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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第42話 塩爆弾爆発!!でも私は不在です

 こんにちは。ギルバートです。本来ならカトレアとティアのお説教をしなければならないのですが、外せない仕事があった為に一睡もせずに仕事に行きました。(ドSモード全開なので、部下達は盛大にとばっちりを受けました)そして、帰ったら速攻でバタンキューです。(寝不足と過労が一気に出たらしい)

 目覚めてから真っ先に行ったのは、カトレアとティアを探す事でした。私の部屋に居なかったので、明け方だった事もありカトレアの部屋へ行きました。そこに居たのは、仲良く抱き合って眠っているカトレアとティア(人間ver)でした。

 ……ムカッ

 ええ 叩き起こしましたとも。熟成された怒りが大爆発です。

 覚醒していない2人を強制的に正座させて、思い切り殺気と怒気を叩きつけてあげました♪

「2人とも目が覚めましたか?」

 私は殺気と怒気を緩めることなく、カトレアとティアに言ってあげました。一気に覚醒した2人は、青い顔をしながらコクコクと頷きます。

「さて。私がなぜ怒っているか分かりますね?」

 私が笑顔で聞くと、2人はお互いを抱きしめ合いカタカタと震え始めました。その仲良しな反応に、私の怒りは加速します。

(昨晩あれだけの事をしておいて、その仲良しっぷりは如何言う事ですか?)

 とにかくお説教です。そして喉が疲れたら、無言でプレッシャーをかける事にしました。それから秘密のお仕置きをさせていただきました。内容は秘密です。ちなみに(肉体的な)拷問の類ではないと言っておきます。一応相手は女の子ですし。

 私の気がすんだのは、太陽が昇り切り昼を若干過ぎた頃でした。途中で使用人やディーネ、アナスタシアが呼びに来ましたが、私と目が合うと例外無く帰ってしまいました。如何したのでしょうか?

「まあ、今回はこれくらいにしておいてあげます」

 私のお説教終了宣言に、2人は物凄く喜びました。

「ティア。私たち生き残ったわ」「ああ。吾と汝は、あの地獄を生き残ったぞ」

 喜びを分かち合おうとした2人は、まだ地獄が終わってない事に気付いていませんでした。2人はお互いを抱きあおうとして、ぱったりと倒れたのです。

「あ 足が……足が痺れ」「足が……吾の足が……」

 あれだけ長時間正座をさせられれば、こうなるのは当然でしょう。

「ギ ギル。た 助けて」「主……」

 涙目で助けを求める2人を見ていて、つい苛めたくなってしまったのは私のせいではないと思います。

「あれ? ギル。何を……」

 不安の声を上げるカトレアに極上の笑顔を見せると、足を突いてあげました♪

「ひゃぁ~~~~ん やめ やめて」

 必死に懇願するカトレアをよそに、私はカトレアの足をさわさわと触り続けました。

 カトレアのやめてという懇願を無視し続けていると……。

「やめて やめないと!!」

「やめないとどうすると言うのです?」

 急に強気になったカトレアに、私は余裕たっぷりに聞き返しました。

「ふんぎゃーーーー!!」
「きゃぁ~~~~!!」
「ふにゃーーーー!!」

 返答が来る前に、三者三様の悲鳴が響きました。カトレアが《共鳴》を発動したのが原因です。私は2人分の痺れをまともに受け、悲鳴を上げ倒れました。カトレアとティアは、互いの分の痺れを上乗せされ悲鳴を上げる羽目に……。今後カトレアを苛める時は、こういった反撃を想定しなければならないと学びました。

 ちなみにこの時、居間にて白い少女が突然「ぎにゃーーーー!!」と、悲鳴を上げながら倒れ屋敷内が騒ぎになったのを後で知りました。



---- SIDE ティア ----

 暫く床に転がるはめになったが、何とか体が回復したのじゃ。主とカトレアもじゃれるのは構わぬが、吾を巻き込むのはやめてほしいのじゃ。

 そして待ちに待った昼食なのじゃ。朝食は説教でつぶれたので、空腹の吾には至福の一時に……ならんかった。

 主とカトレアが、吾が人の姿で食事をするのを見て、笑顔で「ティアにマナー教えないとな」「そうね。とっても楽しみ♪」と言っておった。吾はその笑顔に、恐ろしいほどの寒気を感じたのじゃが、直ぐにこの寒気の正体を思い知らされる事になったのじゃ。吾から言わせてもらえば「辛かった」としか言えぬのじゃ。まあ、主と同じテーブルで食事が出来るのは悪くないがの。

 昼食が終わり、主は仕事に出かけたのじゃ。主を見送り吾は一息つけると思っておった。

「ティアちゃん。ちょっとお話があるの」

 カトレアはそう言うと、返事も聞かずに吾を引きずり自室に連れ込んだのじゃ。

「で、話とはなんじゃ」

「ギルの事よ」

 カトレアの目は真剣じゃった。この吾が気圧されるほどの決意も感じたのじゃ。すぐにでも話は始まると思っておったが、カトレアは軽く息を吐くと紅茶を入れ始めたのじゃ。吾はこの動作から、話し始めれば長くなると感じ、吾は黙ってテーブルに着き、カトレアが紅茶を入れ終わるのを待ったのじゃ。やがて吾の前に紅茶が出され、カトレアは吾の正面に腰かけた。

