ボロボロの使い魔
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『孔雀』と『雪風』
『バトルファイト』
それは、その星で幾度も繰り返された神聖なる儀式。
52体の異なる不死生命体達が自身の種族を繁栄させるために戦い、その星の支配者を決める為の儀式。
戦い、戦い
敗れた物は統制者にして審判たる『モノリス』により封印され、次回のバトルファイトを待つ。
その中の一人『ピーコックアンデッド』
孔雀の始祖たる彼もまた、その参加者の一人であった。
上位に属する実力を持ちながら、それだけに頼らず、更に他のアンデッド達と違い、知力による策謀をも好んだ彼は、一線を画する強豪として一目置かれる存在でもある。
…とはいえ、結果だけを言うなら、彼は勝ち残る事が出来ず封印された。
前回のバトルファイトの優勝者『ヒューマンアンデッド』により繁栄し文明を築いた人間達、彼等の開発した『ライダーシステム』を研究し、新たなライダーを生み出し自身の手駒にしようとした目論見は、同じく手駒に加えていたライダーによって挫かれた。
見下し、道具として使っていた存在に敗れ、封印される。
その事自体は腹ただしい。
だが、そのような事は何も今回に限ったことでは無い。
幾度も繰り返された星の歴史、幾度と無くリセットされてきた文明。
その狭間で繰り返された戦いの歴史は、人間の尺度で理解できるものではない。
自分より上位の存在に勝利した事もあれば、自分より格下の相手に敗れた事も少なくはない。
だから、ライダーに封印された時も屈辱と共に男は思った。
『また、次か』
今回は駄目だった、だが『次』がある。
この認識は彼に限らずアンデッド達共通の認識でもある。
彼等は絶対に死なない。
だから彼も考えたこともなかった
『次』が無い可能性を。
第12話~『孔雀』と『雪風』~
風を感じる、世界を感じる。
封印が解かれた事を認識、眼を開ける。
「……………………」
どうやら、また『ヒューマンアンデッド』が勝ち残ったらしい
自分の存在にざわめく『人間』達を目にしただけで彼は今の世界が他のアンデッドが勝ち残った世界でないことを理解する。
(ライダー供が小賢しい真似をしたか…まぁいい、あのシステムは悪くない、今回は…)
周囲の雑音など無視して思案を続ける彼に一人の少女が近付く、そして話し掛ける。
「…………、……。」
何故か自分の記憶にある『人間の言葉』と異なる言葉など、男にとってはどうでも良いことである。
そう、周囲の存在と同じくらいに。
「邪魔だ」
その一言だけをくれてやり少女を片手で振り払う。
異質な亜人を前に警戒を怠ること無く近づいた警戒心と慎重さも、人間という存在を圧倒的に上回る力の前では何の意味も無かった。
避けることも防御することも叶わぬ早さで振るわれた、彼にとっては一撃というにもおこがましい一撃は軽々と邪魔者を吹き飛ばす。
だが、再び思案を続けようとした伊坂は復活して初めての衝撃を受ける。
「…!……。」
「…何?!」
自分が突き飛ばした少女は生きていた。
それどこら怪我すらしていなかったのだ。
確かに、自分は明確な殺意を持って攻撃したわけではない
ただ、邪魔をするなと突き飛ばしただけだ
だが、突き飛ばされた少女は痛みに顔を一瞬歪めー
それだけだった。
見た目は華奢で儚い子どもに過ぎないこの少女が、学院において抜きん出た実力者である事。
その姿、年齢からは想像も出来ないほどに過酷な経験と苛烈な戦いを生き抜いてきた事など男は知らない。
だが、それを知った所で、なんの慰めにもなりはしない。
自分と人間の間にある力の差はそのような次元の話ではないのだ。
その、衝撃によりようやく、自分の体が鉛の様に重い事
を知覚する。
そして、もう一つの衝撃『双月』の存在を視認した彼は、目の前の雑音達の存在を初めて認め、問いかける。
言葉は通じない、だが直接、対象の精神に語りかける『念話』の能力を持つ彼にとっては他種族との意思疎通など容易いことだ。
『ここはどこだ、何故、私は封印をとかれている』
少女がその問いに満足な答えを返してやることは叶わなかったが。
少なくとも、自分を元の世界に還す手段が無いということだけは理解した。
そして、その事実を知った時、彼の胸に薄れていた感情が蠢いた。
もし、自分が元の世界に戻れなければ、自身の種族はどうなるのだ?
