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独裁政権

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第二章


第二章

「しかし工作員には容赦するな」
「相変わらず潜入してきています」
 リンデンバーグの目が光った。
「そして不穏分子と結託するかオルグし続けています」
「やはりな。そうだったか」
 シュツットガルトはそれを聞いて納得した顔で頷いた。
「そうしていると思っていた」
「虱潰しにその都度殲滅しています」
「工作員はすぐに始末しろ」
 一言だった。
「いいな。そして不穏分子もだ」
「今まで通りですね」
「軽い者は思想教育か数年の懲役程度でいい」
 彼はそうした者達には比較的寛容なようであった。
「しかしだ。確信犯の者達はだ」
「処刑ですか」
「銃殺だ」
 死刑にするようにはっきりと命じた。
「その都度な。わかったな」
「はっ、それでは」
「戒厳令はこのまま続ける」
 今行い施行している戒厳令についても言及した。
「それもだ。いいな」
「ではそのように」
「そして経済のことだが」
 戒厳令についても言ってから話を経済のことに移した。
「復興は軌道に乗ってきたな」
「そうですね。あの国と国交を結んだことも大きかったです」
「国民は反対したがな」
 彼はそれを振り切ってそのうえでその国と国交を回復させたのである。彼が治めているこの国とその国は長い間いざこざがり仇敵と言ってもいい関係だったのにだ。
「だが。敵の敵は味方だ」
「はい」
 リンデンバーグは彼の言葉に頷いた。
「その通りです」
「あの国はいい」
 しかし隣国は駄目だというのだ。その工作員を送り込んでいる隣国はだ。
「少なくとも今は我が国に何かをしようと考えてはいない」
「国民はわかっていませんが」
「彼等がわかっていてもわかっていなくともよい」
 それは一向に構わない、こう言い切った。
「それはな。私がわかっているからだ」
「だからこそですね」
「その通りだ。今この国は私だ」
 独裁者の言葉ではある。
「私がわかっていればいい。そしてわかっていなければならない」
「確かに」
「経済についてもだ」
 またこのことに言及する。
「産業を興し農業生産も元に戻した」
 この国は農業においても破綻していたのだ。治水は破綻し農器具にさえ事欠く有様であり農民達は疲弊していた。しかし彼は治水をし農器具を与え彼等を保護する政策を打ち出しそのうえで様々な作物の栽培を推し進めたのだ。それによりこの国の農業は復興したのである。
「食糧生産も上昇している」
「それの輸出も可能になりました」
「だがまずは国民の腹を満たすことだ」
 彼はそれを優先させるつもりだった。
「それだ。いいな」
「はい。そしてです」
「そうだな。次は観光だ」
 彼が次に考えている産業はこれであった。
「幸いにして我が国には歴史がある」
「はい」
「そして国土は美しく様々な歴史的建造物がある」
「それ等を使わない手はありません」
「その通りだ。では決まりだな」
「これで外貨を手に入れましょう」
 経済とは複雑なものだ。ただ自国の貨幣だけがあればいいというのではない。外貨も必要なのだ。彼等はそれも手に入れるつもりなのだ。
「暫くすれば工業も立ち行くようになりますし」
「これで国の経済は完全に自立できるようになるな」
「既に国民所得はクーデター前の十五倍になっています」
 言い換えればそこまで破綻していたのである。
「失業者も減り国民も何とか一日三食食べられるようになってきています」
「粗末なパンだがな」
 こういう前提はあるにはあった。
「だがそれでもだ」
「はい。では閣下」
 リンデンバーグは話が一段落したところで彼に言ってきた。
「もう昼食の時間ですが」
「そうだな。ではいつものものを貰おう」
「いつものあれですか」
「そう、あれだ」
 リンデンバーグに言葉を返す。
「それをもらおう。いつも通りな」
「わかりました。それでは」
 リンデンバーグは敬礼の後すぐに人を呼んだ。運ばれてきたのはジャガイモを皮ごと茹でたものとソーセージが二本、それに粗末なパンだった。固くパサパサとしていて如何にもまずそうなパンだ。それに水があるだけで。この国そのものと自ら言うわりにはかなり粗末な食事であった。
 
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