「私達の関係ってなんなのかな?」

 唐突にカトレアが質問して来た。その視線は紅茶を見詰めたままじゃった。

「使い魔とその主じゃろ」

 カトレアが吾を見て居なかったので、客観的事実のみを口にした。

「主と呼ぶのはギルだけのくせに」

 ようやくカトレアの視線が吾に向いた。その表情は複雑その物で、感情を読み取る事は出来んかった。

「事実じゃろ」

「それもそうね」

 カトレアは小さくため息をつきながら応じた。

 そしてゆっくりとした動作で、紅茶を一口飲みカップを戻す。

 吾はそこにカトレアの迷いを感じた。じれったいとは思ったが、吾はただ待つことしかできんかった。やがてカトレアは眼を閉じ、決意を固めると口を開いた。

「私とギルとティアの関係ってなんなのかな?」

 先ほどの質問に主が加わっただけで、吾は答えを返す事が出来んかった。

「じゃあ、ギルとティアは?」

 “使い魔とその主”と言う答えは、自分の中の何かに抵抗されて呑みこんでしまった。

「ギルと私は?」

 カトレアの言葉に原因不明の苛立ちが込み上げて来る。気が付くと、思い切りカトレアをにらんでいた。

「ギルが女を欲していて……」

 目の前の色ぼけに、殺意がわいた。

「相手をしてくれって言われたらどうする?」

「えっ!?」

 それは吾の中に、まったく想定されていない質問じゃった。

「主がそんな事!!」

「私なら喜んで応じるわ」

「!!」

 吾は答えられんかった。

「ティア。あなたは求められたら、流されて体を許してしまうわ」

「そんなわけ……」

「だって、今のティアはギルの事を、男として見ているから……」

 吾は反論の言葉が出てこず黙ってしまった。自らの行動や感情を振り返えると、とても否定できぬ状況なのじゃ。いや、むしろ胸にストンと落ちる物があった。しかしそれは、更なる苦悩を呼び込む事となる。主は人間……そして、吾は竜……。

「私ね。欲張りなの」

「何を……」

「ギルも欲しいけど……」

 一瞬、主と同じ人間であるカトレアに殺意がわいたが、次の一言でそのすべてが吹き飛んだのじゃ。

「同じくらいティアも欲しい」

 一瞬、思考が完全にストップした。えーと……この女は何と言ったのじゃろう? 熟考し、言葉を噛み砕き、理解しようと努める。

「なな 何を考えておるのじゃ!! 百合なのか!? レズなのか!? 両刀なのか!? そんな性癖に吾を巻き込むな!!」

「ち ちが……」

「何が違うと言うのじゃ!!」

「……くも無いのか」

 吾は思わず椅子を引き、いつでも逃げられる体勢をとる。ダメなら《変化》を解いてでも……。

「私はギルを抱くし抱かれるわ」

 カトレアの言葉に、先ほどまで逃げ一辺倒だった思考が180度切り替わる。

「だがらティアも、ギルを抱いて抱かれなさい」

「なっ!!(何を考えておるのじゃ……このエロピンクは!!)」

「私はティアなら受け入れられる。ティアも私なら受け入れられるんじゃない? ……もちろん私に対する性的な意味は除外して良いわ」

 釈然としない物があったが、吾は頷いた。そして頷いてから気付いた。(これで吾もエロピンクの仲間入りか?)

「どの道私達の関係は、もう死以外で分かたれる事はないわ。なら、受け入れてしまった方が良いわ」

 微笑みながら言ってくるカトレアに、吾はため息を吐きながらも頷くしかなかった。そして再びカトレアの顔を見た時、吾は緊張した。先ほどと同じくらい真剣な表情で、吾の顔を見ていたのだ。そしてカトレアの口から紡がれたのは、詩だった。

虚毒(こどく)……それは、永劫の虚毒。家族の温もりは無く、弱き者には恐れられ、強き者は敵となる。心を通わせる者は無く、永い永い時を独り……故に(なんじ)が背負いし虚毒は、永劫の虚毒と言う。我は誓う。たとえ一時でも、汝の虚毒を癒さん事を」

 その詩は誓約じゃった。そして同時に心に来る物があった。やはりこの女は、吾の主に相応しかった。この詩に、吾も相応しい詩で返答せねばな……。

「虚毒……それは、死出の虚毒。静かに迫り来る死は、その者の心を歪め変容させる。心が違い過ぎる者は、温もりを感じあえる距離に居ても、心を通わせる事はかなわず……故に(なれ)が背負いし虚毒は、死出の虚毒と言う。吾は誓う。汝を理解し、その虚毒を払わん事を」

 所詮即興じゃからな、良い詩にはならんかったか。

「……うん。ありがとう」

 カトレアは吾の誓約の詩に微笑んでくれた。

「汝の人を見る力は、『理解したい』『理解されたい』という思いの産物であろう」

 突然の吾の言葉に、カトレアは理解が追いついていないようじゃ。いや、理解しておるのじゃろうが、呑みこめていないと言ったところか。

「じゃから、最も『理解したい』『理解されたい』と思う者に、その力は強く働くのじゃろう」

「!! ……そう そうね。その通りだと思う」

 カトレアは吾の言葉を呑みこめたのか、ゆっくりと大きく頷いたのじゃ。その顔は実に晴れ晴れとしておった。



「次にギルの事だけど……」

「主の事?」

 カトレアは一度頷き、話し始めた。

「ギルの虚毒は……」

「「異界の虚毒」」

 カトレアが言わんとしていたことが分かったので、つい合わせてしまった。話の腰を折ったにもかかわらず、カトレアは怒る事も無く頷いていた。

「そう。ギルは元はと言えば、マギの世界の人よ。そして、ディル=リフィーナで生まれ直してハルケギニアに移された。だからギルにとって、ハルケギニアは異界なの。ハルケギニアで家族や友人が出来ても、心の奥にこびりついた『ここは異界だ』と言う思いは、完全に無くなる事は無いと思う。それに拍車をかけて居るのは……」

 カトレアが言葉を切ったので、吾はその続きを口にした。

「ゼロの使い魔の原作知識……か」

 吾が答えを言うと、カトレアは深く頷いた。

「ギルは異界(ハルケギニア)で独りになる事を恐れている。だから家族や親しい人を凄く大切にする。その上自分が関わる事で、原作より不幸な人間が出てくる事を恐れている。ギルはいつもその不安と闘っている」