もしもこの世界で自分が力つきた場合、統制者たるモノリスは自分を回収するのだろうか。
そして『次』のバトルファイトに自分は再び参加出来るのだろうか?
もしも…自分の存在が消えたことで自身の種族までもが消滅する事になったら?
傲岸不遜なこの男とて種族の長だ、長年の繰り返しにより些か磨耗しすぎていた想いは現状への絶望と併せ、彼を打ちのめした。
だから、少女の言葉を振り払う事が出来なかった。
『貴方に協力をする代わりに、私に貴方の力を貸して欲しい』
自分を召喚した少女、『雪風』のタバサの言葉を。
結果、この男は以前のバトルファイトで名乗った『伊坂』という名前を名乗り姿を『人間』に変えて『タバサ』と名乗った少女に協力することにした。
…態々擬態する必要など無かった、という事は人間など遥かに越える知性で習得した言語と共に後に理解したのだが。
そして、協力関係は結ぶと言ったが『コントラクトサーヴァント』は断った。
人間の下僕としての証を刻まれるなど許容できることでないし、タバサもそれを了承した。
伊坂が自分に協力をすると言っているならば、契約のルーンの有無など大した問題ではないと判断した。
彼女に必要なのは彼の圧倒的な、彼自身は不本意なその力なのだから。
そして、程なくして彼は知ることになる
召喚されたのが自分だけでは無いことを。
自身を『倒す』だけではなく『封印』する力を持つ存在がこの世界にいることを。
「…それが、『仮面ライダー』…貴方のあの姿って訳…ね」
ルイズの呟きに、そうだ、と頷く橘。
医務室で横になりながら語られた橘の話を聞き終え、ルイズは軽く目を瞑りうつむいた。
あらかた治ったとはいえ、体に残る痛みまでが完治した訳では無い。
まだ、安静にしていろと言うルイズの言葉に甘え、決闘の翌日も橘は医務室のベットで過ごしていた。
その傍らに寄り添いながら、ルイズと橘は漸くゆっくりと話し合う機会を得ることが出来た。
とはいえ、実際は橘の話をルイズが一方的に聞いていただけの事だ。
自分の今までの事など話す価値もないし、聞かせたくも無い、そんな彼女の事情もあった訳だが。
ともあれ、橘の話は自分の常識を遥かに越えていた。
異世界から来たこと、『仮面ライダー』という存在、そして使命、友を救いたいという橘の願い。
「だから、ルイズ、俺はずっとこの世界にいるわけにはいかないんだ、使い魔の仕事とやらも、俺に出来ることなら手伝おう、だから君も俺が元の世界に戻れるよう手を貸してくれないか」
「………………」
真剣な橘の視線と語られた事情。
それに対して自分は何を言えるのだろうか。
あれだけ、散々に扱き下ろし無体な目にあわせた自分を
それでも一言たりとも責めること無く協力を要請する橘に
自分は、今更何を言えるのだろうか。
返したくない?ずっと自分を護って欲しい?
