万華鏡
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第七十五話 大雪の後でその十二
「それが早く終わって」
「こっちもすぐだったのよ」
「私のクラスはバレーボールでした」
琴乃も話した。
「それでやっぱり早く終わって」
「そうなのね。こっちは数学だったわ」
「数学ですか」
「居眠りしそうで大変だったわ」
部長は明るく笑ってこう琴乃に言葉を返した。
「数学苦手だからね」
「あれっ、部長さん数学は」
「文系なのよ、私」
それでだというのだ。
「理系は駄目なのよ」
「だからですか」
「そう、数学はね」
明るい口調だが苦手ということははっきりと言っていた。
「特に苦手なのよ」
「そうだったんですね」
「赤点取らない位よ」
「赤点はですか」
「何とかクリアーしてるわ」
この学園でのそれは四十点だ。普通といったところか。
「いつもね」
「ならいいですね」
「ええ。ただもう数学はいいから」
実にあっけらかんとした否定の言葉だった。
「高校卒業したらね」
「大学では、ですか」
「大学文学部狙ってるのよ」
「文学部の何処ですか?」
「国文学科よ」
「そこですか」
「そこで芥川か太宰を勉強しようって思ってるわ」
その勉強したい作家の名前もだ、琴乃に話した。
「近代文学ね」
「先輩そうした作家さんお好きなんですか」
「実はね」
「そうだったんですね」
「これでも文学少女なのよ」
自分で言った言葉である。
「意外でしょ」
「いえ、それはまあ」
琴乃だ、このことはそうだとは言えなかった。何故なら。
「普段の部長さんを見ていますと」
「そうでしょ。私はね」
「文学少女ってイメージじゃないですから」
「自分でもそう思うわ。けれどね」
「文学の方もですか」
「結構好きなのよ」
こう笑顔で言うのだった。
「それで読んでるのよ」
「芥川とか太宰も」
「そうなの、ただね」
「ただ?」
「芥川は初期の作品だけよ」
「初期ですか」
「好きなのはね」
それが何故かもだ、部長は笑って話した。
「だって芥川って末期物凄いから」
「そんなにですか」
「そうなの、もうおかしくなってきてね」
「芥川って自殺してますよね」
「そうそう、三十五歳でね」
その死んだ日は河童忌と呼ばれている。芥川の代表作の一つである河童という作品からとっているのだ。
「自殺してるの、あの人」
「じゃあその自殺に至るまでで」
「かなり精神状態があれだったみたいで」
「それが作品に出てですか」
「物凄いからね」
またこう言う部長だった。
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