貴方がいなければ祖国もない

「男でこんなパーマしてる奴いないからな」
「この人以外にはな」
「ちょっとな」
「そうそう」
「そうだよね、これおばちゃんのパーマだよ」
　美容室でよくあるそれだった、まさに。
「風呂屋のおばちゃんだよね」
「確かにな、言われてみると」
「お風呂屋さん行ったら番台にいそうね」
「パーマの椅子に座ってる」
「そうした感じよね」
「しかもだよ」
　そのおばちゃんパーマに加えてだった。
「あの服」
「おかしなジャケットだな」
「特注らしいわね」
「シルクのジャケットなんてな」
「普通の人は着ないわよね」
「こんな服普通の人は着ないよ」
　僕はそのジャケットのことも話した。
「受け狙いじゃないとね」
「そうだな、ださいとか以前にな」
「こんな服他にないから」
「変なファッションだな」
「お笑い芸人みたいね」
「しかもシークレットブーツだよ」
　おかしなのは靴もだった、髪型や服だけじゃなくて。
　この人は小柄だ、どうも一六〇ないらしい。この時僕はまだ小学生だったけれど高学年で次第に大きくなってきていた。
　それでだ、こう家族に言った。
「僕もあまり高くないけれど」
「それでもだな」
「シークレットブーツは履かないわよね」
「御前はまだこれからだよ」
「成長していくからね」
「そのこともあるけれど」　
　それでもだった、僕はそのシークレットブーツについて思うのだった。
「普通にね」
「そんな靴はな」
「履かないわね」
「おまけに酒好きで女好きで」
　外見だけじゃなかった、おかしなことは。
「しかも自分だけ贅沢する独裁者だよね」
「ああ、そうだよ」
「もう贅沢三昧よ」
「自分だけはな」
「そうしてるのよ」
「それ本当にネタじゃない」
　そう思えてきた、子供ながらに。
「ハーレム持ってるんだよね」
「そうだぞ、アラビアンナイトの領主様みたいにな」
「そうしてるのよ」
「それもないよね」
　考えれば考える程だった。
「しかも作戦命令して失敗したら」
「処刑されるぞ」
「殺されるんだぞ」
「それもないから」
　とてもだった、子供ながらに思った。
「特撮の悪役じゃないよね」
「ああ、そういえば似てるな」
「特撮の悪役にね」
　両親は僕のこの言葉にもはっとなった、まさに言われてみればという感じでお互いに顔を見合わせて話す。
「東映とかのな」
「ショッカーとかね」
「将軍様が悪の首領でな」
「そのまま悪の帝国よね」
「命令は絶対でな」
「作戦失敗は死を以てだから」
「そんな国実際にあるんだね」
　僕もそうした国はあくまでテレビだけのことだと思っていた、けれどここで実際にそんな国があることに驚いていた。