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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第44話 モヤモヤは仕事にぶつけ……られない?

 こんにちは。ギルバートです。……すみません。何も言わないでください。カトレアはあのあと一言も口きいてくれなかったし、しょせん私は彼女との初エッチに失敗した愚かな男です。私に価値なんか……。

 すみません。鬱入ってました。ごめんなさい。

 まあ、レンはカトレアと一緒に行ってしまいましたが、ティアが私のそばに(ぬこverで)黙って居てくれたので、正直かなり救われました。

 それでも、結構な期間落ち込んで居た気がしますが、いつまでも落ち込んで居られません。カトレアが近くに居ないモヤモヤは、仕事にぶつけようと思います。このままだと、ティアの秘密を漏らした2人に八つ当たりしてしまいそうですし……。



 しかし仕事をしようにも、ドリュアス家の本邸は既に完成済みでした。一方、アナスタシアは私の留守中に、自分に合った武器を見つけた様です。私に「形になったら見せるから楽しみにしてて」と、自信満々に言って来ました。ディル=リフィーナで手に入れた魔法金属の加工も考えましたが、領内の産業活性化の方が優先度は高いので後回しです。……どうせ1人前と認められないと、自分用の剣も作れませんし。

 先ずメインとなるのが、ディル=リフィーナより持って帰って来た農作物です。特に火山の地熱を利用した南国フルーツやスパイス類は、成功すればかなりのリターンを期待出来そうです。他にも予定通り竹を入手出来たのは嬉しいですし、茄子を見つけた時には思わず種を購入して居ました。

 これに成功すれば、別荘周辺はフルーツとスパイスの生産地になります。ドリュアス領の重要な収入源となってくれるでしょう。

 農作物は小麦等の既存の穀物や野菜の他にも、タルブで細々と作られてる米を他領に広め増産を目指します。

 更に肥料の不足が予想されるので、畜産関係にも力を入れ問題の解決と更なる産業の発展につなげます。現状でハルケギニアの家畜は羊と牛と馬の3種が主ですが、これに豚と鶏で市場に攻め込みたいと思います。特に鶏は、鳥肉が非常に高価な事と卵による収入も見込めるので期待しています。

 ……それに畜産系は、騎獣達の餌代による財政の圧迫に待ったをかけられる重要な要素です。失敗は許されません。

 他にも海産物に関しては、干し物を研究開発する事により活性化が見込めます。これは既に鰹節が生産に成功しているので、他にも干し昆布・魚や海藻の塩漬けや油漬け等の保存食の生産に成功すれば、新しい産業として成り立つでしょう。成功するか分かりませんが、海苔も研究しようと思います。

 温泉を利用して別荘周辺を観光地化する予定なので、ドリュアス家主導で芸能娯楽関係にも力を入れようと思います。色々と案も考えてありますし。

 と言う訳で企画書と資料を作り、父上に提出する事にしました。

「父上。母上。お話があります」

 今の父上と母上は、ドリュアス家本邸西側の森を切り開き街を作る計画と、旧ドリュアス領から別荘まで伸びた街道をオースヘムまで伸ばす計画も同時に推し進めています。その為かなり多忙です。

 私個人の意見を言わせてもらえば、領内の経済活性化に努め大きな赤字が出ない様にする方が先と思うのですが……。

「それで、話とは何なのだ? ギルバート」

 父上に促されて、私は企画書と資料を父上に渡します。

「領内の経済活性化の為の企画書と資料です。許可いただければ、早急に取りかかろうと思います」

 父上は「ふむ」と言いながら、私の企画書と資料に目を走らせて行きます。母上も気になるのか、後ろから覗き込んでいました。

「農業や畜産関係に関しては問題無い。……別荘周辺の観光地化までは良いが、芸能娯楽関係をドリュアス家が主導するのは、独占と思われて良くないのではないか?」

「領主が観光地の芸能娯楽関係を独占する事により、他の商人が入り込むすきを極力潰すのが目的です。流入した商人の主導で歓楽街が出来ると儲け中心になり、モラルの低いハルケギニアでは治安悪化が懸念されるからです。と言っても、取り締まりは必要ですがガチガチにやる必要はりません。そう言った者達に、“自分達は領主に見逃してもらえる範囲でやっているんだ”と、認識させる事が出来れば良いのです」

 私は心の中で(最低限の見せしめは必要なんだろうな)と、嫌な考えをしながらも、予想済みの質問だったので即座に答えました。

「分かった。今回もギルバートが主導で行うのだろう? ならば、予算と人員を預けるので好きにやると良い。……期待して居るぞ」

「はい。ありがとうございます」

 もっと質問が飛んでくると思ったのですが、アッサリと許可がおりました。信頼されているからでしょうか? まさかとは思いますが、忙しさのあまり投げやりになっていませんか?

 ちょっと心配になりましたが、予算が降りたなら何とかなるでしょう。

「ギルバート」

 退出しようと思ったら、突然父上に呼び止められました。

「お前もドリュアス家を継ぐ身なのだ。そろそろ自分で作業せずに人を使う事を覚えろ」

 ……えーと。父上は何を言っているのでしょうか? って、聞き返すまでもありませんね。

「私が持っている知識は、ハルケギニアではある意味異端とも言えます。やれと言われて、はいそうですかと出来る(たぐい)の物ではありません」

 一応ここは反論しておきます。

「別にいきなり一から十まで全てやらせろと言う訳ではない。お前の知識や技術を人に教えて、その人に仕事を任せる事を覚えろと言っているのだ。でなければ、お前の負担ばかりが増えてしまうからな」

