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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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ようこそ☆ロキのロキによるお客様のための遊戯城へ~Ⅰ~

 
前書き
リリカルなのは=ロストロギア。
ということで、最終話まで古代の遺物を使ってのお話になります。
サブタイトルから判る通り、もちろんなのは達の時代の物ではなく・・・

VS????戦イメージBGM
BAYONETTA『Temperantia‐In Foregoing Pleasures』
http://youtu.be/VsoCuzvAK9o 

 
一同は思う。どうしてこうなったのか?と。彼女たちが居るのは、それは大きな大聖堂。ステンドグラスから差し込む色鮮やかな明かりは幻想的で、その場に居る者を魅了する。
静まり返る聖堂内。その一番奥、祭壇前には、キャソックを着た神父と、1組の男女が純白のタキシードとウェディングドレスを着て佇んでいる。それを見守る参式者たちの誰もが引き攣った笑みを浮かべていた。中には怒りやら何やらで顔を赤くし、肩を震わせている者もいる。
小さい子供が見たら即逃げ出すような、それほどまでに恐ろしい表情だ。そんな誰もが祝していない中、結婚式は静かに進んでいく。

「汝ルシリオン。この女ヴィータを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻ヴィータを想い、妻ヴィータのみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

牧師――ココアブラウンの短髪にバイオレットの瞳の男、アンスールの一人にして死んだはずの“地帝カーネル”が、参式者と同様に引き攣った笑みを見せるルシリオンに問う。ルシリオンはこれは仕方ないんだとでも言いたいように苦々しく、「・・・・誓います」と厳かに誓いの言葉を告げた。
それを聞いた、フェイトとリエイスとはやてのこめかみがピクッと動く。コロナとリオ、アインハルトとイクスは、仲の良い知り合いの結婚式ということで、頬を朱に染めていた。リインフォースⅡとアギトも同様だ。
ルーテシアとレヴィは、面白い事になった、と嬉しそうに口端を歪める。だがヴィヴィオは面白くなさそうに、やはり陰のある表情を浮かべていた。そう、たとえこの結婚式が単なる偽物の演技だとしても、だ。
牧師カーネルは、今度は新婦ヴィータへと誓いの問いを投げかける。ヴィータは演技だから仕方ないと思いながらも若干頬を朱に染め、つっかえつつも「ち、ち誓・・う・・」誓いの言葉を告げた。

「では指輪の交換を」

ルシリオンとヴィータが交互に指環を、その薬指にはめていく。フェイトとリエイスの纏うオーラが徐々に、しかし確実に黒くなっていく気配。二人の側に居るなのはとリインとアギト、エリオとキャロ、はやてでさえも怯え始める。
スバルとティアナも同様。少しずつフェイトとリエイスから距離を取ろうと動く。そして、結婚式最大の見せ場とも言えるシーンへと突入する。牧師カーネルが「それでは、誓いの口付けを」と告げると、ヴィータの顔がさらに赤くなった。
フェイト達の嫉妬や怒りのボルテージが最高潮へ。コロナたち子供は「キャー❤」と黄色い歓声をあげる。

『ヴィータ、フリでいいんだ。実際にする必要なんて――』

『あ、当たり前だろ! マジでやってたまるか! 馬鹿! 何言ってんだ! 変態! ロリコン!』

『とりあえず落ち着け。深呼吸だ、深呼吸。それと、あとで憶えていろ。私はロリコンじゃないし変態でもない』

、ヴィータは『判ってらい』とぶっきらぼうに返す。背の小さいヴィータに合わせるためにルシリオンは片膝をつく。そっとヴィータの被っていたヴェールを上げ、その小さく細い華奢な両肩に手を置く。ルシリオンが徐々にヴィータへと顔を近づけていき、さらにさらに顔を真っ赤にさせたヴィータが背を逸らして逃げようとする。

「ヴィータ」

「判ってるっつうの! あーもう!」

ヴィータも覚悟を決め、背を逸らすのをやめてルシリオンへと顔を近づける。ここで牧師カーネルが一言。「フリではなく、きちんと誓いの口付けをしないといけませんよ?」と告げた。ピシッと硬直するルシリオンとヴィータ。きちんとこの結婚式イベントをクリアしなければ酷い事態になる。それが判っているからこそ、ルシリオンは念話で『ヴィータ。頬に軽くで、な?』と提案する。

『頬だろうがなんだろうがキスされることに変わりねぇぇーーーーーーっ!!!』

『叫ぶなヴィータ! 頭に響く!』

そこからルシリオンは必死に説得し、何とかヴィータの了承を得る。ヴィータは『あとではやて達に色々言われそうだ・・・』と肩を落とす。ルシリオンも『私の場合、命があるかどうかも判らない・・・』とフェイトをチラリと横目で見た。
瞬間、ルシリオンは悟った。あぁ、このイベントが終われば私は死ぬ、と。フェイトは周囲にバチバチと放電している。頬をプクッと膨らませ半眼で睨んでくる。だが、ここで止めることは出来ない。さらに唇を、ヴィータの朱に染まる綺麗な頬へと運んでいく。
ルシリオンの唇がヴィータの頬に当たるかどうかというところで・・・・

「フリでもダメぇぇぇーーーっ!」「アカぁぁーーーン!」「それ以上は認めん!」

――ブリッツアクション――

――ユニゾンからのヘルモーズ――

フェイトやリエイスとユニゾンしたはやてが、高速移動魔法を使ってルシリオンとヴィータを引き剥がしにかかる。これには黄色い歓声をあげていたリインやアギトやコロナ達、面白い事になったと声を殺して笑っていたルーテシアとレヴィも唖然とした。

「おい、フェイト、はやて、リエイス!」

ルシリオンに怒鳴られて、ようやく自分たちがやってはいけない事をやってしまったという事に気付くフェイト達。ヴィータも先程まで顔を赤くしていたが、自分をルシリオンから引き離したはやてを青い顔で眺める

「やってしもた・・・」

冷静になったはやて、フェイトもルシリオンから軽い拳骨をコツンと受けながら、このエリアの管理人である地帝カーネル・グラウンド・ニダヴェリールを見る。
彼の足元に、ガンメタルグレイに輝く三重八角形魔法陣が展開される。内側と外側の魔法陣が時計回り、真ん中の魔法陣は反時計回りで回転し、それぞれの間には幾何学模様の文字のようなモノが点滅を繰り返す。一番内側の八角形内にはアンセイタ(上の先端が円の十字架)が描かれ、両サイドに一切の丸みのない翼が描かれている。ニダヴェリール紋、またをニダヴェリール魔法陣だ。

