ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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才人-ジ・アース-part1/物語の始動
トリステイン王国。それは後に『惑星エスメラルダ』と名付けられるこの星の『ハルケギニア大陸』に存在する、小国ながらも由緒正しき伝統を持つ、ブリミル教と呼ばれる宗教を信仰する王国の名前だ。
この国をはじめとし、ハルケギニアの王族は始祖『ブリミル』の血を受け継いだ誇り高き一族でもある。
だが人間の場合、魔法を使えない者を『平民』、魔法が使える者を『メイジ』と呼称され、この世界では平民以上に強い権力を持ち合わせている。それがなくとも平民にはない魔法と言う力のアドバンテージが大きいがゆえ、この星の人間たちは貴族平民の格差社会が展開され、差別意識が根強く残ってしまっていたのだ。しかもたちの悪いことに、6000年間もずっと続いていたのである。それは貴族と平民の間に、絶対的な壁というものが存在することを証明していた。
ただ、誤解はしないでいただきたい。この星には数多くの目に余る問題は山にも匹敵するが、この星の知的生命体たちは平和を強く望む者たちが、身分や種族に関係なく大勢いると言うことを。
ここ、トリステイン魔法学院は優秀な魔法使い=メイジを育成するために貴族の子息子女が通う、魔法を習う高名な全寮制の学校である。
学院は上空から見たら地面に五角形(ペンタゴン)を描いたような建築様式をしており、外枠を頑丈な外壁で囲み、五角形の各先端を示す部分には巨大な塔が築け上げられ、中心部には更に巨大で高大な本塔がそびえ立ち、地面には本塔と各五つの塔を結ぶ廊下がそれぞれ備えられていた。
その学院の広大な中庭にて、制服の上に黒いマントを羽織った生徒達に囲まれた中、黒いローブを着用し木製の身の丈程もある杖を持った、薄い髪の学院教師の監修のもと、白いブラウスと灰色のプリーツスカートという学校指定の女子生徒の制服に黒いマントを羽織った、ウェーブのかかった長い桃色ブロンドの髪を持つ少女は呪文を唱えながら杖を振り下ろした。
すると、彼女の前で爆発が轟く。といってもダイナマイトを使ったような爆発でもなく、小さな花火のようなものだった。それを見て、周りの生徒たちはケタケタ笑い出す。
「見ろよ、また爆発だぜ」
「流石はゼロのルイズね。でも、こうも何度も見られると飽きてくるわ」
聞こえの悪いヤジが飛び、桃髪の少女は顔を怒りと悔しさで赤く染め、握りこぶしを作って震える。今にもヤジの生徒たちを殴りたくて仕方がなさそうだ。
彼女の名前はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。年齢16歳。トリステイン王家とは遠い親戚にあたり、代々優秀なメイジを輩出してきた由緒正しき公爵家出身。彼女の父・母・二人の姉たち・そしてご先祖様たちは優秀なメイジ。
しかし…ルイズだけはどういうわけか違った。彼女は簡単な魔法さえ碌に使えなかったのだ。実家暮らしだったころも、そして魔法学院に入学した今でも魔法成功確率ゼロ。そのせいで着いた二つ名が…『ゼロのルイズ』。
彼女はヴァリエール家出身であることを誇りに思っていることもあり、とてもプライドが高い。こんな屈辱的な二つ名など、呼ばれるたびに腸が煮えくり返りそうだ。
「ミス・ヴァリエール、今日はそこまでにした方が……」
この日、二年生になった彼女のクラスは春の使い魔召喚の儀式を執り行っていた。他の皆は鳥・ウサギ・モグラ…中にはドラゴンを召還するなど様々な使い魔をものにした。だが、ルイズだけたった一人、召喚を成功させていなかった。監督していた教師『ジャン・コルベール』が止めようとするが、当のルイズは止めようとしない。
「あと、一回やらせてください!!」
そう言って、再び呪文を唱えようとする。このまま引き下がっては、それこそヴァリエール家の誇りを傷つけるだけ、家族にも苦いものを呑 ませる思いをさせるだけだ。
「宇宙の果てのどこかにいる私の下僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ。我が導きに答えなさい!」
杖を振り下ろすと同時に起こったのは、やはり爆発。
「『ゼロのルイズ』の奴また失敗しやがったぜ」
「期待するだけ無駄無駄無駄ァ!って奴だな!」
「あ〜あ、なんか見飽きてきちゃった。私先に校舎に戻っていいかしら?」
続いて周りの生徒達の嘲笑う声が上がった。ルイズは膝をつき絶望が彼女の中に広がり始めた。
しかし…今回はこれまでと違っていた。なぜなら…。
「おい!何かいるぞ!」
「あのルイズが、成功したって言うの!?」
ヤジの生徒の声が飛び交う。ルイズは顔を上げてもくもくと沸くその煙幕の中を凝視する。何か、影が見える。煙の中に何かいるのだ。間違いない。
ルイズの心は、踊った。やった!成功したんだ!これでもう、成功率ゼロだなんて呼ばせない!
