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マンハッタン=レクイエム

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第一章


第一章

                     マンハッタン=レクイエム
 ニューヨーク。この街は眠らない。
 その眠らない街でだ。彼はいた。
 ギリアム=キッシンジャーはこの街に生まれこの街で育ってきた。両親が経営していたホットドッグ屋をそのままやっている。背の高い黒人の青年だ。
 ハイスクールを出てすぐに店の手伝いに入った。そして二十歳になった時にだ。何故か両親が急にこんなことを言い出してきたのである。
「御前はここに残れ」
「私達はロスに行くからね」
「何だ?ロスで店を開くつもりかよ」
 こう冗談交じりに返すとだった。その通りだった。
「ああ、そうさ」
「そこでね。店を開くよ」
「本当かよ」
 ギリアムはそれを聞いてだ。まずは眉を顰めさせた。
 そのうえでだ。いぶかしむ顔でまたその両親に問うた。
「本当にロスに行くのかよ」
「ああ、そうだよ」
「ニューヨークの店はあんたに任せるからね」
「それをやって食えってことか」
 両親の言いたいことは充分わかった。
「そういうことか」
「ああ、わかったな」
「そういうことでね」
「しかし。何でいきなりロスなんだ?」
 ギリアムにはそれがわからなかった。話を聞いてもどうしてもだった。
「あったかいからか?ニューヨークよりも」
「よくわかったな」
「勘がいいじゃない」
「それでか」
 自分の予想が当たってそれで気分がいいかというと別にそうでもなかった。何しろ急に言われたのでそれでいぶかしむばかりであったからだ。
「しかし。それでも」
「腑に落ちないか」
「そういうことなのね」
「俺が腑に落ちなくても行くんだよな」
 こう両親に問い返した。
「そうだよな」
「ああ、そうだよ」
「そういうことでね」
 こんな話をしてだった。両親は本当にロサンゼルスに行ってしまった。そしてそれからは時々メールや手紙が来る。そこでのホットドッグ屋は結構繁盛しているらしい。
 ギリアムはニューヨークで黄色い車を使ってそれでホットドッグ屋を続けていた。マンハッタンに出てそのうえでホットドッグを売っている。
 彼のホットドッグは安くて美味い、しかも大きいということでわりかし繁盛している。少なくとも食べるのに困ることも家賃や生活費に窮することもない。一人で暮らすには充分過ぎる程の暮らしは手に入れていた。
 この日も摩天楼の下でホットドッグを売っている。天を衝かんばかりの白い高層ビルが連なるその道路のところでだ。彼は店を開いているのだった。
 そしてそこでだ。道を行き交う人々やビジネスマン達にホットドッグを売っていた。
「美味いぜ、うちのホットドッグはな」
 笑顔で言いながらの言葉だった。
「さあ、どんどん食いな。飲み物もあるぜ」
「ああ、じゃあ貰おうか」
「飲み物はコーラな」
「コーヒーあるかい?」
「ああ、あるぜ」
 笑顔でこう言ってであった。すぐにそのコーヒーも注文した客に出すのだった。
「ほら、飲みな」
「ああ。しかしこのコーヒーな」
「どうしたよ」
 ジャケットの若い、自分と同じ位の年齢の白人の客に応える。その顔にはそばかすがありそれが妙に似合った顔をしている。
「まずいってのかい?」
「味はいいけれど熱いな」
 その白人の客はホットドッグを右手に、コーヒーが入った使い捨てのコップを左手に持ってそれを飲みながらだ。こう言うのだった。
「それもかなりな」
「寒いからな。それで熱くしたんだよ」
「それでかい」
「ああ、それでさ。駄目か?」
「ああ、いいな」
 客は満足した顔で述べた。
 
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