「おーい、邪神ロキの遊戯場(スンベル)の数少ないルールを違反したぞ、ルシルー」

カーネルの陽気な声と共に、彼の右手に雷のようなジグザグの刀身を持つ両刃剣が携えられる。神造兵装、“剛覇剣・突き刺すもの(フロッティ)”。無圏世界ニダヴェリールの有する神器だ。カーネルの臨戦態勢を見て、ルシリオンも臨戦態勢に移行しながら、ティアナとスバルに指示を出す。

「ティアナ!ヴィヴィオ達を教会の外へ避難させろ!」

「り、了解!」

「スバル! ウイングロードでヴィヴィオ達を空へ避難! 地上に足を付けさせるな!」

「あ、はい! マッハキャリバー!」

教会の外へ走りだすスバル達。続いて、

「エリオ、キャロ、ルーテシア、レヴィ。君たちも外へ! ヴィヴィオ達の護衛に就け!」

指示を出す。エリオ達も「了解!」「任せて!」と応えて外へ向かって走り出した。カーネルはそれを見送り、「良い判断だな、ルシル。さすが俺の魔術を知る戦友だ」と言い、“剛覇剣フロッティ”を肩に担いだ。

「ルシル君! えっと、私たちってカーネルさんに勝てるの!?」

なのは達もデバイスを起動させ臨戦態勢に移った。ルシリオンはなのはの問いにすぐさま答える。

「このゲーム世界における、ルール違反の強制戦闘(ペナルティ)を私たちに科すためのNPCらしいからな。確かに強いだろうが、オリジナルに比べれば遥かに弱いだろうな」

ルシリオンは二挺一対の銃剣型デバイス・“フロースヒルデ”を両手に携えた。
ヴィータが“グラーフ・アイゼン”を構えて「来るぞ! 古代の英雄(アンスール)の一人が!」と興奮気味に叫ぶ。聖堂に残ったルシリオン達の目前に、あるメッセージテロップが浮かび上がる。

――戦闘参加メンバー四名を選んでください――

戸惑うルシリオン達だったが、それを決定しない事には先に進まないと判り、作戦会議を開く。まず最初に全員がルシリオンに問う。カーネルさんはどんな魔術師なの?と。

「私とシャルの記憶で見たと思うが、カーネルは、土石系最強の魔術師で、陸戦魔術師の天敵だ。そして攻防力も凄まじい。半端な近接攻撃ではカーネルの防壁を貫くことは不可能。だからそうだな・・・中遠距離に優れ、かつ突貫力のあるメンバーを選出した方がいいな」

「カーネル殿のことをよく知っているセインテストに決めてもらった方が早そうだ」

シグナムの言葉に、全員が賛成の意思を見せる。ルシリオンは少しばかり思案し「ならば」と前置き。

「なのは、はやて、ヴィータ、そして私で行こう」

「うん、判ったよ」

「了解や、って・・・リエイスも入れて私ひとりでええんやろか?」

「突貫力ってやつだな。よっしゃ、鉄槌の騎士ヴィータとアイゼンの一撃、英雄に見せてやる」

なのはは“レイジングハート”を強い意志を示すかのようにギュッと握りしめ、ヴィータも“グラーフ・アイゼン”を何度も素振り、はやてはリエイスとユニゾンしたことで伸びた髪をポニーテールにしながら疑問顔を浮かべる。

「ユニゾンしている状態なら一人としてカウントされると思うが・・・。もしダメなのであれば、シグナム、君に出てもらいたい」

「ああ、了解した」

ルシリオンははやてのそう答え、もし二人としてカウントされた場合は、シグナムをメンバーに入れると告げる。

「ねぇルシル。私じゃダメなの? 何かメンバーの選択に妙な他意があるような気が・・・」

フェイトがどこか納得できないといった様子でルシリオンに問いかけた。もちろん他意などなく、純粋にカーネル攻略の事を考えてのメンバー選択であるため、他意がないことを示すために説明をし始める。

「フェイトとカーネルは相性が悪い。土石系に雷撃系の攻防はほぼ通用しないと言ってもいい。フェイトの攻撃にはほぼ電気変換が行われる。だからカーネルほどの土石系術師にダメージを与えることは・・・不可能だ」

「そ・・・っか。うん、判った。ごめん、変なこと言って」

フェイトは力になれない事のショックからガクリと肩を落とした。ルシリオンは目に見えて落ち込んでいるフェイトに「このゲームを進めていけば、おそらく他のアンスールメンバーも出てくるだろう。その時に力を貸してくれ、フェイト」とフォローを入れ、フェイトの頭を撫でる。少しボケーッとした後、「あはは、その時は頼ってね」とフェイトは微笑んだ。

――戦闘参加メンバーは、高町なのは・八神はやて(リエイス)・ヴィータ・ルシリオンでよろしいですか?――

というメッセージテロップが宙に浮かび上がる。ルシリオンはメンバーを見回し頷く。なのはとはやてとヴィータも頷いた。はやてとリエイスのユニゾンで一人とカウントされたことで、

「リイン、あたしらもユニゾンだ!」

「はいです!」

ヴィータもリインとユニゾンを果たす。もう一度確認メッセージテロップが表示され、それでいいのだという事を示すために四人が一歩二歩とカーネルとの距離を縮める。すると、今まで居た聖堂が突如として消え、辺り一面何も無い大地となった。戦闘不参加メンバーは遥か頭上。先に避難していたスバルやティアナ達も、フェイト達の側で浮いている。


VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦✛
其はアンスールが地帝カーネル
✛―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS


ルシリオン達の遥か頭上に、それぞれのヒットポイントバーが表示される。まさしくゲームに登場するようなデザインだ。

「さぁお仕置きの時間だ・・・。行くぞ!」

カーネルが“剛覇剣フロッティ”を勢いよく地面に突き立てた。神器王ルシリオンと並ぶ大英雄(アンスール)・地帝カーネルとの戦闘の幕が開いた。

†††Sideルシル†††

まさかこの世界で戦友と、カーネルと戦う事になるなんて思いもしなかった。
だが所詮は虚構の存在。この“邪神ロキの遊戯場(スンベル)”と呼ばれるゲームの世界が、私の記憶から抽出した幻影。

