魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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ここは海鳴、始まりの街 ~追憶の旅路そのいち♪~
†††Sideはやて†††
これからすずかちゃんとアリサちゃんに、ルシル君とシャルちゃんの事を話すため、私らはアリサちゃんの家に向かっとる最中。予定やと集合場所は翠屋やけど、すずかちゃん達とするんは魔法関係の話。
魔法を知らん一般の人がおる翠屋やと色々不都合とゆうことになって、アリサちゃんの家に集まることになったんが今朝の7時前、アリサちゃんからの連絡で決まった。私となのはちゃんのうっかりミスが今回の事態を招いたと思うと、やっぱり気が滅入る。
「でもさはやて。これっていい機会だってあたしは思うよ? やっぱさ、アイツ・・・シャルロッテはみんなの心ん中にいたほうがいいと思う。アリサさんやすずかさんにも、あたしとしては憶えてなくてもせめて知っておいてほしい」
「ヴィータ・・・」
「・・・なんて、らしくねぇこと言っちまった。やっぱ今の無し」
ヴィータはすごくええこと言うたのに、恥ずかしがって今の話を撤回するって言いだした。そこにシグナムが「そう思っているのはお前だけではない。私もそうだ」って言って、それはもう優しげな眼差しをヴィータに向けた。
「やめろっ、そんな目で見んなっ」
「ヴィータちゃんはいつまで経ってもテレ屋さんですね~♪」
「うっせぇよリイン! あ、シャマルもそんな目しやがって!」
「えええっ? 普通にしてたのに怒られたっ!?」
「姉御、諦めて素直になれって。シャルさんの事大好きだったんだろ?」
「ち、違っ、バカそうじゃねぇよっ! やっぱ友達としてだな・・・!」
「だからそういう意味での、好き、なんだろう? なぁ、アギト?」
「おうよっ。姉御は一体何を勘違いしたんだ?」
シグナムとアギトのやり取りに、ヴィータが今まで見せたこと無いくらいに顔が真っ赤になった。ヴィータはアギトの“好き”ってゆう単語にどんな意味を持たせたんやろうな~♪ 俯いて肩を震わすヴィータ。ちょっ、アカンよヴィータ。こんな朝っぱらから叫ん――
「~~~~っ! 敵だっ! お前ら全員あたしの敵だっ、バカヤローーーーッ!!」
「む? 何故話に絡んでいない私まで敵なんだ?」
だら~~~~・・・。思い空しくヴィータは絶叫。リエイスはリエイスでいきなりのヴィータからの敵対宣告で困惑。
日曜の朝。時刻は午前8時過ぎ。せっかくの休日、朝寝坊をしたいとか思っとるかもしれん人が少なからずおるはずの住宅街。その住宅街の中心で怒りを叫ぶヴィータ。私らはそこから逃げるようにして全力ダッシュ、ええタイミングで停留所に停まったバスに乗る。
「「「ヴィータ・・・」」」「「ヴィータちゃん・・・」」「姉御・・・」
「わ、わりぃ・・・。で、でもお前らだって悪いんだからなっ」
まぁそんなこんなで、なんとか運良くアリサちゃんの家方面に向かうバスに乗れて、私らはアリサちゃん家に向かう。その途中、私とヴィータの後ろの座席に座るリエイスが身を乗り出してきて、
「主はやて。御友人にルシリオンとシャルロッテについての話をする際、やはりアルバムや映像を見せながら、ですか?」
そう訊いてきた。私は「まぁそれしか方法ないしな」って答える。魔術師のルシル君ならいろんな方法を選べるんやろうけど、今のルシル君は私らと同じ魔導師や。ほとんど万能と言える魔術はもう使えへん。そやったら、私らは根気よー話すしかない。フェイトちゃんからも、エイミィさんにルシル君の真実を話した、って連絡が来たしな。
――エイミィだけどね、信じてくれたよ。ルシルと初めて顔を合わせた時、私とのやり取りを見て、昔からの付き合ってるみたいに仲良過ぎって思ってたんだって。だから、アルバムとかで見せた写真や映像もすんなり受け入れてくれたよ――
ルシル君がエイミィさんと裁判前には会っとった事は話に聞いとる。その時はその場に居らんかったからどういうやり取りをしたのかは詳しく知らんけど、エイミィさんにとっては初対面になってしまうルシル君。そのルシル君と、十五年以上家族として過ごしてきた義妹ちゃん、二人のやり取りを見てそう思うんなら、それはもうお熱い感じやったに違いない。
(シャルちゃんが知ったらどんな風にルシル君をからかうんやろ?)
