野菊
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第二章
その後輩和田綾音を見てだ、こう言った。
「例えば綾音ちゃんみたいなね」
「そこで私ですか」
「彼氏いないでしょ、今」
「いや、いますよ」
これが綾音の返答だった、明るくダイレクトな返球である。
「一人」
「二人じゃないわね」
「はい、一人です」
そこはしっかりとしていた。
「高校時代から付き合ってる彼氏が」
「今その彼氏何してるの?」
「八条テーマパークの正社員です」
そこで働いているというのだ。
「今は観覧車の受付にいます」
「何か面白い仕事ね」
「そこで働いてます」
「そう、じゃあその相手と結婚出来ればいいわね」
「そうですね、このまま」
綾音もまんざらでもないという感じで返す。
「そうなれば」
「そうね、例えば綾音ちゃんみたいな娘がね」
「ブーケとですか」
「受け取るといいのよ」
もう結婚jが決まっている相手よりもだというのだ。
「まだ決まってない人がね」
「じゃあ下さい、ブーケ」
綾音は積極的だった、自分から言う位に。
「先輩の貰います」
「そこで自分で言うのね」
「駄目ですか?」
「全くあんたは。けれどこの職場もう結婚している人とか多いし」
若しくは紗友里の様に結婚するかだ、今集まっている顔触れを見回しても結婚しているかもう結婚が決まっている人間ばかりだ。
その顔触れの中でだ、綾音だけがなのだ。
「あんただけだしね、今ここにいる娘だと」
「ですよね、とはいっても私まだ若いですから」
「いや、結婚はね」
「早いうちにですか」
「お祖母ちゃんが言っていたわ」
ここで何処かの特撮ヒーローの様な言葉が出て来た。
「結婚は早いうちにしろ、さもなくば」
「さもなくば?」
「子育てが大変よ」
そうなるというのだ。
「そう言われたのよ」
「そっちですか」
「やっぱり子供欲しいでしょ」
「五人は」
多めだった、綾音が欲しい子供の数は。
「欲しいですね」
「五人、多いわね」
「だって子供は多い方が多いじゃないですか」
「まあね。けれど私は二人かしら」
紗友里はそれでいいと言うのだった。
「それ位ね」
「先輩は二人ですか」
「そんな五人もいたら大変よ」
だからだというのだ。
「私は三人でいいわ」
「そうですか」
「そう、いいわ」
その数でだというのだ、紗友里は綾音に答えた。
「子供はね。まあ結婚はね」
「早いうちにですね」
「子育ては修羅場ってお祖母ちゃんが言ってたから」
「先輩のお祖母ちゃんってしっかりされてるんですね」
「そうね、今も確かなアドバイスをしてくれるわ」
「生活の知恵を備えておられるんですね」
「そうなのよ、そのお祖母ちゃんの言葉よ」
老婆といっても色々だ、その辺りは人間がそれぞれであるからだ。そして紗友里の祖母はそうした人だというのだ。
「だからね」
「若い頃にですね」
「出来るだけよ」
早く結婚しろというのだった、それでだった。
紗友里はあらためてだ、綾音に言った。
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