…遅い、遅すぎる。
そんな図々しい言葉を紡ぐには何もかもが遅すぎた。
だから、力無く頷く。そうするしか無かった。
「ありがとう、君ならわかってくれると信じていた」
何を根拠にそんな事を言っているのか。
苦い思いを感じる。
だが、ルイズの思考は、些か乱暴な音をたててドアを開け入ってきた二人に中断される事になる
「ふ、相変わらずだな…橘」
「…?!…貴様…伊坂!?」
召喚当初、橘と自分はずっと怒鳴りあっていたし、初めて食堂でご飯を与えた際も睨まれた。
だが『イサカ』そう橘が呼んだ男を睨む彼の目は、それ以上に鋭く『怖い』ものだった。
初め、伊坂は橘を殺す事も当然視野にいれていた。
だが、そうも出来ないのには事情があった。
一つは主たるタバサに大きい騒ぎを起こしてほしくないと言われた為。
だが、これは大した理由では全く無い。
重要なのはもう一つ、これが一番の原因なのだが。
自分が弱体化しているという事実だった。
小娘一人一撃で殺せなかった自分が『仮面ライダーギャレン』と対峙して果たして勝てるのか。
その結果をプライドだけで無視するには伊坂は賢すぎた。
陰から暗躍しようにも今の自分では人間一人洗脳することさえ出来ないのだ。加えてろくな文明も無いこの世界で『ライダーシステム』に対抗するなにかを産み出すのは現実的ではなかった。
『ギャレンバックル』を奪う事も考えないでは無かったが自分が手にした所で意味など無い。
この世界にいるかもどうかわからない適合者を探し与える訳にもいかない、反逆されては一大事だ。
故に、伊坂は橘に一時の共闘を提案する。
橘の『仮面ライダーギャレン』の力を味方につける必要があった。
…今の自分の力だけでは未知なるこの世界はあまりに危険すぎる。
いささか、臆病とさえいえる伊坂の、この思考。
だが、無理もあるまい、もしもこの世界で倒れたら、自分は死なないが仮に『魔法』が自分を封印する事が可能であれば?
『取り返しがつかない』この言葉を屈辱と共に伊坂は噛み締めていた。
そして、その一方で楽観視もしていた。
何せ橘とて自分の世界に帰りたくない筈は無いのだ。
協力を拒む理由は無いではないか?
だというのに。
「断る…貴様と組むつもりは無い」
この男は状況が理解できていないのか?!
「ほほぅ…大した自信だな、協力者も必要とせず帰れるつもりなのか貴様は?」
「そんな事は関係ない、貴様と協力などするつもりはない、それだけだ」
話し合うつもりなどないと言わんばかりの態度に苛立が止まらない。
以前、利用した事を、そしてその際一匹殺した事をこの男は未だに、こんな異常事態において尚拘っているのか?
所詮、人間
この男にはわかるまい、種族を背負う責任を、その重圧を。
自分は橘に封印された過去を水に流してまで協力を求めているのだ、だというのに、何故にこうもこの男は…『人間』とは器が狭いのか…!
『人間』という他種族に対する傲岸と不理解。
そして自身への種族への愛が苛立を加えて伊坂を怒鳴らせる。
「いいか!それで貴様の気がすむなら元の世界に還った後で貴様に封印されてやっても構わん…だがな!俺は還らなくてはならん…ならんのだ!」
憤怒の表情、そして激昂と共に橘のシャツを掴み睨む。
「ち、ちょっと…!」
慌てて間に入ろうとしたルイズ、だが、彼女を更にタバサが遮る。
「…イサカ、乱暴はしない約束」
「ち!」
「ぐっ!」
タバサの言葉に舌打ちしながら橘を軽く、本当に軽く若干のうめき声ですむ程度に突き飛ばす。
ベッドに倒れながら、それでも尚表情はそらさず伊坂を睨む橘。
だが、その左腕は脇腹を押さえている。
完治していない部分が痛んでいるのか
「タチバナ!大丈夫!?」
「煩い!君は少し黙っていろ!!」
「……………っ!」
ルイズの気遣いをはねのけ橘は伊坂を睨む。
協力しようと伊坂は言った。
確かにこんな事態だ、そこに嘘は無いだろう。
