悠久の仙人
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第六章
第六章
「これもですか」
「そうなんですよ。ですから慣れれば特に何ともなくなりますよ」
「はあ」
「まああれです」
「あれとは?」
「これがインドだと思われればいいです」
このことについてもだというのである。そうして。
その手に数枚コインを出してそれを子供達に与える。すると彼等は笑顔で去っていくのであった。
「これでいいのですよ」
「それだけですか」
「はい、それだけです」
実に素っ気無い今のハルジャだった。
「これで終わりです」
「そうなのですか」
「何でしたら貴方もどうですか?」
「僕もですか」
「彼等はこれが仕事なのですから」
またこう言うのだった。所謂物乞いがそうだというのである。
「先祖代々の」
「だからこれが当然なのですね」
「そうです。如何されますか?」
「ううん、それでしたら」
少し考える顔になったがその懐から財布を取り出してだった。コインを吸うまい取り出す。税関で両替えしてルピーにしている。
そのコインを数枚子供達に渡してだ。これで子供達は笑顔で去った。子供達のことはこれで終わったが剛はまだインドを見ていた。
彼等はそのままある寺院に向かった。そこは。
「この寺院は」
「ヒンズー教の寺院です」
そこだというのだ。石造りで門のところには象の頭をしたでっぷりと太った四本の腕を持つ像があった。それが左右に一つずつあった。同時に牛の像もある。
その像が何か剛もすぐにわかった。
「ああ、ガネーシャですか」
「御存知なのですね」
「ええ、日本でも漫画とかゲームに結構出て来ますから」
そういったもので手に入れた知識であった。
「それでなんですけれど」
「日本はそういったものが多いですね」
「はい、所謂ヲタク文化ですか?」
自分でそれを言う剛だった。
「それですけれど」
「成程。インドではそういったものはまだまだ広まってませんので」
「そうですか」
「ええ。それでもガネーシャ神を御存知なのですね」
「はい、それは」
これについてはであった。彼も知っているのは確かだ。
「知ってます」
「それではですが」
あらためて話すハルジャだった。
「ここはシヴァ神の寺院でして」
「あの破壊の神ですね」
シヴァについても知っている彼だった。やはりこの知識も漫画やゲームで仕入れたものである。こういったものから手に入れる知識も馬鹿にできない。
「ヒンズー教の三大神の一柱ですね」
「はい、そうです」
まさにその通りだと答えるハルジャだった。門に入ると中はがらんとしていた。何もなくただ石の床と天井が薄暗い中に見えるだけであった。
剛はその中を見回す。そうしてそのうえでハルジャに話を続けるのだった。
「それですけれど」
「それで?」
「ここはそのシヴァ神の寺院ですよね」
「はい、それでここにはですね」
また言ってきたハルジャだった。
「ある方がおられまして」
「ある方といいますと」
「仙人といいますか」
それだというのである。
「日本ではそう呼ぶんですかね」
「仙人ですか」
「世捨て人みたいな生活をしてですね。ここでずっと暮らしておられます」
「この寺院の中に」
「そうです。長い間一人でここにです」
暮らしているというのである。
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