(やっと出てきてくれる私の使い魔、一体どんなのかしら?グリフォンかしら?それともドラゴン!?)
残念な胸をわくわくさせながら煙の中を凝視する。しかし、彼女の予想を見事に裏切る結果だった。出てきたのは、
(う、嘘………)
青と白のパーカーにジーンズを着た黒髪の少年だった。
ルイズは絶望しそうになった。まさか、こんな…こんなのが…。
(そんな…こんなそこらへんに転がってそうな平民が私の使い魔!?)
頭がくらくらしてきた。恰好からして変だし、見るからにこいつは貴族じゃない。ただの平民の少年だ。今の爆発の世界なのかそれとも召喚によるせいなのか、彼は気絶している。何かしら物が入っているのか、奇妙なデザインのカバンもある。ドラゴンとかなら戦闘や移動の役に立ったりはできるはずだというのに、自分にはこれか!始祖の意思だとしたら、不遜だとは承知の上でも恨みたくなる。
「ぎゃははははは!さっすがゼロのルイズだぜ!」
「ゼロのルイズ! サモン・サーヴァントで平民を呼んでどうするんだよ!!」
「もしかして、新手の手品か?魔法が使えないからって爆発に紛れ込ませて、あたかも召喚したように見せかけるにしても、平民はないだろ平民は!!」
またしてもルイズをあざ笑う野次が飛ぶ。しかも中には、実は成功したのではなく、彼女の偽造工作ではないかと疑う者までいる。
「ちょっと失敗しただけよ!!!」
「そう言って、いつも失敗してるわよねぇ」
「なんですって!」
赤髪のグラマラスな体形の女子生徒からも笑われ、ルイズは今まで以上にいきり立つ。
「黙りなさい!!」
しかし、うるさく飛び続けていたヤジも、コルベールの注意を呼びかける叫びで止まった。
「よってたかって一人の生徒を見なして笑うなど、みっともないですよ。慎みなさい」
いや、一人黙らなかった者がいた。それも、人間性を疑いたくなるように一言を発して、あたかもそれこそが正しいと言わんばかりの態度で。
「先生、僕たちは人の皮を被った家畜を笑っていたのですよ。ま、魔法がロクに使えもしない出来損ないのゼロのルイズには家畜の使い魔がお似合いでしょうね」
ブチ!!
