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百合を妻と

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第三章

「神経痛にまでなってはな」
「とてもですね」
「足がついていかない」 
 侯爵は気品のあるその顔を苦笑いにさせて言った。
「もうな」
「そうですか」
「スポーツも出来ない、どうすべきか」 
 ゴルフも肩fが上がらないのだ、ゴルフ場を歩くことは出来ても。
「参ったものだ」
「何か今も出来ることがあれば」
「探しているがな。しかしな」
「しかし?」
「今気付いたがこの庭は寂しいな」
 このことに気付いたのだった、今。
「どうにもな」
「そうですね、確かに」
 妻も夫の言葉に頷く。
「妙に」
「何もない感じだ、緑があるだけで」
「何かお花があれば」
「花か、そうだな」
 ここで侯爵は庭の中にある池を見た、庭園に水もあった方がいいと思い小さな川まで作らせたのだ。しかしその池や川のところも。
 寂しい、草があるだけだ。それでこう言った侯爵だった。
「あそこに花でもあれば」
「違いますね」
「水に合う花といえば」
「百合でしょうか」
 妻はここでこの花の名前を出した。
「それでしょうか」
「そうだな、百合がいいな」
 侯爵も夫人のその言葉に頷いた、自分の妻の。
「ここは」
「では百合を植えて」
「庭師にさせるか、いや」
「いや?」
「暇だ、それならな」
 どうせ暇ならとだ、侯爵はここで思い立った。
 そのうえでだ、自分の妻にこう言った。
「植えるか、自分で」
「そうされるのですか」
「私のこの手でな、時間はあるからな」
「ですがあなたはお庭のそうしたことは」
「したことがない」
 実際にそうだとだ、侯爵は夫人に答えた。
「これまでな。しかし時間は嫌になる程ある」
「だからですか」
「一から学んでする時間はある」
 それでだというのだ。
「やる、自分でな」
「それでは私も」
 夫人もだった、夫の決意した言葉を受けて。
 優雅で気品のある微笑みでだ、こう言ったのだった。
「あなたと共に」
「百合を植えるのか」
「そうします」
「いいのか、それで」
 夫は妻に問い返した。
「花を植えることは土に触れることだ」
「汚れるというのですね」
「そうなってもいいのか」
「汚れても清めればいいですね」
 これが夫人の返答だった。
「そうですね」
「ではか」
「はい、二人で植えましょう」
 その百合達をだというのだ。
「そうしましょう」
「それではな、一から勉強してな」
「そうして」 
 こうしてだった、二人はまずは百合のことと造園のこと、それに土のことから勉強した。そして花を植える為の道具を全て揃えて。
 それからだった、二人で庭に出て百合をまだ芽も出ないうちから植えていった、それも一本一本丁寧に。
 服もネクタイではなくラフな作業服だ、イギリスの農務者が着る様なつなぎの服を来て二人で土に汚れながらそうした。 
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