宇宙を駆ける一角獣 無限航路二次小説
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第三章 一話 ネージリンス・ジャンクションでの一幕
ネージリンス・ジャンクションは各星間国家にとって交易の要である。複雑に重なり合った航路の中で、特に航路が集中している宙域であり、小マゼランのおよそどの国家にも繋がるほどボイドゲートが密集している。
この宙域を巡ってネージリンスとカルバライヤは散々ドンパチを繰り広げたそうであるが、現在のところではネージリンスの領有宙域として落ち着いている。一説には貴重な商売場所でドンパチしているバカに多大な被害をこうむった商人達がほぼ個人プレーで経済制裁を仕掛けたことでネージリンスもカルバライヤも戦争やってる場合ではなくなったという話もある。
そんな交易の要なので、海賊対策の警備はバッチリしてある。ときおりはぐれものが気まぐれに出現したりするが、大した脅威にはならない。
ちなみにワレンプス大佐の本来の職場はこのネージリンス・ジャンクションにある惑星リリエの守備隊駐屯地である。
本星宙域の海賊被害が無視できぬものとなったからネージリンス・ジャンクションから出向していたというのが実態となる。
そんなネージリンス・ジャンクションに、白野とギリアスの0Gドッグコンビはやってきていた。だが、今回はネージリンス・ジャンクションに目的があるわけではない。
今回の二人の目的地はエルメッツァである。しかし、ネージリンス本星からエルメッツァへの直通ルートがないので、経由するとしたら最短距離となるネージリンス・ジャンクションへとやってきたのである。
*
ネージリンス・ジャンクション ゼーペンスト方面行きボイドゲート付近
ユニコーンとバウンゼィはネージリンス本星からのボイドゲートを抜け、最寄りの宇宙港のある惑星に向かっていたのだが、その途中で無数のネージリンス航宙軍所属の艦載機部隊と接触していた。
治安維持のための定期巡回の類である。恐らく部隊の母艦となる空母級が何処かにいるのだろう。
ユニコーンのブリッジではその部隊をレーダーで補足したゲイケットが白野にそのことを伝えていた。
「艦長、向こうはネージリンスの定期巡回隊のようだ。無用のイザコザは避けて、向こうが行くまで大人しくしているべきだろう」
「そうだな。通常航行を続けろ。こっちはただでさえデカイんだ。向こうをビビらせるなよ」
「了解。通常航行続行」
大マゼラン時代において、ユニコーンを建造したばかりの頃、辺境の自治国家の周辺を慣熟航行していた際にその自治国家の警備隊がユニコーンの巨体を見て度肝を抜かし、しばらく怯えつつつきまとったという悲しい過去が、白野にはある。
ここで同じことをしたくはない。少なくとも罪のない巡回隊が恐怖で震える必要は無いのだから。
「それにしても随分性能が良さそうな艦載機だな。大マゼランのものと比べてあまり見劣りしない」
「ネージリンスは確か小マゼランで一番初めに艦載機に艦船の装甲に有効打を与える荷電粒子砲の開発に成功している。その方面の技術では他国と一線を画しているのだろう」
ネージリンスの艦載機は小マゼラン一である。それは否定すべくもない。コスト面で言うなら対空攻撃限定での運用としてならば大マゼラン艦載機をフルに搭載するよりもネージリンスのメテオンあたりでを積んだ方が経済的ではあった。
しかし、今現在ユニコーンの艦載機はジェガンである。
パイロット陣が人型の操縦に慣れて実戦配備が可能になるでまだ少し時間が必要だろうが、大きな力になってくれることは疑いようがない。現在、パイロットの中で唯一の人型艦載機の操縦経験者であるレイアムは人型の操縦に慣れないパイロット達の指導教官と艦載機部隊の総隊長との二足の草鞋を履く毎日を送っている。
