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星の輝き

作者:霊亀
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第39局

 プロ試験第16戦。
 
ここまで、塔矢は全勝。1敗が伊角と奈瀬。2敗が本田と和谷。4敗が辻岡と小宮と飯島。5敗が真柴。そして6敗が足立と片桐となっていた。

 今日は、5敗の真柴が6敗の片桐との対局、1敗の奈瀬が2敗の和谷との対局だった。

-もう俺には後がない。ま、意外と粘ってるよな、俺。このままずっと勝つのは難しいだろうけど、開き直っていくしかないんだよな。周りのことは無視だ。今は自分の力を出し切るだけだ。

 対局開始5分前。真柴は対局時計を合わせながら、心を落ち着かせようとしていた。



-塔矢君にかなわないのは自分でも分かっていたこと。仕方ない。負けたことを引きずっちゃいけない。落ち着くんだ。今日の相手は和谷。手強いけど、打ち慣れている相手。大丈夫。私はいつも通り打てる。名人や本因坊に比べたらたいした相手じゃない。


-……さて、後半最初の山だな。奈瀬は強くなった。塔矢とあれだけの碁を打つんだ。強敵だ。負けを引きずっててくれれば少しはやりやすいかと思ったけど…、そんな様子もなさそうだな。おれだってプロになるんだ。負けるわけにはいかないんだ。

 碁盤をはさんで向かい合う奈瀬と和谷は、静かに気合を高めていた。


「時間です、はじめてください」

 院生師範、篠田の声が室内に響き渡った。

「お願いします」
「お願いします」

 十四面の各々の碁盤に、石音が響いた。



 この日、真柴対片桐の対局は真柴が勝利し、奈瀬対和谷の対局は奈瀬が勝利を収めた。





 プロ試験第17戦。
 4敗の小宮が7敗の片桐と対局し、3敗の和谷が4敗の飯島と対局した。

 和谷は、前回の第16戦で奈瀬相手に良い所なく負けてしまったことのショックをまだ引きずっていた。

-糞っ!奈瀬が調子いいのは分かっていたけど、あんなに強くなっているなんて…。あれじゃまるで伊角さん並だ…。おれは今3敗で5番手。これ以上離される訳にはいかない。飯島さん相手なら勝てるはずだ…。

 
 そんな和矢の様子を、飯島は冷静に見つめていた。

-…今日の和谷は、ちょっと落ち着きがない感じだな。前回の負けが響いてるか…。俺も後がないから、何とか今日勝って生き残らないとな…。


 飯島対和谷の対局は、飯島の優勢で中盤を迎えていた。明らかに和谷の碁にはいつもの切れがなかった。それは打っている和谷自身が誰よりも分かっていた。
 必死になって喰らいついていく和谷と、自身の優勢を感じ、気分よく打ち進める飯島。が、そこで大きなミスが出た。飯島が安易に自分の白石のダメをつめてしまったせいで、割って入ってきた和谷の黒石を取りにいけなくなったのだ。その結果、白の模様は大きく荒らされ、地合が一気に詰まった。飯島のたった一手の悪手が、せっかくの形勢をひっくり返してしまったのだ。

-しまったっ!ちくしょうっ!油断したか!つい気軽に打ちすぎてしまった。ダメだ、オサエると両当たりになる。取りにいけない。やばい、ここを荒らされては……。何を浮かれていたんだ俺は!

-よし!助かった。飯島さん、勝った気でいたな?これで一気に追いついたぞ!粘った甲斐があった。このまま一気に逆転だ!

 
 この日、小宮対片桐の対局は小宮が勝利し、和谷対飯島の対局は、和谷の逆転で和谷が勝利した。




 プロ試験第18戦。
 4敗の辻岡が6敗の足立と対局し、無敗のアキラと2敗の本田が対局した。

 結果、辻岡が足立に勝利し、アキラが本田に勝利した。
 
 この日は他の上位陣にも黒星がつく者が出た。飯島が院生の中村に敗れ、小宮が外来の畑中に敗れた。成績が下位とはいえ、同じ受験生。いつも上位のものが勝つとは限らないのだ。

 そして1敗の伊角までもが、外来の石川に敗れたのだった。

-つい、勝ちを意識しすぎて守りに入ってしまった…。だめだな、あそこに手数をかけすぎてしまった…。初めての対局で堅く行き過ぎたなんて、言い訳だな……。これで2敗か。塔矢が崩れない以上、何とか踏みとどまらないと。

 伊角は、堅く打ちすぎて負けた今日の自分が、非常にふがいなかった。歯を食いしばりながら、誰とも会話をせずに対局室を後にした。


 この日アキラに負けた本田は、伊角の負けを見て内心ほっとしていた。

-今日塔矢に負けたのは残念だったけど、伊角さんも取りこぼしてくれた。これは大きい。伊角さんは確かに強いが、ちょっともろい所もある人だもんな。去年もそうだったんだ。院生での成績が負けてるとはいえ、まだチャンスはある!

 
 そして、この日無事に勝利した奈瀬もまた、伊角の負けには胸を大きくなでおろしていた。
 
-今日伊角君が負けてくれたのはすっごい助かるな。しかも相手はそれほど強い人じゃないのがラッキー。そして伊角君は、次が和谷とだ。成績上位同士で、どっちに黒星がついても私には有利…。これでちょっと楽になったかな?18戦が終わって、残り9戦か。もう一息ね。


 ここまでの結果、上位陣の成績は以下の通りとなった。

 塔矢 18勝
 奈瀬 17勝1敗
 伊角 16勝2敗
 本田 15勝3敗
 和谷 15勝3敗
 辻岡 14勝4敗
 真柴 13勝5敗
 小宮 13勝5敗
 飯島 12勝6敗
 足立 11勝7敗
 片桐 10勝8敗

 トップのアキラが仮に残りの9戦を4勝5敗で負け越したとしても、22勝5敗。この数字にギリギリたどり着けるのは現在5敗の真柴と小宮が残り全勝した場合。それ以下の飯島、足立、片桐がトップに立つ可能性は、限りなく低い。

 だが、これはトップを決める争いではない。3位以内に入ればいいのだ。

 現在の3位は16勝2敗の伊角だ。伊角の残りの成績が4勝5敗なら、足立までが追いつく可能性が残るし、3勝6敗なら片桐にもわずかなチャンスは残る。

 極端な話、上位3人が残りすべて負ければ、大逆転の可能性もあるのだ。
 ここまでの結果で考えた場合、上位3人がここから負け越す可能性はかなり低い。
が、可能性は決してゼロではない。
 ゼロではないが、それも下位の者たちが残りの対局を勝つことが大前提となる話だ。
 
 だからこそ、生き残りをかけての必死の潰し合いが続くのだ。

 ここを勝ち抜いた者だけがたどり着ける。それこそがプロの世界。















 プロ試験第19戦。
 2敗の伊角対3敗の和矢の対局と1敗の奈瀬対8敗の片桐の対局が行われた。

 伊角対和谷の対局は、両者とも慎重に打ち進め、ゆっくりとした碁になった。どちらも譲らない展開は、二人の実力を考えれば伊角が精彩を欠いていたともいえた。だが、終局して数えたところ、半目伊角に残った。伊角がなんとか競り勝ったのだ。結果、伊角は連敗を阻止し、2敗を守りぬいた。負けた和谷は4敗目だ。
 院生1組下位の林と対局していた飯島は、今日も星を落とした。第17戦からの3連敗。これで飯島は7敗目。

 そして、奈瀬は片桐相手に負けを喫し、2敗目となった。

 奈瀬明日美、17勝2敗。
 

 
 
  
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