汝は強大に(アテー・ギボール)して永遠なり(・ルオラーム)わが主よ(アドナイ)!」

カーネルの詠唱。いきなり儀式魔術、もしくは真技を発動させて勝負を決めるつもりか。これは少しばかりの思考すら許されない、か。まぁ相手が相手だ。私は、なのはとはやてとヴィータに「空へ上がれ!」と語調を強めて言う。三人は私の様子から、カーネルが発動しようとしている魔術の危険性を察してくれたようですぐに空へ上がってくれた。

――コード・アンピエル――

遅れて私も背に十二枚の剣翼を創り出して空へ上がり、カーネルを見下ろす。とここで自分の身に起こっている異変に気付いた。まさか、と思い、魔法の術式とは別の・・・かつての私に宿っていた“力”を・・・

――西方の黒燿穿(オーヴェスト・オニチェ)――

――北方の黄燿穿(ノルド・トパーツィオ)――

――東方の蒼燿穿(エスト・ザッフィロ)――

――南方の紅燿穿(スッド・ルビーノ)――

その直後、地面からオニキス、トパーズ、サファイア、ルビー、四鉱物の剣山が突き出してきた。カーネルは、地中に存在する鉱物類すらも操り攻撃手段とする。それらは空に居る私たちを落とそうと、次々と突き出してくる。

「儀式魔術を発動するための時間稼ぎだ。なのは、はやて、砲撃を頼む。ヴィータはラケーテン、出来ればツェアシュテールングスで待機。儀式が終わるまでにカーネルの防壁を突破し、一気に決める!」

「了解! レイジングハート、行くよ!」

≪All right, my master≫

――エクセリオンバスター――

「リエイス! ハウリングスフィア!」

『行きます! ナイトメア・・・』

「『ハウル!!』」

なのはの構える“レイジングハート”から桜色の砲撃が、はやての周囲に白のスフィアが七基展開され、七条砲撃を同時に掃射。気を取り直して、

殲滅せよ(コード)汝の軍勢(カマエル)!」

私の意思の元、周囲に100の槍軍が展開される。魔術式から魔法式へと変換する際に失わざるを得なかった属性、閃光・闇黒が意図も容易く発動出来た。何故魔術を取り戻す事が出来たのか?とか深く考えまい。今はただ・・・。

「(カーネルを黙らせるのみ!)蹂躙粛清(ジャッジメント)!!」

二人の砲撃に追随させるようにカマエルを一斉に降らす。なのは達が、失ったはずの魔術を扱えている私を見て驚いている。私はただ『今はカーネルに集中だ』と念話で告げて、視線に、説明は後だ、と込める。

「おい、ルシル! どうせ使うなら上級術式にしろっ!」

カーネルは“剛覇剣フロッティ”をもう一度地面にズドン!と突き立てる。すると地鳴と共に鉱物剣山が全て砕け、その破片が迫っていた私たちの攻撃を乱反射させて明後日の方へと弾き返した。上級? まさかいくら何でも上級術式まで使えるなんてことは・・・。

「火より地を、粗者より微者を、緩やかに巧みに分別つべし。地より天に昇り、天より地に降り、上者と下者の効力を収む」

カーネルの詠唱が進む。この詠唱は・・・・・・真技!
なのはは「ブラスター2!」と告げ、ブラスタービットを三基展開。すぐさまビット三基から砲撃を放ち、悠然と佇んでいるカーネルを討ちに行く。

――大地の防壁(テッラ・スクード)――

しかしカーネルを守るように地面が盛り上がり自然の盾となる。衝突。なのはは続けて“レイジングハート”から、「ストライク・・・スタァァーーズッ!」特大砲撃&シューター九基を放った。次々と爆発を起こしていく。私とはやても頷き合い、

女神の(コード)――」

『「「陽光(ソォーールッ)!」」』

私はデバイス、“ラインゴルト・フロースヒルデ”を待機形態の指輪に戻し上級術式を発動。はやてと共に炎熱砲撃をぶっ放す。カーネルの顔が「なんだとっ?」驚愕に歪む。
それはそうだ。はやてが、私と白焔の花嫁(ステア)炎帝(セシリス)だけの固有魔術を使ったのだから。カーネルを護っていた盾が大爆発を起こす。空まで立ち上ってくる爆煙。

「何だよ、おい。もしかして決まったか・・・?」

『いいえヴィータちゃん。カーネルさんのHPバーが全然変わってません』

濛々と挙がる煙幕の中でさえもハッキリと視認できるHPバーに変化なし。当然だな。今の攻撃全てはダメージを与えることではなく詠唱を止めるためのものだ。まぁダメージを与えられたら儲けものだな、とかは思っていたが・・・。今はカーネルの真技を食い止めただけで十分だ。

「なんでそこのお嬢さんがお前やステア達のソールを使うんだよ・・・!?」

――先駆けし者の顕現(アッヴェント・ピオニエーレ)――

カーネルの疑問に満ちた声と同時に、頭上に強力な魔力反応が生まれる。なのは達もその強大さからしてハッキリと感じたらしく、一斉に頭上を仰ぐ。ソレを見て真っ先に反応したのははやてで、「え? ちょっ、あんなんアリなん!?」とそれはもう驚く。

「アレって、まさか・・・隕石ぃぃーーーっ!?」

なのはの悲鳴通り、摩擦熱で轟々と燃える隕石がこちらへ向かっていくつか降ってくる。なのはが「あればっかりは防ぎようがないよ!?」と焦りだす。私は念話で『隕石は私が対処する。散開してそれぞれ別々の位置からカーネルへと弾幕を張ってくれ』となのは達に指示を出す。リインが『あんなものをどうにか出来るですか・・・?』と訊ねてきた。

「ああ。久しぶりの大魔術・・・行くぞっ!」

上級術式の中でも“真技”に近い術式のひとつ、フレイヤの発動を準備する。
地上に円形に配置された六つのアースガルド魔法陣。さらに私を中心として円形に六つ、頭上にも同様に円形に六つのアースガルド魔法陣を展開、三階層の魔法陣がゆっくりと回転し始める。横から見ればトライアングルのような構図となっているだろう。
隕石から発せられる熱が届き始める。『安心しろ、絶対に君たちに傷一つ付けさせない』と告げ、

