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戦国異伝

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第百六十一話 紀伊へその九

「わかったな」
「わかりました、では」
 雪斎も信長の言葉に一礼して応える、そしてだった。 
 すぐに信長の言葉は風の様に紀伊中に伝えられた、信長の書いた文は他の家臣達も書きそれがたちどころに紀伊の主だった地侍や豪族、そして国人といった者達に伝えられたのだ。
 信長の大軍が紀伊に迫ると聞いてだ、紀伊の国人の一人は織田家からの使者にこう問うた。
「我等の土地はそのままか」
「はい、少なくとも禄高は」
「ふむ、しかも織田家に入ればわしも織田家の家臣か」
「左様です」
 使者の者は国人にこうも述べる。
「織田家の家臣となります」
「左様か、そのまま用いて下さるか」
「織田家に従ってもらいますが」
「それは一向に構わぬ」
 織田家に従うことはというのだ。
「どちらにしろ我等は本願寺に従っておった」
「それが織田家に代わるだけと」
「そう思ってよいのであろうか」
「いえ、また違います」
「違うのか」
「そうです、完全に織田家に入ります」
「織田家の家臣となるからじゃな」
「若し我等の殿に逆らえば」
 その時はどうなるのか、使者はこのことは剣呑な口調で話した。
「その時は攻め滅ぼされます」
「今従わぬと言ってもじゃな」
「そうなります」
「織田家に入り幸せに生きるか滅ぼされるか」
「二つに一つです」
 そうだというのだ。
「どちらにされますか」
「答えは一つじゃ」
 国人はあっさりと答えた、その答えはというと。
「織田家に入らせてもらう」
「ではそれを殿への返事として宜しいでしょうか」
「そうしてもらえれば何よりじゃ」
 国人は己の館で確かな声で使者に告げた。
「ではな」
「はい、それでは」
「うむ、我等一族は今より織田家の家臣じゃ」
 それになったと自ら言ってみせた。
「すぐに兵を率いて信長様の下に馳せ参じよう」
「畏まりました」
 この国人はすぐに織田家の家臣に入った、そしてこれはこの国人だけでなく他の国人達もであった。そうして。
 紀伊の国人達は忽ちのうちにその多くが信長の家臣となった、それは地侍や豪族達もだ。それは紀伊全土に及んでいた。
 このことは信長にとっていいことだ、だがそれでもだった。
「そうか、本願寺はか」
「はい、やはり」
 雪斎が信長に答える。
「従いませぬ」
「灰色の者達はか」
「いえ、灰色の者達はこの国でも大人しいですが」
「闇の服の者達はか」
「そして本願寺ではありませんが」
 もう一つあった、紀伊で信長に従わない勢力は。
「高野山もです」
「やはりあの山もか」
「煮え切らぬ態度です」
「では伝えよ」
「織田家に従わなければですか」
「そうじゃ、兵を送り焼き払うとな」
 無論脅しではない、信長は延暦寺に対しても同じ様にしている。それで怪しげな者達やあくまで信長に従わない者達と戦い山の一部を焼き払っている。
 だからだ、高野山もだというのだ。
「脅しではなくな」
「それでは」
「本願寺の動きはどうか」
 つまり門徒達の動向である。 
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