リメイク版FF3・短編集
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実は苦手でした、かも
「 ────あら? 雷の音……? そういえば向こうの空、黒い雲広がってるわね……。早く宿屋に行きましょ、濡れるなんてごめんだわ!」
レフィアに促され、とある町の宿屋に着いて少しすると雨が降り出して来た。雷の音も、段々と近づいているらしい。
「うほ~、雷だぁ! 何かおれ、興奮してきたっ」
「はぁ? 何よルーネス、雷に興奮するなんてどーゆう神経してるのよ!」
「ルーネスは昔から、雷好きみたいなんだ。ウル村でもよく、雷鳴って雨降る中1人外ではしゃぎ回ってた事、何度もあるよ……」
アルクゥが呆れたようにレフィアに話す。
「あんたそれ、雷に自分から撃たれに行くようなものじゃない。今まで何ともなかったわけ?」
「平気へーき! 結構近くに落ちたことあっても、今まで直接落ちてきた事ねーし!」
ルーネスは飄々としているが、イングズは押し黙っている。彼が寡黙気味なのは、今に始まった事ではないが………
「おーい、イングズ? さっきから何黙って────」
ピカッ、ズガアァン………
「 ひゃあ ?! 」
レフィアが、女の子らしい小さな悲鳴を上げて身を竦める。
「おっほ~、かなり近いな! ってかレフィア、雷嫌いか? 女子って感じだよなぁ、いかにも!」
「う……うるさいわね! ちょっと苦手ってだけよっ。雷好きなんて、あんたの神経がどーかしてるわ……ひゃっ、また光った……?!」
「うわぁ、稲光も音も雨も、激しくなってきたね。僕も、ちょっと怖くなってきた……っ」
自然とレフィアとアルクゥの距離が近くなり、寄り添うかのようになった。
「うおぉ! 何かおれ、居ても立ってもいられなくなってきた……! 外出よーっと!!」
「よ、よせ……! いくら今までお前に雷が落ちた事がないとはいえ、これからもそうとは限らないだろう、やめておくんだッ」
そこでようやくイングズが口を開き、本当に外へ出て行こうとするルーネスの片腕を掴んで引き止める。……その手は、かなり力が込もっていた。
「何だよ、そんな強く掴まなくてもいいだろ? ……分かったよ、やめとくよ今回はっ」
「あぁもう……、雷好きなルーネスには付き合ってらんないわ! い、行きましょアルクゥ。雷治まるまで、一緒の部屋にいましょっ」
「え……!? あ、う……うん、いいよ」
レフィアは、若干恥ずかし気なアルクゥを引き連れ先に宿代を払い、二人は宛がわれた部屋に行ってしまった。
「あの二人、いつからそんな仲なったんだ……? まぁいいや! おれ達も空いてる部屋に────」
ビカッ、ズドガアァン……
「 ………ッ !! 」
地鳴りがする程の雷鳴に、一瞬イングズがビクッと体を強張らせたのを、ルーネスは見逃さなかった。
「 ────はっは~ん、そういう事か」
人の弱みを握ったかのように、ルーネスは不敵な笑みを浮かべる。
「安心したぜぇ、イングズにもやっぱ怖いもんあるんだなっ?」
「に……、苦手なだけだ。恐れている訳では────ッ?!」
再び強い稲光と共に雷鳴が轟く。そして一瞬、ぎょっとした表情になるイングズ。
「へっへ~、クールぶってる化けの皮、剥がれたなっ」
「べッ、弁解させてもらうが、私がまだ見習い兵士に成り立ての頃、ようやく剣を持たせて貰い、早く強くなる為に雨の日だろうが雷が鳴っていようと1人、特訓を重ねていた────」
「あ~、なるほどな? 特訓中に雲行き怪しくなって雷鳴り出して、それでも続けてたら振り上げた剣の先に雷落ちてきた………みたいな話だろっ?」
ルーネスはまるで見ていたかのように話を引き継いでみせる。
「まぁ、そういう事────ッ」
またしても雷鳴につい体が反応してしまい、気恥ずかしさの為か顔を背けるイングズ。
「な~んだ、ただの雷嫌いっていうよりトラウマかぁ。……てか、今より小さい頃よく雷の直撃受けて死ななかったな?」
「奇跡的、というか……2日程意識は無かったそうだが───ッ」
「それ以来、雷が鳴るとつい体が反応しちまうって事かぁ。……レフィアとアルクゥはまだ気づいてないみたいだけど、そうなんじゃねーかなぁとおれはちょい気づいてたぜっ?」
「な、何───ッ?」
雷雨のせいで声が聞き取りづらくなっているので、二人して声のトーンが多少高くなる。
「だってさぁ、アルクゥ今黒魔だろ? そのアルクゥがサンダー系の魔法放った時だけ、妙な感じしてたからな~!」
「そ、そうだったのか……ッ」
「ん~、まだ雷治まりそうにねーなぁ? 一緒の部屋で、おれが傍にいてやろうかっ?」
「い、いらぬ世話だ……!1人で部屋に行くッ」
~イングズは背を向け、階段を上がって行こうとするが────
「どっかああぁん!!!」
ルーネスが不意に、後ろからイングズの耳元にこれでもかという雷鳴を真似た大声をかます。
───すると、やはり一瞬ビクッとして、そのまま硬直すると動かなくなってしまった。
「わりぃ、やり過ぎたっ? ……イングズ? お、お~~い??」
背中を軽くつんっと押すと、それだけで前のめってしまったので、ルーネスは慌てて後ろから両腕を腰回りに抱き込み支えようとする。
「うわっ、ちょ、しっかりしろよイングズ~~っ?!」
────翌日は、快晴だった。イングズは、早朝には自分を取り戻し、昨日の夜の出来事はきれいさっぱり忘れてましたとさ。
おしまい
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