そうしているうちに、巡回隊は遠くの宙域へと飛び去って行った。整然とした編隊飛行を行うあたり、艦載機の性能だけでなくパイロットの技倆も相当のものであると分かる。
「やはり最後は結局人か…ああいうふうに腕の立つ連中を見てると特にそうだが…」
「確かにな…我らがバダックPMCも常に腕の立つ傭兵を募集していたことだし」
ゲイケットの前の職場、バダックPMCは大マゼランでも最大手のPMC。金さえ払えば人材やその訓練、宇宙戦艦の用立てや白兵戦要員の貸し出しと手広くやっていたところである。
その正規登録メンバーであったゲイケットやバーク、バウトの実力は推して知るべし。
「有意な人材といえば、此れから行く星、なんだったか…」
ゲイケットはチャートで此れから行く中継地点の星の名前を確認した。
「そう、ヘルメスだ。そこで誰でもいいから整備ができるクルーを雇用して欲しいとエーヴァから要請があった」
「ああ、そういえばそうだな。今のままではバークは確実に超過勤務だ。エーヴァが心配するのも無理はない」
ユニコーンの船医であるエーヴァは全員の健康診断の際に仕事量も同時に計算するのだが、ジェガンの整備、機関関係、装甲維持などどう見ても超過勤務であることを知った彼女は艦長である白野に医学的見地からのクルー雇用を要請していた。
バークがこれらを趣味でやっているのでまったく苦にしていないこととはまた別の問題である。
「ちょいとチャートを見せてくれ…ふむ、ギルドの類は無いようだが、探せばそれなりにいることはいるだろう。艦の補給の間に酒場を回ってみるか」
「そうしてくれ。補給はこちらでやっておこう」
「頼む」
艦船管理は一般のクルーやゲイケットのような連中で十分だが、メインクルーを雇用するのだけは艦長の仕事である。時としてクルーの知り合いなどを雇用することもあるが、人は宇宙に出て長きを経ても、いや長きを経たからこそ人と人ととの顔を合わせての会話というものが重要になってくる。
クルーとして雇用されるということは、雇用主の実力を認めて自身の命を預けることと同義である。故に、その人柄や実力を客観的に評価して数値として表すフェノメナ・ログがこの宇宙ではモノを言う。
そして、白野はその客観的実力をこの上なく備えている勇敢で優秀な0Gドッグなのである。
*
惑星ヘルメス 酒場
ユニコーンとバウンゼィは、今後の航海のために物資補給を行うためネージリンス・ジャンクションの一星、ヘルメスの宇宙港へと入港していた。
そして、艦長の白野は整備関係の技能を有するクルーを探すべく、酒場に繰り出していた。
「いらっしゃい。何になさいます?」
「とりあえずビール」
明快にそう告げて、ジョッキ半分ほど飲んだところで白野は酒場のマスターに問うてみる。
「ときにマスター。この辺りでフリーの整備技師なんていないか?」
「おやお客さん、整備技師を探しておられるのですか?それならば、耳寄りなお話があるのですが…どうです?料理をたのめば教えて差し上げます」
なかなかに抜け目ないマスターである。しかし、白野も【耳寄りなお話】を聞き逃すつもりはなかった。
「いいだろう。このパンモロ肉のハンバーガーをもらおう」
「まいどあり」
白野は運ばれて来たハンバーガーを齧りながら再びマスターに問うた。
「で、その耳寄りなはなしとは?」
「ええ、実はこの店の裏手の方に規模は小さいんですがギルドがあるんですよ。チャートの惑星施設情報にのるような規模じゃ無いんですが、セグェン・グラスチに入社しようとしてた技師連中が集まってましてね」
「なるほど、腕利きの技師がおおいと?」
「その通り。あとはお客さん次第ですがね」
「いい情報だ。感謝する」
白野は残りのハンバーガーを放り込むとビールを飲み干して立ち上がった。
「まいどありがとうございました」