ルイズは今すぐにでもこの男子生徒を殴り飛ばしたくなった。名門貴族出身だから淑女たる者相手を殴り飛ばすなどあってはならないことと教えられたが、それでも殴りたくして仕方なかった。しかしコルベールもこの生徒の失言を看過できなかった。
「…ミスタ・ロレーヌ。君は貴族以前に、人として恥ずべき発言をした。授業終了後、私の実験室へ来るように」
「そ、そんな!ミスタ・コルベール!?」
当然の判断なのにヴィリエと呼ばれた少年は青ざめる。周りの生徒たちも、彼の二の舞になるのを恐れ閉口した。
「さて、ミス・ヴァリエール。彼と契約を」
「ミスタ・コルベール!これは失敗です!もう一度やり直させてください!」
ヴィリエから視線を移し、コルベールはルイズに言うと、対する彼女は納得できないとばかりにやり直しを求めた。だが、コルベールはルイズの要求を拒んだ。
「それはダメだよ、ミス・ヴァリエール。これは決まりなんだ。この春の使い魔召喚の儀式で一度呼び出した使い魔の変更は認められない。なぜなら、これは伝統ある神聖な儀式だからなんだ。呼び出した以上、好む好まざるにかかわらず君はそこの二人を使い魔にするしかない」
「でも、平民を使い魔にするなんて聞いたことありません!!!」
「例外は認められないよミス・ヴァリエール。彼らはただの平民かもしれないが、君が呼びだした立派な使い魔なんだ。それに君が何度も失敗したせいでこの後の授業の時間も押している。さあ、契約するんだ」
コルベールに諭されルイズはしぶしぶといった表情で少年の方を見た。黒い髪、思えば珍しい色だった。少なくとも自分の知る限りは経ったひとり、それも学院で働くメイドの少女一人だけがそうだった気がする。いや、そんなことはどうでもいい。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」
やたら長い呪文を唱えた後、ルイズは両手で才人の頬にそえ固定した。
ルイズが頬を赤く染めながら、自らの顔を才人の顔に近づいていく。そして彼女の柔らかな唇が、少年のそれと重なった。ほんの数秒、ルイズはすぐに唇を離して口を拭く。
「お、終わりました…」
相手が平民とはいえ、やはり羞恥というものはある。ルイズは染まった頬を誤魔化すように言った。自分からしておいての立場なのだが、ルイズにとって今のは貴重なファーストキスだった。そんな大事なものを、婚約者である『あの人』でもないこんな辺鄙な少年に捧げるなど…屈辱だった。
とその時、少年の左腕から光が溢れ始め、少年は凄まじい悲鳴を上げた。
「っぐううああああああああ!!!!!」
自分の目の前で急に大声を出したものだからルイズはびっくりしてしまう。
(何よ、『ルーン』が刻まれただけなのにそんなに騒いで…)
悲鳴が終わったその時には、彼の左手に奇妙な古代文字のような刺青が刻まれていた。これがルイズの言うルーンとやらのことらしい。
「はあ…はあ…!!な、なんだ…左手が、熱い…」
意識を失っていた少年は目を覚まし、自分の左手を見る。たった今刻まれたルーンと、もう一つ自分の腕にいつの間にか付けられていた鉄のブレスレッドにも目を向けていた。
「なんだこれ?いつの間に…」
どうもその少年は、自分でそのブレスレッドを付けたわけではなかったようだ。だったらどうして身に着けているのか?
ふと、少年は視線を今度は辺りの景色に向ける。
「…あれ…ここは…?君は?」
目に映ったのは芝生を囲っているレンガの塀と塔。
「…あんた、誰よ?」
そして、桃色の髪と瞳を持つ華奢な美少女。少年は顔を近づけてきた彼女の可愛らしい容姿に胸が高鳴ってしまったが、なんとか冷静さを保とうとして自己紹介した。
「誰って…俺は平賀才人」
「ヒラガサイト?変な名前ね」
「変とはいきなり失礼な奴だな」
変な名前と言われムッとしたサイトだが、言いだしっぺの癖にルイズは失礼な奴扱いされたことにイラッと来た。
「あんたね、貴族にそんな言い方していいと思っているの?いったいどこの平民よ?」
「ミス・ヴァリエール。そこまでにしなさい。それと君、左手を少し見せてもらえないかな?」
サイトとルイズの間に、コルベールが割って入ってきて、サイトに左手を見せるように言ってきた。何が何だかわからず、サイトは言われるがまま左手を差し出してみる。コルベールが見ていたのは、サイトの左手の甲に刻まれたどこかの古代文字のようなルーンだった。コルベールはそれをスケッチブックに書き写し、終わったところで生徒たちに呼びかけた。
「よし、春の使い魔召喚の儀式はこれで終了とします。各自、寮に戻りなさい」