 吾はカトレアの言に頷く。

「ここまでならまだ問題無いわ。問題はディル=リフィーナの冥き途よ。ギルは死んでも、そこへ行くだけと言う認識があるわ」

「常人より生への執着心が薄いと言う事か?」

 しかし吾の質問に、カトレアは首を横に振って答えた。

「薄いなんてモノじゃないわ。異常よ。自分が死ねば悲しむ人間がいるのは分かっているのよ。それでも、自分か他の誰かの二択になった時、ギルは迷うことなく自分の命を切り捨てるわ」

 吾の背筋に冷たい物が走った。主に置いて逝かれる自身の姿が、やけにリアルに浮かんだのじゃ。

「今までは、1人で成し遂げる心算で躍起になっていたけれど、これからはティアにも協力してもらうわ」

「分かった。吾も全力で協力しよう」

 この時を持って、吾はカトレアと同盟を組むことになったのじゃ。竜たる吾は主が先に逝く事は知っておる。じゃが、下らない終わり方だけは認めぬ。

 ……そう。認めぬのじゃ。

---- SIDE ティア END ----



 新ドリュアス家本邸が、ほぼ完成しました。後は内装関連なので、家具職人達に丸投げしても大丈夫な状態です。別荘の方も劇場やスパ等、主要な施設はすべて完成しました。後は人員を確保して、運営するだけです。と言っても、劇場はその人員(優秀な俳優)を確保するのが難しいのですが。

 まあ、本邸の事が片付いてかなり余裕が出来て来たので、ゆっくりとやっていく事にしましょう。それよりもやっておきたいのが、ディル=リフィーナに渡って色々と仕入をしたいのです。魔法の道具袋も母上から返還してもらいましたし、向こうで換金する為の貴金属や宝石も用意しました。空になった体の管理も、木の精霊が協力を約束してくれました。おかげで私が寝たきりなると言う騒ぎが避けられます。後はタイミングを見て、ディル=リフィーナに渡るだけです。

 竹やスパイス・フルーツ系は、是非仕入たいです。カトレアの治療の為に、性魔術も覚えてこなければなりませんし……。

 オイルーンに乗って仕事場(本邸)から別荘へ帰宅中に、そんな事を考えていたら異変を感じました。私があわてて森に隠れると、頭上を大きな船が通りすぎたのです。百合をかたどったトリステイン王家の紋章が見えたので、恐らく王族が乗っている船でしょう。船の進路から考えると、どう考えても目的地はドリュアス家の別荘です。

