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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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新たなる力へ
  Trick66_“ケリ足”ではなく“軸足”




試験練習2日目の夜

昨日と同じく、信乃は夕食の席にはいなかった。

美雪と美玲以外のメンバーは、昨日の試験の手本を見せて以降は見かけていない。

美雪は夕食後の自由時間を同盟メンバーで情報の共有(美琴も参加)していたが、
昨晩の信乃が気になって早めに部屋に戻った。美玲もそれについて行く。

予想通り、信乃が倒れていた。
前回との違いは、倒れている位置だけ。
個室風呂場の脱衣所の前で倒れていた事と、布団の上に倒れていた事の違いだけ。

予想通りだったため、今回は特に慌てずに治療を開始した。
先に温泉の湯をペットボトルに入れて持ってきて、部屋に置いてある薬箱を開いて
昨日と同じ薬を作る。

その後に全身へと塗る。マッサージも兼ねているのでたっぷりと時間を立てた。

ちなみに美玲は手伝いこそしているが、マッサージには参加していない。
空気を呼んで美雪だけが信乃のマッサージをする状況にしていた。


「これでよし。

 それにしても、昨日治療した疲労が1日で元通りになっているって
 どれぐらいの練習をしたらこうなるのかな?♪」

「訳が分からないよ、とミレイはネタに走ってみます」

「玲ちゃんが何を言っているのかが訳が分からないと思うよ♪

 さて、治療も終わったし明日に備えて眠ろうか♪」

「わかりました、とミレイは了解しながら布団を渡します」

「? ありがとー♪ でも、私は隣で寝るから渡さなくても大丈夫だよ♪」

「隣で寝るのでしょう?」

「そうだよ♪」

「信乃にーさまの隣で」

「そうだよ♪ 隣の布団で♪」

「いえ、同じ布団の中の隣で」

「ふぇ///!?」

「昨日も一緒に寝たではありませんか?」

「そそそそうだけど!?////」

「なにを今更恥ずかしがっているのですか?、とミレイは呆れてため息を出します」

「いや、その////」

「では、ミレイは先に眠ります。おやすみなさい、とミレイは早々に布団へと入ります」

「れ、玲ちゃん////」

「ZZzzzz・・・・」

「本当に・・・寝ちゃったの?

 ・・・寝ちゃってる」

美玲の寝付きの良さは知っているが、まさかほんの数秒で寝るとは思っていなかった。
部屋で起きているのは自分だけ。何をしようと咎める人はいない。
美雪が信乃の布団の中で眠ろうとしても文句を言う人はいない。

「////寝ちゃおうか♪」

美玲が言ったから、という言い訳をして美雪は信乃の布団で寝た。


――――――――――――――――――――――


合宿3日目の朝

美雪が目を覚ました時には、旦那様・・・・じゃなくて信乃はいなかった。

(今日も朝風呂に入っているのかな?
 よし、行ってみよう♪)

タオルを手に露天風呂へと入ってみたが、信乃はいなかった。

「やっぱり2日目は警戒されるか・・・でも朝一番のお風呂は気持ちいいから良し♪」

浸かりながら手足を伸ばして今日の訓練について考える。

これでもA・T初心者同盟では最年長になる西折美雪15歳。
カリスマ性では御坂や婚后が上だが、陰ながら支える事はダントツの実力を持つ。

「みんな、≪歩く≫は出来るようになったし、≪走る≫の時も
 体幹はある程度できている♪

 あとは速度だよね~♪」

信乃の試験は100mを『一定時間』内に≪走る≫事。

その『一定時間』は明確に説明していないが、佐天と黒妻が1週間も掛けて
合格したタイムと言っている。

「でも、これって信乃の戯言(ごまかし)だよね~♪」

美雪は言葉のトリックに早々に気付いていた。

佐天達が始めて1週間のタイムといっていた。
しかし、その1週間は全てA・Tの練習に注ぎ込まれていたのか?

