美しき異形達
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第十話 風の令嬢その六
「あの方とお会いして」
「ええ、是非そうしてくれるかしら」
菖蒲も桜の話に合わせて申し出た。
「あの人ともね」
「わかりました、それでは」
「ええ、明日にでも」
こう話してだ、そのうえで。
五人は力のことや怪人のこと、それに智和のことも話していき後はお互いの趣味や部活のことを話した。その話が終わってからだった。
それぞれの場所に帰った、桜は四人を門まで送ってからだった。そうして自分の部屋に戻り菖蒲と菊は自分の家に帰った、薊と裕香は寮に帰った。
寮に帰ってからだった、薊は裕香と共に寮の一階にあるテレビがあるロビーの様な娯楽室に入ってそこで裕香にこう言ったのだった。
「それにしても四人共みなし子ってな」
「そこが凄く気になるわね」
「ああ、幾ら何でも四人共ってな」
「どういうことかしらね」
「あたしずっと自分の本当の親が誰か気になってたよ」
かつてはというのだ。
「実はな」
「そのことは気にならない筈がないわよね」
「ああ、やっぱりな」
裕香に対して話す。
「何だかんだ言ってもな」
「寂しくなくても」
「それでも誰かっていつも思ってるんだよ」
「恨んでるの?」
裕香は薊の目を見て彼女に問うた。
「ご両親のこと」
「あたしを捨てたってか」
「ええ、そうなの?」
「いや、恨むとかはさ」
自分の向かいの席に座っている裕香に対してだ、薊は席の上で胡座をかいている姿勢で答えた。二人は背の低いテーブルを挟んでソファーに座っている。テレビはつけていない。
「ないんだよ」
「そうなの」
「恨むっていってもさ」
それでもだとだ、薊は眉を少し顰めさせて考える顔で裕香に答えた。
「名前も顔も知らない相手だから」
「どういう人かわからないからなの」
「何であたしを孤児院に預けたかもわからないからな」
だからだというのだ。
「恨むっていってもな」
「実感がないのね」
「ああ、どうもな」
そうだというのだ。
「だからいいよ」
「そうなのね」
「別にさ」
こう裕香に話す、真剣に考える顔で。
「どういう相手かわからないから」
「ううん、だったらいいけれど」
「そもそもあたし人を恨むとかいう性格じゃないからな」
そうしたこともあってというのだ。
「別に」
「薊ちゃんあっさりした性格だからね」
「しつこくないだろ」
「ええ、そういうのは本当にないわね」
「恨むってのはないさ」
また言った薊だった。
「親をな」
「それでも気にはなるわよね」
「どうしてもな。何処の誰で今何をしているのか」
「親御さんは絶対にいるから」
「親がいない人間なんていないだろ」
「人造人間とかじゃない限りね」
「あはは、案外そうかもな」
薊は冗談で笑って言った。
「あたし達ってさ」
「人造人間ね」
「ああ、そうかもな」
冗談をまだ言うのだった。
ページ上へ戻る