 嫌な予感がした私は、ウエストポーチからティアを引っ張り出すと、《共鳴》を発動してもらいました。目的は別荘に居るカトレアとの念話です。

(カトレア。今 大丈夫ですか?)byギル

(大丈夫だけど、如何したの?)byカトレア

 カトレアからは了承の返事が来ましたが、レンの感覚がありません。恐らく寝ているからですね。

(今頭上を王家の紋章付きの船が通りすぎました。目的地は間違いなく別荘です。王家の来客など私は聞いていません。何か分かりませんか?)byギル

(王家? 私も聞いてないわ。今お父様達が来ていて、大事なお客が来るって言ってたけど……)byカトレア

(王家の来訪を主に隠すなど、何か後ろめたい事がある証拠と思うが)byティア

(王家……後ろめたい……!? アンリエッタ姫か!! カトレア。確認出来ますか?)byギル

(やってみる)byカトレア

 カトレアが父上達の所に向かったようなので、目を閉じ意識を集中してカトレアの感覚を拾うように努めます。

「お父様。本日は来客があると先ほどお聞きしましたが、如何言った方がいらっしゃるのですか?」

「おおっ。カトレアか。聞いて驚け。マリアンヌ様とアンリエッタ姫だ」

(カトレア。私は逃げるので、後の事はよろしくお願いします)byギル

(ちょっ……ギル。言い訳くらい考えてよ)byカトレア

(分かりました。とりあえず会話を引き延ばしてください)byギル

(分かったわ。その代わり、確りした言い訳考えてよね)byカトレア

(主なら問題なかろう)byティア

「どうしたのだカトレア。体調が悪いなら、部屋で休んでいた方が良いのではないか?」

 数秒とは言え黙ってしまったカトレアに、公爵が心配そうに声をかけました。 

「いえ、マリアンヌ様とアンリエッタ姫の来訪を聞いて驚いてしまっただけです」

「そうか? なら良いのだが」

 カトレアは王宮資料庫の事件を知っていたので、心配そうに公爵に話しかけました。

「しかし、ギルとアンリエッタ姫を引き合わせるのは、王宮の人達が良い顔をしないのではないですか?」

「なに。不幸な事故だ。仕方が無い。なあ、アズロック」

 カトレアの質問に、公爵は笑いながら答えました。

「はい。仕方がありません」

 公爵の言に父上が頷き、近くにいた母上達も頷いています。

(こいつら……グルだ)byギル

(みたいね)byカトレア

(じゃな)byティア

(しかし事故か……。ならやりようが有るな。カトレア……)byギル

 私はカトレアに作戦を伝えました。

(分かったわ)byカトレア

 カトレアはいまだに笑っている公爵に、笑顔で言ってあげました。 

「本当に事故が起こらなくて良かったですわ」

 はい。その場にいる大人達の顔が引き攣りました♪

「そ それはどう言う事だ?」

 公爵が焦りながら聞いてきました。

「どう言う事も何も、ギルは今日からドリュアス家の産業発展の為に、種や苗を入荷する旅に出ましたよ」

「き 聞いてないぞ。どれ位で戻るのだ?」

 父上も焦ってますね。

「さあ? ギルが言うには、2~3ヶ月くらいと聞いていますが」

 カトレアの答えに、父上達はうなだれました。父上の口から「逃げられた」と聞こえたのは、気のせいと言う事にしておきましょう。

「あなた。アズロック。これは如何言う事かしら?」

 しかもカリーヌ様が、怒り心頭の様子です。……あっ。父上達が外へ引きずって行かれました。

(なるほど。多分だけど、今回の首謀者はマリアンヌ様で、協力を依頼されたのがお母さまね。お父様達はギルの予定を調べていたと……)byカトレア

 状況を冷静に分析するカトレアの様子に、公爵が少し哀れに思えたのは秘密です。

(それは御愁傷様です。同情はしませんが)byギル

(まあ、仕方が無いの)byティア

(しかし、魔法の道具袋が手元に戻って来ていて助かりました)byギル

(で、どれくらいで帰ってくるの?)byカトレア

(事前に言っておいた通り2~3ヶ月です。どんなに遅くとも、3月(ティール)の上旬ないし中旬に帰っています)byギル

(…………ふーん)byカトレア

(性魔術の習得の為でもあります。拗ねないでください)byギル

(拗ねてないわよ。まあ、仕方が無いわね。なるべく早く帰ってきてね)byカトレア

(分かってます。それじゃ行って来ます)byギル

 私はそう言うと、《共鳴》が切れました。さて、とりあえず行きますか。

「イル。精霊の大樹へ向かいます」

 私が声をかけると、オイルーンは「応」と答え精霊の大樹への進路をとりました。



 精霊の大樹の所まで行くと、鳥に《変化》したレンが合流しました。

「レン。お疲れ様です。魔法の道具袋は重くなかったですか?」

「それは問題無しじゃ。……それより気持良く寝ておったのに、カトレアに叩き起されたのじゃ」

 レンの恨み事を聞き流し、魔法の道具袋を受け取るとレンは猫の姿に《変化》しました。私はレンを抱きあげ、大樹の前に移動します。

「木の精霊よ。姿を見せてください」

 私が声をかけると、木の精霊は直ぐに出てきてくれました。

「待っていたぞ。重なりし者よ。直ぐに他の精霊達も呼ぶ」

(?? 何故?? 私の体を預かってくれるだけじゃなかったのですか? 別の話と勘違いしているのでしょうか?)そう思っている内に、他の精霊達が集まって来ました。精霊達の様子は、以前王都へ行った時より浮ついているようにも見えます。

「あの……私の体を預かってもらうだけなのに、何故他の精霊を呼ぶ必要が……」

「折角の機会なのだ。吾だけで楽しむの味気なかろう」

 楽しむ? 何故? 体を預けるだけなのに……。

「食事と言う概念は我々精霊には無いからな。楽しみだ」

 なんか土の精霊が、聞き捨てならない言葉を口にしたような気がします。

「単なる者達の町を、自由に動き回れるとは楽しみだ」

 はい。水の精霊の一言で確定です。精霊達は私の体を使って、人の町を冒険する気満々です。今からダメと言っても、通用しないでしょう。ならば条件付きで認めるしかありません。

「精霊達よ。私の知り合いと鉢合わせすると、面倒な事になると予想されます。せめて変装を……」

「《変化》を使うから問題ない」

 木の精霊が答えてくれました。それなら問題はありません。後は精霊達が騒ぎを起こさない様にするだけです。……と、思う事にしました。将来禿げたくないし。

「ティア。これを預けておきます。精霊達が騒ぎを起こさない様に見張っていてください」

「わ 吾がか!?」

 ティアに財布を渡して、精霊達の事を頼みます。財布の中には、500エキューちょっと入っているので足りなくなる事は無いでしょう。面倒事を押し付けるようで申しわけありませんが、ティアにしか任せられないのです。(手が空いていて、秘密を守れて、人型になれて、人間の常識があるのはティアだけ。レンは人間の姿が低年齢すぎるので除外)

「お願いします。後カトレアには、この事を連絡しておいてください」

「わ 分かったのじゃ」

「特に水の精霊の行動には、細心の注意を払ってくださいね」

 本人(本霊?)に聞こえていますが、そんなこと気にしていられません。十分に念を押しておきます。

「そろそろ良いか?」

 振り向くと水の精霊がやたらと近くにいました。

「では、逝って来い」

 水の精霊はそう言いながら、私の霊体を体がらはじき出しました。



 気が付くと、冥き途に居ました。さて、リタとナベリウスの所へ……。

「あ あるじ~。ぐす おいてかないで~」

 声がした方を見ると、死者に囲まれ半べそ状態のレン(猫ver)が居ました。私が抱いたままだったので巻き込まれた様です。私はため息をつくと、レンを抱きあげてリタとナベリウスの所へ向かいました。



---- SIDE アズロック ----

 ギルバートに逃げられたせいで、本当に酷い目にあった。唯一の救いは事故を装う為に、ギルバートの事をアンリエッタ姫に伝えてなかった事か。全く、どうやって今回の事を察知したのか、後で問い詰めなければな……。

 いっそ正面から「アンリエッタ姫に会え」と、命じてみるか? いや、そうすると「父上は私を過労死させる気ですか?」とか、凄く良い笑顔で言われそうだ。そうなると、間違いなく家族全員敵だな。……やめておこう。

 しかしマリアンヌ様とアンリエッタ姫が、当家の温泉を気に入っていただけたのは僥倖だった。この様子なら、年に数回ほど当家の別荘に保養に来ていただけるかもしれない。当家にも箔が付くと言う物だ。料理もガルガンダイン(以前ギルが謎の魚と言っていた魚。高級魚)の塩包み焼きを、相当気に入っていただけたようだ。

 滞在期間は3日と短かったが、御2人ともご満足いただけた様だ。これから年末行事などで忙しくなるので、王家の御2人には英気を養ってもらえたと思う。今回は3日と滞在期間は短かったので良かったが、これからは劇場などの娯楽施設が使えるようにし、長期の滞在に耐えられるようにせねばな。

