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バスケ

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第一章


第一章

                          バスケ
 アーム=クローバーはバスケの選手だ。二メートルを超える長身に長い手足、それに驚異的な運動神経とバネは彼をプロのバスケの選手にした。
 プロとしても抜群の成績を残し彼はスター選手となった。しかしだ。
 あるシーズンの後でだ。彼はこう言うのだった。
「俺、引退する」
「引退!?」
「引退って!?」
「バスケを辞めるんだよ」
 こうだ。周囲に話すのだった。その褐色の肌の痩せた顔もだ。暗いものだった。
 その顔でだ。彼は言うのだった。
「何かな。熱意がな」
「なくなったってのかい?」
「そうだっていうのか?」
「ああ、そうさ」
 また言う彼だった。
「今の俺にはもう熱意がないんだよ」
「おいおい、MVPを何度も取ってだよ」
「スポンサー契約だって幾つもしてて」
「年俸だってかなりのものじゃないか」
「今一番脂が乗ってるのにかい」
「それで辞めるのかい」
「オリンピックにもまた出るんじゃないのか?」
 周りはこう言って彼を止めようとする。しかしだった。 
 彼は沈んだ顔でだ。こう言うだけだった。
「とにかく今はな」
「辞めるっていうのかい」
「どうしてもなのか」
「ああ、そうさせてもらうよ」
 あくまでだった。彼は辞めると言うのだった。
 当然ファン達もそれを聞いてだ。必死に止めようとした。
 テレビでもネットでも騒ぎになりだ。チームの事務所には辞めないで欲しいという嘆願の手紙が殺到してだ。ネットでもその声で満ちていた。
 とにかくだ。誰も彼に辞めて欲しくなかった。だが彼は。
 どうしてもだ。こう言うのだった。
「それでもな。俺はな」
 こう言ってであった。遂に引退してしまったのだった。
 そして人前から姿を消した。彼が何処にいるのかが話題になったが誰にも見つけられなかった。アメリカにいるのかどうかすら疑問に思われた。
 その中でだ。あるスポーツジャーナリストがだ。ネットでこんな話を聞いた。
「クローバーはもうアメリカにはいないそうだ」
「おい、噂は本当だったのか」
 こうだ。そのジャーナリスト、アントニオ=バスターは友人のカメラマンであるテリー=クラウンに話していた。二人共かなり恰幅のいい黒人だ。
 その彼等がレストランでハンバーガーを貪りながらだ。話をしているのだ。
「あの人この国にはいないのか」
「そうみたいだな。それでな」
「今どの国にいるんだ?」
 クラウンはジュース、林檎ジュースを飲みながらバスターに尋ねた。
「それで」
「今はオーストラリアにいるらしい」
「オーストラリア?あのラグビーのか」
「ああ、あの国だよ」
 そのだ。オーストラリアにだというのだ。
「あの国にいるんだよ」
「へえ、そりゃまたどうしてなんだ?」
 クラウンは首を捻りながらバスターに問うた。クラウンの方がやや髪が薄い。しかし二人の外見はお互いに太っているせいかよく似ている。
「オーストラリアにバスケはあるのかい?」
「アメリカ程盛んじゃないな。それにな」
「それに?」
「もうクローバーはバスケへの情熱を失ったしな」
 そのことをだ。クラウンに話すのだった。
「だからもうな」
「バスケじゃないか」
「それは違うな」
「じゃあどうしてなんだ?」
 クラウンはまたバスターに尋ねた。
「何でオーストラリアにいるんだ?」
「そのことを知りたいよな」
「ああ、知りたいな」
 クラウンははっきりと答えた。
「是非共な」
「そうだよ。それでいいんだよ」
 バスターはクラウンの今の言葉を受けてだ。
 
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