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復讐

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1部分:第一章


第一章

                          復讐
 忘れたことはなかった。一瞬たりとも。 
 アリサ=ローンはニューヨークに住んでいる。ブロンドの髪をショートにした青い目の奇麗な女だ。
 だが彼女にとってだ。その美貌は不幸の元にもなった。
 ある日カレッジから帰る途中にだ。突如五人の男達に取り囲まれだ。
 ワゴンに放り込まれてその中で陵辱された。必死に抵抗したがそれでもだ。五人の男には勝てはしなかった。
 そのことは隠していたがどうやらだ。当時の彼氏だったヘンリーは気付いたらしくだ。ある日彼女の前から姿を消したのである。
 彼女は一人になった。陵辱と失恋の痛手から生活は荒れカレッジも退学した。そうして酒に溺れた日々を過ごしていたがそのある日のことだ。
 酒でふらふらになって街を歩いている彼女にだ。道の端でタロット占いをしているロマニの老婆にこう言われたのだ。
「あんた、このままじゃ駄目だよ」
「駄目っていうのね」
「今自棄になってるね」  
「だったらどうだっていうのかしら」
 アリサは開き直った顔で老婆に言い返した。
「それで」
「そのままではいかん」
 また彼女に言う老婆だった。
「振り払うことじゃ」
「振り払う?どうやってよ」
「あんたは過去を忘れることはできんな」
「できないからこうなってるのよ」
 今の彼女があるというのだ。
「わかるでしょ、あんたも占い師なら」
「そうじゃな。あんたにはできんな」
「わかるでしょ。どうしようもないのよ」
 嘲笑だった。己に対するだ。
「そういうことなのよ。もうね」
「なら過去を消すことじゃ」
「消す?」
「そう、消すことじゃ」
 そうしろとだ。老婆は言うのだった。
「そうすればいい。あんたの今の原因はじゃ」
「それもわかるかしら」
「うむ。犯されたな」
 アリサの目を見てだ。そのうえでの言葉だった。
「そうじゃな」
「それもわかるのね」
「相手はわかるか」
 それも彼女に問うのだった。
「あんたを犯した相手は」
「五人いたわ」
 アリサはまずは数から話した。彼女と老婆が今いる道はだ。
 ゴミがあちこちにあり黒い。周りも暗くだ。黒いビルが左右に並んでいる。
 そこから見える空は広くはなくしかも黒い肝に覆われている。それはまさに今の彼女の心境を描いているかの様だった。
 その道でだ。彼女は老婆に話すのだった。
「名前は。耳に聞いたわ」
「犯されて入る間にお互いの名前を聞いてじゃな」
「ええ、話し合っているのを聞いてね」
 それでだ。知ったというのだ。
「それでわかったわ」
「ふむ。では顔は?」
「自分を犯している相手の顔を忘れる女はいないわ」
 これがアリサの返答だった。
「それがよくわかったわ」
「名前と顔はわかったのじゃな」
「ええ、また言うけれど忘れる筈がないわ」
「左様か。ではその相手をじゃ」
「殺せっていうのね」
「そうしてはどうじゃ」
 老婆はアリサのその荒んだ目を見てだ。彼女に言うのだった。
「捕まらなければよいのじゃからな」
「捕まらなければね。罪には問われないわね」
「うむ、その手助けはする」
「匿ってくれるの」
「わし等ロマニの社会はな。少し違ってな」
 老婆の言葉は笑っていた。そのうえで話すのだった。
 
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