不死鳥
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第五章
「ピッチャーがいないからな」
「だからチームの為にもね」
「ただ復帰するだけじゃなくてか」
「充分投げられる様になりましょう」
「そうだな。まだな」
ここで右足を見る、まだ後遺症は残っている。
だがそれでもだった、彼はただ復帰しただけでは満足しないことにした。
さらに、横浜時代の様に投げられるようになることを目指した。そうしてトレーニングに必死に励んだ。だが近鉄は翌年も最下位でありどうにもならないかと思われた。
盛田は戦力外通告を受けたがそれが覆りチームに残ることになった、だが。
近鉄は二年連続最下位だった、これには誰もが意気消沈した。
「あれだけ打たれればな」
「そりゃ最下位にもなるって」
「何であの打線で勝てないんだよ」
「近鉄はピッチャーが駄目過ぎるだろ」
「これは三年連続最下位だな」
「今年も駄目だな」
二〇〇一年シーズン前にはファン達も諦めていた、巨人の優勝だけを言っていればいいマスコミも同じだった。しかし巨人の太鼓持ちさえしていれば飯が食えるとは日本の野球マスコミは何と楽な商売であろうか。
だが近鉄はその下馬評を覆し健闘した。昨年のリーグ覇者福岡ダイエーホークス、オリックスブルーウェーブと激しい首位争いを展開した。そして。
その中に盛田もいた、盛田は必死に投げチームに貢献した。その彼をだった。
ファン達はオールスターの代表の一人に選んだ、これには彼も驚いて小林に尋ねた。
「本当の話ですよね」
「何なら頬っぺたつねってみたらええわ」
小林は満面の笑みで盛田に返した。
「そうしたらわかるわ」
「それじゃあ」
「そや、ほんまや」
ファン達は彼をオールスターに選んだというのだ。
「皆御前を選んでくれたんや」
「そうですか」
「いけるな」
今度は小林からだった、盛田に尋ねた。
「オールスター」
「はい、いけます」
今の盛田は言うならばワンポイントリリーフだ、だがそれでもだった。
「投げられます」
「投げて来るんや、ええな」
「わかりました」
まだ信じられないが小林の言葉に頷いた、そうして。
彼はオールスターに出場した、そして球場に入り満席の観客席を見て言った。
「本当に出たんだな」
「おい、どうしたんだ盛田」
その盛田にだ、パリーグの監督を務める王貞治が笑って声をかけてきた。
「初出場でもないだろう」
「はい、ですが」
「選ばれて嬉しいか」
「まさかまた出られるなんて」
それだけでだ、夢の様だというのだ。
「嘘みたいです」
「嘘じゃない、皆見ているんだ」
「ファンの人達をですか」
「本当の野球をな」
まさにそれをだというのだ。
「だから御前を選んだんだよ」
「本当の野球を見ているからですか」
「努力を見ているんだ」
心ある者は他者の努力を見られる、駄目な奴は何をしても駄目という言葉はそれを言った時点でその言った者の人格を決めてしまう。
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