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デート・オア・アライブ

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十香アライブ
  2.ダイブシスター 《いもうととあそぼう》 後編

「……痛ってぇ……」

そう言って俺は背中をさすりながら、苦悶の表情を浮かべる。

目の前の鏡を見るとそこには小さい青あざが出来ていた。

「あの妹野郎……!一切の手加減なしで蹴ってきやがってぇ……」

あの後、洗面所を探す道中で不意を打たれ、琴里からのドロップキックをもろに喰らってしまったのだ。

自分で()いた種ではあるが、こんなにも早く青い花が咲くとは……

俺は体を戻し持ってきた服に着替えながら、先ほど洗った顔をしげしげと眺める。

青い髪に青い目をした男が一人。どうやら顔はなんら変わり映えがないようだ。

だが、身体の方は気持ち少しだけ縮んだ様な感じがある。体格から見て大人ではない。きっと学生、それも高校生くらいの。

……やはり転生は成功しているようだ。この身体も、この家の構造も、あの自称妹も何もかもが変わっている。


             ここは俺の知っているセカイじゃない


「…………はぁ」

自覚し納得してしまうと途端にブルーになる。

あの幼女の前ではああ言ったものの、自分の家がこうも変わり果てているとなるとすごく落ち込む。

嗚呼、我がアダルトビデオ及びアダルトブックよ……道半(みちなか)ばに果ててしまいお前らを残してしまった不甲斐ない(あるじ)を許しておくれ。

しかしもう無い物を望んだところで余計に空しくなるだけだ。

今はこの世界に適応することだけを考えよう――そのためには、まずこの世界を知ることが必要だ。

現在入手している情報は……妹がいること、今年から都立来禅高校という学校に入学すること、俺の名前がりゅうじだという事。

琴里との会話で聞けるところは聞きだしたつもりだが……まだ足りない。

この世界が安全かどうか……せめて前の世界くらいマシだったらいいんだが……

そうぼやき、俺はリビングを探しに行った。





扉を開けると木製のテーブルや広いキッチン、それに大きめの薄型テレビが目に付いた。

どうやら結構いいとこの子供であるらしい。前世の俺であるならこの光景を作り出すために何年、何十年と知れぬ時間が必要だろう。

ふとソファーのほうを見ると、棒状の物を咥えながら琴里がそこに鎮座していた。

その目はどこか不満げそうにこちらを見ている。先の会話が未だにご立腹のようだ。どうやらドロップキック一発程度では精算額には足らないらしい。

「おーい、愛しの妹よ」

「つーん」

「わさびとからしとどっちがいい?」

「ごめん!許して!こっちに来ないでえー!」

ソファーから転がり落ち、半泣きで懇願しながら後ずさる琴里。

この小動物にいたずらをしたい衝動に駆られる。俺は舌なめずりをしながら、右手にわさびを、左手にからしを持ちながらジリ……ジリ……と近づく。

さながらその姿は、某地獄の帝王のようだ。

「い、意地悪なお兄ちゃんは嫌いだぞ!」

「許せ、琴里。俺はお前に意地悪をしなければ生きていけない罪深い人間なんだ」

「罪深いと思ってるならやめてよう!」

まずい、本格的にぐずってきた。このままでは情報の取得どころか、家族問題にまで発展してしまう。
()くなる上は……

「まあ冗談はここまでにして。今日俺が琴里に意地悪するほどテンションが高かったりするのには訳があるんだ」

「わけ?」

「ああ、今日は明日の準備も兼ねて買い物にでも行こうと思ってな。琴里の予定さえよければ一緒に行かないか?と誘おうとしていたわけなのだよ」

その言葉と同時に琴里は目を輝かせる。

「おー!本当にいいのかお兄ちゃん!」

「ああ!特別にお前の行きたいところへいくらでも行ってやろう!」

「やったー!じゃあじゃあ最近近くにできたファミレスでお昼ごはん食べてもいい!?」

「オーケーオーケー!メニューは何を頼んでもいいぞー。今日だけの特別だ」

「おおー!お兄ちゃーん、愛してるぞー!」

そう言って、勢い良く抱きついてくる。スキンシップの激しい奴だ。

さて、俺が唐突にこのような提案をしたのは理由がある。琴里のご機嫌を取ることも理由の一つではあるが、もう一つあるのだ。

俺がまだこの世界の外を見たことがない以上、無闇に歩く事は得策ではない。(確実に迷子になる自信があるので)