マスターの声に見送られて白野は酒場を後にした。
*
惑星ヘルメス ギルド
ヘルメスのギルドは今まで白野が訪れたギルドに比べて整然としていて清潔感があった。カシュケントで訪れたギルドなどは荒くれ者の船乗りが多くおり、タバコや酒の匂いが充満していたものだが、ここではそんなことはない。
そして、そんな割と清潔なギルドの中で白野は褐色の中年男性をスカウトしていた。
「私はパダム・パルといいます。機関整備士としては長いキャリアがあります。お役に立ちますよ」
「具体的にはどのくらいだ?」
「そうですね、十数年と言ったところでしょうか」
それほど長いキャリアがあるのならばユニコーンのじゃじゃ馬な機関も任せられるだろう。そう白野は判断した。
「なるほど、私をスカウトなさいますか。まずはフェノメナ・ログを拝見させていただきたい」
「いいだろう」
ピッピピ電子音を立ててフェノメナ・ログの数値を表示する白野。
「おお…これは素晴らしい。ランキング53位の白野艦長ですか。喜んでスカウトに応じましょう」
「感謝する。パダム・パル」
「それで、ランカーのあなたの目から見て私にどの程度の価値があるでしょうか?」
契約金の額はそちらに任せる、ということである。己の力量に自信がなければ到底不可能な提案である。これも含めて、このパダム・パルという人物は技師としてだけでなく人として信頼できると言える。
白野は一瞬の考慮の末、5000という数字を現した。
バダックPMCで雇用したゲイケットやバークに比べると低くなるが、それでも一般的な整備クルーの雇用費の約四、五倍に相当する契約金である。
「ほお…これほどまでに評価していただけるとは…わかりました。私は喜んで貴方の艦のクルーとなりましょう」
「これからよろしく頼む。パダム・パル」
白野が差し出した手をパダムはしっかりと握り、契約成立と相成った。これでユニコーンに二人目の専業整備士が配属されることとなる。
*
ユニコーン カタパルト
カタパルトでは、今日も今日とてバークがジェガン整備のために右に左に飛び回っている。そんなバークのもっているモバイル端末に、白野からの通信が来た。
「艦長」
「おう、バーク。先ほどユニコーンに新しい機関担当のクルーを雇った。パダム・パルという名前だ。そのうちそっちに行くだろうから、ユニコーンのエンジンについて幾つか説明してやってくれ」
「了解です」
バークにしても立て込んでいるジェガンの整備に専念できるのでそれは喜ばしいことである。それに、彼は白野の人材鑑定技術、所謂【人を見る目】を高く評価している。
白野がこれまでスカウトさてきたクルーは全員優秀であった。今回もまた、御多分に洩れずというところだろう。
しばらく、それまで通りジェガンをいじっていたバークの元にさっそくパダムがやってきた。
「ああ、貴方が」
「始めまして。私はパダム・パルといいます。白野艦長に機関整備士として雇われました。艦長からまず貴方に話を聞くようにと伺ったのですが…」
「わかった。ユニコーンの機関は大マゼラン式。構造と仕様はわかる?」
「ええ」
「それは良かった。取り敢えず実際に説明するからついてきて」
「わかりました」
というわけで、バークは一旦カタパルトを離れてユニコーンの機関室へと赴くことになった。
*
惑星ヘルメス 酒場
ギルドから酒場に戻ってきた白野はそこでクルーを連れて一杯やっていたギリアスを見つけていた。
どうやら砲撃担当のクルーと艦隊戦時の回避機動と砲撃軸の擦り合わせについて相談していたようである。
「敵艦の砲撃をターンしながらかわせばなんとかこっちの舷側の副砲の射程内で斉射が可能です。主砲は艦首にありますからターン回避機動をすると可動領域が著しく制限されて命中精度が下がりますが…」
「てこたぁ全砲で直撃させるには完全なターン回避じゃなくて半ターン回避ぐらいが丁度ってところか」