彼はそういうと、生徒たちは返事をした後、杖を振う。
次の瞬間、サイトは目を丸くした。なんだこの人たちは…。空を、飛んでいる!?なんと彼らは、翼や何かしらのユニットがあるわけでもないのに、宙に浮き、校舎の方へと飛び始めたではないか。
「嘘だろ!?人間が空を飛んでる!?手品とかじゃ…ないのかこれ」
映画の撮影現場、とも思えない。ワイヤーアクションかとも思ったがそれらしいものは目視できない。本当に空を飛んでいるようにしか見えなかった。しかし、サイトは一つある予想を立てる。
(もしかして、ここにいる人たちは…)
「ルイズ!!お前はそいつと歩いてくるんだな!!」
「フライもレビテーションも使えないんじゃ、しょうがないよな!!」
「その間抜けそうな平民の使い魔、あなたにお似合いよ!」
彼が施行に入る中、ルイズに向けて空を飛んで校舎へ行く生徒たちからのゲラゲラ笑いが降ってきた。そんな嘲笑を聞き、ルイズは握りこぶしを握り、顔を俯いたまま震えており、このうえなく悔しがっていた。
「あんた、一体何なのよ!」
見るからに八つ当たりにしか見えない。ルイズはサイトに対して怒鳴って見せたが、対するサイトからは無反応だった。何か、奇妙な言葉をぶつぶつ呟いていたのだ。
「俺は確かに東京の秋葉原にいて、でも気が付いたらここに…」
「無視するな!」
無視されて腹を立てた彼女は、サイトの足を思い切り踏んづけた。
「痛って!何すんだよ!!」
「あんたが貴族であるこの私を無視するのがいけないんじゃない!」
さっきからなんなんだこいつは。二人は互いのことをそう思っていた。ルイズにいたっては、ずいぶんと不遜な態度をとる無礼な平民、しかもよりによって公爵家出身の自分にとてもふさわしい使い魔とは思えない奴。サイトにいたっては、人間がトリックもなしに空を飛ぶと言う見たこともないアクションを見せられて混乱していると言うのに、何者だとさっきからギャーギャー喚いてばかりの年下に見える生意気な娘に怒鳴られて不愉快。
(さっきからなんだこの女!!むかつく!かわいくねえ…)
しかし、サイトはルイズの関ら顔を見てすぐ考えを改めた。少なくとも最後のだけは。
(い、いや…よく見たら結構かわいいかも…)
今更だが、ルイズの容姿は自分の好みであることをサイトは認識した。
「何ボケボケしてんの!ついてきなさい!」
すると、ルイズは急にサイトの襟首をつかんで引っ張り始めた。
「痛っ!いきなりなんだよ!引っ張るなって!!」
―――やっぱかわいくねぇ!特にこの乱暴さ!
乱暴にパーカーのフードを掴んでくるルイズに向かって言い放つも、対するルイズは苛立ちすぎてもういちいち返事するのも面倒臭がり、サイトをずるずると自室へ向けて引きずり続けたのだった。
さほど時間をかけず、彼はルイズの部屋へと連行された。随分と大きな寮であるためか、部屋の中もかなりの広さだった。
部屋の真ん中には円形のテーブルと椅子があり、テーブルの上にはランプが置いてあった。
入口から見て、右側には机、クローゼットとタンスがあり、左奥には人間が3人は入れそうな天井付きの大きさのベッドが横置きに置いてあった。
なぜ俺はここにいるのだろう?少年、サイトは自分の記憶をたどり始める。
(思い出せ俺。俺はどうやって、どうしてここに来たのか…)
少し時間を巻き戻そう。
皆は、パラレルワールドという単語はSF映画や漫画・小説などですでに知っているだろう。
さきほど様子の一端を見せたシュウとはまた異なる次元、そこにハルケギニア大陸の点在する星と、サイトの生きていた地球が存在していた。
彼のいた地球は、シュウの生きていたそれとはまた変わっていたものだった。怪獣とウルトラマン、そして対怪獣防衛軍の存在。それについては共通している。
しかし大きく違うのは、それらのキーワードに関する経緯だ。
シュウの世界では、5年前から巨大ビーストが出現した。だがこの世界で怪獣、さらには侵略目的で飛来した宇宙人が出現したのは、なんと約50年も前。ウルトラマンが出現したのはそれから一年もあとのことだ。それから十数年近く、毎年のごとくウルトラマンが出現したが、1980年を過ぎてからばったりと表舞台に姿を見せなくなった。人知れずどこかで、中には外国に出現したなんて話もあるが実際のところよくわかっていない。ともあれ、これまでの長きにわたって怪獣・星人とウルトラマン・人間の戦いの時期を、『怪獣頻出期』と称されている
