大阪の魅力
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1部分:第一章
第一章
大阪の魅力
「しっかしなあ」
「何だよ」
「汚い街だよな」
まずはこう思うのだった。
「ここってな」
「そうか?汚いか?」
「滅茶苦茶汚いだろ」
道を見回せばだ。所々にゴミが落ちている。しかも鼠の死骸まで転がっている。
「ここ本当に日本か?」
「日本だぞ」
「大阪共和国とか言わないか?」
「国家元首は天皇陛下だぞ」
「いや、それでもここはな」
一方の男が顔を顰めさせている。黒髪を横に短く刈り引き締まった顔をしている。眉は細く短く目は小さく垂れている。口元も鼻立ちも実に引き締まっている。背はわりかし高く筋肉質の身体だ。
その彼がだ。隣にいる若い男に文句を言っていた。
「何か違うな。異常に暑いしな」
「長野生まれにはきついか」
「きついな。それに」
「それに?」
「噂には聞いていたけれど虎ばかりだな」
今度言うのはこのことだった。
「阪神しかチームないのかよ、ここは」
「そういえば御前横浜ファンだったな」
「ああ、そうだよ」
その通りだと同僚に返す。
「この秋山猛久は生涯ベイスターズファンだよ」
「何で横浜なんだ?」
「名字を見ろよ。かつての大洋のエースのだぞ」
話すのはこのことだった。
「今の横浜のな」
「御前古いな、まだ若いのに」
「知ってるさ、生粋の横浜ファンだからな」
「長野人なのにか?」
「それでも野球は横浜なんだよ」
随分と強引な主張だった。
「それはな」
「何か意味がわからないな」
「じゃあ巨人を応援するっていうのか?」
猛久は顔を顰めさせて問い返した。
「巨人なのか?」
「ここで巨人を応援したら死ぬぞ」
関西、しかも大阪である。
「確実にな」
「そうだろ?俺の中でもそうなんだよ」
「それで横浜か」
「ああ。滅多に優勝しないからいいんだよ」
今度はこんなことを言う。
「三十九年ぶりでもな」
「その差もかなり凄いがな」
「だからいいんだよ。滅多に優勝しないからな」
「かなり自虐的だな。というかマゾか?」
「横浜ファンは修羅の道だぞ」
今度はこんな極論まで出すのだった。
「それこそ地獄の様に負け続けるんだよ」
「暗黒だな」
「それでも応援するんだよ。まあ阪神は嫌いじゃないがな」
「安心しろ、関西人は横浜には寛容だからな」
関西人というよりは阪神ファンの特徴である。阪神ファンという生き物は巨人以外のチームには極めて寛容なのである。その分巨人に対しては非常に不寛容である。
「許してもらえる」
「そうか」
「まあとにかくだ」
「ああ」
「御前関西に来たのにあまり嬉しそうじゃないな」
またこの話になった。
「八条ネットワーク、いや八条グループの本拠地は関西なのにな」
「それでもな。関西はな」
「長野がいいか」
「ああ、やっぱり長野がいい」
こう話すのだった。
「折角一生長野だと思ったのにな」
「栄転なんだがな」
「本社勤務だからか」
「そうだぞ、本社だぞ」
この大阪にそれがあるというのである。
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