 ……うっ。正論です。

「はい。分かりました」

 一応頷きましたが、私の知識が完全で無いのがネックとなります。人員不足もありますが、知識の穴を埋めながらの作業があるので、如何しても私が付きっきりになってしまうのです。それが出来ないとなると、何かしらの失敗により余計な経費がかかってしまいます。……いや、部下達の成長を考えるなら、それも必要な事は分かります。しかし、ある程度なら予算は何とかなるとして、時間の方はキツイとしか言い様がありません。

「正直に言わせてもらえば、ギルバートちゃんは生き急ぎ過ぎているように見えるの。周りの貴族(バカ)共を見習えとは言わないけれど、これを機会にユックリする事も覚えなさい」

 更に母上が追い打ちをかけてきます。純粋に私を心配しての言葉なので、全く言い返せませんでしたが、次の一言は勘弁してほしかったです。

「ギルバートちゃんは夢中になると、私達の忠告が頭から抜けちゃいそうだから、必要以上に現場の作業をさせない様に通達しておくわ」



 執務室を出た後、私は肩をガックリと落とす羽目になりました。

「ギルバート」

 執務室の扉から離れようとした所で、突然扉から出て来た父上から呼び止められました。

「何ですか?」

「言い忘れていたが、本邸西の新しい街の名はドリアードに決まった。それから……」

 何故か父上が言いよどむので、不思議に思っていると……。

「別荘に訪問されたアンリエッタ姫の意向で、温泉の名前は『シュワシュワ温泉』に決定した。それに伴い、別荘周辺の地名も『シュワシュワ』に決定した。よって、お前の反対意見は却下となった」

(アホリエッタ!! なにさらしとんねん!! と言うか、何で誰も止めないかな!! シュワシュワ……か、ダサい名です。それとも私の感性が変なのでしょうか? いや、そんなはずは……)

 父上は「気を落とすなよ」と言って執務室の戻って行きました。私は両手両膝をつき項垂れ、落ち込まざるを得ませんでした。



 何時までも落ち込んで居られないので、作業を開始しようと思います。

 その前に手持ちの資金と人材ですが……

 父上も何を血迷ったのか、20万エキューもの大金をポンと出して来たのです。一体何を考えているのでしょうか?

 人材もマギ商会から私専属で3人付きました。以前塩田設置で世話になったアンリとジュール。それにマギ商会が『オペレーション・ソルトボム』で獲得した新人で、元行商人のジルダです。アンリが私の補佐を務め、更にジュールとジルダがアンリの補佐を務める形です。補佐に補佐が付くなんて、私の補佐はそんなに大変なのでしょうか? いや、おそらく私が頑張り過ぎない様にする為の見張りの意味もあるのでしょう。

(……そっちがその気なら)

「バシバシ働いてもらう心算なので、よろしく頼みます」

 とっても良い笑顔で挨拶してあげました。それを見たアンリとジュールは、思いっきり顔を引きつらせます。この2人とは以前塩田で一緒に仕事をしたので、私の笑顔の意味に気付いたのでしょう。一方でジルダは、挑戦的な笑みを隠し切れていませんでした。大きなプロジェクトに関われる事に喜んでいるのでしょうが、そんな顔をしていられるのも今の内です。

 私は3人に、苦心して作り上げた企画書と資料を渡します。渡し終わった所で「アンリとジュールは既に知っていると思いますが、私は堅苦しいのは苦手です。公の場や他の貴族が居なければ、普段は同僚として接してほしいです」と言っておきます。ジルダが少し驚いたような顔をしていたが、すぐに平静を取り戻しました。

「さて、先ず私達がしなければいけない事は、ブレス火山のふもとに地熱を利用した巨大温室の建造です。これを設置しなければ、フルーツとスパイスの栽培はまず不可能と言って良いでしょう。また、竹は温暖で湿潤な気候を好むので、同じくブレス火山のふもとで水源の近くに植えようと思います。ここでやってもらいたいのは、必要な人員と建材の確保です。特にメイジは私の方で数人確保していますが、数が圧倒的に足りません。難しいとは思いますが、お願いします」

 私がそう説明すると、アンリが頷き「それは私に任せてください」と宣言しました。

「それと同時進行で、ドリュアス領で飼育する豚と鶏の親を購入します。資料にある通り、既にマギ商会に依頼して調査し購入する親候補は決まっているので、後は買い付けだけです。基本的に、豚も鶏も放牧をする予定です。豚はクヌギ・カシ・ナラ・カシワ等のドングリが()る森を用意してあるので、そこに家畜小屋を建てて飼育します。合言葉は目指せイベリコ豚です。鶏も広めの柵を作り、その中で自由に動き回れるようにする事で肉質を良くします」

 3人そろって、(イベリコブタって何?)と言いたそうな顔をしています。ジュールが「イベリ……子豚?」とか呟いていますが、切るのはコと豚の間で決してりとコの間で切ってはいけません。まあ、それは置いておくとして、復活したジルダが「それは俺が担当します」と言って来ました。

「海産物の鰹節・燻製・乾物や塩漬け・油漬けは、人を雇ってやらせる形ですね。設備を用意してやり方を教えれば、後はまかせっきりで大丈夫でしょう。これを担当するのはジュールですね」

 私がそう言うと「はい」と、元気良く返事してくれました。初めて任される大きな仕事なので、やる気に満ち満ちている様です。

「問題は農作物の増産です。如何しても開墾や維持で人手が必要になるからです。街の建設や街道設置に人手が取られている現状では、とても実行に移す事は出来ません。それは米を広め増産するのも同様で、タルブで実際に生産している者を雇いマギ商会のバックアップを付け広めても、実際に田を作る人員が居なければ意味がありません。人を確保でき次第、少しずつ進めて行くしかありません。あとは連作障害等の知識で、何処まで収穫量を伸ばせるかです」

