緋弾のアリアGS Genius Scientist
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イ・ウー編
武偵殺し
22弾 アリアの思い
改造セグウェイで羽田空港の第二ターミナルに来た俺は、空港のチェックインを武偵手帳についている徽章で通り抜け、金属探知機なんてもちろん通らず、ゲートに飛び込む。
アリア。
帰りたいなら帰ってもいい。でも、『武偵殺し』と戦うのだけは絶対にダメだ。
もし本当に『武偵殺し』が、あの金一を倒したのなら――――お前ひとりじゃ『武偵殺し』には勝てない。
金一は強かった。俺や、あのキンジですら凌駕するほどに。
(アリア――――)
次は額の傷なんかじゃ済まない。
確実に殺される。
死んでしまうんだ、おまえは――――!
俺はボーディングブリッジを突っ切り、今まさにハッチを閉じつつあるANA600便・ボーイング737-350、ロンドン・ヒースロー空港行きに飛び込んだ。
バタンッ。機内に駆け込んだ俺の背後で、ハッチが閉ざされる。
「――――武偵だ!今すぐ離陸を中止しろっ!」
目を丸くしている、小柄でバニラのような香りをさせるフライアテンダントに、武偵徽章を突きつける。
「お、お客様!?失礼ですが、ど、どういう――――」
アテンダントは――――少なくとも表面上は――――混乱したような様子で慌てている。
「説明してる暇はない!とにかく、さっさとこの飛行機を止めるんだ!」
アテンダントはビビりまくったような顔でこくこくと頷き、2階へと駆けて行った。
ふう。とりあえず、これで第一段階はクリアだな。
アテンダントのいなくなった後、俺はひそかに息を漏らす。
俺の考えたアリア救出プランの第一段階はこの飛行機に乗り、飛行機を止めるようにいう事と、あることを確かめること。そしてそれはもう既に確認し終わったんだが、まだダメだ。確定的な証拠が足りない。
まあ、それに関してはミラに頼んであるから問題はないだろう。むしろ、問題なのはもう一つの方だ。さっきアテンダントには飛行機を止めるように言ったが、十中八九、飛行機は止まらないだろう。それは最初から分かっていたことだから大丈夫。だが、問題はその後。俺に有利な交渉ができるかどうかだが――――
――――俺がそんな風に思考を巡らせていた矢先。
ぐらり。
機体が揺れた。
飛行機が、動いている。
「あ、あの……だ、ダメでしたぁ。き、規則で、このフェーズでは管制官からの命令でしか離陸を止めることはできないって、機長……」
2階から降りてきたアテンダントが、ガクガク震えながら俺を見ている。
やっぱり、飛行機を止めることはできなかったか。まあいい、それはわかってたことだし。
そして、ここからが本番だ。俺の演技の見せ所ってやつだな。
俺はわざと怒ったような顔と口調でアテンダントに怒鳴る。
「ば、バッカヤロウ……!」
「う、撃たないでください!ていうかあなた、本当に武偵なんですか?『止めろだなんて、どこからも連絡もらってないぞ!』って、機長に怒鳴られちゃいましたよぉ」
アテンダントは半ベソ状態で言う。うわー、こんな奴が本当にいるとしたら、そいつはもう就職すべきじゃないレベルでメンタル弱いな。
そして俺はここで、本来の要求を突き付ける。
「……わかった。止められないのなら仕方がない。その代わり――――」
あたし――――神崎・H・アリアは、逃げるという行為がキライだ。
逃げるなんていうのは弱い、臆病者の行動だ。あたしは強くならなければならない。だから、あたしは何からも逃げなかった。
それなのに。
それなのに、あたしは今、ロンドン行きの飛行機に乗って逃げようとしている。色々なものから。
たとえば。
あたしの大切なものを奪った、憎き敵から。
これは奴を捕まえるための準備をするために、一回撤退するだけ。そう自分に言い聞かせながら。
(でも、こんなのは所詮、都合の言い訳に過ぎない)
何度目を逸らそうとしても、頭のどこかがこれを『逃げ』だと認めてあたしを蔑む。
あるいは。
あたしに大きな期待を寄せてくれる、可愛い後輩から。
あの娘はあたしに頼りすぎてる。だから一回距離を置くだけ。そんな嘘をあたしは自分に吐き続ける。
本当は、あの娘に頼って依存していたのはあたしの方だというのに。
あの娘は明るくて、いつも仲間に囲まれて。あの娘は自然と人を惹きつける、太陽みたいな娘だった。そんなあの娘が、あたしはいつだって羨ましかった。
あたしは仲間なんていない独唱曲だから。いつも格好つけて先輩風を吹かせていたけど、ずっと怖かった。
いつかあの娘が、本当のあたしに気付いて、失望して、離れて行ってしまうのではないかと。そう思うと、急にあの娘の傍にいることが怖くなった。だから、離れた。
(結局、あの娘には何の連絡もせずに出てきちゃったわね……作戦コード『AA』なんて言っておいて……この有様。最悪ね、あたしって)
自嘲する自嘲する自嘲する自嘲する。自らを嘲って自分を嘲う。そうやって自分を貶めて、また逃げる。その繰り返し。
そしてなにより。
こんなあたしを、初めてあったのにもかかわらず助けようとして、そしてあたしのパートナーになってくれたかもしれない彼。
彼は強かった。戦闘能力とか、知能とか、そういうものだけじゃなく、心が強かった。