――女神の大戦火(コード・フレイヤ)――

全十八のアースガルド魔法陣から、閃光系・闇黒系・炎熱系・氷雪系・風嵐(フウラン)系・雷撃系、六属性の特大砲撃を落ちてくる隕石群へ向け発射。持続的照射ではなく断続的連射で放たれるため、最終的に100以上の砲撃が放たれることになる。
大気を震わせ空へ向かって行く砲撃群に、なのは達は耳を押さえて「う、うるさい・・・!」と呻いた。とりあえず「すまない」と謝り、粉砕された隕石の危険度を確認。パラパラと破片が降ってくる。それすらもカーネルにとっては攻撃手段となりうる。

「散開!」

「「り、了解!」」「よっしゃ!」

ゆえになのは達をバラけさせ、「吹き荒べ(コード)汝の轟嵐(ラシエル)」と蒼き竜巻を発生させて破片を吹き飛ばす。

――砂塵裂砕刃(ファルチェ・ギリョッティーナ)――

「っく・・・!」

地上を覆っていた煙幕を切り裂いて、私たちへと放たれてきた砂で構成された大鎌の刃。私のところには三十近い砂刃が。なのは達にはそれぞれ十近い砂刃が向かう。上級術式が扱えるなら、間違いなくアレが発動出来るはず。ギリギリで回避しながら、剣翼十二枚を背中から離し、新たに薄く細長いひし形の翼十枚を展開。

――瞬神の飛翔(コード・ヘルモーズ)――

計二十二枚の翼を背にした空戦形態へと移行、余裕を以って砂刃を回避する。回避し終えてすぐになのは達を様子を確認するため視界に捉える。なのははオーバルプロテクション(全方位を球状に覆う障壁)、はやてとヴィータはパンツァーヒンダネス(多面体の完全防御モード)で防ぎきっていた。この世界では、魔法と魔術に差というモノがないという事がハッキリと確認できた。

「これこそ最強の剛中の剛なれ。いかなる神妙にも克ち、あらゆる堅固をも貫くなれば」

カーネルは微笑を浮かべながら私を見上げ、早口で詠唱を続けていた。まずい。そう思った時にはすでになのは達が動いていた。はやてが“シュベルトクロイツ”を水平に構え、「仄白き雪の王、銀の翼以って、眼下の大地を白銀に染めよ。来よ、氷結の息吹・・・!」と詠唱。はやての周囲に四つの立方体が生まれる。

「『氷結の息吹(アーテム・デス・アイセス)』!」

四つの立方体から地上に向けて四条の光が落ちる。地面に着弾したと同時に熱を奪い、カーネルの攻防手段である大地を凍結させていく。カーネルは自分を囲うように地面を隆起させて、自らが凍結させるのを防ごうとする。そしてカーネルは上空からの攻撃対策として頭上に、

――砂塵渦巻く城壁(ヴォルティチェ・サッビア)――

大量の砂で渦を作り、あらゆる攻撃や侵入者を拒む蓋とした。

「ツェアシュテールングス・・・!」

そんなモノ関係ないとでも言うように、ヴィータがツェアシュテールングスフォルムの“グラーフアイゼン”を振り上げたままの状態で突撃。カーネルは目に見えずとも迎撃のために、未だ凍結されていない地面から無数の岩塊を浮かび上がらせる。

――守り人の壁壊弾岩(クストーデ・ムニツィオーネ)――

高速で射出される人間の頭部大の岩塊。ヴィータは構わずに突っ込む。おい、と思ったが、視界の端になのはを捉え、突撃をやめない理由を察した。そうか、ならば私もなのはを手伝おう。なのはの周囲には二十基のスフィアが展開されており、最初はブラスタービット三基から砲撃を放ち、続けて、

「いっけぇぇーーーっ!」

――アクセルシューター――

三条砲撃と二十基のシューターを、ヴィータに迫る岩塊へとぶつけ軌道を逸らす。私もサファイアブルーの魔力弓を創り出し、

弓神の(コード)・・・狩猟(ウル)!」

左手で弦を引き絞って創りだされた2m弱の矢を放つ。と同時に矢は無数の光線となって岩塊を貫き粉砕する。ヴィータの行く手を拒む物は完全に無くなった。ヴィータはそのまま岩壁へ「ハンマァァーーーッッ!」と裂帛の気合と共に“グラーフアイゼン”を振り下ろした。はやての魔法によって凍結されていた部分は容易く砕いていく。が、凍結されきっていない岩壁にドリルヘッドが拒まれる。

「ブチ貫けぇぇーーーーーーっっ!!」『いっけぇぇーーーーーですっ!!』

だが岩壁を突破しようとしているのは、鉄槌の騎士ヴィータと“グラーフアイゼン”、そしてリインだ。私たちのレベルに合わせていると思われるNPCカーネルの魔術の前でも十分な脅威。とは言え、ヴィータだけに任せているわけにはいかない。何せ・・・

「斯くて世界は創造られき。奇しき変成のそこより出づるべきこと、斯かる次第なり」

カーネルは真技を発動するために必要な詠唱を続けている。そこに、ガキンと金属同士が衝突した甲高い音が。ヴィータが「なんか硬ぇもんが・・!?」と呻いた。

「地中に在る鉄鉱石やらを操作して岩壁の中を硬化しているようだな」

――邪神の狂炎(コード・ロキ)――

両腕両足に数mの、紅蓮の劫火で構成された腕と脚を武装する術式を発動。すると「あっつ!? ちょっとルシル君!」「なんか一言くれへんかな!?」「いきなりは勘弁しろよ、セインテスト!」となのは達が若干お怒りの涙目。「すまない」と、ってさっきも謝った気が・・・。

「と、とりあえず、だ。はやて、氷結の息吹を頼む」

「え? ・・・・あ、了解や!」

はやてが私の行おうとしている事を察してくれて、すぐさま詠唱に入る。まずはヴィータを防壁から離し、なのはを空へと上がらせ、ブレイカーの準備に移らせる。右の焔腕を硬化した岩壁に殴りつけ、鋼鉄となっている防壁を熱する。
そしてすぐさまはやてが、「氷結の息吹(アーテム・デス・アイセス)」と詠唱し、一つの立方体から氷結魔法を照射、熱した部分を急激に冷却する。そう、熱疲労だ。途轍もない蒸気が周囲を覆うが、そんなものは風嵐系の魔力で気流を生み出し散らす。もう一発、と今度は左の焔腕で殴りつけようとしたところで、

