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戦国異伝

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第百六十三話 紀伊での戦その十

「これからもな」
「そう言うと思ったわ、ではわしもな」
「御主も傾くか?」
「わしはわしでやる」
 特に傾かないというのだ、前野は。
「御主に負けぬ程にな」
「そうするか」
「この戦でもな」
 そうすると言ってだ、そしてだった。
 織田家の面々は戦の時を待っていた、山に隠れてそのうえでだった。その間信長は家康と共に兵を進めていた。
 その中でだ、今も後ろを振り向き言うのだった。
「そろそろだと思うがのう」
「権六殿がですな」
「法螺貝を吹く頃じゃ」
 その時が近付いているというのだ。
「あ奴の軍勢が法螺貝を吹けばな」
「その時にですな」
「我等も吹く」
 その法螺貝をだというのだ。
「そしてその時にじゃ」
「兵を反転させて」
「攻めるとしようぞ」
 こう家康に話すのだった。
「一気にな」
「見たところ敵は伸びきっていますな」
 家康から見てもだった、闇の服の門徒の軍勢はただひたすら伸びている、信長達を必死に追っているだけで陣形も何もない。
 しかも周りに警戒もしていない、その彼等を見て言うの。
「あれでは」
「満足に戦えぬな」
「まさに一蹴ですな」
 戦えばそれが出来るというのだ。
「あれでは」
「かかったな、相手も」
 その門徒の軍勢もだというのだ。
「それに気付かせぬに済んだ」
「敵にはこちらの手のうちに気付かせぬ」
「それが大事ですな」
「戦はな」
 まさにだというのだ。
「だからじゃ」
「それでは」
「あの者達を倒し紀伊を収めるとしようぞ」
 こう言ってだった、信長は今は兵を進めた。そうしてだった。
 彼等は進みつつ法螺貝の音を待った、その法螺貝はというと。  
 柴田は佐久間盛政、彼のすぐ下につけられている将の一人である彼からこう言われた。見ればかなり厳しい顔だ。
「敵の最後尾が通り過ぎました」
「うむ、我等の前をな」
 柴田も木の陰から頷く。
「通ったな」
「はい、これで」
「ではじゃ」 
 それではというのだ。
「今からじゃ、よいな」
「法螺貝を吹け」
 佐久間盛政はすぐに周りに言った。
「よいな」
「はい、わかりました」
 足軽の一人が応える、そしてだった。
「では今より」
「頼んだぞ」
 足軽は法螺貝を鳴らした、法螺貝は瞬く間に連なる山々全てに広く伝わった。そしてその法螺貝の音はというと。
 信長も聞いた、信長はその声を聞いて確かな顔で言った。
「ではな」
「はい、それでは」
 その信長に家康が応える。
「我等もですな」
「うむ、ではじゃ」
 すぐにだ、信長は傍にいる足軽に顔を向けて声をかけた。
「よいな」
「それでは」
 足軽も応える、そしてだった。  
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