悠久の仙人
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第八章
第八章
「そのまま座禅をしてじゃ」
「座禅を」
「瞑想をされよ」
それをだというのだった。今度は。
「よいな。これからじゃ」
「瞑想をするとわかるのですか?」
「まずはそれをされることじゃ」
「瞑想ですか」
「宜しいかな」
彼に対して言ってきたのだった。
「ハルジャさんもじゃ」
「それでは瞑想しましょう」
それを聞いて述べたハルジャだった。剛にも顔を向ける。
「いいですね」
「わかりました。それでは」
剛も彼の言葉を受けて頷く。これで決まりだった。
こうして三人は向かい合って座って瞑想に入った。剛はその瞑想の中で感じた。
宇宙ができそれが維持され破壊される。その宇宙がまたできあがるのをだ。見たのである。
それを見届けてやがて目が自然に開いた。するとだった。
そこにいた仙人がである。言ってきたのだった。
「御覧になられましたね」
「はい」
剛は仙人の今の言葉に答えたのだった。
「見えました。あれはまさに」
「この寺院はシヴァ神の神殿です」
このことも言ってきたのだった。
「破壊神のです」
「破壊のですね。そうですね」
「世界は創造、調和、破壊」
この三つを話に出してきた。
「この三つのサイクルからなります」
「シヴァはその破壊を司っていますね」
「それは悪ではありません」
仙人の言葉は穏やかだった。言葉をそのまま彼の心に滲み入らせる感じだった。
「破壊から創造があるのですから」
「それはわかります」
「頭でわかりそうしてです」
また言う仙人だった。
「感じることなのです」
「その為に瞑想なのですね」
「その三つのサイクルを感じてこそです」
また言う彼女だった。
「全てが見えるのです」
「全てが」
「人の世はこの宇宙の三つのサイクルの中にあります」
仙人はさらに言ってきた。
「その中の些細なものです」
「些細なですか」
「そうです、些細なものです」
ちっぽけなものだと。そうだというのだ。
「ほんのです」
「そういったものですか」
「ですから。御気に召されるものではありません」
「まさか僕が」
「疲れておられましたね」
それを見抜いていたというのである。今の言葉はまさにそうであった。
「生きていることに」
「まあそうです。仕事にはです」
「そうですね。ですがそれは宇宙の中の人の世でのそのさらに人の人生の中の僅かな部分に過ぎないのです」
まさにそうでしかないというのだ。そこまで些細なものだと。
「そしてその宇宙もです」
「神の一日に過ぎませんでしたね」
「そうした中での些細なことにもなりません。そして」
「そして」
「それは終わるものです」
そうだともいうのであった。仙人の言葉は何処までも遠大であった。
「はじまりがあるからには」
「では僕の今のこれは」
「悩まれるものではありません。ただその身を任せていればいいのです」
「そうなのですか」
「はい。これでおわかりでしょうか」
ここまで話したうえでの言葉だった。
「これで」
「はい、これで」
仙人のその言葉に頷く剛だった。その顔が晴れやかなものになっていた。
「わかりました」
「それではこれで宜しいですね」
「はい」
あらためて頷く彼だった。
「これで」
「では後はですね」
話が終わったところでハルジャもまた言葉を出してきた。
「これで帰りましょう」
「はい、それでは」
こうして仙人に別れの挨拶をして場を後にする二人であった。寺を出るとその門のところに牛がいた。インドの白い牛である。
牛を見るとだった。ふと気付いた彼である。
「ああ、あの牛は」
「ええ、門にいますよね」
「はい、牛はシヴァ神の乗り物ですから」
「悠久の中にあるのですね」
今はこのことを感じた彼だった。
「人と同じで」
「ありとあらゆる存在がです」
そうなっているというのである。
「ですからその中で漂っていればいいのです」
「悠久の時に身を任せてですね」
「はい、それでは」
「行かせてもらいます」
こう言ってであった。穏やかな顔で足を出した。彼は今はもう疲れを感じることはなかった。悠久の中に身を漂わせることを知ったからである。
悠久の仙人 完
2009・12・7
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