――押流し呑み込む地波(イノンダツィオーネ・ロッチャ)――

「「『え・・・!?』」」「「『な・・・!?』」」

目前にそびえ立っていた防壁がこちらへ倒れ込むように一気に崩れ、岩石・砂塵・土泥となって押し寄せてきた。体のあちこちに岩石がぶつかり鈍痛が奔るが、構わずにすぐさま空へと上がる。「はやてちゃん! ヴィータちゃん!」という、なのはの切羽詰まった悲鳴が聞こえた。急いで周囲を見回してみると、はやてとヴィータの姿がどこにもない。

「巻き込まれたのか!?」

独り言のつもりだったが、なのはは青い顔をして「うん!」と頷いた。なのははすでに「レイジングハート! エリアサーチ!」と桜色の光球を散布し、はやてとヴィータの捜索に入っていた。空を仰げば、二人のHPバーが黒くなっていた。つまりHPは0だ。私も10分の2程度を削られている。私も二人の捜索に入りたかったが、かつての戦友はそれを許してくれそうになかった。

――地帝が率いし大軍勢(コルポ・ダルマータ・ディ・カーネル)――

岩石や土泥で創り出された100体以上のゴーレム軍が、私となのはを見下ろす。どいつもこいつも3m弱の巨体に、岩石で出来た剣やら槍やら斧やら盾やらを携えている。

「なのは、二人の捜索を任せてもいいか・・・?」

「うん。そっちはルシル君一人になっちゃうけど・・・」

「問題ない。なのはは二人の捜索に尽力を。一体として君のところに行かせはしない」

「っ! うんっ。こっちは任せて!」

なのはが空へ上がって捜索を開始。それを合図としたかのようにゴーレム軍も進撃を開始。手っ取り早くカーネルを沈める事が出来ればいいんだが、その姿を完全に晦ましている。地中に潜って様子見、真技の詠唱を続けている可能性大。

「一対一でお前と戦うなんていつ以来だろうな・・・カーネル!」

――殲滅せよ(コード)汝の軍勢(カマエル)――

最高威力を保ったままでの最大展開数である二千の槍群を、「蹂躙粛清(ジャッジメント)!」と号令を下し、雨あられという風に射出する。本当なら、チュールやニーズホッグなど神器を使用した上級術式を使いたかったが、創世結界の使用だけは認めてもらってないようだ。
3ケタのゴーレム軍に対し4ケタの槍群。雷撃系を除く属性を内包した槍群がゴーレムを貫いていく。中には突破してきて私と肉薄しようというゴーレムも出てくる。

「この劫火を前に・・・生き残れると思うな・・・!」

巨大な斧を振り下ろしてきたゴーレムを貫き手で貫き、内部から焼き滅ぼす。さらに一体、また一体と槍群を突破してきて、巨剣の薙ぎ、巨槍の刺突、と揮ってくる。まずは劫火の蹴りで武器を溶かし無力化。両の腕でゴーレムの頭を鷲掴んで、上半身を吹っ飛ばす。

第二波(セカンドバレル)・・・装填(セット)

もう一度、今度は威力を底上げした900の槍群を展開。すぐさま「蹂躙粛清(ジャッジメント)!」と指を鳴らし射出して、ゴーレムの残党を貫き滅する。破片が降り注ぐ中、ふと20m前方の地面がもこもこ動いているのに気付く。

「カーネルか・・・?」

地上スレスレを滑る様に飛行し、動いているポイントの真上で浮遊する。動きが強くなってきた。いつでも攻撃できるように構える。

「「ぷはっ!」」

ボコッと地面から顔が二つ飛び出してきた。

「はやて! ヴィータ!」

行方不明だった二人だ。二人は、ぺっぺっ、と口内に入った土を吐き出している。『なのは、二人を見つけたぞ!』となのはに念話を送り、ロキを解除して二人を助けるために素手で土を掘り返す。しかしはやては安堵するより、「アカン! 私らよりカーネルさんを」と切羽詰まっている。
ヴィータも「あたしらは大丈夫だか――」と、最後までいう事は出来なかった。何故なら、私の首筋に“剛覇剣フロッティ”の刃が当てられたからだ。今さら背後に気配が一つ。私がはやてとヴィータの救出に意識を集中してしまったのを隙として背後に回り込んだようだ。

「戦場で、敵に背後を取られてしまうほどの隙を生むような行動を取るなんてな。・・・お前のその優しさは好きだが、自分と同格の相手をしている最中でのその行動は危ういぜ」

「「わっ!?」」

はやてとヴィータが地面から飛び出す様に脱出。二人の周囲の土が、二人を下から押し上げたようだ。だが二人はそのまま空へと上昇していく。カーネルに「二人に何をした?」と訊く。

「あの二人は失格だ。押流し呑み込む地波(イノンダツィオーネ・ロッチャ)に巻き込まれた時点で二人のHPはゼロになった。脱落者は退場。見学してる他のお嬢さん達と一緒に観戦班だ」

何とか視線を上に向け、フェイト達と合流しているはやてとヴィータ、ユニゾンが解けたのかリエイスとリインも一緒だ。とりあえずは何事もないようで一安心。さて、次はこの状況を打開する術だな。そこに、なのはからの『ルシル君、大丈夫!?』という念話が届く。

『ああ、大丈夫だ、と言いたいところだが。少しまずい状況だ』

『・・・私に出来ることは?』

『私諸共でいい。カーネルに全力砲撃をお見舞いしてくれ』

なのはが息を飲む。少し間が開いて、『うん、判った。ルシル君を信じるよ』と答えた。持つべきものは、この世界における戦友(しんゆう)だな。

「さて。もう一人のお嬢さんは、っと」

カーネルがキョロキョロと周辺を見渡している気配。だが首筋に当てている“フロッティ”には一切の油断はない。

「敵前で舌舐めずりとは。土石系属性の王が笑わせるな」

「下手なマネは無しだぞルシル。共に技を磨き、共に死線を潜り抜けた来た友でも容赦はしない。まっ、安心しろ。この世界での死は、しばらくの行動不能になるだけだ」

やはりゲームの世界。死、という概念はないようだ。“邪神ロキの遊戯場スンベル”。原初王オーディンと義兄弟の契りを交わした、当時のヨツンヘイム王ロキ・プレリュード・オリオール・テリュス・デ・ヨツンヘイムが創造せしゲーム。大戦時にも噂には聞いていた。が、どうしてこの時代に・・・?

