自由惑星同盟最高評議会議長ホアン・ルイ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
ゴミ箱 本編ではありません
前書き
後で追加するかもしれません
○ラングvsヤン
「全体を100として、そのうちの51を占めれば、多数による支配を主張できます。ところがその多数派がいくつかのグループに分裂しているとき51のうち26を占めれば、100という全体が支配できます。つまり、4分の一という少数を占めただけで、多数を支配することが可能となります。そしていずれは100分の2を占めるだけで100を支配できるでしょう」
「確かにその通りだ。けれどの100分の1じゃなくて100分の2だ専制主義に比べれば2倍だ。それだけでも価値があると思うけれどね」
極論を極論で返しただけだが、捕虜に対するヤンの反論は苦し紛れだった。無論先ほどの言葉はヤンの本心でもある。それと同時にヤンは今の民主制度が不完全であるということについても反論は出来ない。ヤン自身もそれを深く痛感しながらも、今の制度以上のものが見つからないから、自由惑星同盟を守る軍人をやっているのだ。
○イゼルローン要塞崩壊時の同盟兵士
イゼルローン要塞は沈黙した。一撃で数千隻もの艦を吹き飛ばすトールハンマー、視角を埋める浮遊砲台そのすべては中枢のコンピューターが制御不能に陥りその機能を停止させた。要塞を守るはずの一万五千隻の艦隊も宇宙港の入り口を破壊され、さらに上から小惑星で封鎖され出撃できない。そんな要塞内部では白兵戦の準備が進められていた。
数時間後、流体金属と装甲で覆われた銀色の要塞は無残な姿に変わっていた。表面の流体金属は破壊された装甲の隙間から内部に入り込むか、要塞の重力制御装置の影響から離れ宇宙空間に漂っている。装甲に爆雷でいくつも穴があけられ幾つもの黒点を作った要塞に、その黒点めがけていくつもの爆雷がさらに投下される。
さらに数時間後、そこには要塞の姿はなく、ただ今まで破壊された幾万の同盟艦と同様にただよう残骸しかない。その近くに残骸からすればあまりに少ない、わずか数千隻の同盟艦があった。
「やったぞ!」
数千隻の同盟艦の一隻の中で歓喜の声をあげていたのは若い、おそらく20にもなっていない青年兵だった。つい数日前まではヤン提督率いる艦隊本体に同行できなかったと言って不満を漏らしていた。イゼルローン要塞を攻略したことで興奮しているらしい。
「そんなにうれしいかい?」
青年に言葉を返したのはもう定年は過ぎていそうな高年の男性だ。青年のような年から軍人になっていれ高年になるまでに佐官ぐらいになっていてもおかしくはないが、この高年男性は青年と同じ階級で尉官ですらない。理由は高年男性が軍人になったのは中年を過ぎてから徴兵されたからだ。
「うれしいに決まってる。あのイゼルローン要塞を陥落させたんだから」
ここ数年イゼルローン要塞の持ち主は目まぐるしく変わっていたが、それでも両軍を通して難攻不落と言うイメージは今だ健在だった。
「そうかい、そんなにうれしいかい」
この二人がいる場所は巡航艦の砲塔の一室だ。ちなみに同盟の巡航艦の主砲は6門で、2門1セットの3ブロックに独立している。
高年は砲座の照準機を動かし要塞残骸のあるところを写した。そしてそれを見るよう青年に促した。青年はいぶかしみながらも照準機を覗き込んだ。
「帝国の宇宙服?艦の主砲で人を撃つのはオーバーじゃ?」
「……よく見てみるといい」
青年が良く見ていればその動かない宇宙服の頭の比率が大きいことに気づいたかも知れない。慣性にしたがってその宇宙服の正面が見え、その顔を青年が見たとき、それと同時に彼は部屋の外へと飛び出した。おそらくトイレに行ったのだろう。
「少しきつすぎたかな」
宇宙戦が主体となったせいで幸か不幸か死体を見る機会は減っている。高年はたまたま白兵戦の経験があったのであの宇宙服は状態がいいほうと思ったがそうではないらしい。とは言え高年も何も思わずにはいられなかった。まさか孫ほど歳の離れた人を殺すことになるとは思わなかった。
「すまないね、まあわしの息子も戦死しているが」
高年は慣性に従い再び向こうを向いた死体にそうつぶやいた。
○初めからホアンが議長
自由惑星同盟は銀河帝国に負けた。しかし帝国は幾つかの理由により同盟を滅亡させるのは時期尚早として、バーラトの和約という不平等条約を締結するにとどめた。 バーラトの和約の主な条項は、惑星ウルヴァシーを含むガンダルヴァ星系及び回廊周辺の2つの星系の割譲。安全保障税として年間1兆5千億帝国マルクの支払、戦艦及び空母の放棄、高等弁務官の設置などがある。当然のことながら同盟が負う義務について規定されている。