 全体の収支で黒字を出すにはまだまだだが、領の経済状態も上向きになって来た。やはり一番の懸念は、塩の件が上手く行くかだな。もうトリステイン中に塩の在庫は配備してあるし、やれる事はやって結果を待つだけの状態だ。とは言え、事の大きさを考えるとやはり緊張するな。



 年も明け始祖の生誕祭も無事に終わった。予定通り私は王宮へ呼び出された。

「失礼します」

 議場に入室すると、早めに来ていたはずだが陛下は既に席にお付きになっていた。私の後に議場に入室した者達も、陛下が既に来場されていた事に少なからず驚いていた様だ。

「これより、塩高騰対策会議を始める」

 司会進行役は、またマザリーニ枢機卿の様だ。塩の高騰は領地を持つ貴族にとって、かなり神経質になる問題だからだろう。司会進行役を任せられる立場の者で、領地を持っていないのは彼だけだったと言う事か。

「先ずは、ドリュアス侯爵。昨今の塩の値段高騰の原因をご説明願います」

「ハッ!!」

 私は立ち上がり、説明を開始した。

「当家の塩田設立により、海水塩が非常に安価に出回るようになっています。また、ゲルマニアからの岩塩供給量は、例年と変わらぬ量を……いえ、むしろ例年より供給量自体は増えています。本来ならば、この状況で塩の値段は下がるはずなのです。しかし、現実に塩の値段は上がっています」

 ここでいったん切ると、周りの者達は一様に渋い顔をした。

「当然調べましたが、国外に塩が流れている形跡はありません。巧妙に隠してありますが、一部の人間が塩の買い占めを行っている様です。これは明らかに、トリステイン経済にダメージを与える反逆行為です」

 私の言葉に、議場がざわめきに包まれた。

「しかし証拠が無ければ、反逆者共を捕まえる事は出来ぬぞ」

 陛下の発言に、議場が緊張に包まれた。陛下が塩を買い占めている者達に対し、反逆者とはっきり言ったのが原因だ。

「しかし陛下。領主にとって、塩を含めある程度の備蓄は責務です」

 文官の1人が、あわてて陛下に進言する。

「言いたい事は分かるが、限度と言う物がある。昨今の塩高騰の不安により、ある程度の備蓄の増大は大目に見る」

 陛下の言葉に、明らかにホッとした表情を見せる貴族が数人いた。逆に顔色が悪くなった者も居たが……。

「反逆者を捕えるにも証拠が居る。証拠をそろえるにしても、相当の時間がかかる。それまで高騰した塩の値段を、放置しておく事は出来ぬ。よって急場をしのぐ為に、ゲルマニアに岩塩の供給量を増やしてもらう為の使者を送ろうと思う」

 当然と言えば当然の流れだろう。そして、この大任を受けるのは……。 

「ドリュアス侯爵。我が書状を預ける。ゲルマニアのアルブレヒト3世に見事届けて見せよ」

「ハッ!! 一命に変えましても」

 陛下にとって、ここで「岩塩輸出量増加の交渉をしろ」と命令じないのが重要だ。失敗すると分かっている交渉を命じて、アホ共に処分の口実を与える訳には行かない。私に課せられた任務は、あくまで書状を届ける事だけなのだ。その証拠に、悔しそうにこちらを見ている者が何人か居た。しかしこれで、失敗した時の責任が陛下に行く事になる。まあ、その対策がこれからの話しだ。

「それからドリュアス侯爵」

「ハッ!!」

「以前命じていた塩の増産と備蓄は上手く行っているか?」

「はい。ご命令にあった備蓄量の方は何とか。いつでも放出可能ですが、放出したしますか?」

「いや。必要なら追って指示する」

「ハッ!!」

 これで全ての種がまかれた事になる。私と陛下は(表面上)何一つ嘘をついていない。周りの人間は私と陛下の話を聞いているだろうが、所詮大した量で無いと思っているだろう。実際の塩の備蓄量は、トリステイン王国の一年分を裕に越えているが……。

 ここまでで私の出番はほぼ終了となる。ここからは公爵を中心に、反逆者捕縛の為の話となる。内心で「本来なら私の専門はこっちなのだがな」と、ボヤしてしまったのは私だけの秘密だ。



 ゲルマニア王のアルブレヒト3世への謁見は、驚くほど簡単に終了した。書状を渡し一晩待たされて、帰る前に返事を持たされるだけの簡単なものだった。急ぎの書状であった為、移動に風竜を使ったので3日で帰ってこれた。正直に言ってあっさりしすぎたと思う。

「陛下。アルブレヒト3世からの返書をお預かりしてまいりました」

「ドリュアス侯爵。ご苦労だった。返書をこちらへ」

 陛下の隣にいた文官が、私から返書を預かり陛下にお渡しする。陛下は返書を広げ返書に書かれた文章を目で追うと……。

「なんだこの返答は!!」

 分かっていた事とは言え、かなり頭に来た様だ。それとも演技だろうか?

「陛下。恐れながら返書には何と……」

 私がそう聞くと、陛下はため息を吐いた。

「断ってくる可能性は考えていたが、輸出量を削減もしくは輸出自体を停止すると言って来た」

 陛下の言葉に、謁見の間は騒然となった。そして口々に私を非難する言葉が上がった。「ドリュアス侯爵が、何か失礼を働いたに違いない」と言った内容だ。中には私の処罰を求める声もある。

「侯爵。この事態をどうする?」

 陛下がプレッシャーをかけながら聞いてくる。

「当家の備蓄を放出するしかないかと……。その上で、買い占めを行っている者を何とか出来れば……」

「備蓄の放出は許可する。そして、明日に対策会議を行う事とする。また、無用な混乱を防ぐため、ゲルマニアとの交渉失敗の口外は堅く禁じる。破った者には、相応の罰を与える」