(って、やはりあの女――グロリアの仕業か・・・!)

ふとカーネルが「お前の現在の仲間は、俺たち(アンスール)と同じくらいにクレイジーだな」と苦笑した。ここまで届く桜色の淡い光。ああこの魔力波は、スターライトブレイカーか。確かに全力で、とは言ったがブレイカー?
避ける事は出来ないし、防ぐにもそれなりに上位の盾でないと・・・。まったく、君というやつは・・・。素直でいいんだが、もう少し・・・いや、頼んだのは私だ、文句は言うまい。

「スターライトぉ・・・・ブレイカァァーーーーッッ!!」

頭上から落ちてくる桜色の極光が四つ。マルチレイドだ。私は右手で“フロッティ”の刀身を鷲掴んで首筋から離す。ゆっくりとカーネルへと首を回し、ニヤリと口端を歪ませて見せつける。

「さぁカーネル。お前はどうする。私の親友(なのは)のブレイカーは、キッツイぞ?」

「見りゃ判る。大戦時、俺たちと同じ魔力量を持っていたら、それなりの兵になれたな。が、魔力があっても所詮は雑兵どまり。砲兵は、孤人戦争(オマエ)殲滅姫(カノン)で十分だよ。というわけで、あのお嬢さんは俺たち最高位魔術師の敵じゃない」

カーネルは楽しそうに頬を緩め、「真技」と呟いた。

(詠唱が終わっていたのか!)

“フロッティ”を鷲掴んでいる私の右手を振り払い、カーネルは“フロッティ”を両手で持ち地面に突き立てようとする。

「させるかっ!」

デバイス“ラインゴルト・ヴェルグンデ”を起動。左手に携えた“ヴェルグンデ”で“フロッティ”が地面に突き立てられるのを阻止。カーネルは怪訝そうな表情を浮かべ、ブレイカーを防御するために、

――大地の防壁(テッラ・スクード)――

地面を盛り上がらせ、防壁とする。次いで、なのはを墜とすために、

――北方の黄燿穿(ノルド・トパーツィオ)――

トパーズの剣山を突き出させる。直後に、防壁にブレイカーが直撃。爆音と共に視界が桜色に満ちる。しかしそれだけだ。爆音と閃光、衝撃波は届く。だがブレイカーの本体は私とカーネルには届かない。崩れては再生し、再生しては崩れ、また再生。
地帝(カーネル)の強みはこれだ。大地の全てがカーネルの味方だ。だから土石系は強い。陸戦においてはまず間違いなく最強。だから土石系の術式は最高難度。その代わり土石系術師は空戦を苦手とする。

「俺の防壁を突破できるのは、アンスールのメンバーだけだ」

再度“フロッティ”を突き立てようとするカーネルへ突っ込む。両手に持つ“ヴェルグンデ”の柄尻を連結させて、一番しっくりする“神槍グングニル”と同じ形状とする。先制攻撃は頂こう。独楽のように回転しながら、連続でカーネルへ刃を走らせる。

「二剣一対のハンド・アンド・ア・ハーフ・ソード? おい、ルシル。グングニルはどうした? 形状は同じでも、それはないだろ」

カーネルは余裕を以って私の一撃一撃を弾いていく。私は「グングニルは失った。が、このヴェルグンデは私が一から作った相棒だ」と笑って見せる。

「なるほど。ソイツは概念兵装というわけか。神造兵装に比べれば見劣りするが、いいだろ。付き合ってやる」

“ラインゴルト”を開発したときには神秘を失っていたので、神器には入らないんだが・・・。

――東方の蒼燿穿(エスト・ザッフィロ)――

ブレイカーが治まると同時に、カーネルはさらになのはへと攻撃を加えていく。激しく心配だが、ここはなのはを信じ、私はカーネルを墜とすために動く。真技の詠唱は終わっている。発動条件である“フロッティ”を地面に突き立てる、それを妨害し続けなければ。隙を見て砲撃で一気に決める、というのがいいだろう。

『なのは、大丈夫か・・・?』

『大丈夫、かな。何とか避けきれてるし。でも、ごめん。フォローに回れないかも』

『気にしないでいい。なのはは自分自身の事を考えてくれ。危ないと思ったら離脱してくれていい』

『う~ん、それはちょっと、だね』

なのはは私を置いていくことに抵抗があるようだ。なら下手に説得してこじれるのも面倒だ。なのはの行動は、彼女自身に一任しよう。彼女とて数多くの戦線を潜ってきたんだ。心配するのは野暮、だな。“ヴェルグンデ”の連結を解き、二刀流としてすぐに、

「はああああああっっ!!」

――豊穣神の宝剣(コード・フレイ)――

常に最善の一撃を自動で放つことのできるフレイを発動。筋肉や骨がミシミシと鳴るが、傷つきし者に(コード)汝の祝福を(ラファエル)で回復させる。カーネルから余裕の表情が失われた。私の斬撃に合わせ捌こうとしたその瞬間に、全く別の軌道に変わるからだ。忙しなく“フロッティ”を振るい続けるカーネル。こちらもカーネルを押し続けるために斬撃の手を緩めない。

「とことん厄介だな、お前のコード・フレイは・・・!」

「その分代償があるが、お前の真技を封じられるなら安いものだよっ!」

私とカーネルの間や周囲には火花しかない。ただ“ヴェルグンデ”を振るい続ける。時に連結させ、また解き、と繰り返しながら。何合切り結んだか。ふとどれだけ続ければいいのか、と思った時、

――砂刃裂波(サッビア・スパーダ)――

研ぎ澄まされた砂の刃が足元から無数に生えた。咄嗟に攻撃を止め、互いにバックステップをし、攻撃範囲から離れる。直撃だけは免れたが、私は右腕と左肩と左足を浅く裂かれ、カーネル自身も幾つからの裂傷によってダメージを負っていた。オウンダメージ覚悟の離脱。カーネルとの距離は約11m。私は砲撃を撃とうとした。カーネルの目論見を阻止するために。