 精霊の加護があるとは言え、農作物の増産を後回しにするのは良くないのですが、人手が足りないので仕方がありません。後回しです。

「芸能娯楽関係は主に私が担当します。劇・演奏・演舞に詳しい者をそれぞれ集めてください。その中から私が実際に会って選考します」

 芸能娯楽関係についてですが、演劇系はマギ知識のシェイクスピアを真似するかアレンジすれば良いです。演奏もクラシックから、いくらでも引用出来ます。後は演出関係の見直しです。スポットライト・《拡声》の効果があるマジックアイテム・オペラグラス等の開発や購入が必要ですし、既に完成しているセット切り替えの為の回転床も有効利用しなければなりません。演舞は精霊の住む地を意識して、幻想的な物を目指して開発しようと思います。案は考えてあるので、後でディーネ辺りを実験台にして感想を集めようと思います。大丈夫と思いますが、ダメなら別の内容も考えないといけないです。

「アンリは人員と建材の確保に動いてください。ジルダは家畜の買い付けをお願いします。ジュールは私と一緒にフラーケニッセに飛んでもらいます」

 私はあらかじめ決めてあった予算をアンリとジルダに渡し、ジュールと護衛(クリフ+ドナ)を連れてフラーケニッセに渡りました。



 海産物関係の仕事は、割とあっさり片付きました。

 鰹節への不安感が心配でしたが、鰹節を実際に食べさせてたら真面目に作り方を学んでくれました。一食速解です。続いて干し昆布の作り方を教え、魚の塩漬けや油漬けの作り方を教えました。わかめの塩漬けが出来たのは、個人的に嬉しかったです。滞在期間は1週間に満たない時間でしたが、完成した保存食にみんな満足してくれました。

 ……ちなみに海苔は、上手く行きませんでした。作る事自体は出来たのですが、海苔自体が希少で量産はとても不可能でした。一週間では海苔の養殖までこぎつけるのは無理だったので、海苔を養殖する知識を伝えるにとどめました。

 ちなみにこの時、工場設置と工場設備の作成で、私とクリフはそこそこ忙しかったです。ティアも害獣避けとして活躍してくれました。

 別れ際に殺菌の重要性を入念に説き、より良いレシピの開発と海苔養殖の検討を依頼して帰還します。本邸に戻ると、そのまま地熱温室の設置に駆り出されました。と言っても、着工の挨拶と新人工員の指導のみやらされてお役御免です。時々進行状況をチェックしに行ったり、不明な点や不備がある時に指導しに行くだけになりました。

 温室内の作業員も決定していて、完成しても要所要所に私が指導に行く以外はやる事がありませんでした。当然、常に側に居るわけではないので、仕事のスピードにも干渉出来ません。

 ……仕事とられました。と言うか、締め出されました。私が参加すればもっと早く終わるのに。

 続いて畜産系ですが、これも仕事にありつけませんでした。それと言うのも王立魔法研究所(アカデミー)で孤立していた研究チームを、そのまま引き抜いたからです。彼らは品種の違う家畜を配合して、新しい品種を作ろうとしている研究者達で、|合成獣(キメラ)等の魔法学に頼らない姿勢を上から疎まれていた者達です。エレオノール様経由でその存在を知り、研究所(+牧場)と相応の予算を出すことを条件にドリュアス領に招きました。彼らの中には水メイジも居て、研究の為獣医も兼任してくれる事になりました。窓口になってくれたエレオノール様には感謝しています。

 彼等は私の年齢から、最初は良い顔をしていませんでしたが、聞きかじりの現代畜産学をロバ・アル・カリイエの事として教えたら、やたら懐かれてしまいました。競馬やひき馬競馬の話をしたのも不味かったです。……待てよ、競馬やひき馬競馬は使えるな。と言う訳で、この事を父上に話したら即座に許可が下りました。ジルダだけでは手が足りないので、ようやく作業に没頭出来ると思ったら、マギ商会から新たにギスランと言う商人が派遣されて来ました。

 ……また締め出されました。

 更に芸能娯楽関係ですが、忙しかったのは一部の人選を選ぶまででした。劇のシナリオや演奏の話をしている時にディーネが乱入して来たのです。私には、ハルケギニア向けにシナリオをアレンジするのが下手だったので、ディーネが来てくれて正直助かりました。

 そして演舞ですが、薄暗い室内で六角形の舞台に半サントほどに水を張り六角形の端に、それぞれ赤(火の精霊)・青(水の精霊)・黄(土の精霊)水色(風の精霊)・緑(木の精霊)・紫(人間)に色と形を象ったランプを配置して、ディーネに白い衣装を身に纏ってもらい剣舞を踊ってもらいました。ディーネの白い衣装が、動くたびにランプの光の色に染まり幻想的でした。

 それが原因と言っては何ですが、周りがディーネ中心で動くようになり、何時の間にか私の立場が無くなっていました。この状況で私のポジションが、ディーネの相談役に落ち着いたのは仕方が無いと言えるでしょう。しかもその現状を知った父上が、ディーネを責任者に任命したのです。まだ不足している人員は居ますが、もう私が関われる余地は無さそうです。……泣いても良いですか?