「そうですね…多少の砲撃ならバウンゼィの装甲厚で充分耐えられます。いっそ装甲強化を重ねて避けずに正面から撃ち合うという戦法も取れるはずですが…」
「それもありっちゃありだがな…どうすっか…」
「よぉ、悩んでいるみたいだな若者よ」
白野はギリアスとバウンゼィの砲撃担当の正面の席に座った。
「あんたか。さっきの、聞いてたのか?」
「ああ。どうも戦術転換をしようとしてるらしいな」
「そうなんだがな…バウンゼィの装甲は確かにさっき言ったみてえに避けない撃ち合いでもイケるくらい硬いとは思う。だがな…」
本来なら巡洋艦であるバウンゼィは戦艦の正面からの撃ち合いではなくユニコーンのような回避しつつ敵艦に詰め寄り痛撃を与えて急速離脱という戦法の方が適している。だが、バウンゼィはノーマルの巡洋艦よりもはるかに強固な装甲と高出力レーザーを備えているので戦艦まがいの戦い方もできるといえばできる。
「随分悩んでいるな。だがまあ、戦い続けて行けばそのうち自分に適した戦法も見つかる。客観的に言ってバウンゼィは避けも正面からも両方こなせる。後はお前次第だ。この件に関してそれ以上の助言はないな」
「悩むぜ…」
「ただ、船の管理者として一言付け加えるなら、正面からは装甲修理費がバカにならんとだけ言っておこう」
「ちと考えてみるぜ」
「そうするがいい」
白野があのような常軌を逸した操船技術を磨いたのも、ひとえに初期の彼は金がなかったということが主因の一つである。
金欠のランカーというのも情けない話だが、誰しも船の改造のために資金繰りに追われるというのは経験したことがあるだろう。
話終えた白野はマスターにジンジャーエールを注文した。
「おや、また来ましたねお客さん。いい整備士はいましたかな?」
「ああ。おかげで信頼できる奴を雇えた。情報、感謝する」
「いえいえ、こちらこそ」
ジンジャーエールを飲みながら白野はこれからのスケジュールを編んでいた。ユニコーンの補給が終わればゲイケットから連絡が来る。そうしたら、すぐにエルメッツァ星間連合へと繋がるゲートに向けて出発である。
エルメッツァは小マゼランで一番の大国である。ネージリンス、カルバライヤの両国とは友好関係を結んでおり、両国の関係が険悪であることを利用して、度々起こる小競り合いの調停などを行って漁夫の利を占めるという小賢しいやりくちもしばしば行っている。
そんな小マゼランの辺境にある自治領【ロウズ】には本編の主人公がいる。いるに違いない。そうであって欲しいと白野は考える。いなければいないでロウズの領主デラコンダ・パラコンダを叩き潰して経験値に変換してやろうという腹である。
なんにせよエルメッツァはそこそこ広く、大マゼランには劣るもののそれなりに技術も進んでいる。訪れる価値は十二分にあるだろう。
ジンジャーエールを飲み干してモバイル端末で今後のスケジュールをデータ化していると、画面が切り替わってゲイケットの顔が現れた。
「艦長、ユニコーンの補給は後一時間弱で完了する。そろそろ戻っておいてくれ」
「了解した。ああ、それとパダムはそちらに着いたか?」
「先ほど到着した。取り敢えずカタパルトのバークのところに案内しておいたが」
「それでいい。どんな感じだ、パダムは?」
「熟練した手腕の持ち主だな。彼にならユニコーンのエンジンも任せられそうだ。またいい人材を見つけたな、艦長」
「これからもユニコーンには優秀な船乗りを招きたいものだ……あと一時間弱で出発だったな。すぐに戻る」
「ああ。そうしてくれ」
通信を切り白野は酒場を後にする。
ちょうど砲撃担当と話を終えたらしいギリアスがその少し後に酒場を出た。
続く
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