百合を妻と
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第五章
「綺麗になったな」
「はい、しかも」
「暇でなくなった」
「退屈を忘れてしまいましたね」
「花は植えて見るだけじゃない」
それで終わりではないとだ、侯爵は満足している微笑みで述べた。様々な色の百合やチューリップ、そしてその他の花達もだ。
見つつだ、こう言うのだった。
「いつも見ていないとな」
「枯れたり虫がついたりしますからね」
「そうだ、そして新しい花も植えなくてはならない」
「そうしたことを考え動くだけで忙しいですから」
「暇は忘れた」
完全にだ、そうなったというのだ。
「もうな」
「そうですね、お花と一緒にですね」
「退屈は忘れた、もうな」
これが今の侯爵だった、夫人と共にその花達を見ながら言うのだった。
そしてだ、妻にこうも言った。
「ではだ」
「今からですね」
「庭を見回ろう」
「そしてお花をですね」
「その通りだ」
見てそしてだった。
「悪い花があればなおさなければならない」
「どうしても虫がきますからね」
「全くだ、蜂やハナアブならいいが」
問題は害虫だ、彼等のことを意識しての言葉だ。
「悪い虫はどけなければな」
「困ったものですね」
「そうだな、しかし農薬を撒く気にはなれないからな」
「効果はありますが」
「好きになれない」
だから使わないのだ、特にエコロジストという訳ではない。侯爵も自然は好きだがそこに信仰めいたものはないのだ。
要するに好き嫌いでだ、農薬の類は使わないのだ。
「ただそれでもな」
「肥料はですね」
「いい肥料をやらないといけない」
このことは気を使っている、花にも肥料は必要だからだ。
「その肥料のことも考えよう」
「本当にすること、考えることが多いですね」
「全くだ。だが暇に苦しむよりはな」
「お花に心を砕き動く方がずっといいですね」
「あまりにも多い暇は何も産まない」
退屈し過ぎて心が憂う位だというのだ。
「しかし花はな」
「その暇をなくしてくれて」
「しかも幸せにしてくれる」
それが花を植えることだというのだ。
「気を色々と回して動かしてくれてな」
「その通りですね、実にいいものですね」
「この上なくな、ではな」
「今からまたですね」
「雨は降っていない」
窓の外を見る、曇りだがそれでもまだ雨は降っていない。
それでだ、侯爵は妻に言ったのだ。
「今のうちに行こう」
「そうですね、では」
「天気は待ってくれない」
これと時間はだ、人は待ってくれる場合もあるが。
「だからな」
「今のうちに行くべきですね」
「そうするとしよう」
「では」
二人で笑顔で庭に出る、その二人に。
若い使用人がだ、廊下で二人に笑顔で挨拶の後で問うた。
「お庭に行かれますね」
「うむ、今からな」
「行って来ます」
「そうですか、今もですね」
実は今日は既に二度庭に出ている、それで今もだと聞いて頷いて応えたのである。
「行かれますね、ただ天気が怪しいので」
「傘か」
「傘ならこちらにあります」
その傘をだ、すぐに出しての言葉だった。
「ここに」
「それを持ってか」
「行かれてはどうでしょうか」
「そうだな、天気が怪しいからな」
「大丈夫だと思いますが」
雲の様子を見るとまだ降らないだろうというのだ、だがそれでもだった。
「用心で」
「そうか、ではな」
「行ってらっしゃいませ」
満面の笑顔での言葉だった。
「お二人で」
「ではな」
「行ってきます」
こう応えてだ、そしてだった。
この日も二人で花達を植える、今侯爵は退屈を感じなかった。その代わりに楽しみと美しさを妻と共に感じていた。新たな充実がそこにあった。
百合を妻と 完
2013・11・30
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