 ……また仕事を ……また締め出されました。凄く凹みました。



 仕事がありません。しかし、じっとして居ると余計な事を考えてしまうので、如何にか仕事(没頭出来る物)を探そう頑張りました。そこで私は、樹木が豊富にあるのを利用し製紙産業に手を出す事にしました。私が持っている知識が、体験旅行で経験したのは和紙作りのみだったので、生産量の都合から手を出す心算は無かったのですが、半ば道楽でやるのでこの際関係ありません。

 しかし何が幸いするか分からない物で、和紙を作るのに向く樹木を探し始めた所、何故? と言うか幸運? と言うべきか、漆の木を発見したのです。私は喜々として、紙だけでなく漆器(しっき)の開発に手を出しました。

 私は別荘建造時に招いた家具職人から、彫刻の上手いギーと言う職人をスカウトして漆器の試作品を作り始めました。同時に漆器工房を建て、その近くに漆の木を植えました。色を変える方法は、鉄粉を入れる黒色と弁柄(赤色酸化鉄)を入れた赤色しか知らなかったので、とりあえず漆黒と朱色の器を作ってみました。

「なんか、仕上がりは綺麗なんですが、色が味気ない様な……」

(ギー!! 貴様!! この漆の良さが分からないのか!!)

 腹が立ったので、蒔絵(まきえ)沈金(ちんきん)螺鈿(らでん)拭き漆(ふきうるし)彫漆(ちょうしつ)堆朱(ついしゅ)蒟醤(きんま)等、知りうる限りの技法について語って聞かせました。……実際に出来るかどうか別だけど。

 しかしギーは、話が金箔や銀箔の段になると「金や銀を使うなんて悪趣味」等とほざいたのです。

 意地になった私は、エキュー金貨を1枚取り出し《錬金》で金貨から金と不純物を分離し純金を作り出します。(金貨を潰すのは不味いですが、ばれなければOKです♪)そして、出来た金を羊毛紙ではさんで、ハンマーでひたすら叩いて金箔をでっち上げました。上手く箔状にならなかった物を粉にします。

 これで材料がそろったので、蒔絵と沈金に挑戦しました。私が蒔絵に挑戦し、沈金はギーにやらせます。

 2枚の木の板に漆黒の漆を塗り、それぞれ蒔絵と沈金でトリステイン王家の証である百合の花をあしらった物を作りました。双方とも黒と金のコントラストが素晴らしいですが、私が担当した蒔絵の方はお世辞にも美しいとは言えずダメダメです。一方でギーが担当した沈金の方は、実に見事な出来栄えでした。と言っても、日本の職人と比べちゃいけませんが。

 ……根本的な実力差って悲しいです。私が教える側だったのに。

 そして完成品を前にして、ギーに「ごめんなさい」言わせてやりました。これで漆器の方は、ギーに任せておけば良いです。

 一方で和紙の方ですが、紙漉(かみす)きの工程で上手く行かず止まってしまいました。紙に如何しても皺や厚みにムラが出来てしまうのです。これは私の熟練度と腕が低いからか? それとも、道具の再現が上手く行っていないのか? 原因は不明です。と言っておきながら、間違いなく私の腕が原因ですね。

 こちらは人を雇って、上手く行けば弟子を取らせる方向で行こうと思います。と思っていたら、和紙と漆器の事が父上にばれ、人を付けられてしまいました。おかげさまで私の仕事は、視察と書類仕事だけになってしまいました。



 結局仕事ではこのもやもやを発散する事が出来ず、イライラしている私を助けてくれたのは、ジャックとピーターでした。彼らは私を剣や騎獣の訓練や遊びに誘ってくれたのです。一通りの事を教え終わり、私が忙しくなってからは疎遠になっていたので嬉しかったです。

 どうやら私がイライラしているのを見かねたアナスタシアが、2人に相談したのが切っ掛けの様です。

 私の仕事は、定期的な視察と少しの書類仕事のみになっていたので、この時かなり暇になっていました。更に父上や母上だけでなく、ディーネも忙しくなっていたのです。訓練にさえ顔を出せない程に……。そしてアナスタシアは、自分に合った武器の扱いを学んでいる最中で、模擬戦が出来ません。当然この状況では、騎獣訓練と剣の訓練は単独でやる事になります。

 私は2人の心遣いが嬉しくなり、快く2人の誘いに乗りました。まあ、訓練や勉強に関しては、完全に私が教える側になっているのは御愛嬌です。逆に遊びになると、私が2人に教わる立場になります。私はハルケギニアの遊びを何一つ知らなかったんだなと、思い知らされました。

 ジャックとピーターに押し切られ、アニーの着替えを覗きに行ったのは良い思い出です。まあ、カトレアにばれたら怖いので、ティアに協力してもらい穏便に失敗する様に仕向けさせてもらいましたが……。

 そうこうしている内に、ジャックとピーターの魔法の実力が伸びドットからラインにクラスアップしたのです。これに気を良くしたポールさんが、ポーラにもぜひ魔法を教えて欲しいと行って来ました。どうやらポールさんも、アナスタシアから私の事を聞いている様です。

 まあ、ポーラには以前にも教えていた事はありますし、工夫して座学を教え杖を持たせられるようにした実績があります。しかし、ポーラの勉強嫌いは健在で未だに座学から逃げまくります。これでは何時まで経っても魔法の成長は見込めません。

「さて、以前と同じ手で良いとして、問題はネタを如何するかだな」

 私は無意識の内にそう呟いていました。



 そうこうしている内に、時は過ぎ6月(ニューイ)も下旬にさしかかり、トリステイン魔法学校は夏休みに入ります。

 ヴァリエール公爵から少し前に、手紙で“夏休み中に一度家族でシュワシュワに遊びに行く”と連絡を貰っています。私はその手紙を読んで(既に公爵まで毒されているのかよ!!)と、心の中で突っ込みを入れてしまいました。まあ、正式に決定してしまった以上、シュワシュワと言う名前も受け入れるしかないでしょう。

