やる意味が半減ですよ」
俺の質問にニヤニヤした笑みを浮かべて答える理子。この態度を見る限り、俺が変装に気付いてたことには気づいてたみたいだな。
「ところでミーくん。1つ質問いいかな?」
「なんだ?」
「どうしてミーくんは『武偵殺し』の正体が理子だって気付いたのかなぁ~?理子、決定的な証拠は出してないつもりだったんだけど」
こればかりは演技ではなく本当に不思議そうに尋ねる理子に、俺は親切にも解説してやることにする。
「まず、一番最初に違和感を覚えたのはさっき、クラブ・エステーラで海難事故の話をした時だ。あの時、おまえは警察の機密資料を見たはずなのに、俺の前の姓のことを知らなかった。でも、資料そのものは持っていた。これによって考えられる可能性は2つ。1つはおまえが単純に見落とした可能性。そしてもう1つは……おまえ自身が『武偵殺し』で、自分で資料を作成した場合だ」
「なるほどなるほど。でも、それだとまだ足りないよね?だってどっちかって言ったら、前者の方が確率高いし、ミーくんが理子を『武偵殺し』だって確信するのは無理でしょ?」
「まったくもってその通り。だから俺は確認した。それも2回にわたって。1回目は俺がこの飛行機に乗り込んだ時。あの時既におまえが――――というより『武偵殺し』がこの飛行機に乗っていることはなんとなく想像がついたからな。で、2回目がついさっき、とある優秀な後輩に頼んでいた調査の結果が出た時だ。その調査の内容は『浦賀沖海難事故と『武偵殺し』の件は何らかの関係性がある、という資料があるか』だ。そして、その調査の結果、そんな資料はどこにもないことがわかった。これであの資料はおまえが作ったものだって確定して、同時におまえが『武偵殺し』だってことも確定したってわけだ」
俺が『武偵殺し』の正体を暴くために行ったことを聞くと、理子は若干頬を引き攣らせていた。どうしたんだ?
「……いや、そりゃあね。確かにミーくんの推測通り、理子が『武偵殺し』だったわけなんだけどさ。さすがにそこまで念入りに調べられるって、理子はそこまでミーくんに信用されてなかったのかなって思っちゃったわけですよ」
「逆に考えろ。信用していたからこそこんなに念入りに調べたのだと」
「じゃあミーくんは理子のこと信用してたの?」
理子が微妙に子犬を連想させるような目で俺を見つめてくる。
「もちろん信用してたさ。なんてたって友達だからな」
「あはっ!理子のこと、ちゃんと友達だと思ってくれてたんだ。それはちょっと嬉しいかな」
「おいおい何で過去形で言ってんだ。俺は今でもおまえのこと、友達だって思ってるぜ?」
俺のその言葉は予想外だったのか、目をまんまるにして驚く理子。そして数秒後に噴き出した。
俺は腹を押さえながら笑いまくってる理子をジト目で見てから、本当に言いたかったことを言う。
「だからさ、理子。このまま穏便にイギリスまで行って、アリアの金でチケット買って武偵校に帰ろうぜ?」
「ちょっと!何であたしがあんた達のチケット代を払わなきゃいけないのよ!」
今まで話に入れず空気だったアリアが自分の名前が出てきたのをきっかけに会話に入ってこようとするが、俺は努めて無視する。
「で、返答はどうなんだ?理子」
半ば答えを予想しつつも、ダメ元で聞く俺。それに対して理子は、笑いを引っ込めていつになくマジメな顔で言葉を返す。
「確かにそれは魅力的な提案だけど……ごめんね。その提案を受け入れることはできないよ」
「……ま、だろーな」
「本当にごめんね、ミーくん。理子はどうしても、アリアを倒さなきゃいけないし……何より、こういうスリル満点の戦闘って、理子だーい好きなの♪」
そう言った理子の、この後の展開が心の底から楽しみで仕方がない、というような笑みを見た時、ゾクッ、と背中に悪寒が走った。
その狂気的で背徳的な、しかし楽しげな笑顔はとても美しく、そしておぞましかった。
昔どこかで見たような気がして一瞬、脳裏を何かがかすめるが思い出せなかった。
「じゃあミーくん、アリア。そろそろ本題に入ろうか」
先ほどまでと同じ表情で、それこそファミレスで料理を注文するのと同じくらいのトーンで、理子は言う。
「理子のために、死んでくれないかな?」
後書き
お久しぶりな人と初めましての人!全員まとめてこんばんは!白崎黒絵です!
なんだか最近、投稿するたびに謝罪している気がしますが……今回もまた謝罪します!すみませんでしたッ!更新ペースを早めるように努力はしたんです!無駄でしたけど!
今回の内容:デレてるアリアと狂気の理子りんマジ可愛ええ。
次!恒例!コーナー!(カタコトな少女を想像しながら読むと素敵なことが起きます)
「GS!今日の一言誰でShow!」
今回はこの娘!若干ヤンデレ入ってる巫女さんです!
「私の出番はいつになったら来るの!?」
さー?いつでしょうねー。てゆーか私だってさっさと燃える銀氷に入りたいんですよ!おかしい……始めた当初は20話くらいで武偵殺しの話は終わりだったはずなのに……
それでは今回はこの辺で!次回こそは!次回こそは戦闘シーンを描きます!
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