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フォーク

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第一章


第一章

                      フォーク
 腐敗していた。まさにその極みだった。
 この国は所謂貴族達だけが栄えていた。国民の殆どは農奴や貧しい労働者であり誰もが苦しい暮らしであった。働かさせられてばかりであり食べるものも碌になかった。
 貴族の屋敷だけが美しくみらびやかであり農奴や労働者の家は粗末なものだった。まさにバラックやスラムでありどの家も汚く餓えや貧困、病に悩まされ続けていた。
 子供達は痩せ衰えいつも腹を空かせていた。教育など受けられる筈もなく誰もが絶望の中にあった。
 そんな社会が糾弾されない筈がなく国に僅かにいる良識派の知識人や軍人達がだ。密かに集まりそのうえで言い合うのだった。
「このままではいけない」
「そうだ」
「このままではだ」
 こう口々に話すのだった。
「どうする?ここは」
「今の政府を転覆するしかない」
「革命だ」
 革命という言葉が出て来た。
「革命を起こしこの国を救うしかない」
「そうだな。あの腐った貴族達を倒してだ」
「あの連中を追い出す」
 こう結論が出された。
「国民の誰もが餓えている」
「しかしあいつ等はだ」
「自分達だけ綺麗な屋敷に住み」
 それがこの国なのだった。
「そして御馳走を食べだ」
「しかもだ」
 糾弾の言葉が続く。とりわけ糾弾されたのは。
「農民や労働者が食器も碌にないというのにだ」
「あの連中は銀の食器を使っている」
「フォークも銀だ」
 この国の貴族の象徴だった。銀の食器を使っていいのは貴族だけだと決められておりそれがそのまま特権を表わしてもいたのである。
 それで今彼等もそれを忌々しげな口調で話すのだった。
「あの様なことを許してたまるか」
「そうだ、何があってもだ」
「倒す」
 彼等は決意したのである。そうして計画を周到に練りであった。彼等は遂に立ち上がったのである。革命を起こしたのである。
「全てを市民に!」
「市民の為に!」
「全てを叩き壊せ!」
 口々にこう叫んでだ。平等を掲げその旗の下に立ち上がったのだ。
 彼等の勢いは凄まじいものだった。一瞬のうちに国の全てを掌握した。
 そして政権を立てだ。それからは。
 貴族達を次々に処刑しその屋敷を市民のものとした。市民は皆平等とされ貴族達の財産は全て公平に分けられたのである。
 国はこれで生まれ変わった。完全に平等な社会となったのである。
「全て市民のものだ」
「この国の全ては」
 革命の指導者達は誰もがこう言った。
 屋敷はアパートにされ市民達が住んだ。バラックは取り壊され道も整備され清潔にもなった。食べ物も公平に分けられるようになった。
 こうして人々は幸せになった。しかしである。
 やがて革命の指導者達はであった。次第に変わっていったのだ。
 生活は次第に贅沢なものになってきていた。それまでは質素なものしか食べていなかったが御馳走を食べるようになってきていたのだ。
「今日も楽しくやろう」
「そうだな」
「そうしよう」
 口々に言って食べていくのであった。その美酒と馳走をだ。
 そしてである。今度は宮殿を建てた。彼等それぞれの為の宮殿をだ。
 そこに住むようになり一族を重用するようになった。国家の財産を使ってそれで贅沢をするようになっていったのである。
 富を蓄えるようになりそうして。その食器もだ。
「おお、これだな」
「これこそがだな」
「いい食器だ」
 見れば銀の食器であった。それを使いだしたのである。
 銀の皿で銀のスプーンを使う。そして。
 銀のフォークもまた使いだしたのである。
 
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