 しかし冷静になってみると、公爵家が来ると言う事はカトレアも来ると言う事です。

 私は仲直りの一助として、あの時渡せなかった全快記念の品を準備する事にしました。そうと決まれば早速作る事にします。

 カトレアから摘出し結晶化した病巣を使います。この結晶はそのままでは割れてしまいそうなので、ダイヤモンドで分厚くコーティングする事にしました。長さ4サントの楕円形の結晶が、直径5サント程の真球になるまで盛り付けます。次に、ディル=リフィーナで手に入れたミスリルを贅沢に使って杖を作ります。ワンドのつもりで格闘戦を想定せず、デザイン性を追求して水と螺旋をテーマに、所々チタンの酸化被膜を使って青い色を出して行きます。

 加工に夢中になっていると、何時の間にか宝石部分を含めて全長60サントを超える長さになってしまいました。完成品を眺めていると、ワンドと言うよりロッドと言った感じですが、出来自体は上々と言って良いでしょう。……アンリエッタが持っていた杖(王錫)より、性能だけでなく見た目も上なのは不味いかな?

 後は料理ですね。と言っても、海産物以外は目新しい物はありません。畜産系の豚肉や鳥肉が、まだまだ時間がかかるからです。畜産系で唯一口に出来る状況なのが、試作で届いた卵ですね。有精卵なので、早めに食べないとダメです。フルーツやスパイスは、温室が未完成で種さえ植えていません。

 海産物関係は、鰹節や昆布干しを始めワカメの塩漬けと各種魚の塩漬け・油漬けが届いています。

 めぼしい物で使えるのは、卵・鰹節・昆布干し・ワカメの塩漬け・魚の塩漬け数種・魚の油漬け数種……か。卵が豊富に有るから、洋菓子類を作れるな。ワカメは水で洗ってサラダやスープにするか。酢の物やワカメご飯は、ハルケギニアに受け入れられるかが問題だな。塩漬け・油漬けは調理に限界があるし。

 ……ちょっとインパクトが足りないですね。

 卵があるなら、卵焼きと相性が良いトマトケチャップを作るか。たしか、トマトを湯むきして裏ごし。すりおろした玉ねぎと一緒に煮て、塩、こしょう、砂糖、ローリエを入れて少し煮たら、酢を入れて完成だったはず。

 ケチャップを作るなら、マヨネーズは必須ですね。卵黄・酢・塩・胡椒の順に入れ撹拌する。少しずつ油を入れながら撹拌を続け、クリーム状になった時点で完成。うん。ちゃんと出来るな。ケチャップもマヨネーズも一部香辛料に代替え品が必要になりますが、作る分には問題ありません。

 他に欲しい調味料と言えば……。醤油と味噌は既にありますし、他に作れそうな物は……!! そうだ!! 魚醤かあった!! 失敗したな。フラーケニッセで海産物関係の指導の時に伝えておけば、……二度手間になってしましました。失敗です。

 さて、この中でカトレアが喜んでくれそうなのは、……やっぱり、洋菓子系が一番無難かな? バームクーヘンでも作るか。専用のオーブンを用意しなくとも、フライパンで作ろうと思えば作れるし。フライパンで焼いた物なら、型を作って抜けば見た目も合格点でしょう。

 料理はこんなところでしょう。公爵の手紙では来週到着との事なので、コック達と新しい特産品と調味料を使った料理の創作(再現?)をしなければなりません。

 仲直りすると言う明確な目標が出来れば、以前の様なモヤモヤやイライラも感じません。スッキリした顔の私を見て安心したのか、ジャックとピーターもそれぞれの親の手伝いに比重を置くようになりました。



 いくつかの料理の創作(再現?)に成功し、公爵達に出すメニューが決まると、途端に暇になってしまいました。

 暇になったからと言って、ジャックやピーターは親の手伝いがあります。それを邪魔してまで、私に付き合えとは言えません。

 ボーっと何も考えずにいると、アナスタシアが訓練着を着て外に出て行くのが見えました。それを見て居たら、アナスタシアが選んだ武器が気になりました。

 始めたばかりの頃は、ロングソード・槍・刀等を振り回していたので放置して居ました。暫くして(ムチ)やダブルブレード等の少し変わった武器を振り回し始めても、まだ私は黙って見ていました。しかしディル=リフィーナに行く少し前に、ネタで作った洒落武器を振り回している時は流石に止めました。……主に、ハリセン(鉄製)とか、道路標識の斧(一時停止。斧の厚みを感じさせない様にするのに苦労した)とか、仕込箒(ケミカルアンバーな人が使ってたやつ)とか、終いには樽……いえ、なんでもありません。

 アナスタシアの口ぶりからして、新しい武器にもだいぶ慣れて来ているはずです。そろそろ見せてもらっても良いでしょう。と言うか、母上を説得する以上、変な武器を選ばれるのは避けたいです。

「アナスタシア」

「な~に? 兄様」

 これから訓練に行こうとしているアナスタシアを呼び止めます。

「そろそろアナスタシアが選んだ武器を紹介してほしいのですが」

 私がそう言うと、アナスタシアは笑顔になり……

「兄様? もう 形になるまで秘密って言ったじゃない」

 ですが私は、アナスタシアが一瞬だけ目をそらしたのを見逃しませんでした。

「……アナスタシア」

「な~に?」

「いったい何を隠しているのですが?」

 良く考えてみれば、アナスタシアなら少し前の私に積極的に関わろうとするはずです。ジャックやピーターに頼んで、人任せにするなど考えられません。絶対何かを隠しています。