しかしサイトが中学2年生のある日、実に26年もの時を経て怪獣が再出現、当時の防衛チーム『CREW GUYS』を全滅寸前に追い込み世界中に壊滅的な被害を与えた。その直後に現れた、若きウルトラ戦士『ウルトラマンメビウス』、新たに出現した青いウルトラマン『ウルトラマンヒカリ』と新生GUYSの活躍で、地球に平和が戻ったのだった。
あれから3・4年…西暦2010年。現在、怪獣や星人からの脅威は今のところ途絶え、新たに宇宙資源を取り入れる宇宙開拓組織『ZAP SPACY』が発足され、宇宙鉱物資源の輸送・惑星開発を主な任務とする彼らの活躍の方が注目されつつあった。
平賀才人。年齢17歳。どこにでもいるような高校二年生。好物はテリヤキバーガー。嫌いなものは体育の先生。趣味は見ての通りノートパソコンとかでいろいろ面白いものを見ること。学校の成績はあまり思わしくない。ちなみに最近出会い系サイトを使って、ずっとできないままの彼女を募集しようかと模索中。
日曜日の、日本の東京。
表札に『友里』。サイトはその一軒家に住んでいる。仏壇の置かれた和室にて、彼は仏壇に掛けられた写真に映された二人組の夫婦を見て合掌し、黙祷した。
「偉いのね…亡くなったお母さんたちに」
そんな彼を覗き込む壮年の女性がいた。
サイトの母、アンヌ。かつて地球防衛軍のエリート「ウルトラ警備隊」の隊員だった女性である。
彼女はサイトの実の母ではない。四年前、両親がウルトラマンメビウスと戦っていた怪獣による事故で亡くなり、身寄りのない彼をアンヌが養子として引き取ったのだ。母とは今も名字が違ったままだ。
「これくらい普通だよ。じゃあ俺、今から修理に出してたパソコン取りに秋葉原に行くから」
「気を付けて行きなさい」
「うん」
靴を履き、サイトは自転車に乗って駅へと向かって行った。
電車で十分以上係って着いた町、秋葉原。電気店が多く立ち並ぶその町は、多くの世代の人たちがよく立ち寄る。サイトもその日、修理に出していたノートパソコンを引き取りにやってきたのだ。
「ふう〜、ようやく帰ってきたぜMYパソコン!」
修理を頼んでおいたノートパソコンを受け取り気分はウハウハ状態。まるで子供だ。
パソコンを引き取ったし、リュックにしまって家に帰ろうと思ったその時、彼は制服を着こんだ少女と鉢合わせした。
「平賀君?」
「あれ、高凪さん?」
綺麗で長い黒髪を靡かせた女子学生、『高凪春奈』。成績優秀で、サイトと同じクラスで学級委員長を務めている。クラスでも指折りの美少女とも称されていて、サイトも彼女に対して好印象を抱いている。
「こんなところで会うなんて!」
ハルナはすごく嬉しそうにサイトへ満面の笑顔を向けた。
「平賀君、今日はなんでここに?」
「修理に出していたパソコンを引き取りにね。ほら」
サイトはパソコンを仕舞い込んだリュックを見せる。
「そういえば高凪さんこそ、どうしてここに?」
「今日は、部活が早く終わったからここで時間を潰してたの」
「へえ、部活か…」
平凡で幸せそうな年頃の少年少女の会話。一部の人間ならリア充爆発しろ!と言いたくなるほど微笑ましいものだろう。ハルナが何部に所属しているか、それを聞こうとしたが…。
ぎゅるるるるる…。
「あう…」
恥ずかしそうにサイトは腹を抑える。気が付けばもう昼の時間だ。それを見てハルナは笑いをこらえるのに必死になる。
「もうお昼だもんね。一緒に食べに行こ?」
「いいの!?」
「うん」
子供のように目をキラキラとさせるサイトに、ハルナは少し照れくさげながらも嬉しそうに頷いた。
二人はファーストフード店で食事をとることにした。先ほど紹介した通りサイトはテリヤキバーガーが好きなため、二人はそれとドリンク・ポテトを注文した。
「んまぁぁい!マヨの入ったテリヤキやっぱ最高!」
おいしそうに食べる彼の姿は、ハルナにとって幸せの一環だった。チラッと、彼女は自分も頼んでいたポテトの束に目をやる。
(平賀君、あ〜んとかしてくれないかな…?って!な、何考えてんだろ私ったら…恥ずかしい)
こんな考えを知った時点で、読者の皆様は彼女がサイトに対してどう思っているか予想した人がいるだろうが、それはまだ置いてあげてほしい。
店を出て、どこか別の場所へ出かけようと、ハルナが話を持ちかけてきた。
こんな、彼らの平和な時間が、その時にストップしてしまうなど誰が予想しただろうか。
「うわああああああああ!!!」
「「!」」
彼らのすぐ近くから、悲鳴が聞こえてきた。サイトとハルナが悲鳴の聞こえた方へと視線を向けると、恐怖を感じさせる光景が彼らの目に映った。
人が、消えていくのだ。
空の、白く発光した後、蒸発するかのように。それも次から次へと、多くの人たちが消えていくのだ。
