騎士道精神
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第五章
第五章
「お見事です、まさに紳士ですね」
「本当に」
「いえ、私は紳士というよりも」
「いうよりも?」
「何だというのでしょうか」
「ナイトでありたいです」
本来の英語が出た。見事なキングズイングリッシュである。
「そう、ナイトに」
「騎士ですか」
「そうですね」
「ナイトというと」
「はい、そうなります」
卿は日本側の言葉に対して頷いて返した。
「私は。そうでありたいと考えています」
「成程、そうですか」
「騎士ですか」
「では騎士としてなのですね」
「はい」
卿は日本の政治家達の言葉にまた頷いてみせた。
「私はこのままいさせてもらいます」
「はい、それでは」
「最後まで御願いします」
日本の政治家達も彼の心を受けて頷いたのであった。そうしてだった。
卿は最後まで耐え切った。お茶を飲み教えられた作法を忠実に行い菓子まで楽しんだ。他のイギリスの政治家達がへたれ込んでいるその時もだった。
彼は毅然としていた。そのうえで今は立って日本の政治家達の言葉を聞いていた。
場所は日本の庭園である。緑の木々と白い砂浜が見える。池には錦鯉がいて泳いでいる姿が見える。竹が石を打つ音も聞こえる。
痺れる足を何とか動かしながらだ。彼は日本側の話を聞いていた。
「こうしたお庭ははじめてですか?」
「どうなのでしょうか、それは」
「如何でしょうか」
「そうですね」
こう一言置いてからだった。卿は答えた。
「何もかもがイギリスのものとは違いますね」
「ええ、これが日本です」
「御気に召されたでしょうか」
「不思議です」
まずはこの言葉だった。
「何か。こうした場所は」
「不思議ですか」
「そう仰るのですか」
「はい」
その通りだという卿だった。
「素晴しいですね。日本も」
「御気に召されたようで何よりです」
「本当に」
「日本文化、これが」
そこにだ。日本の文化も感じていたのだ。
そしてである。彼はふとこの言葉も言うのであった。
「そういえばですが」
「そういえば?」
「何か?」
「武士道ですが」
日本文化を代表する言葉の一つである。以前から興味を持っていたこのことをだ。日本の政治家達に対して尋ねるのだった。
「それは何処で見られますか?」
「武士道ですか」
「それですか」
「はい、それです」
まさにそれだというのである。
「それは何処で見られますか」
「ええと、それは」
「何と言いますか」
「何処で見られるかというと」
「ええと」
「見られますか?」
いぶかしむ言葉になる彼等にまた問うた。
「日本で」
「多分」
「おそらくはですが」
曖昧な返答が返って来た。
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