「 ナ ナンノコト?」

 声が裏返ってます。……その態度は自白して居る様な物ですよ。

「ナニカクシテル?」

 アナスタシアの頭に手を乗せて、殺気を込めながら言ってあげました。あまり変な武器を選ばれると、母上への言い訳が効かなくなるので勘弁してほしいのです。……と言うか、イノチニカカワル。ハハウエコワイ。

「……イエ」

 ……おや? 普段ならこれで喋るはずなのですが、アナスタシアは口を開こうとしません。私は殺気と手の(アイアンクロー)を徐々に強くしていきます。すると、そろそろ(頭の形が変わると言う意味で)不味いかなと思った時に、アナスタシアが「言うから許して~」と、謝ってきました。

「…………です」

 聞き違いであってほしいのは、私の気のせいだと思いたいです。

「とりあえず、どの位扱えるか見せてください」

「ハイ」

 本当に聞き違いであってほしかったですが、適正があるなら無かった事にするには流石に気が引けます。

 私はアナスタシアを中庭に連れて行って、的として《錬金》で泥人形を5体ほど用意します。

「この泥人形を的にしてください」

「はい」

 私が泥人形から離れると、アナスタシアは精神を集中してから「行きます」と呟きました。

 するとアナスタシアは、一見無手に見える手を無雑作に振ります。すると、泥人形からトスットスットスッと、乾いた音がしました。泥人形を見ると、棒手裏剣が突き刺さっています。次にアナスタシアが腕を振ると、スローイングナイフ・クナイ・プッシュダガーナイフ・チャクラムと続いて突き刺さりました。飛び道具がネタ切れかと思った次の瞬間。アナスタシアが距離を縮めたと思うと、一瞬で泥人形の首を糸の様な物で刎ねます。そのままを糸の様な物を捨てると、手甲から剣が飛び出し次の泥人形の首を刎ねました。

 しかしまだ無傷の泥人形が一体あります。如何するのかとみていると、そのまま暗器手甲で攻撃するフェイントを入れ、泥人形の咽を足の爪先がかすめるように蹴ります。無傷かと思った泥人形は、予想に反して咽が大きくえぐれていました。良く見るとアナスタシアのブーツの爪先から、仕込ナイフが飛び出しています。そのまま腰から何か出したと思ったら、咽が抉れた泥人形の頭を殴りつけ首を切断しました。

 ……糸の様な物が鋼糸で、剣が飛び出した暗器手甲は剣手甲で、最後の武器は鉄扇ですね。と言うか、見事に暗器ばっかりです。聞き違いで無かった事に凹みました。それと、見覚えがある武器と思ったら、サムソン・パスカルと一緒に悪乗りして作った武器達です。つまり私の自業自得です。

「母様は、この武器達を許してくれるかな?」

 難しい問題です。元々暗器は小型で携帯しやすく隠密性が高いので、護身具から暗殺まで幅広く利用された武器の総称です。護身具としてだけ見れば問題ありませんが、問題は暗殺用の武器として使える事なのです。貴族が暗器使いって、流石に体裁がよろしくありません。

 しかし、飛び道具や鋼糸はダメかもしれませんが、鉄扇だけなら同じ大きさのメイスでも代用出来るのでは? と、考えを巡らせ始めた所で気付きました。

 鉄扇だけならそのまま持っていても良いかもしれません。見栄えの良い鉄扇なら、女性が持っていても違和感が無いので大丈夫でしょう。持ち歩くこと前提なので、杖としても使えそうです。

 そうなると、鉄扇を使った武術を教える必要があります。教えるなら合気鉄扇術あたりでしょうか? 合気道なら、アナスタシアと相性が良さそうですし。

「アナスタシア。合気道って言う武術があるのですが……」

 私は合気道の概要をアナスタシアに説明しました。マギも剣術の延長で柔術と共に一通り覚えただけなので、アナスタシアの期待に満ちた目が辛かったです。

(果たして私に合気道をまともに教える事が出来るでしょうか?)

 滅茶苦茶不安です。



 さて、来週にはヴァリエール公爵が来ます。

 出来うる限りの準備は済ませましたが、上手くカトレアと仲直り出来るか不安でしょうがありません。

「考えても仕方がありません。なるようにしかならないのですから……」

 そんな言葉を呟いてしまったのも仕方が無いでしょう。私はスケジュールの都合で、一日暇になってしまったのです。午前中は訓練等で潰しましたが、まだ午後が丸々空いています。

「まあ、たまにはボーっとして過ごすのも良いか」

 私は本邸周辺を散歩しながら、見つけたベンチに横になりました。丁度木陰になっていて、森から吹く風が冷たくて気持ち良いです。夏に差し掛かった今なら、この場所は絶好の昼寝スポットです。

 良く考えたら、赤ん坊の頃からこんな時間を持った記憶がありません。これじゃあ父上と母上が心配するのも仕方が無いでしょう。でも……

(時々人が通るのが気になるな)

 まさか私がユックリする為に、この場を通行禁止にする訳には行きません。そしてこの時“人の来ない自分だけの秘密の場所を探そう”と言う発想は、私にはありませんでした。

「自分だけの癒しの空間か……。そうか!! 無ければつくれば良いんだ!!」

 こんな結論に達する子供って……。しかし気分は、秘密基地を作る様で楽しくて仕方がありません。

 日の光にあたれないのでは、部屋に居るのと大差ありません。見つからない所に一軒家を建てるのが一番でしょう。場所は……森の中が一番ですね。上からじゃ見つからない様に偽装が必要です。完全に自分用の建物なら、懐かしい木造の平屋が良いですね。なら、こだわるのは地下の方です。毎回森の中に消えるのでは心配をかけてしまいます。本邸付近から隠し地下通路を作って、そこから入れるようにするべきですね。……うわぁ、何か本当に秘密基地っぽくなって来ました。