この男の言い分も理解出来ないわけではない。
だが、だからこそ橘は許せないのだ。
この男にとっては人一人の命などどうでもいい、そんな自分達の過去も何もかもが『どうでもいい、大したことではない』と言い放ったのだ。
本当は今すぐにでも変身し、このふざけた男をぶちのめしてやりたい
…だが、そうもいかない事情があった。
実際、戦えば自分は勝つだろう。
召喚されルイズと契約のルーンを交わしたギャレンの力は以前の比では無い。
勿論、同様にルイズが『タバサ』と呼んだこの少女と契約した伊坂も同様のパワーアップをしている可能性は充分あった。
それでも、以前の戦いに勝利し、更なる力を手にした自分が負ける要素など何処にもない。
だが『倒す』事は出来ても『封印』する事が出来ないのだ。
アンデッドとの戦いを終えた自分が予備のプロバーブランクを持っている筈もなかった。
『封印』できない限り僅かの休息だけでアンデッドは蘇る。
恐らく、伊坂が敵対ではなく共闘を提案して来たことには自分が更なるプロバーブランクを所持している可能性を疑っての事もあるのだろう。
だからこそ、戦えない。
もしも、自分が伊坂を『封印』する術を持たないことが見破られれば、この男を抑える事は不可能だろう。
ライダーシステムに変わる何かをこの世界の文明で開発するには余りに無理があった。
だから、橘は全ての憤りを苦渋と共に飲み下す。
ギリギリと睨みながら、絞りだすように告げる。
「…もし、その娘になにかしてみろ…その時は絶対に許さん!」
つまり、なにもしない限り…現状は伊坂の存在を認めるということだ。
今はそれで充分だろう。
そう、伊坂は判断する。
「ふん……帰るぞ、話はすんだ」
コートを翻し部屋から去る伊坂、軽く頭をさげながら彼と共に部屋を出るタバサ。
「…伊坂、何故…奴だけが…」
彼等が出ていった後も険しい視線を扉にぶつける橘。
その脳内は仇敵への憎悪と疑念だけが渦巻いている。
だから、橘は気づいてやれなかった。
自分の隣にいるルイズがずっと俯いていることに。
「えぇい!」
タバサの自室に戻る道すがら、伊坂は唐突に壁を殴り砕いた。
それなりの厚みをもつ壁が紙束のように砕け散る
「…そういうのは止めて欲しい、見られると面倒」
「わかっている…!」
苛立ちがあった。
何故に自分が
橘…人間如きに協力を求めなければならないのか。
もしも、自分に本来の力があれば。
力不足を理由に橘の協力を求める必要も無かった。
わざわざ、橘が少なからず疲弊しているであろう時期を狙い話し合う必要も無かった。
確かに自分は策を練り策謀を巡らす事を好んではいる。
だがけして、下等な存在の顔色を窺うような真似は好んでいない。
今回の会話により、少なからず、いきなり封印すると出会い頭に戦闘になる事は無いだろう。
その事に安堵した自分を自覚した瞬間、猛烈な憤りが沸き上がり、彼にとっては珍しい『八つ当たり』という行為に走らせた。
だが、耐えなくてはならない。
人間如きを自身と対等として協力関係を結んでやる屈辱も、全て伊坂は飲み下す。
還らなくてはならないのだ、自身の種族の為に。
それが、アンデッドとしての義務であり使命。
そして、それ以上に。
どのような種族であれ、存在であれ。
自分に連なる存在を、子を愛さない親などいるはずが無いのだから。
「ふん…笑いたければ笑え…!」
自身を嘲るかの如く自嘲気味に笑い再び歩きだす伊坂
「別に…笑ったりなんか…しない」
その背に届けるつもりなど無いだろう小さな声で彼女は呟き首を振った。
その手には懐から取り出した一枚のカード。
伊坂の召喚と共に現れた『プロバーブランク』
ルーンに変わる契約の証にと預かったカードを胸元に押さえつけるようにしながら。
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