| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百六十四話 二兎その八

「ですからここは」
「今からまだ間に合います」
「何とか天海殿を呼び止めてです」
「石山を攻め落としましょう」
「何としても」
「今ここで攻めればどうなる」
 だが、だ。信長はその彼等にこう言うのだった。
「今の我等が」
「その時はですか」
「どうなるかですか」
「そうじゃ、どうなるのじゃ」
 このことをだ、彼等に問うたのだ。
「その疲れきった御主達で」
「そのことは構いませぬ」
「我等ももむのふ、命なぞ何時でも捨てられます」
「殿の為なら」
「織田家の為なら」
「その言葉だけを受けておく」
 頑とした口調だった、まさに一歩も引かない。
「今はな」
「殿、それでは」
「ここは」
「御主達を失う訳にはいかぬ」
 信長は眉を顰めさせ苦い顔で言った、その言葉もそうなっている。
「だからじゃ」
「殿、では」
「我等のことを気遣ってですか」
「今はですか」
「攻めぬと仰るのですか」
「言わぬ、そのことはな」
 そこまで言う信長ではない、だからだった。
 このことは言わなかった、そのうえでの言葉であった。
 そしてだ、次に言うことは。
「では陣を払う、しかし勘十郎は摂津に残れ」
「それがしはですか」
「三郎五郎もじゃ」
 信広もだというのだ。
「よいな」
「残す兵は」
「石山とは和議を結ぶことになるが目付は必要じゃ」
 それでだというのだ。
「五万は置いておく」
「でjは我等は引き続き」
「うむ、ただもう陣は張ることはない」
 その必要はないというのだ。
「城に入り備えよ」
「わかりました、それでは」
「その様に」
「他の兵達は戻し休ませる」
 五万以外の兵達はというのだ。
「そして他の者達はじゃ」
「我等はですか」
「これより」
「二条城に行くぞ」
 そこにだというのだ。
「ではよいな」
「わかりました、それでは」
「次は」
「それから休むがよい」
 二条城の和議がこの度の戦の締めとなるというのだ。それに出よというのだ。
「わかったな」
「わかりました、それでは」
「その様に」
 家臣達も今は信長の言葉に素直に頷けた、彼の真意がはっきりとわかり心の中に滲みたからだ。信長はその彼等にこうも言った。
「さて、二条城に入る前にな」
「その前とは」
「何を」
「湯に入れ」
 それで身体を清め休めよというのだ。
「そのうえで二条城に入れ、そして城から出てもじゃ」
「湯をですか」
「楽しめと」
「この度はご苦労じゃった、岐阜に帰ってから論功はするが」
 その前にだというのだ。
「そうせよ、よいな」
「そこまでお考えとは」
「殿、我等のことを」
「よい、この度は皆よくやってくれた」
 信長もその顔には疲れがある、、だが彼は己のことはいいとしてそのうえで自身の家臣達に話すのであった。
「だからこそな」
「湯をですか」
「それを」
「そして論功もな」
 このことについても話すのだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