 そんな事を考えている内に、ウトウトと眠りに落ちてしまいました。



(……重い)

 体にかかる重量感で目が覚めました。同時に感じる圧迫感から、私の上に人が乗っているみたいです。私にこんな事が出来るの(と言うかするの)は、この領地に1人しかいません。ティアなら絶対に跳ね除けられない猫verでやりますし。

「ナス~!!」

 私は上に乗っている者を、横に少しずらしました。私が寝ているのは狭いベンチなので、それだけで上に乗っていた者は地面に落下します。落下音と共に「ふぎゅ!!」と言う悲鳴が聞こえましたが、私の眠りを妨げたのですから当然の報いです。

 私がボーっとする頭を振りながら起き上ると、何故か館から走って来る影がありました。

「兄様 あたし何もしてないよ!!」

 走って来て開口一番言い訳をするのはアナスタシアです。私がナスと呼ぶ時は、本気で怒っている時が多いのでその所為でしょう。と言うか、館から走って来たのがアナスタシアなら、先程まで私の上に乗って居たのは誰なのでしょうか? って、信じたくありませんが、このピンクブロンドは……

「あれ? カトレア姉さま」

 はい確定です。アナスタシアに追い打ちをかけられた気分です。無言・無表情で立ち上がるカトレアが、洒落にならない位怖いです。

「ギルとお話があるから借りるわね」

 カトレアの声から何かを感じ取ったのでしょう。アナスタシアがカクカクと頷きます。そしてそのまま逃亡しました。

「さて 先ずはギルの部屋へ行きましょうか」



 …………3時間後。

 ようやくカトレアの説教が終わりました。

 しかし、悪い事ばかりではありませんでした。最後に、治療に踏み切った私の心中を察して“あの態度は無かったわ。ごめんなさい”と、カトレアが謝ってくれたのです。私もすぐに謝罪し、お互い配慮が足りなかったと言う事で落ち着かせました。

 しかし、何故カトレアは1人で来たのでしょうか? カトレアもそんな事をすれば、公爵達が良い顔をしないのは分かっているはずです。

「私は嬉しいのですが、何故1人で来たのですか?」

「うん。魔法学院で生活して居ると、色々と考えてしまって」

 カトレアはそこで言葉を切ると、真剣な表情になり数秒ほど黙ってしまいました。そして僅かな違和感を感じ、カトレアの顔を注視すると……

(ギル。《共鳴》を使ったわ)byカトレア

(《共鳴》なぞ使ってなにようじゃ)byティア

(ようやく痴話げんかが終わったのかの?)byレン

(急に《共鳴》なんて使って何の内緒話ですか?)byギル

 私はため息を吐きながらも、どんな話が飛び出してくるのか内心戦々恐々としていました。

(単刀直入に言うわ。原作にもっと干渉しましょう)byカトレア

(しかし、それでは今後の展開が読めなくなり、イレギュラーに対応しきれない可能性が高くなります)byギル

(今のドリュアス家を見れば今更よ。既にイレギュラーが出ることが決まっているのだから、少しでも今後を有利に進める必要があるわ)byカトレア

 カトレアが言っている事は正論です。反対する理由は今の所ありません。

(具体的には?)byギル

(“無能王誕生阻止”と“モード大公の救済”ね。それと、出来れば“エルフ達との和解”かしら。“ジョゼットの救出”もあるわね。トリステイン内部は、油断は出来ないけど順調と言えるわ)byカトレア

 怖ろしく無茶を言ってくれます。

(“エルフ達との和解”は、精霊達に協力を仰げば何とかなるかもしれません。“ジョゼット救出”も何とかなります。しかし、“無能王誕生阻止”と“モード大公救済”は、政治的な物が絡んで来ますので、成功する確率がかなり低い上に、失敗した時のリスクが高すぎます。それに最終的に、全ての問題を解決するのはルイズとサイトです。この2人の成長の機会を奪うのは、良くないと思います)byギル

 ガンダールヴの力を認識するギーシュ戦やフーケ戦。敗北を知りデルフリンガーを覚醒させるワルド戦。数え始めたらキリがありません。

(吾も主の意見に賛成じゃ。過剰に干渉するのは良くないと思うのじゃ)byティア

(政治的な話に別に深入りする必要はないわ。チャンスがあれば干渉すれば良いのよ。それにルイズとサイトの成長は、私達が適切な物を用意すれば良いわ。サイトに訓練をして、原作よりも早く成長させる心算なのでしょう?)byカトレア