そのため外を歩くためには案内人が必要になる。そのためには琴里にその役を請け負ってもらわなければいけないのだ。

「出発は10時だ。それまでに準備しとけよ」

「はーい!おっでっかけー!おっでっかけー!」

上機嫌にニコニコする琴里。

いいなぁ純粋に楽しめて。こっちはまだ、やらなきゃいけないことが山ほどあるというのに。

まずは、この鳴りやまん壊れたアラームのような腹を何とかせねば。

「じゃあさっさと朝飯食って、出かける準備するか」

「あ!お兄ちゃーん!朝ご飯の準備琴里も手伝うのだ―!」

「おお、そうか。じゃあ早いとこ終わらせて食っちまおう」

「おー!」

そして俺たちはキッチンへと向かう。俺はまず冷蔵庫に手をかけた。材料を見ないことには料理は始まらないからな。だが……

「「?」」」

その中にあったのは、とても奇妙な、もといシュールな……

「お兄ちゃん、これ……何?」

「あんこと、チーズと…………しめ鯖?」

目の前の光景が理解できない俺と琴里はその場でしばらく硬直し、やがて――

パタン と冷蔵庫を閉めて……

「……外で食うか」

「……うん」

どうやら朝食はもう少しだけ遅くなりそうだ。





「満腹満腹―!」

ようやく食事が終わった俺たちの腹は十分に満足感とエネルギーが充填された。

食事は琴里が言っていた近所にあるレストランで取った。味は普通のファミレスだったが、中々バラエティーに富んだメニューであり、繁盛しているようだ。

「また食べに行きたいのだー!デラックスキッズプレート!」

デラックスキッズプレートとは、メニューの中の一つのお子様ランチである。ただ、俺の見たことがあるお子様ランチよりもボリュームとおかずが豊富だったが。

「俺のやつも結構美味かったな。カカオ味噌スパゲティー」

「お兄ちゃんは必ず変なもの頼むよねー。ああいう得体の知れない料理」

「美味そうだったろ?」

「ああいう毒々しい色は料理どころか食べ物としてありえないと思うのだ」

歩きながら俺は琴里と何気なく話しながら歩いている。

だが、それでも俺は街を観察するのを忘れない。

どうやら、ここは商店街の一つであるらしい。家からは本当に近所で、数分歩けば着くような距離しかなかった。

楽しそうに話す人がいて、精を出す店があってとても活気がありそうなところだ。

だがそこに似つかわしくないものがたびたび目に映る。

街にエレベーターや階段が設置されている。一つでも異様だというのに少し歩くたびに目に入るようじゃとても不安だ。

「どうしたのだおにーちゃん?そんなキョロキョロして」

「……いいや、何でもない」

あまり不審な動きを見せたら危ない。なに、まだ時間は有り余るほどある。少しずつ調べていこう。

「じゃあ次はどこへ行こうか?」

「ショッピングセンターに行きたーい!」

ショッピングセンターか……確かにああいう所なら何でも買えるだろう。俺も必需品を買っておくことにしよう。

「よし分かった。あと琴里よ、お兄ちゃんは腹が膨れて苦しいから琴里が先頭に立ってくれないか?」

「あははは、お兄ちゃんだらしないぞー!よーし、琴里がしっかり先陣を切ってあげるのだ!しっかり着いてくるのだお兄ちゃんよ!」

「あいあいさー」

こうして俺たちはショッピングセンターへと歩みを進めた。

俺は何気なく空を見上げる。そこには何もなく、ただ空が晴れ渡っていた。





俺は両手にサングラスと革製のマスクを持っている。

装備すれば誰でも立派な不審者の出来上がりという優れ物の2品だ。

何故、こんなものを持っているのかというと、割と真面目に警察のお世話になることを回避するためだ。

俺は前世で溢れ出るリビドーを抑えきれない男だった。その結果、警察のお世話になったことが多々ある。

下着ドロ、女子トイレ侵入、女性を追いかけまわすなど、エトセトラ、エトセトラ……

無論それ以上の大それた真似はしなかったが、このような軽犯罪を大量に犯す危険人物のような男だったので警察との闘争及び逃走は日常茶飯事だった。

なので、新しい生活となるとこのような装備は必然必要になる。顔さえ隠れれば最低限ばれることはないはずだろう。ただ、念のため手袋とほっかむりも買っておくか。

「お兄ちゃーん。そろそろ次に行くのだー」

「おー分かった。今会計してく――


ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――――――


唐突に、突然に、周りをビリビリと揺らすようなサイレンがけたたましく鳴り響いた。

「――んっ!な、何だ!何が起こった!?」

「……!空間震だよお兄ちゃん!」

空間震?聞き覚えのない言葉だ。災害なのか?それとも事件なのか?