「真技」

――母なる大地が終わる刻(ディストルツィオーネ・モンド)――

だが間に合わなかった。無情にも地面に突き立てられた“フロッティ”。僅かな時間の静寂。しかしすぐに地鳴りから大地震へと激変する。足元から突き上げてくるような強烈な衝撃。立っていられないために空へ上がる。直後、世界は終わりを迎える。至る所の地面が10数mと隆起し、または数mと陥没。また無数に地割れが起き、地割れからは溶岩が噴き出す。
ほぼまっ平らだった大地の姿はもうどこにもない。大戦時、無数の敵兵がその命を奪われた、陸戦魔術師殺しの大魔術。

「ルシル君! これって、こんなのって・・・!」

なのはが顔を真っ青にして、私の元へ飛んできた。私が何かを言う前に、未だに滅びへと向かっている大地から無数の岩塊が飛来し、そびえ立つ大地の塔が崩れ、その土砂が倒れ込んできた。私はなのはの手を引いて一気に上昇。世界崩壊に巻き込まれないためにはもう空へ逃げるしかない。

「ルシル君とシャルちゃんの記憶で疑似体験したけど、実際に体験するとこんなに怖いなんて・・・」

私の右手を握る力が強くなった。そこに、「おーい、イチャつくのは後にしとけ~」とからかうようなカーネルの声。なのはがバッと手を離す。だがそれは恥ずかしさからではなく、至近距離からカーネルの声が聞こえたことによる恐怖からのものだ。直後、私となのはを中心として四つの岩石の塔が突き出てきた。どれも全高50mはある。その塔の頂上から、“フロッティ”を上段に構えたカーネルが落下してくる。

「私に空戦を挑むとは、気が狂ったかカーネル!」

――殲滅せよ(コード)汝の軍勢(カマエル)――

落下してくるカーネルへ向けて、咄嗟に展開できた500の槍群を射出。だが、四方にそびえ立つ塔の側面からカーネルを護るように岩石やら土砂で出来た柱が突き出し、カマエルを次々と防いでいく。くそっ、私は何て考えの甘い。先程も自分で思っていたじゃないか、全ての大地がカーネルの味方だ、と。
カマエルを防ぎきったことによって崩れかけていた柱が――おそらく“フロッティ”の一撃で完全に根元が破壊された――ある程度の形を保ったまま私たちを押し潰さんと轟音と共に落ちてくる。

「それで勝ったと思うな!」

――無慈悲たれ(コード)汝の聖火(プシエル)――

蒼炎の大蛇を十二体生み出し、落下してくる柱に巻きつかせてそのまま明後日の方へと向かわせる。残るはカーネルのみ。私は魔力弓を生み出し、弦を引き絞る。

「カマエル以上の威力を持った弓神の矢・・・どこまで防ぎきれる!」

――弓神の狩猟(コード・ウル)――

放たれた矢がすぐさま無数の光線となる。決まった。いくら何でもこればかりは防ぎようがないはずだ。四方の塔から幾つもの柱が枝のように伸びてくるが、そのどれをも貫通しカーネルへと向かうウル。私たちとカーネルの間に在る幾つもの柱が邪魔でよく見えないが、

「あっ! カーネルさんのHPがすごく減ったよ!」

カーネルのHPを示す黄色い部分が残り3分の1辺りまでになっていた。とりあえず、このままここに留まるのはよくない。そう判断し、なのはと共に四方の塔から離れる。離れてすぐ、四方の塔が音を立てて崩れていった。

「なのは。あとは私一人で片付ける」

「え?・・・うん、判った。ごめん、あんまり役に立てなかった」

「そんなことはない。カーネルを相手にここまで戦った。胸を張っていい」

なのはは「うん」と頷き、フェイトたち見学者の居る場所にまで飛んで行った。

――巨人の鉄拳(ジガンテ・プーニョ)――

濛々と空まで上る煙幕の中から、巨大な岩石の前腕部が幾つも飛来してきた。空戦形態を維持しているため、直撃を免れるように空を翔ける。さらに周囲から岩石の塔が幾つも幾つも突き出してきて、そこから巨拳が飛んでくる。気付けば全方位からの巨拳の雨あられ。次第に避けきれなくなり、「ぐあっ!」不覚にも一発まともに食らってしまった。直下に吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられてようやく止まる。

「ようこそ、ルシル。最後の決着の場へ」

「ぐっ、げほっ、か、カーネル・・・!」

そこは、円形の闘技場だった。広さは半径200mといったくらいか。土砂によって周囲を囲まれている。戦う環境としては一方的に不利だ。その闘技場の中央に、傷だらけのカーネルが佇んでいた。私は立ち上がり、ラファエルでダメージを回復していく。カーネルは文句を言わない。というか言わせてたまるか。

「ペナルティで始まったこの戦いだが、正直ここまでやる必要があるのか?と思い始めた・・・」

「奇遇だな、カーネル。私もだ。ここまで本気になるってどうかと思う・・・」

「「だが――」」

お互いに身構える。カーネルは“剛覇剣フロッティ”を。私は無手だ。何せ接近戦などするつもりは端からないのだから。

「「男には引き下がれない時がある!」」

――砂刃裂波(サッビア・スパーダ)――

――復讐神の必滅(コード・ヴァーリ)――

20近い砂の刃が地を滑るように迫る。私は、術者に敵対して攻撃を加えた対象を永続追尾する砲撃ヴァーリを放つ。互いに相手の攻撃を回避。しかしカーネルは追尾してくる砲撃に迎撃のための魔術を使わなければならない。カーネルは迫る砲撃に、

「食らいやがれぇぇーーーーーッッ!!」

――南方の紅燿穿(スッド・ルビーノ)――

ルビーの剣山を自分と砲撃の間に挟み、砲撃を拡散させていく。良い手だ。それにきっちり私のところにも剣山を突き出させている。軽く体を宙に浮かせ、突き出してくる剣山の間を縫うように回避し、ヴァーリを連発。相手がどこに居ても勝手に追尾してくれるヴァーリだ。ヴァーリの軌跡を辿り、反応した場所へ向けて決めの一撃を撃つ。ヴァーリは私と同じように剣山の隙間を縫って、カーネルを討つために光の尾を引いて行く。

