カウンターテナー
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第八章
第八章
いきなりニューヨークのかなり大きなオペラハウスにおいてである。流石にメトロポリタン歌劇場ではなかったがそれでもかなり大きな歌劇場においてデヴューすることが決定したのである。これはオコンネルの尽力によるものだ。
「最初から大きな場所で、ですか」
「そうだ。そして君は全くの新人だ」
舞台裏でこうマクドネルに話すオコンネルだった。
「君のことはまだ誰も知らない」
「オペラ歌手としてはですね」
「全くな。つまり」
ここで彼は言うのであった。緋色のマントを羽織り黄金色の鎧に身を包み既にジュリアス=シーザーになっている彼に対してだ。
「英雄になろうとしているのだ」
「なろうとしているんですね」
「ここで成功すれば英雄になる」
そしてあえて笑ってみせて彼に告げた。
「英雄にだ。なれるんだ」
「ジュリアス=シーザーになれるんですね」
「なりたいな」
自分の前に座る彼に問うた。己もまた座っている。
「そうだな」
「ええ、ここまで来たら」
彼にしてもその通りであった。
「なります、絶対に」
「よし、じゃあ行くんだ」
ここまで話して彼に告げた。楽屋は奇麗なものでしかも広い。まさに主役が使う部屋に相応しい。これもオコンネルの尽力によるものだ。
「いいな」
「はい、じゃあ」
「君は必ず成功する」
立ったマクドネルに対して告げた。
「そう、絶対にな」
「そうなるようにやってみますよ」
マクドネルは微笑んでオコンネルに言葉を返した。
「今から」
「頑張ってきてくれ」
こうして彼は舞台に向かった。そしてその舞台は。
今までにない成功を収めた。彼の歌は絶賛されまさにカストラートの再来とされた。しかもであった。
その次の日はバンドのライブだったが彼はそのジュリアス=シーザーの衣装でステージに出たのだ。これもまた非常に話題になった。
彼は瞬く間にオペラ、そしてロック界の注目を浴びた。一瞬にしてその二つの分野で夢を適えたのである。
マスコミもネットも彼に注目する。ここで彼は言った。
「ジュリアス=シーザーにはなりました」
その舞台の役についての言葉である。
「後は別の英雄になってステージに立ちたいですね」
こう言うのであった。
「次は」
「シーザーって?ああ」
「あれのことか」
皆今の彼の言葉から舞台の次の日のステージのことも思い出した。
「じゃあロックもするのかい」
「これから」
「オペラもロックもしていきますよ」
彼はにこりと笑って答えた。
「これからも」
「これは凄いな」
「ああ」
「かなりの人間が出て来たぞ」
皆そんな彼の言葉を聞いて素直に驚いた。そしてそれと共に賞賛するのだった。
「カウンターテノールの再来だ」
「英雄だ」
「ロック界の新星だ」
こうしてほぼ一夜のうちに彼はスターダムに登った。バンドの仲間達も驚いていたがマクドネル自身もだった。しかし彼はその中で言うのであった。
「今度の英雄はですね」
「そうか、スターになっただけでは満足しないのか」
「満足とかそういうのじゃないです」
こうオコンネルに返すのだった。
「英雄になりたいですから」
「だから満足していないのかい?」
「そうじゃなくてですね」
そう言われるとそうではないと返すのだった。
「英雄っていうのはただひたすら上を目指すものじゃないですかね」
「それが英雄だというのかい?」
「はい」
まさにそれだと返すマクドネルだった。
「ですからまだです」
「そうか。どうやら僕は」
ここでオコンネルもあることがわかったのであった。それは。
「本当の英雄を見つけたみたいだな」
「本当のですか」
「このまま頑張ってくれ」
彼に温かい言葉をかけた。
「そして本当の意味の英雄になってくれ」
「そして神にですね」
「そう、君はそのまま永遠に進んでいくんだ」
マクドネルを見る目はこのうえなく温かいものになっていた。
「いいね、このまま」
「わかりました。それじゃあ」
「きっと素晴らしいものが待っている」
それも見えてきていたオコンネルだった。
「それを手にしてもそれからも」
「はい、進んでいきます」
満面の笑みで応えるマクドネルだった。これが後にオペラ界において最高のカウンターテナーと絶賛されロック界においても名を残したジャッキー=マクドネルのはじまりであった。彼はオコンネルの言う通り本当の意味での英雄だったのだった。少なくともそう言われるだけの人物であった。
カウンターテナー 完
2009・11・13
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