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ジェネレーション=ミュージック

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第六章


第六章

「それはな」
「御前もチェッカーズのよさがわかったみたいだな」
「いいのは確かだよ」
 このこともまた認めるのだった。
「何度も聴けるしな。で、中期がな」
「やっぱり一番いいか」
「俺はそう思うな」
 自分の意見だと限定はしてみせた。
「それはな」
「そうか。俺もな」
「んっ!?」
「この曲が最近のお気に入りだ」
 言いながら側にあったギターを手に取った。そうして奏でた曲は」
「TMレボリューションから」
「INVOKEだったな」
「ああ、それな」
 その通りだとここでも背を向けたまま言ってみせた。彼もリズムだけでわかった。
「いい曲だろ」
「最初はわからなかったぞ」
 言葉はここでは少し苦いものになった。
「そもそも一人でどうやって革命を起こすんだってな」
「それが起こせるから西川なんだよ」
 軍平もあえて西川を褒め称える。
「一人でもな」
「そういうものか」
「そうだよ。それでな」
「ああ」
「親父、他にも曲聴いたよな」
「勿論だ」
「で、どうだった?」
 背は向けたままだったが声は完全にお父さんに向いていた。そうしたやり取りになっていた。
「今の曲は」
「最初は戸惑ったよ」
 これは正直に述べた。
「けれどな」
「ああ。けれど?」
「何度も聴いてるうちによくなった」
 こう答えたのだった。
「今の曲もいいものだな」
「そうだろ?俺だって同じだよ」
 軍平はお父さんの言葉を受けたうえで自分自身についても語ったのだった。
「俺だって親父やお袋の若い頃の曲聴いてな」
「よかっただろ」
「よかったから今こうして弾いてるんだよ」
 素直ではないがそれと共にこれ以上はない程はっきりとした返事だった。
「こうやってな」
「俺もだ」」
 お父さんの返事も同じだった。
「こうやってな。今な」
「気に入ったんだな」
「だから弾くんだよ」
 お父さんの返事も軍平と同じだった。やはり親子だった。
「本当に最初は何だって思ったけれどな」
「わからなかったんだな」
「最初だけだよ」
 このことを強調するのだった。
「最初だけな」
「そうか。ならいいんだけれどな」
 軍平はお父さんが今の自分達が聴いている音楽をいいと言うのでそれは内心素直に喜んだ。あくまで内心で喜んだだけであるが。
「で、お袋は?」
「美智代と一緒じゃないのか?」
 お母さんはお母さんで美智代と一緒にいるのだという。
「多分な」
「多分!?それじゃあ」
「アイドルの曲も聴いたぞ」
「そっちもかよ」
 アイドルの話が出るとすぐにこう返した。
「そっちも聴いたのかよ」
「今もあの事務所はいいな」
 実はその事務所のタレント達も結構好きなお父さんなのだ。
「女の子もな」
「そっちだって昔の松田聖子とかな」
「聖子ちゃんいいだろ」
「今でもやってるのがわかるよ」
 やはりいささか素直ではないがそれは認めるのだった。
「ああいうものがあるからなんだな」
「そういうことだよ。そっちのあややか」
「ああ」
 言わずと知れた松浦亜弥の通称である。軍平の世代ならこの名前を知らない人間はいない。いささか歳は向こうの方が上であってもだ。
「ついつい口ずさんでしまうな」
「それがあややの歌なんだよ」
「この前電車の中で思わず口ずさんでしまってな」
 お父さんの言葉が苦笑いになっていた。
「気付いた時はちょっとな」
「そういうのは止めてくれよ」
「ああ。しかしな」
 それでも。お父さんは気付いたのだった。
「やっぱりな。いいものはいいな」
「そうだろ?今のアイドルの曲だっていいだろ」
「ああ。それで」
 お父さんは息子の言葉に頷いてからまた彼に尋ねるのだった。
「御前はどう思ったんだ?」
「俺!?」
「そうだよ、御前だよ」
 また彼に問うのである。
「御前は。俺達の年代のアイドルは」
「悪くはないな」
 背中を向けたままなのは相変わらずだが言葉は真面目だった。
「おニャン娘クラブにしろ小泉今日子にしろな」
「中森明菜はどうだ?」
「今度ギターでやってみる」
 認めたということだった。
「ちょっとな」
「そうか。それにしてもな」
 お父さんの言葉は笑顔になっていた。
「いいものだな。今の曲もな」
「昔の曲もな」
 お互いの世代の曲を認め合う二人だった。そして別の部屋ではお母さんと美智代がAKB48やそのハロプロと早見優や松本伊代を聞き比べながらにこにこと話をしていた。お父さん達も軍平達もいいものはいいと認めてその心を幸せにさせた。音楽は人の心を幸せにするのはこの一家においても同じであった。


ジェネレーション=ミュージック   完


                  2009・1・7
 
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