パニックになっている最中(さなか)、再度館内に放送がなる。

『――これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の、皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します――』

放送の終わりと同時に人が動き始める。

ぞろぞろと下へ下へと降りていっている。

「ほら!お兄ちゃん!琴里たちも下に行くよ!」

「あ、ああ」

おそらく下にそのシェルターとかいうのがあるんだろう。

俺たちは他の人と一緒に階段を利用して下へ降りていく。

それにしても……不思議だ。

そう、誰一人として取り乱したりしていない。

正確に言えば不安や緊張のようなピリピリした空気が辺りにはあるが、ただそれだけ。普通ならだれか一人くらいは取り乱すものだと思っていたが……

まるで、やり慣れているような……いつもの事みたいな、そんな感じがして……

考えに(ふけ)りながら1階へ来たところで人の波は地下階段のようなところへと向かう。

地下シェルター。確かに地下なら頑丈に作られてさえいれば、どんな災害でも落ち着いた対応が取れるだろう。

空間震がどういったものなのかは皆目見当もつかないが。

「お兄ちゃん、琴里ちょっとトイレ行ってくるね」

「へ?いやいやいや今は緊急事態なんだから少しくらい我慢しろよ」

「大丈夫大丈夫!トイレはすぐ近くだし問題ないのだー。じゃ、行ってくるねー」

「ちょ!待て!」

俺の制止に耳も貸さず、そのままシェルターの逆方向へと走って行った。

しかしここで俺も琴里の方へ行っても人の邪魔になるだけだ。

まあ場所はちゃんと分かってるみたいだし、万に一つも迷子にはならんだろう。

俺は琴里を追わずそのままシェルターの中へと入っていった。


中は近未来的な装飾でできていて、とても広く作られていた。

水道なども設けられており不自由さはあまり感じられなかった。

これだけのシェルター、ちょっとやそっとではビクともしないだろう。しかも100人以上の人数を収容できるほどの広さ。しかもこれが街中に設置されている。まさに安全と言えよう。

だが、逆に言えば…………このようなシェルターを用いなければ防げない様な空間震とは一体何なんだ?

「確認しなければならない」

一体この町に、いやこの世界に何が起きているのかを……


あれから10分以上が経過した。

携帯の時間ばかりが過ぎていくが、なにぶん地下にいるため時間の感覚をあまり感じ取ることができない。

そして琴里はまだ戻らない。

たとえどっちの方だろうともここまで長くはならないだろう。便秘という可能性もなくはないだろうがそんな前兆は特に感じ取れなかったし……

もしかしたら、この大勢の人ごみの中で俺が見つかりにくいのかもしれない。ならこっちから探せば……

そう思い、俺が琴里を探そうとした、直後――

『――近隣住民の皆様。近隣住民の皆様。空間震は、治まりました。もう危険はありません。外の瓦礫には、十分注意してください。繰り返します――」

その放送を聞き、人々は、ほっとしたような安堵の表情を浮かべる。

しかし、俺はその放送を聞き終わらないうちにシェルターの外へと走った。

シェルターを抜けショッピングセンターに出ると、商品が所々に散らばっていた。

だがこれは人為的なものではない。視界一面の商品が荒れていて、尚且(なおか)つガラスも割れている。人為的にしては被害が甚大すぎる。

琴里の捜索も考えたが、今この時だけは琴里の事を忘れよう。今はこの現象の把握と理解の方が重要だ。

そう決断し俺は外へと向かう。


外は分かりやすいくらいに壊れていた。

ショッピングセンターに入るまで、平和だった商店街が瓦礫の山と化している。

「これほど大きい災害だったとは……」

俺は目の前の光景に息を飲むしかなかった。実際に災害に直面した人はこうして立ち尽くすことしかできないだろう。

だがそこでハッと、あることに気づく。

被害の規模に差があることを。

目の前にあったであろう建物の瓦礫。しかし遠くを見てみるとまだ建物の形は残っているものも見えるのだ。

「――ッ!発生源が近くにあるのか!」

俺は被害の大きくなっている場所へと走り出す。

視界に広がる光景がどんどん凄惨になっていく。おそらく近づいているのだろう、発生源……この地獄を生み出した厄災に……!

瓦礫の商店街を超え、自分の家の帰路に立つ。

「――え?」

俺は眼前の光景を見て自然と言葉が漏れ出てしまった。

いや、そもそもこれは景色なんてものじゃないのかもしれない。


だって、そこには……全てがなくなっていたのだから。


クレーターといえば分かりやすいだろうか。

抉られたのか、削られたのか、それとも隕石でも落ちてきたのか。

住宅街なんてものはかけらも残っておらず、塵となって辺りに舞っている。


まさに視界一面の 破壊


俺はその 破壊 の前に呆然と立っていることしかできなかった。

「……ああ……」

呻くことしかできない俺はその場にへたり込む。

この世界は転生した俺に対し、絶望的な現実を見せてくれた。

俺はこの時 世界の終わりを 感じた 
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