 ……何か腹黒くありませんか? いや、その方が安全なのは事実ですが。

(ギル風に言うなら“フラグを全て叩き折れ作戦”ね。……それから感情がこっちに漏れてるから)byカトレア

(ごめんなさい)byギル

((すまぬ))byティア&レン

(あれ? ティアとレンもなの?)byカトレア

(ぬぅ。墓穴を掘ったか)byティア

(まあ、仕方が無いの)byレン

(うぅ。まるで私1人が腹黒いみたいで落ち込むわ)byカトレア

(カトレアが言った事は、確かに一理があります。これから検討しましょう)byギル

「それよりカトレアと仲直りする為に、プレゼントがあるのですよ」

 私は《共鳴》もこの話題も終了と言わんばかりに声を出しました。

「何かしら?」

 カトレアが私の話に乗って来てくれました。既に《共鳴》も切ってくれています。

「新しい杖ですよ。材料が材料なので、既にカトレア専用の杖と言っても良い出来です」

 私はそう言いながら、部屋の隅からアルミケースを持ってきます。

「これです」

 そう言いながら、カトレアの前でケースを開きました。

「うわ~!! これ、本当に私にくれるの?」

 私が作った杖を手に持ち、嬉しそうに眺めるカトレアでしたが、すぐにその顔が曇ってしまいます。

「出来が良すぎるわ。王家の杖より、性能も見た目の豪華さも上じゃない。私がこれを持って居たら、王家の顔を潰してしまうわ」

 カトレアの言う事は至極もっともです。このままでは、カトレアはこの杖を使えません。

「うぅ。せっかく作ったのに……」「うぅ。ギルからのプレゼントなのに……」

 作り直すのも悔しいですし、何よりもカトレアがガッカリしています。……後で公爵に相談してみますか。

 仕方が無いのでカトレアには、代わりにミスリルで作った扇をプレゼントしておきました。

 それを受け取ったカトレアは、アナスタシアと一緒に合気鉄扇術の訓練を始めました。基礎と型を一通り教えただけで、後は2人で勝手に訓練をしていました。動きの良し悪しを教えてあげられるだけで、もうほとんど何も教えてあげられないのが悔しかったです。

 3人で合気道の訓練をしていると、あっという間に日数が過ぎ公爵達が別荘に遊びに来ました。公爵は予想通り、カトレアが直接ドリュアス領に来た事にへそを曲げていました。

 とりあえず公爵は放っておくとして、カリーヌ様にカトレアが持つ扇に興味をもたれたのは不味かったです。扇の説明から合気鉄扇術にまで話題が移り、護身術と言う言葉にカリーヌ様と母上が共感したのです。カリーヌ様の命令で普段の訓練風景を見せると、そこにカリーヌ様と母上が乱入して来て、何時の間にか旅行が強化合宿に変わって居ました。

 巻き込まれたルイズとエレオノール様は泣いていましたが、体を動かせるのが楽しいのか、カトレアは終始嬉しそうにしていました。(マルウェンの首輪の成長効果で、体力は姉妹2人を逆転しカトレアの方が上)しかしそれがカリーヌ様を喜ばせ、訓練がより過酷になったのはルイズとエレオノール様にとって悲劇としか言い様が無いでしょう。

 更に言えば、激しい訓練の所為で食欲を無くし、私が用意した(他の人達の評判は非常に良かった)食事にも手を付けられなかったようです。エレオノール様が「母さまの訓練は胸がやせるから受けたくないのよ」と、怨念のこもった声で呟いた時は、皆どう反応して良いか分からず困惑していました。

 帰宅日にカリーヌ様が、凄く良い笑顔で「また来るわ」と言ってましたが、ルイズとエレオノール様はカリーヌ様の後ろで必死に首を左右に振って居ました。この2人には心から同情します。

 ちなみに公爵は家族にほったらかしにされ、1人でいじけていました。私がカトレアの杖の事を相談しても、生返事しか返って来ないありさまです。仕方が無いので実物を見せると、正気に戻り製作者は誰なのか問い詰められました。内密にする約束で私が作ったと言うと、あきれられた上に“更に良い物を王家に献上すれば良い”と、投げやりに言われてしまいました。……この時、公爵に依頼されても絶対に何も作らないと決めました。





 カトレアに言われた事を検討した結果、マギ商会をガリアとアルビオンに進出させ情報を集める事にしました。

 表向きは商業路の開拓と規模拡大なので、それほど大きなリスクは背負わなくて済むでしょう。ここで集めた情報を元に、これから如何言った対応をするか決めて行こうと思います。

 私は今後の調整の為に、ファビオと頻繁に会談するようになりました。そんな時に、突然父上から呼び出されたのです。執務室に入ると、父上とカロンが話しが丁度終わる所でした。

「ギルバート。ファビオ。面倒な事になった」

 普段の父上の言い回しから想像すると、かなり不味い状況の様です。私とファビオは緊張して続きを待ち、父上も緊張した面持ちで続けます。

「クルデンホルフが、借金の返却を要請して来た。そして、借金を帳消しにする代わりにダイヤを奪われてしまった」

「なっ!!」

 現在クルデンホルフから借りている額は、60万エキューで去年分の利子を含めて63万エキューです。そこに、今年分の利子を含めると66万1500エキューになります。塩取引の利益が残っているとは言え、これほどの大金を即金で用意出来るはずがありません。それでも手形で急場をしのぎ、開発予算を見直して現金を用意する時間を作れるはずです。しかし、向こうの目的がダイヤを奪う事なら、即金で用意出来ない時点で抵抗は難しいです。

 それが分かっていても、私は驚きの声を上げてしまいました。何故なら……

「クルデンホルフ大公には、陛下から口利きをしてもらっているのではないのですか?」

「その通りなのだが、向こうは書状で一方的に借金の返済を求めて来た。そして返済不能と決めつけ、ダイヤモンドを徴収し借金を清算すると言って来たのだ。これは陛下に対する裏切りと言っても良いだろう」

「何故?」

 私が思わずそう聞き返すと、父上は首を横に振ったのです。

「原因は今のところ不明だ。……だが、ヒントが一つある。書状の送り主が大公ではなく、その弟のボップと言う男だった事だ」

 何ですかそれは? いや、お家騒動の可能性がありますね。

「そこで、クルデンホルフ大公家の現状を調査しようと思う。ギルバートには、その陣頭指揮をとってもらう。ファビオはそのサポートだ」

「「はい」」

「これは未確認情報だが、ロマリアンマフィアの生き残りがクルデンホルフに出入りして居ると言う情報もある。くれぐれも注意して行動してくれ」

 ただのお家騒動かと思ったら、一気にきな臭くなりました。勘弁してください。 
 

 
後書き
連投その3 
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