「なにこれ…!」
恐怖し、サイトにしがみつくハルナ。そんな彼女を守るように、サイトは彼女の方に手をまわした。
「異星人…!」
養子とはいえ、アンヌの子だからなのか。サイトはこれを、侵略目的で現れた異星人によるものだと勘ぐった。
「高凪さん、しっかり俺の手を掴んで!」
サイトはハルナの手を握り、彼女を連れて安全な場所へと連れ出した。少女一人を連れて行くのは難しいが、だからといってサイトは彼女を見捨てて行くことなどできない。絶対に離すものか、サイトはたとえ彼女が握られるのを嫌がったり痛がったりしても決して離さないよう彼女の手を握り続けながら、彼女と共に走り抜けていく。
ハルナは、サイトの力強い手の感触に痛みを覚えもしたが、同時にサイトが自分のためにここまで必死になってくれていると言うことに心が温かくなるのを感じた。
しかし、クール星人によって放たれた光弾の脅威が、無情にも二人に直撃した。
「うああああ!!」「きゃああああ!!」
光弾を受けて悲鳴を上げる二人。その直後、サイトたちの姿は白熱し、地上から跡形もなく消え去ってしまった。
ここはCREW GUYS JAPANのキャリアベース『フェニックスネスト』。関東都市郊外に位置し、見た目は巨大な要塞だがいざというときはこの建物そのものが巨大な戦艦・宇宙船となって稼働することが可能という、かつてないほどの性能を誇る基地。ここに地球を守るGUYSの隊員たちが、怪獣・星人の脅威から地球の人々を守るために勤務している。
その基地の作戦司令室ディレクションルームにも、秋葉原で起きた異常事態は知れ渡った。
「隊長!秋葉原にて、突如住人が消失したとの報告がありました!」
今、隊長と呼ばれた男に報告したのはハルザキ・カナタ。ウルトラマンメビウスたちが最後の敵『エンペラ星人』を倒した後にこのGUYSに入隊した隊員である。今では後輩たちも増え、すっかり古参隊員に相応しい隊員に成長している。
「住人が消失?モニターに出せ!」
この男の名前はアイハラ・リュウ。現GUYSの隊長で、正義感溢れる熱血漢。メビウスとは特に絆を深めあった戦友同士で、ウルトラマンヒカリと一時的に一体化した経験のある男だ。
他にも複数隊員がいるのだが、名前が判明していないので、やむを得ないが説明を割愛させていただく。
モニターに出すように命じられ、他のGUYS隊員の一人がモニターに映像を出力した。
秋葉原の風景がモニターに映し出されると、その景色には恐怖に慄く人々と、次々と白熱したように光り、消滅する人の姿が映し出された。空から降ってくる謎の光弾、それが次々と人を狙って降り注がれ、路上を歩く人どころかパトカー・乗用車・バスさえも狙い、光弾を受けたそれらは次々と消え去っていた。
「なんだこりゃ…」
一人のGUYS隊員が気味悪そうに声を漏らす。すると、データベースを調べ上げていた一名のクルーが今回の敵について皆に報告する。
「過去のアーカイブにデータあり!ドキュメントUG…レジストコード『宇宙ハンター・クール星人』です!」
「クール星人?」
「43年前、ウルトラ警備隊に挑戦状を叩き込み、標本のために人類を誘拐し続けていたそうです」
「今回もそれが目的か!」
さらに一名の隊員が叫んだその時には、モニターに映された秋葉原の町は、どこからか放たれてくるクール星人の攻撃によって、今度は建物が破壊され始めていた。恐らく建物への攻撃で地上の人間のパニックをあおり、必然的に逃げ道の方角へ集まっていく彼らを一気に狩るつもりなのだ。
「アイハラ隊長!」
ご命令を!女性隊員がリュウからの命令を待つ。
「ああ、俺たちを標本なんかにさせてたまるか。GUYS!」
リュウの掛け声を聞き、GUYSクルーたちは一斉に一列に並ぶ。
「SALLY GO!」
「「「G.I.G!!」」」
「ぐ…」
クール星人の攻撃によって秋葉原の町から消されたサイトは目を覚ました。だが、真っ先に感じたのは奇妙な感覚だった。まるで自分が空の上を飛んでいるような浮遊感がある。いや、その通りだった。本当に自分は浮いていたのだ。自分だけじゃない、子供・オタク・女子高生・主婦・会社員など秋葉原で見覚えのある人たちが同じように、この奇妙な部屋の中で浮いていたのだ。
「うあああ!助けてくれ!!」
ジタバタともがいて、下の方に見える扉の方へ逃げようとしても、体が自分の意思と関係なく浮いてしまっているせいで届きもしない。子供や女子は泣いてしまってとても他人の力を頼らないといけない状態だ。
(そうだ!高凪さんは!)
