復讐
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7部分:第七章
第七章
「それでじゃよ」
「そういうことね」
「うむ。それでじゃ」
老婆はここでアリサにさらに尋ねた。
「それでどうしたのじゃ?」
「帰ったかどうかなのね」
「相手は死んだ。それではどうしようもあるまい」
「ええ。だからその前にね」
「その前にじゃな」
「その腐った死体にお見舞いしたわ」
そうしたとだ。老婆に話すのだった。
「ありったけの銃弾をね。お見舞いしてあげたわ」
「ふむ。そうしたか」
「ええ。まあこれでね」
「復讐は終わりじゃな」
「終わったわ。何もかもね」
その通りだとだ。アリサは老婆にまた話す。
「私のやるべきことはね。終わったわ」
「ではこれからどうするのじゃ?」
「これからね。前も言ったけれど」
「ウェイトレスになるか?」
「どうしようかしら。最初はそのつもりだったけれど」
今はだ。どうかというのである。
「本当にどうしたものかしら」
「うむ。それではじゃ」
老婆はそのアリサに言った。
「捕まる気はあるか?」
「ないわ」
それはないというのだ。
「私は復讐したのよ。やられたらやり返す」
「目には目をじゃな」
「そして歯には歯をよ」
古い言葉だ。法典にあった言葉だ。
「だったらよ。捕まるなんてナンセンスだわ」
「しかしウェイトレスなんぞしてたら警察が来るかも知れんぞ」
「かもね。何しろ五人も殺したから」
立派な連続殺人である。それならばだというのだ。
何処の国の警察でもだ。そこまであった話はマークする。それならばだ。
「警察も連続殺人って思うわよね」
「自然にのう」
「なら。ウェイトレスは危険ね」
「かなり危険じゃ」
実際にその通りだと話す老婆だった。
「捕まるのが目に見えておる」
「じゃあどうしようかしら」
「どうじゃ?一緒に動かぬか?」
老婆からの言葉だった。
「わしとな」
「ロマニになれっていうのかしら」
「この部屋は仮の部屋じゃ」
ずっと住んでいるという訳ではないというのである。
「もうすぐ引き払って別の場所に行く」
「ロマニらしくっていうのね」
「そうじゃ。何処に行くかは気の赴くままじゃ」
「そういえば駐車場にキャンピングカーがあるわね」
今はそれで移動しているのである。かつての馬車がそれになったのだ。ロマニの生活にも文明というものが入り込んで定着しているのである。
「あれはお婆さんのだったのね」
「そうじゃ。あんた占いは好きか」
「女の子で嫌いな人間はいないわ」
アリサは笑って答えた。
「できるかどうかはわからないけれどね」
「まあしてみることじゃ。占いは度胸じゃ」
「度胸なの」
「どれだけ肝を据えて占えるかじゃ」
それがだ。大事だというのである。
「少なくともわしが見る限りはじゃ」
「見る限りは?」
「あんたには肝がある」
まずはだ。それが備わっているというのだ。
そしてさらにだ。アリサを見つつこうも話すのだった。
「しかもいい目をしておる」
「人を殺した人間の目ね」
「いやいや、占いができる目じゃ」
そういう目だというのだ。
「よい目じゃ」
「そうかしら」
「まあおいおいわかる。それではじゃ」
「一緒に来いっていうのね」
「下らん奴等を殺して捕まるのは下らん話じゃ」
老婆の考えである。この考えは常識で考えればまともではない。しかし老婆にとってはだ。それは至極当然のことだった。あくまで老婆にとってはだ。
「そうじゃ。復讐は当然のことじゃしな」
「それならだというのね」
「わしも弟子が欲しいところじゃった」
もう一つの理由も話すのだった。
「そういうことじゃ。どうじゃ?」
「選択肢はないわね」
アリサは苦笑いと共に話した。
「さもないと捕まって」
「死刑じゃな」
「ニューヨークに死刑はあったかのう」
「あったと思うわ」
アメリカは州によって死刑があったりなかったりする。アリサはそれは知っていたが自分のいるニューヨークにそれがあるかどうかは知らないのだ。
「確かね」
「では間違いないな」
「五人も殺せば死刑ね」
「少なくとも実刑は免れん」
刑務所に入ることはだ。それも百年やそういう単位だ。アメリカの懲役は尋常な年季ではない。この辺りは妙にバランスが悪いと言えるだろうか。
「それでよいか?」
「だから選択肢は一つしかないわ」
「そうじゃな。それではな」
「ええ、一緒に行かせてもらうわ」
「そういうことでな。共に行こうぞ」
こんな話をしてだった。アリサは老婆と共にロマニに入りその中で占い師として生きることになった。この占い師が過去何だったのか。それは誰も知らなかった。気付く筈もないことだった。
復讐 完
2011・4・26
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