 陛下はそう言い残して、退出してしまった。これでドリュアス家は終わりと言うイメージを、植え付けられたはずだ。

 謁見終了後に、アナスタシアの縁談話が大量に来た。明らかに精霊の交渉役を狙った縁談だ。こちらが弱っていると思い、こんな話を持ち出したのだろう。当然すべて断ったのだが、余裕面して「後悔なさいますよ」等と言われた時には、チンケな家ごと叩き潰してやろうかと思った。後悔するのはお前等だ。



 対策会議は昼過ぎに開始する事になった。当然上級貴族は、全員参加が義務付けられた。参加者の中には、やたら上機嫌なリッシュモンも居た。議場の中は、私を嘲る者が殆どで一部同情の視線も混じっていた。

「これより、第二回塩高騰対策会議を始める」

 司会進行役は、前回と同じでマザリーニ枢機卿が受け持っていた。

「昨今の塩高騰は、一部の者の買い占めが原因であることが分かった。しかし、そう言った者達を捕まえるにも証拠が居る。証拠を固めるには、当然多くの時間が必要とされる。よってその一時をしのぐ為に、ドリュアス侯爵がゲルマニアに岩塩輸出量増加を嘆願する使者としておもむいた。しかしゲルマニアは、我が国の要望に応えないばかりか、輸出量の削減もしくは輸出自体を停止すると言ってきた。この事態を受けて我々は……」

 マザリーニ枢機卿の説明が長々と続いているが、議場には悲観的な表情を浮かべている者は居なかった。それと言うのも、ゲルマニアが岩塩の輸出を停止する事等あり得ないからだ。今回の返答は、こちらの譲歩を引き出すためのブラフにすぎない。もし本当に岩塩輸出を停止しようものなら、トリステインとゲルマニアは戦争するしかなくなるのだ。そうなれば、ガリアに漁夫の利を拾わるのは分かり切っている。

 多少の譲歩を引き出すだけなら、ここまで強硬な姿勢を見せる事は無い。どこぞの馬鹿が金を積んで、ゲルマニア貴族を焚きつけたのが原因なのは、この場に居る全員が分かっているだろう。アルブレヒト3世は今回の一件を利用し、トリステイン外交を有利に進めたいのだろう。全ての原因がトリステイン貴族にあるのならば、今回の件に関してトリステインは譲歩に応じるしかないからだ。

 ……しかし、この外交危機を理解している者が、果たしてこの中に何人いる事か。私の処分どころではないだろうに。

「陛下。これから起こる塩の高騰は、輸出量増加を断られたドリュアス侯爵にあります。侯爵に処罰を与えねば、内外に示しが付きません。どうか侯爵の処罰をご検討お願いします」

 ほら出てきた。あいつはリッシュモンと懇意にしていた貴族(バカ)だったな。

「必要無い」

 それに対して国王の返答は、実に簡潔なものだった。

「!! ……しかし!!」

「くどい!! ドリュアス侯爵は、我が書状を届けただけだ。その返答が満足な物で無かったからと言って、処罰するなどありえん事だ」

 国王が私を処分しないと明言した事で、議場がざわめきに包まれる。これで今回の件にかかわったのは、国王陛下のみと言う事になる。まさか、国王を処分する訳には行かない。普通なら私に責任が無くとも、王家の威信を守る為に私を生贄にするところだ。

「ですが塩高騰の責任は如何されるのですか?」

 もっともな意見である。

「なに。塩がこれ以上高騰しなければ、誰の処分も必要ないだろう」

「既に手遅れです。ゲルマニアとの塩取引停止の噂の所為で、塩の値段は凄まじい勢いで上がってます」

「ほう。口外は禁じ、厳しく罰すると宣言したはずだがな」

 陛下が不敵な笑みを浮かべると、私に視線を向けた。

「ドリュアス侯爵。塩の放出は如何なっている?」

「ハッ!! 既に第一陣が市場に出回っている頃と思います」

 私の返答に、陛下は満足そうにうなずいた。

「これで当面は、塩の価格上昇を抑えられるだろう。とにかく今はこれからの事について話し合うぞ」

 国王にこう言われては、今は頷くしかないだろう。

---- SIDE アズロック END ----

---- SIDE 行商人??? ----

 トリステイン王都であるトリスタニアに行商に来たのは、ただの偶然だった。酒場で酒を飲んでいると、塩の話題を偶然耳にしたのだ。なんでもゲルマニアとの岩塩取引を、バカな貴族の失敗で止められたというのだ。俺がこの噂を聞いた時には、下らないと思っていた。しかし儲け話の臭いもしたので調べてみると、これは貴族の権力争いである事が分かった。本来出るはずが無い噂が大々的に流れているのは、被害を出来るだけ大きくしてドリュアス侯爵の面目を潰すのが狙いなのだ。ならば、この機に儲けない手はないだろう。

 次の日の早朝に、俺は塩取引会場に来ていた。混乱と被害を増大させる為だろう。本来なら許可証が無ければ立ち入れないはずなのに、警備の人間にわずかな賄賂を贈っただけで簡単に入れた。これは普段なら考えられない事だ。会場にはトリステインの商人を、全員集めたのではないかと言うくらいに人でごった返していた。俺の同類もいるはずだが、塩を確保しておきたい商店の人間が集まったのが原因だろう。なんにしても、これなら安全に取引出来そうだ。俺は開始から塩を買いまくり、ころ合いを見て塩を売りこの場から逃げ出す事にした。塩さえ手元に残しておかなければ、証拠など残らないのだから。

 取引を開始した時点で、塩の価格は既に例年の2.4倍に達していた。それでも俺の資金が有るだけ塩を購入した。開始わずか1時間で、俺の資金は底をついてしまった。所詮は行商人の資金だから、それは仕方が無いだろう。しかし塩の値段は、際限なく上がり続けている。午前の取引が終了する時に、例年の50倍を超えていたのは何の冗談かと思った。原因は身なりのやたら良い商人が、馬鹿みたいに買っているからだ。