サイトは辺りを見渡し、一緒にいるかもしれないハルナを探し回る。すると、幸か不幸か彼女の姿は自分のすぐ近くだった。だが意識を失ってぐったりとしている。
「高凪さん!」
彼は彼女の手を掴んで引っ張り、彼女の体を揺すると、ハルナはうめき声をあげながらも目を覚ました。
「平賀君…?」
「大丈夫高凪さん!?怪我は?」
「う、うん…平気。でも、ここはどこなの…?って、なにこれ…!?」
自分だけじゃなく、周囲の人間が無重力状態であることに驚愕するハルナ。その表情には恐怖の色さえ見える。体も震えていてひどく怯えきっていた。サイト自身もこの状況に恐怖を感じないわけがない。これからさき、星人に何をされるかわからないし、嫌な想像をついついしてしまう。だが、自分までおびえるわけにはいかない。虚勢だとしても勇気を振り絞らなければ男ではない。
「落ち着いて。大丈夫、きっとGUYSの人たちも駆けつけに来てくれる。俺たちは俺たちのできることをするんだ!」
彼女の両肩に手を触れ、顔を引き締めて頷いて見せたサイト。ハルナはそれでも震えたままサイトにしがみつく。なんとしてもここから抜け出さなければ。
「うあああああ!!!」「きゃあああああ!!」
「どけ!道を開けろ!!」「お母さああああん!!!」
一方、地上では混乱が巻き起こっていた。秋葉原は平日でも多くの客でにぎわう街。日曜となるとその数はとんでもない。この辺りには、防衛軍がこのときのために用意した地下の避難シェルターへの入り口があるはずだ。だから、クール星人の攻撃を恐れる人々は混雑しまくりだった。だが逃げなければならない。一秒でも生きていくためには。
出動したGUYSは高速追跡機体『ガンブースター』と攻撃戦闘機『ガンウィンガー』に搭乗し、クール星人のUFOを追う。
「それにしても、以前のように標本目的に人間を浚うってことは、さらわれた人たちはいわゆる人質だ。どうやって攻撃するんですか…?」
ガンブースターに搭乗している男性隊員が言う。彼の言う通り、浚われた人たちをどうするか、クール星人の思いのままだ。攻撃されないよう、人質の救出を優先したいこちらの弱みに付け込んでくる可能性が大きい。
「いや、人質を取られても俺たちのやることは変わらない。地球を守るため、このまま敵を撃墜する」
意外なことに、ガンウィンガーに搭乗しているリュウから非常にも取れそうな発言が出てきた。
「隊長!?」
同じ機体に搭乗しているカナタは信じられないと言わんばかりに声を上げた。あの熱血な隊長が一体何を考えているのか理解できなかった。だが、リュウの話はまだ終わっていなかった。
「考えてもみろ。いくら人質の命を救って奴らを叩きのめすのが理想であっても、俺たちは奴らの手から確実に地球を守るためにも、場合によっちゃ人質を見捨ててでも奴らを殲滅しなきゃいけねぇ。なんたって、俺たちには地球と、そこに生きる何十億の人類の未来がかかってるんだからな」
「それは、そうですけど…!」
「まあ聞け。標本を集めてるってことは、あいつらもそう易々とさらった人間は殺すことはできねってことだ。代わりがあるから、なんて言ってきたとしても、殺した人間が他にはない特徴を備えている可能性を孕んでいる以上、貴重な材料を手放すような真似はできない。
第一人質ってのは、劣勢の側にとって最後の盾で命綱だ。言うことを聞かなきゃこいつを殺す、なんて言ったところで、それは奴らにとって自ら盾を捨て去るも同然。最期に人質しか残らなかった時点で、そいつらの負けだ。後は連中が諦めるまで膠着状態を続けていきゃいい」