――巨人の鉄拳(ジガンテ・プーニョ)――

――巨人の蹴撃(ジガンテ・ピエーデ)――

闘技場を囲む土石から、私を圧し潰そうと拳と足が降ってくる。それらを避けて避けて避けまくる。途中でウルを掃射し、迎撃破壊を行う。互いにダメージは無し。カーネルは上手く剣山を盾にして避け続ける。こうなれば一度全てをリセットした方がいいな。フレイヤやエーギルと並ぶ大魔術・・・バルドルで。

汝は尊き(アイン・ギメオー)光の寵愛を受けし者(・タウベイト・フィーメム)

中空に、回転する七つの円環が合わさった球体を形作る。その中央に私の魔力光サファイアブルーの魔力球が発生、周囲の魔力を集束させて徐々に大きくなっていく。今思えば、バルドルは集束砲なんだな。

「バルドルだと!? 根こそぎこの場を吹っ飛ばすつもりか!」

「何を焦る、カーネル。お前の真技とて世界を吹っ飛ばすほどに強烈な術式だろうが」

危険性で言えば圧倒的にカーネルの真技の方が高い。カーネルは、バルドルを阻止するために円環球体へと攻撃を加え始める。無駄な事を。詠唱から始める儀式魔術として発動したバルドルは、無詠唱発動の時とは違い、他からの妨害は受け付けない。
バルドル。それはかつてのアースガルドにおいて全ての存在から愛された王の名。ゆえに、詠唱という加護を授ければ、発動を妨害されることはない。そう、魔道王フノスの真技以外では決して。

その御名の下(エウヴァヴ・エー)其に刃突き立てし者へ(ズデーカフ・オイ・ツァディエータ)・・・」

円環球体からキィィーーンと甲高い音が流れ始める。カーネルが目に見えて焦りだし、術者である私を墜とそうと躍起になり始める。

――地帝が率いし大軍勢(コルポ・ダルマータ・ディ・カーネル)――

往けっっ(アッサルト)!!」

ゴーレムが先程の100体を越える数で押し寄せてくる。魔力の集束率は最大じゃないが、さすがにあの数のゴーレムに一斉に攻撃されたら終わりだな。仕方ない。詠唱を中略して、必要な残りの詠唱を告げる。

汝は左手に希望を携え(アイン・カフテータ・ミュー・コフ)右手には閃光を携える(ラメッド・レーシュクセイ)

振りかぶられた巨剣やら巨斧を避け、私は高らかに叫ぶ。

そして全ての者に(エイメー・スィンテット)その御名を轟かせ(・エウヴァヴ・ユイ・サメフ)!」

――光神の調停(コード・バルドル)――

円環球体の中央で神々しく輝く蒼の球体から、下方限定として砲撃の雨が降り注ぐ。本来は全方位へ向けられる完全無差別砲撃だが、“闇の書事件”でリインフォースが改編したように下方限定とした。何せ空には大切なフェイト達が居る。巻き込んでしまっては意味がない。砲撃が地面に着弾すると、半球状の蒼い衝撃波が全てを破壊しようと広がっていく。ゴーレム軍も三発で全滅。そして・・・

「だぁぁあああああっ! 負けたぁぁぁーーーっっ!!」

カーネルの断末魔。カーネルは咄嗟に防壁を造ったが、バルドルの破壊力の前には無力。一発二発は防げようとも、八発九発と続けられればどうしようもない。カーネルのHPバーが黒に染まり、ガシャンと砕けた。

「私の勝ちだな、地帝カーネル」

「あーはいはい。俺の負けだぜ、孤人戦争ルシリオン」

†††Sideヴィヴィオ†††

「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」

わたしとコロナとリオ、それにアインハルトさんとイクス、ルールーにアギトも絶句してた。ルシルパパが大昔の英雄で、次元世界誕生に立ち会った魔術師だっていうのは知ってた。すごく強くて、今の魔導師なんて足元にも及ばないって聞いた。でもだからって、

「こ、これが・・・ヴィヴィオさんのお父様の実力・・・。わ、私に勝てる、でしょうか・・・?」

「無理無理無理無理無理。アインハルトさん、戦いにすらならないよっ!」

「強いとか弱いとかの話じゃないよう・・・(怯)」

「今のが・・・魔術師の戦い・・・なんですね」

やり過ぎだよ、ルシルパパ! わたしの大切な友達が怯えきってるよ! なのはママやティアナさんのブレイカー衝突なんて可愛いものだよっ!?

「すげぇな、やっぱ。セインテストの全力って見てて怖ぇわ」

みんながそれぞれ今の戦いの感想を言い合っていると、景色がガラリと変わる。そこは、大聖堂へと移動させられる前にわたし達が居た場所。遊園地のような街中で、派手な建物が建っていて、陽気な音楽が流れてる。目の前には入場ゲートのようなモノがあって、

――ようこそ☆ロキのロキによるお客様のための遊戯城へ――

と書かれてる。そのゲートの先、大きなマス目で道が造られてる。

「というわけだ。今のがお題をミスったり、拒否ったりしときのペナルティー。今のようなバトルを回避したいなら、出されたお題をキッチリクリアすること。判ったか?」

ルシルパパと戦ってたカーネルさんが、大きなサイコロを手に説明した。なのはママ達は言う。これじゃまるで人生ゲームのようだって。

(はぅ~、どうしてこうなっちゃったんだろう・・・?)

わたしは人知れず肩を落として溜息を吐いた。





†◦―◦―◦↓????↓◦―◦―◦†



レヴィルー
「わたし達ってまるで空気!」

レヴィ
「はい、始まりました。今日のレヴィルーのコーナー」

ルーテシア
「名前なんてあったんだ」

レヴィ
「今付けた。にしても何っ? 今回は丸ごとバトルじゃん!
しかも、アンスールのメンバー同士のガチンコ! 世界だって滅ぶわっ!」

ルーテシア
「お、落ち着いて。でもあんなのに巻き込まれたら死ぬって絶対」

レヴィ
「判ってるけどさ、うん、判ってるよ。でも今までわたしとルーテシアが活躍してたのに、いきなり出番が無しってあんまり過ぎる!」

ルーテシア
「じ、次回からはちゃんとあるみたいだし、今回だけは、ね? 我慢しよう」

レヴィ
「むぅ。しょうがない。そんじゃまた次回って事で」

ルーテシア
「バイバーイ♪」

カーネル
「って、おい! 俺のニダヴェリール語講座は!?」

レヴィルー
「文字数の問題により却下」

カーネル
「そんなバカなぁぁーーーーっ!」



 
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