貴方がいなければ祖国もない
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第五章
「将軍様だけはね」
「もう駄目よ」
「絶対結婚したくないわ」
「彼氏にしたくないわ」
「彼氏にしたくない男ナンバーワン」
「結婚したくない男ナンバーワン」
その他にも色々そうした手のナンバーワンだと言い合う、どうも僕達よりも近くて遠い国の将軍様の方が嫌らしい。
とにかく男の子にも女の子にもだ、将軍様は『ある意味』において人気者だった。行進も真似をしたしやたらとネタにした。
ネットを覚えてもだ、皆でだった。
将軍様のアスキーアートをこれでもかと作り替え歌も作ってあげた、本人の了承は得ていなくても作って『あげた』。
テポドンに乗せた、他にもだった。
あれやこれやとネタにした、そうして皆で話した。
「キャラ立ってるなあ、相変わらず」
「アスキーアートにしてもな」
「インパクトあるな、ネットでも」
「というかあの顔だからな」
「アスキーアートも作りやすいよ」
「アレンジもしやすくて」
それでどんどん作られていく、台詞も。
「米寄越せとかな」
「あとトロ食う」
「ドリフみたいな替え歌にしてな」
「ああ、これ合うぜ」
「独裁将軍とかな」
やりたい放題のレベルで皆ネタにしていった。
僕もだ、どんどんだった。
得意の替え歌を作っていった、それで皆に見せると腹を抱えて床で笑い転げて今にも死にそうになってくれた。
「御前ちょっと才能あり過ぎ」
「それめっちゃ受ける」
「その歌合うぜ」
「あの将軍様ぴったり」
「実際にそうだから」
「もう有り得ない位面白いわよ」
女の子達も笑ってくれた、大好評だった。
「喜び組にメロンにトロ」
「それで国民を餓えさせる」
「超自己中独裁者だし」
「もうそれぴったり」
「そのままじゃねえか」
「そうだよね、ここは思いきり皮肉効かせて」
そうして作っていた、実際に。
「こうしてね」
「本当に将軍様ってネタになるよな」
「近くにいたら最悪だけれど」
「こんな面白い人いないぜ」
「もう最高のギャグだよ」
「人類の歴史上最高のね」
皆で笑いながらネタにしていった、挙句には将軍様に萌える本まで買ってそうしてまた笑い転げた。だが。
その日は急に終わった、そのニュースを先生が授業中に言って僕達は皆愕然となった。
「さっき職員室のテレビで言ってたんだよ」
「えっ、将軍様がですか」
「死んだんですか」
「また急ですけれど」
「本当に死んだんですか」
「ああ、らしいぞ」
こう僕達にだ、先生は授業をはじめる前に教壇から僕達に言って来た。
「それで次はな」
「息子さんがですか」
「将軍様になるんですね」
「そうらしいな、あの将軍様もなあ」
先生もこう言うのだった。
「不健康な生活してただろうし七十超えてたからな」
「じゃあ俺達これから誰ネタにすればいいんですか」
男友達の一人が心から残念そうに先生に尋ねた。
「それだったら」
「おい、ネタか」
「そうですよ、いつも真似して笑いものにしてたのに」
「俺に言われても知るか、それは将軍様に言え」
「けれど死んだんですよね」
「人は絶対に死ぬんだよ」
「ずっと生きていてネタにしたかったんですけれど」
「馬鹿、そうしたらあの国の人達が困るだろ」
僕達にとってはネタでもあの国の人達にとっては災厄以外の何者ではない、このことはよくわかっている。
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