いきなり訳の分からない事件に巻き込まれて、変な奴に命を狙われて、さらにあたしみたいな女が現れて。その後も、色々なことがあった。普通だったら、こんなことが連続して起きれば混乱して、イラついて、周りに当たったりして、大切な誰かを傷つける――――あたしが、そうだったみたいに。
でも彼は違った。どんなことが起きても、最初は多少混乱したってすぐに冷静さを取り戻して、的確に対処していた。そんな彼があのバスジャックであたしが心配で様子を見に来てくれたことや、あたしが怪我をして取り乱したこと、不謹慎かもしれないけど、ちょっとだけ嬉しかった。
それなのに。あたしは彼を傷つけた。
あの病室での言い争いの時、いくら気が立っていたからといって、あんなことは言うべきじゃなかった。
あの時、彼はすごく、すごく悲しそうな顔をしていたから。
挙句の果てに、自分から言い出したパートナー契約を、自分から一方的に解消してしまった。悲しそうだった顔が、さらに辛く、寂しく、悲しそうな顔になった。あたしの身勝手な言動が、2度にわたって彼を傷つけた。
その数日後。あたしは再び彼にあった。
あたしはその日、美容院で前髪を作った後、ママとの面会に行った。
そしてその道中で彼の方から近づいてきて声を……少し訂正。実際には声じゃなくて手で呼びかけられた。ケンカ別れのような形で別れた彼は、無愛想で、だけどその中に優しさを感じさせるいつもの顔だった。
てっきり嫌われて、憎まれて、2度と会うこともないだろうと思っていたあたしはあの時、内心ひどく驚いていた。なんで彼はこんなに強いんだろう。なんで彼はこんなに優しいのだろう。そして、なんであたしはそんな彼から目を離せないんだろう。そう思いながら、あたしは面会室へ向かった。
ママとの面会の後、あたしは泣いた。道の真ん中で。大声で。人の目も気にせずに。泣き続けた。彼はそんなあたしの傍にいてくれた。あたしと彼を見つめる奇異な視線や下世話な声もいくつもあった。それでも彼はあたしの傍にいてくれた。あたしと同じか、それ以上に悲しそうな表情で。
それからあたしは、彼には会っていない。会うべきではないと思ったからだ。これ以上、あたしの問題に彼を巻き込むわけにはいかなかった。彼は、あの武偵校で、静かに、時に騒々しく。生活する権利がある。あたしの個人的な事情に彼をこれ以上関わらせるのは筋違いだ。
なにより。
あたしがあたしの目的を果たすには、様々なことをする必要がある。その中にはもしかしたら、本来あたしたちが取り締まるべき『悪』と呼ばれるものも含まれるかもしれない。そんなあたしを彼にだけは見せたくなかった。
いつからだろう?彼に惹きつけられ、傍にいたいと思うようになったのは。
なんでなんだろう?今、あたしの目から涙が零れ落ちているのは。
なんなんだろう?この気持ちは。
彼と一緒にいられるのが嬉しくて、彼と話せるのが楽しくて、彼があたしを見てくれているのが幸せで。
あたしは彼と出会って、久しぶりに幸福だった。
だから、もし、今あたしの中にある気持ちに名前を付けるとすれば。それはきっと――――✕✕だろう。
でも、もうあたしは彼と一緒にいない。話せることも無く、彼があたしを見てくれることも無いだろう。そう思うと、涙が溢れて止まらなくなった。
(寂しい)
彼に会いたい。
(辛い)
彼と一緒にいたい。
(悲しい)
彼と話したい。
(嫌だ)
彼にあたしを見て、そして笑いかけてほしい。
そんな思いが溢れて止まらなくなり、たまらずあたしは彼の名前を呼ぶ。
「会いたいよぉ……ミズキぃ」
ガチャ。
部屋のドアが開く。するとそこに立っていたのは彼だった。
「よお、アリア。昨日ぶり」
そう言って彼――――ミズキは、あたしの方に向かって歩いてきた。
まるで、お伽噺に出てくる王子様のように。
後書き
お久しぶりです初めまして!白崎黒絵です!
orz。土下座。謝罪。すみませんごめんなさい申し訳ありませんでしたあああああああああああ!!!!!!!!!!更新するって言った日からニ、三週間も遅れてしまって大変申し訳なく思っております!猛省しています!
それもこれも、テスト勉強やらなんやらのせい……だけではなく、スランプだったのです。ここ最近の白黒は!今朝になってようやく、『アリア視点というかアリアのモノローグを入れればいい感じに仕上がるのでは!?』というアイデアが出て、今日やっと更新したわけであります。
しかも、そのアイデア通りに書いた結果、なんだかよくわからないものに。色々行ったり来たりしていたり、同じようなことを何度も言ったり。自分でも途中で何書いてんのかわからなくなりました。
でも、前回に引き続きヒロインの心情がわかるようにはなっていますのでご容赦を。
それではそろそろ久しぶりのあれ、行きましょう!
「GS!今日の一言誰でShow!」
今回はピンクいあの娘!
「ちょっと!今回、あたしのキャラ変わりすぎじゃない!?」
気にしたら負けだぞピンクいの。二次創作なんてそんなもんさ!(全世界の二次創作者の皆様に土下座しつつ)
それでは今回はこの辺で。次回はなるべく早く更新できたら奇跡だなあと思います!
疑問、質問、感想、誤字脱字の指摘など、何かありましたらコメントください。
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