「な、なるほど…」
それを聞いて、クルーたちは納得した。あくまで可能性の範囲内での話だが、クール星人の目的を考えればそうなのだろう。
「人質のことはそれでいいのですが…敵は一体どこから攻撃を?」
空を見上げながら、ガンブースターに搭乗する隊員の一人はそうつぶやく。見たところ敵の姿はどこにも見当たらない。すると、フェニックスネストに待機させたオペレーターからの通信が入る。
『敵の宇宙船には光学迷彩機能が備わっています。姿をあぶりだすには、出撃前に緊急で搭載した特殊噴霧弾を使ってください。レーダーで奴らの位置は把握しています。誘導に従って敵の位置を特定、ガンブースターに搭載した特殊噴霧弾で姿をあぶり次第、ガンウィンガーは敵を撃墜してください』
クール星人を相手に防衛軍は、確かに手を焼いたことはある。だが、あれからもう何十年も過ぎた。地球人はここまで強くなったのだと、己の野望のために好き勝手する侵略者に見せつける時だ。
「よし、作戦通りに動くぞ!」
「G.I.G!」
気合の籠ったリュウの激励の言葉を開戦の狼煙として、GUYSは作戦を開始した。
『ガンブースターの位置より10時の方向、約100m先、そこにクール星人のUFOがいます!敵の数は一機!』
「よし、特殊噴霧弾、発射!」
ガンブースターに搭乗する隊員が、ナビゲーターに指示された通りの方角にロックオンし、トリガーを退くと、ガンブースターより一つのミサイルが発射され、100mさきの位置で爆発、赤い人口の霧をまき散らした。
特殊噴霧弾の効果は抜群だった。作戦通り、二本のキノコを生やしたような三角錐の赤い飛行物体、クール星人の小型円盤が姿を現したのだ。
「今だ!ウィングレットブラスター、ファイア!」
姿が明るみとなったクール星人のUFOに向け、リュウがトリガースイッチを押すと、主翼より熱閃砲『ウィングレットブラスター』が発射され、星人のUFOに見事直撃、煙を拭きながら星人の宇宙船は市街地から離れ始めた。ガンブースターとガンウィンガーはそれを逃がすまいと追って行く。
都市部を離れ、クール星人の円盤は山奥へと入り込んだ。進んでいくと、町を襲っていたもの以上の巨大な宇宙船がそこにあった。形からして、これがクール星人たちの根城代わりの宇宙船だろう。さっき自分たちが攻撃した小型の円盤が、格納庫という名の口を開けたその宇宙船の中へと消えて行った。
「侵入者対策だって用意してたってのに、よく入り込めたもんだぜ。誰かがこいつらを誘導させていたかもな」
歴代の防衛軍と比べても、相当の防衛線を張っている現在の地球防衛軍。侵略星人の宇宙船は簡単に入り込めないはずだ。だがこうして侵略目的の異星人が宇宙船で侵入するなど考えにくい。誰が、あらかじめこの星に少人数・または単独で侵入してクール星人を手引きしたものがいるとリュウは睨んだ。
「誰かって?」
「いや、今はいい。カナタ、お前は俺と地上へ降りて浚われた人間の救出に向かう。お前らは空中で敵が仕掛けてこないか待機だ」
『『G.I.G!』』
リュウはカナタを連れて地上へ降り、誘拐された人間たちを救うためにクール星人の宇宙船へと急行した。
敵船へと乗り込んだリュウとカナタは、レーザービームガン『トライガーショット』を構えながら、いつ襲ってくるかわからない星人に備える。
(ミライたちと一緒に守ってきた地球を、人を人とも思わねえ奴らに汚されてたまるか!)
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