答えは否。佐天達が練習を始めたのは1学期。当然学校も行っている。
ならば放課後の数時間しか練習していない筈だ。

1週間は7日。放課後の練習を3時間と想定する。
合計練習は21時間。

それに対して試験を受ける美雪達はどうだろうか?
午前中の3時間。午後の2時間。自由時間を3時間。
それを3日間で練習する。合計練習時間は24時間。

練習時間の合計は、佐天達よりも美雪達の方が多いのだ。

3日間という一見不利な状況でも諦めずに進む事が出来るか、それを信乃は問いたかったのだ。

1日目、というよりは説明の段階で気付いていた美雪だが、
信乃が用意した試練を潰すわけにはいかず、婚后にも他の皆にも内緒にしている。

「ほんと、信乃は素直じゃないよね♪

 ツンツンデレツン、デレツンツン♪
 ツンツンデレツン、デレツンツン♪」

そんな素直じゃない所も愛しく思える。これが惚れた弱みかと思いながら機嫌良く町歌を口ずんでいた。



その後、試験組と白井、佐天と黒妻が朝食を一緒に食べてそれぞれ練習を開始した。

「転ばずに走れるようになったけど・・・」

「そうですわね・・・思うように時間を縮める事ができませんわ」

美琴の言葉を引き継いで婚后が呟いた。

炎天下の中、必死で練習をしているため全員が汗を大量に出している。
それでも弱音を吐く人も、練習のペースを落とす人もいなかった。

全員が100mを7秒前半で走っていたが、それからが問題だった。
7秒の壁。何度も走っても7秒以内で走る事が出来ない。

「みんな、一度集まってもらえるかな♪?」

「どうしたの、雪姉ちゃん?」

「みんな感じていると思うけど、7秒以内に走りきれる人がいない♪
 最初に7秒台を出した婚后さんも、午前中からずっと練習をしてはっきりとした成果が出ていない♪

 それには何か理由があると思うの♪」

「そうですわね。わたくしの力をもってしても、明日までに間に合いそうに
 ありませんわ。まさに壁があるようにタイムを縮める事ができませんわ」

「だから、一度落ち着いて状況を整理しようと思うの、ね♪」

美雪の指示の元、色々な意見が交わされた。

その意見の中で、御坂が言った一言が、話題の中心となった。

「A・Tで、一番スピードが上がる瞬間ってどんな時かな?」

「それは強く地面を蹴った瞬間だと思います」

「わたしもですわ」

湾内、婚后が蹴る瞬間と答えたのに対し、泡浮から別意見が出た。

「わたくしは少し違うと思います」

「え、どういうこと?」

「実は≪走る≫の途中、足を交差させてしまい転びそうになったことがありました。
 そのときに足が前に出せずに軸足に全体重が乗ってしまったのですが、
 地面を蹴って≪走る≫をしたときよりずっと速くなったのです」

「軸足に全体重が乗った時ですか・・・・」

「試しいやってみよう♪」

「それじゃ私が」

美琴が全員を代表して手を上げる。

左足だけで立ち、右足を前に出して、同時に左足を浮かせる。
前に出した右足に全体重が乗る。通常の1本脚立ちではなく、意識して体重を乗せてみた。

「おっ!?」

急激な加速。バランスを崩すほどの加速だが美琴も伊達に練習していたわけではない。
傾いた体を立て直して、どうにか転ばずに済んだ。

「う~ん・・・泡浮さんが言っていた方法だけど、やっぱり地面を蹴った方が
 速いんじゃないかな?」

美琴が実際にやってみた感想としては、婚后と湾内の意見に賛成だった。

「そ、そうでしょうか・・・・」

「琴ちゃん琴ちゃん、何言っているの♪?
 泡浮さんが言っていた方法と違うよ♪」

「え?」

「琴ちゃんは体重を全部乗せたけど、泡浮さんが言ったのは転びそうになった時だよ♪?
 転びそうになったってことは、体重を乗せるのはもっと長い時間のはずだよ♪」

「長い間・・・乗せる」

美雪に言われて、やり直してみる。

左足だけで立ち、右足を前に出して、同時に左足を浮かせる。
前に出した右足に全体重が乗る。

急激な加速。バランスを崩すほどの加速を、美琴は左足を出すことで体勢を直そうとするが
美雪の言葉を思い出して我慢する。

「うぉー!?」

先程よりも、軸足の右足に体重を乗せる時間が長くなった。
崩れそうだが崩れないバランスで加速を続ける。

ある程度、速度が乗れば美琴が整えなくてもバランスが取れる。
自転車の速度があがったときにハンドルから手を放して運転しても走り続けるのと同じだ。

その後に左足に体重を乗せるのを変えて、同じく体重を乗せる。
更に更に加速は続く。

「すごい、すごいよ! 足をほとんど動かしていないのに空気の壁が当たる感じがすごい!!」

「すごいです御坂様!」

「泡浮さんの言うとおりだ! 軸足に体重を乗せると速くなった!!」

「なるほど。さしめず、重要なのは“ケリ足”ではなく“軸足”と言ったところでしょうか、
 とミレイは2つの違いを明確に表現します」

ケリ足。今まで美琴たちは速く走ろうとすればするほど、“ケリ足”で地面を
思い切り蹴りだしていた。

蹴る力が強ければ強いほど大きな出力を出すA・Tのホイール。
だが、その実は出力エネルギーのほとんどは垂直に地面に消えていくだけであった。

「そっか♪ スピードを上げるには地面を蹴らない方がいい♪
 地面を蹴っていない“軸足”がスピードを作り出すんだ♪」

地面を蹴らずに、“軸足”に体重を乗せる。
瞬間的な加速の“ケリ足”よりも、断続的に加速を続ける“軸足”での走行。

それが≪走る≫のコツ。

「転びそうになったっていうのは、足をほとんど動かさない事だったんだ♪
 それでいて体重は軸足に乗せ続ける♪ 加速を続けるんだよ♪」

全員に分かるように説明する美雪。太極拳で体幹の重要性を知っているからこそ
“軸足”に体重が乗っているのをすぐさま見抜く事が出来た。

「それじゃ二人一組になって、互いの軸足が出来ているか見せ合って
 ≪走る≫のフォームを修正して行こう♪」

「「「「「はい!」」」」」

美雪の号令と共に二人一組(ツーマンセル)の訓練が開始されて、著しい成果を得る事となった。



本日のA・T試験組の成果。


1位 御坂美琴
    ≪歩く≫は習得済み。
    ≪走る≫は100mを6.8秒(時速53km)で走破。

2位 西折美玲・婚后光子
    ≪歩く≫は習得済み。
    ≪走る≫は100mを6.9秒(時速52km)で走破。

4位 泡浮万彬
    ≪歩く≫は習得済み。
    ≪走る≫は100mを7.0秒(時速51km)で走破。

5位 西折美雪
    ≪歩く≫は習得済み。
    ≪走る≫は100mを7.1秒(時速51km)で走破。

6位 湾内絹保
    ≪歩く≫は習得済み。
    ≪走る≫は100mを7.3秒(時速49km)で走破。



つづく
 
 

 
後書き
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