バーラトの和約により事実上帝国の属国と見られてもおかしくはない同盟は前議長が辞任したため新たな議長を選ばなくてはならなくなった。初め閣僚は前財政委員長であるジョアン・レベロに議長代行を頼んだ。レベロはそのことについて友人であり人的資源委員長であるホアン・ルイに相談した。
「君はどう考えているんだい?私から言わせれば今の同盟は首に縄をかけられてつま先だけはまだ床についていると言ったところだがね」
「私はこの話を受けていいと思っている。いくら危機的状況であるといっても誰かかやらなければこの国は滅びてしまう」
ホアンがいつものような悠長な声をしているのに対しレベロはあせったような声をしている。
「……その話、私が受けようか?」
「なぜだ?」
「君が追い詰められるのではないかと思っているからだ。気づいてはいないかもしれないが、今の君の顔は普通じゃない。いつもの政策について話し合っている時の君はもっと違う顔をしている。」
レベロは思わず顔を触った。
「私では能力不足だと思うのか?」
「そういうつもりはないが……それ以外にも今の同盟議長に求められるのは、トリューニヒトのような顔の厚さではないかと思う。今までとは違い帝国とまともな外交が必要になるしそういう意味では私の方が適任じゃあないのかい?」
「なるほどそれもそうだな」
レベロとホアンでは得意分野が違う。それでも議長に選ばれるだけの実績は、両者ともに持ち合わせている。どちらが議長になったとしても問題はない。
帝国暦490年/宇宙暦799年 5月25日
自由惑星同盟最高評議会議長にホアン・ルイが就任する。ジョアン・レベロは引き続き財政委員会委員長を務める。帝国がリプシュタット戦役後新体制を取るようになったのに続き、同盟も約2年遅れての新体制の発足である。
○ホアンとヤン1
「私はこの国が民主主義ではなく、共産主義ではないかと思うことがよくあります。例えばあのアーレ・ハイネセンの巨大な像などを見るためにそう思うのです。かつて専制主義ではなく共産主義のリーダーもこのようなにして自分の権威を保とうとしたと」
「そして思うのです。もし共産主義的な国家でありその指導者になろうとしているのは、結局は皇帝と何も変わらないのではないかと?」
「ヤン提督、それは少し侮辱的ではないかね。私が人的資源委員会委員長になれたのは、少なくない有権者達の判断によるものだ。私は自分が思う最善の主張をし、彼らのうちほとんどの人たちが私の考えになんとなくではなくしっかりと判断して私に賛同したものだと信じている。確かに同盟の政治はひどいものだった。それは否定できまい。そんななかでも講演会に足を運びさまざまなメディアを使い情報を集め政治への関心を忘れなかった人たちはいるのだ。私から言わせれば、君は政治への関心を放棄している。調べさせてもらったことはあるが君は政治の情報を集めたことがあるかね?」
ヤンが政治に対して興味があったのはその構造だけだった。ヤンが知っているのはせいぜいニュースで取り上げられていることぐらいで細かいことは知らない。そのニュースこそヤンの嫌うトリューニヒトの制御下なのにだ。
「民主主義は政治への無関心を否定しない。君のような政治をあくまでせいど
○ホアンとヤン2
ヤン元帥、君の行動は実にちぐはぐだ。民主主義を支持しているのにかかわらず、積極的な行動を起こそうとしない。例を言えば君は帝国軍の手よって救国軍事会議によるクーデターとフェザーン侵攻が起きることを知っていた。にもかかわらずその話をしたのはごく一部の親しい人にとどまっている。それらのことが起きることが分かっていているのならもっと多くの人にそれを伝えるなどより積極的な行動をとるべきではなかったのかね?」
「私は当時ただの要塞指令でした。それ以上は越権行為に当たると思っていたのだと思います」
「ヤン提督、君は自分の職務と発言力、周りの評価などをもっと気にしたほうがいい。イゼルローン要塞司令というのは事実上の同盟軍のナンバー3だ。そしてもし君がごく一部の親しい人々、当時宇宙艦隊司令長官のビュコック元帥だけではなくトリューニヒトなどに帝国の策を話していればもう少しましなことになっていたのかもしれない」
「トリューニヒトは私の言うことを聞くでしょうか?」
「聞いたと思うよ。君は圧倒的な国民の人気を誇りそれを持って政界に進出されればトリューニヒトには頭の痛いことになっただろう。しかし君は排除されなかった。それは帝国軍を防ぐには君の才幹がいることが分かっていたからだ。どういう理由があれ君の才能を認めていたトリューニヒトは君の策に一定の評価を下していただろう」
ヤンはそれに対してそうですかとだけ返した。
「私は君を責めるためにこういう話をしているわけじゃない。今後はある程度そういった話を我々政治家にもしてほしいと言うことだ。それはひいては君と政治家との信頼の構築、そしてレベロの件のようなことが防がれるようになるかもしれない」