「気分が悪いな」

 今回の件で生贄にされたドリュアス侯爵は、平民だけでなく我々商人にも評判の良い貴族だった。特に侯爵が子爵時代に設立したマギ商会は、俺達商人にとってあこがれの存在だったと言える。損して得取れを地で行く経営戦略は、今の商業界では革新的な物だったからだ。

 先ず物を高く買う事により、民に金を与える。金を得た民は、良い道具や物を買い豊かになり商会が儲かる。良い道具を得た民は、より良い物をたくさん作り商会に売る。良い商品が集まれば、商会はより儲かる。……今までのハルケギニアでは考えられない好循環だ。良い領主、誠実な商会、忠誠心あふれる民、そして思想。すべて揃わなければ、とても実現しない奇跡と言って良いだろう。……それが壊れようとしている事に、俺は柄にもなく一抹の寂しさを感じていた。

「午後の取引開始まで時間は……。まあ良いか。気分転換に少し散歩するか」

 俺はやるせない気分を紛らわすために、少し歩こうと思った。もう午後の取引が始まるが、どの道塩の値段は上がる一辺倒なのだ。会場にかじりついている意味は無い。俺は散歩をする為に、裏へと向かった。表を歩いて警備に捕まり、また賄賂を要求されるのもつまらないからだ。

 歩いていると数台の馬車が、裏口から入って来るところだった。興味をひかれた俺は、気分がまぎれると思い馬車の持ち主らしき中年の男性に話しかけた。

「こんにちは」

「おう。こんにちは」

 中年……いや、もう初老と言って良い男性は挨拶を交わしながも、荷降ろしの作業を止める事が無かった。ここにきて自分が邪魔にしかならない事に気付いて、内心“失敗した”と思った。

「若いの。あんたは塩の取引で儲けに来たんじゃないのかい?」

 手を止めることなく相手が聞いて来たので、俺は正直に答える事にした。

「その心算で塩を買ったんですがね……」

「ほう。何かあったのかい?」

 そこで初めて手が止まり、中年の男性はこちらを見た。その鋭い目は、(まさ)しく歴戦の商人の物だった。

「自分の浅ましさに、ちょっと自己嫌悪をね……」

「ふん。そうかい。なら気持ち良く行ったらどうだい」

 俺よりもかなり年上のはずの男性の顔が、まるで少年の様に思えた。そして彼は、何事もなかった様に荷降ろしを再開する。

「あっ 申し遅れました私はジルダと言います」

「俺はギスランだ。マギ商会に所属している」

 ギスランがマギ商会所属と聞いて驚いた。積み荷は良く見たら塩だ。しかし現状の塩の値段を下げるには、あまりにも少ない量だった。たわいない会話をしていると、荷降ろしは直ぐに終わった。すると「カロン。俺は戻るぞ!!」と言って、馬車を引き始めた。

「ジルダ。さっきも言ったが、たまには気持ち良く行ってみたらどうだい」

 ギスランは最後にそう言い残して、行ってしまった。

「そうだな。たまには気持ち良く行ってみるか」

 俺は会場に戻ると、塩の値段は60倍まで跳ね上がっていた。俺は迷うことなく、自分が持っている塩を盛大に売り払った。少し気持ち良かったが、十倍以上に膨れ上がった財布が少し重かった。俺は無意識のうちに、ギスランに会った裏口に来ていた。驚いた事に、そこではギスランがまた積み荷を降ろしていた。

「おう。ジルダ。また来たのか」

「あれ? 先程荷を降ろして帰ったのでは?」

 ギスランはまた少しだけ手を止めると、少年の様に……いや、子供が悪戯を成功させた時の様に笑った。

「それよりお前、買った塩は如何したんだ?」

「気持ち良く全部うっぱらいましたよ」

 そう言うとギスランは、笑顔で「ジルダ 正解だ」と言った。何が正解なのか聞こうとしたら、先にギスランが答えた。

「お前ならもうわかってんじゃないのか? 会場に高みの見物に行ったらどうだ」

 そう言うとギスランは、再び馬車を引いて出て行った。俺は頭をよぎった物が信じられずに、確かめたくて会場に戻った。塩の値段は俺が売った時と変わらず60倍くらいだったが、会場の雰囲気が少し変わっていた。何とも言えない緊張感に包まれていたのだ。これは本来先物取引の場にあるべき空気だ。

「俺はまだ資金が有る。買うぞ!!」

 まだ数人の商人が塩を買っていたが、塩の値段は一向に上がらなかった。最後の買いが処理されて、永遠ともとれる緊張した時間が少し経つと……、提示された塩の値段は一気に50倍程度まで落ちた。それを見た商人は全員売りに入る。もはや会場はパニック状態と言ってよいだろう。

 このまま阿鼻叫喚の地獄絵図を見て居ても良かったのだが、なんとなくそんな気になれず俺は裏に戻った。裏で暫く待っていると、再びギスランが馬車を引いて来た。積み荷はまた塩の様だ。一体マギ商会は、どれだけ塩の在庫を持っていたのだろうか? 俺は思わず顔を引き攣らせた。

「塩はまだまだ来るぞ」

 嬉しそうに言うギスランに、俺はまた顔を引き攣らせた。

「一体どんだけ在庫持ってんだよ!!」

「トリステイン1年分」

「い いち!!」

 ギスランは、固まる俺の腕を引きながら。

「ほら。手伝え」

「いや、手伝えって」

 結局俺は、そのままマギ商会の手伝いをするはめになった。だが俺は言いたい。

「塩の在庫多すぎだ!!」

「黙って運べ!! 終わんねえだろう!!」

 明日絶対に筋肉痛だ。俺はこの時そう確信した。



 全て終わった時には日が暮れていた。そして魅惑の妖精亭と言う、マギ商会の祝賀会の会場らしき場所に連れて行かれた。そこで落ち着いて話を聞くと、馬鹿貴族共がドリュアス侯爵を罠にはめようとして、逆に罠にはめられたという話だった。そして作戦名「塩爆弾大作戦」は無いだろう。まあ、おかげで財布の中身が気分の良い物になったから良しとしておこう。

 次の日に目が覚めると、魅惑の妖精亭の床に転がっていた。

「おう。ジルダ。目が覚めたか?」

「ああ」

 俺は頭を振って、寝ぼけた頭の覚醒を促す。筋肉痛に加え、二日酔いのダブルパンチだ。ハッキリ言って辛い。

「ほら!! キリキリ片付ける」

 声がした方を見ると、10歳位の黒髪の女の子にせかされて全員片づけをしていた。顔色とのそのそした動きで、グロッキー状態なのが良く分かる。

「ジェシカ嬢ちゃんにはかなわんな」

 ギスランは困ったように言いながらも、手を動かしていた。

「ああ。それからジルダ。お前マギ商会に入れ」

「分かった。……? はい?」

 今俺は何を言われた?

「お~い。カロン。ジルダ。OKだってよ」

「分かった。手続きするからジルダは後で商会まで顔を出してくれ」

 ちょ 俺の人生勝手に……まあ、いっか。

---- SIDE 元行商人ジルダ END ----

---- SIDE アズロック ----

 会議が始まって既に5時間近く経っただろうか。会議が終わりにさしかかり、また私を罰するべきだと言い始める馬鹿が出て来た。

「陛下。そろそろ良いのではありませんか?」

「分かった。ドリュアス侯爵。許可する」

 陛下の許可が出たので、馬鹿共の前でドリュアス家の塩田がトリステインの年間消費量を裕に賄える事を暴露した。

「今まで王家に虚偽の報告をしていたのか?」

 数人の貴族が怒りを露わにするが、そんなこと私には関係ない。と言うか、今私が陛下の許可を取ってから喋ったのを理解していないのか?

「陛下の命令で、本当の生産量は伏せさせていただきました。トリステイン国内の貴族に、ガリアやゲルマニアに通じる者がいる様なので……」

 私がそう返事すると、陛下が頷いた。

「実際、ガリアには先手を打たれて、法外な税金をかけられました。そして今回の騒ぎは、塩の値が高騰するのを私の責任に出来ると言う事で、塩を買い占めている者が出て来た事が原因です。また、この情報をゲルマニアに漏らした者がおり、外交上の劣勢を余儀なくされる所でした。それを当家の塩田の生産力が、トリステインを救ったと言って良いでしょう」

 私がそう言うと、黙る以外の選択肢は無い。元よりドリュアス家には何の落ち度もないのだ。

「ドリュアス侯爵。塩の高騰の不安により、理不尽に高い備蓄をする羽目になった者も居るのだ。そう言った者達は侯爵が塩田の生産量を偽っていなければ、このような出費をせずに済んだのも事実だ。侯爵は命令に従っただけとは言え、それが原因で領地経営が苦しくなった者も居るだろう」

 殆どの貴族が国王の言葉に頷いていた。まあ、トリステインは見栄ばかりの貧乏貴族が多いからな。買い占めを行った馬鹿貴族はともかく、今回の一件に煽りを食らっただけの貴族は、敵に回したくない。ならば……。

「でしたら塩の備蓄に使った分の金銭を、補償すると言うのはどうでしょうか?」

 私の言葉に殆どの者が難色を示した。

「その予算はどこから持ってくるのですかな」

 ここで初めてリッシュモンが発言した。その表情は引き攣っている。と言うか、今にも倒れそうな表情をしているな。まあ、ドリュアス家の塩田の真の生産量を知ったのだ。今頃外で何が起こっているのか、想像が付いているのだろう。

「当家が負担しましょう」

 きっぱりと言い切った私に、リッシュモンはまるで金魚の様に口をパクパクさせる。

「この会議開始直前の塩の値段は、例年の50倍に達していたそうです」

 議場に悲鳴の様なざわめきがもれる。

「これを落ち着ける為に、当家が保有していた塩を一気に放出しました。量で言えば、トリステインを1年分賄える量です。今頃トリステイン中の塩の値段は、例年を大きく下回っているでしょうね。まあ、安くなり過ぎない様にある程度買い戻します。その点はご安心ください。また、今回の塩の放出で莫大な金額が当家に入りました。それを今回の補償に当てましょう。ただ……、備蓄と呼べる量をはるかに超える物は、補償いたしかねます」

 やっぱりな。リッシュモン含め数人の貴族が、物凄く青い顔をしている。殆どの貴族は、胸をなでおろしているが。

「ドリュアス侯爵の言うとおり、逸脱した備蓄は保障出来ない。また、明らかに買い占めとみられる量を確保していた者は、宣言通り反逆罪を適用する。具体的にどこまでが備蓄で、どこからが買い占めかはこれからドリュアス侯爵を交え話し合って決定する」

 陛下はそこまで言うと、解散を宣言した






 結局 適正な備蓄量は3ヶ月分となり、今回の混乱により6ヵ月分まで補償する事となった。補償額の算出は(国に報告されている領民の数)×(1人が1日に消費する平均食塩量)×(塩の値段・例年の3倍)×(6ヵ月分)となった。ここまでは補償し、これ以上は過剰として自己責任とした。まあ、証書の提出を義務化しなかったので、殆どの貴族が補償額の限界まで受け取ろうとするだろう。仮に全ての領地に、限界まで補償させられたとしても今回の儲けの1割にも満たないのだが。ちなみに1年分を超えると、反逆罪適用である。

 リッシュモンは仲間を生贄にささげ責任回避を行った。かなり周到に準備していたらしく、リッシュモンが関与した証拠を見つける事は出来なかった。本当にゴキブリ並みにしぶとい男だ。

---- SIDE アズロック END ---- 
 

 
後書き
連投連投~~。 
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