「……ひとまず分かりました。ところでお話を聞く限り私が同盟軍にいることが前提で話が進んでいるように聞こえますが」
ホアンは先ほどからの真剣な顔からうって変わって大げさに驚いた顔をして見せた。
「当たり前の話ではないかね?帝国軍が弱体化したとはいえ同盟軍の戦力は未だに劣っている。君がいない同盟軍など帝国軍にとって餌に見えるだろう。君には和平が成立した後も同盟軍が再建するまではいてもらわなくては困る」
ホアンは完全にヤンが同盟軍にとどまるつもりで話をしようとしている。それに対しヤンは無駄な抵抗を試みた。
「皇帝ラインハルトは戦いを好んでいるふしがあります。私がいては好敵手がいると思われまた攻め込んでくるかもしれません」
「君の知っている皇帝は自分の収める国の経済状況を極端に悪化させてまで自身の欲望を優先するのかね?なにそこまで悲観的にならなくても戦争はしばらく起きないだろう」
ヤンは大きなため息をついた。同盟軍が再建するのにいくらぐらいの時間がかかるのか思いをはせ気が遠くなったのだ。もしかしたら辞職どころか定年退職させてもらえるかすら危ういと。
「納得してくれるようでなによりだ。さて話が大幅にずれてしまった。話を君が民主主義を支持しているのにかかわらず、積極的な行動を起こそうとしないように見える、と言うところまで戻そう」
レベロとヤンの表情が再び堅苦しいものに戻った。
「私なりに考えた結果、君は民主主義のために戦うのはためらいがなくても、無意識的にこの国自由惑星同盟それ自体に不満があったのではないか?同盟軍元帥としてではなく一同盟市民として答えてほしい」
ヤンはしばらく考えた後答えた。少なくとも目の前の人物は揚げ足を取るために話をしているのではないと判断した
「同盟に不満があったから積極的に行動しなかったというのは考えたことがありませんでした。けれど私なりに同盟にに対する意見を述べたいと思います」
ヤンは姿勢を少し整えた後言った。
「今の同盟は民主主義というには少々不自然なところがあります。まず例えばあの国父アーレハイネセンの巨大な像。あれは民主主義を掲げる国家が持つべきものでなないでしょう。強大な人物像を立てるなんて独裁国家のリーダーが自身の威信を示すために作るものです。
政治を一個人ではなく民衆が行うことが基本な民主主義には不要なものではないですか?立てるとするならば自由を象徴するなにか空想の人物や物であるべきです」
ホアンはなるど確かにとうなずいている。それを見たヤンはもっと踏み込んだ話をしてみることにした。
「次に最高評議会が密室で行われていることです。確か機密情報を隠すための措置だったと思いますが、いくらなんでもすべて非公開では不信感が積もります」
ヤンはあえて今の最高評議会議長であるホアンを直接非難するような言い方をした。これに対してもホアンはうなずいている。ヤンはさらに踏み込んで見ることにした。
「同盟は国民の権利・自由の確保を保障しようとするシステムとして三権分立を採用しています。それ自体私はいいことだと思います。しかしそれは実質機能していません。議長は戒厳令というのを知っていますよね?」
「過去地球上で戦時下においてなど非常時に、法律を停止・行政権・司法権などを軍の指揮下に置くこと法令だったかな?確かしばしば、非常事態宣言と共に、軍部によるクーデターで活用されたらしいが」
戒厳令は歴史に分類されることで現役の政治家でも細かくは説明できないことが多い。
「はい大体あっていると思います。そこまでではなくとも今の同盟がそれに似た法律が大分前、確か帝国軍と接敵したころにできて今まで続いています。本来短期的な政策であるはずのその法律は100年以上たってしまったため政治の硬直化を招いるのではないかと思うのです」
話は数時間に渡り続き、ホアンの秘書官が止めるまで続いた。
○ヤンとユリアン
「かつて人類発祥の地球上に軍国主義、民主主義問わず国家あった時があった。当時の民間人への攻撃は条約上禁止されているされていない関係なしに軍事施設への攻撃と区別が不可能と言うことで黙認されていた」
「提督は僕が軍人になりたいといった時に言われました。敵国の人間だからどうなってもいいと思わないで欲しいと」
○戦争と技術の発展?
今までの人類の歴史は戦争なくして発展はなかった。そう主張されてもヤンは反論できない。けれど発展のために戦争が必ず必要があるとは思わない。
多くの新技術は戦争とともに生まれた。科学、医療、さまざまな分野で戦争が生み出したものは民間に広まり人々の暮らしを豊かにした。けれどもその逆もある。特に人類がまだ地球上にしか生活圏を持たず暦も西暦だった頃、膨張した軍事費に耐えかね民間の技術を逆に軍の技術としたこともあるのだ。
ひとまずは戦争は終わった。これからの軍はヤンにとって理想的な単なる抑止力となるはずだ。誤算といえば今だ退役できないことだろう。
ページ上へ戻る