それはもうハイレベルなからかいに違いない。そんな事を思っとるとリエイスが、
「もしかしてお忘れですか? ルシリオン以外に魔術を扱える者がもう一人いることに」
静かな口調で言ってきた。リエイスに言葉に一瞬だけ思考が止まる。そしてすぐに理解する。そうや、リエイスは言うとった。セレスの指示でルシル君の魔術ヴァルハラによって召喚されたエインヘリヤルで、その後にセレスの“ディオサの魔道書”によって想いとして確立された。
で、マスター権をルシル君からセレスに変更、そして“テスタメント幹部”になった存在・・・やったっけ? まぁええわ。リエイスは魔術でその存在を今も固定されとる、この世界でただ一人だけの魔術師でもあるとゆうことや。
「私の中には、ルシリオンから受け継いだ魔術式が多く保管してあります。複雑すぎる術式は単独では完璧に扱えませんが、ですが何か役立てることがある思います」
単独では、なぁ。ユニゾンすれば出来るゆうことやな。
「・・・・そやな。ルシル君にちょっと訊いてみるわ」
通信端末を取りだして、ルシル君宛てにメールを送信。リエイスの力が役に立つとええなぁ。
†††Sideはやて⇒ルシル†††
通信端末に送られてきたはやてからのメール。内容は、リエイスの魔術(元々は全部私のモノだ。サフィーロの時に大半を蒐集されていた)を使って、すずかとアリサの記憶を取り戻せないか、というものだった。
(・・・・出来る、だろうか・・・? 界律によって処理された記憶だ。欠片も残っていなかったら、いくら魔術でも・・・)
試した事、試そうと思ったことすら無い方法だ。それに“界律”によるこういう記憶処理は、どこまでの影響力を誇っているかどうかも知らない。
記憶処理については知ってはいるが、それはただ知っているだけ。完全に理解なんてしていない、そういうものだとしか。私の“界律”に対する知識は所詮そう言ったレベルだ。そんな“界律”に処理された記憶を取り戻すなんて・・・・。
(何せこう言った誰かの記憶を取り戻す云々というケースに出くわす事なんてまずないからな・・・)
「どうしたのルシル? さっきから眉間にしわを寄せて難しい顔してるけど・・・」
深く考え込んでしまっていたようで、フェイトが隣を歩く私の前に躍り出て上目づかいでそう訊いてきた。百聞は一見に如かず。通信端末のメール画面をフェイトに見せる。フェイトは「リエイスの魔術で記憶を戻すっ? 出来るのそんな事?」と驚いている。
「判らない。同じ因果律の世界に召喚されることはあまり無い。あったとしても数十年後か数百年後かの未来か過去。数年の空白、しかも界律の記憶処理を受けた世界の在る複数世界に再召喚なんてことは、この一万年弱の間で初めてかもしれない」
そもそも前回の召喚自体からして異例だった。“終極テルミナス”が地球の“界律”に接触し、それによって私とシャルが召喚された。それだけならまだ大した問題じゃない。次元世界のように複数の世界の集合体、その内の一世界に召喚されることは今までもあった。
活動の場はもちろん守護神を召喚した一世界を軸としていたから、本契約執行を“界律”より言い渡されても、その一世界から私たちの存在が抹消されるわけじゃない。だが前回、“テルミナス”の計画によって召喚された地球に留まらず数十という世界にいいように使われた。
そして、それなり数の知り合いを作っていた地球ではなくミッドチルダで本契約が言い渡された。結果、地球の“界律”から不要とされた私とシャルの存在が抹消、高町家を始めとしたすずか達の記憶からも消えた。
(本当に異例尽くしだな。感謝はしているが、やはり恨むぞテルミナス)
現テルミナスではなく先代テルミナスに対して心の内で呪う。
「そっか・・・それじゃあ今こうしてルシルと一緒に歩けるのは本当に奇跡なんだね」
フェイトが私の話を聞いて、私の隣に戻った後そう呟いた。そもそもフェイト達と出逢ったこと自体が奇跡なんだがな、私からしてみれば。何となくフェイトと手を繋ぎたい衝動に駆られ、そっと彼女の手に触れる。フェイトは何も言わず、そっと優しく握り返してくれた。
「・・・まぁやってみないことには判らない。少しでもシャルの記憶が残っていれば・・・おそらく」
「きっと大丈夫。何となくだけどね、すずかやアリサの中にシャルが生きてる気がする」
フェイトはそう言って私の手を引いた。私はフェイトに釣られ、何かを期待しているかのように少し歩く速さを上げたフェイトにただついていく。そうだな。アリサはうっすらとだが私の事を憶えていた。なら、シャルのこともきっと・・・。
†††Sideルシル⇒アリサ†††
あたしの家、その応接室になのは達が集まった。用件はもちろん昨日の話の続きを、もっと詳しく聞くためだ。
初対面であるはずのルシルのこと、憶えてすらいないシャルって子のこと。
フェイトに見せてもらったアルバムと、私とすずかの知るアルバムの違い。
両方を見て初めてアルバムに違和感を持った。ポッカリと空いた人一人分の空白。
今まで気にもならなかったけど、両方を見比べてハッキリと違和感を持つことが出来た。だから、シャルって子が本当にいたんじゃないかって思える自分が今ここに居る。
「それじゃあ聞かせてもらおうかしら」
ソファに腰掛けるなのは達を見回す。そしてルシルが小さく挙手したのを見て、あたしは先を促す様に頷く。
「アルバムなどを見て語るのでは時間がかかり過ぎる。ということで、こちらからの提案だが、君とすずかの記憶を取り戻す術を試したいんだが・・・」
「私とアリサちゃんの記憶を取り戻す? そんな事が出来るの?」
「可能性としては限りなく低い。が、もし上手くいけば、ただ聴いて知ったという曖昧なものじゃなく、私とシャルの事を自分の思い出として思い出す。その方が遥かに良い」
「それはそうでしょうけど、出来るの?」
すずかと二人して訊くと、ルシルははやての隣に座るリインとそっくりな女の人を見て「リエイス」と名前を呼んだ。さっき初めてリエイスさんと会った時、リインが知らない間に大人になったってすずかと一緒に驚いたし。
でもすぐに後ろからひょっこりリインが現れて、そこで思い出した。初代祝福の風リインフォース。リインが生まれる前にはやて達から話は聞いていた。初代のその子がいなくなったからこそのリインだったはずだけど、気になるその話はまた後にするつもりだ。
「じゃあリエイス、久しぶりのユニゾンだ。準備はいいか?」
「ああ。私はいつでも構わないぞ、ルシリオン」
ルシルとリエイスさんはソファから立ち上がって、私たちの座るソファから少し離れる。そしてルシルとリエイスさんがそっと手を重ねて指を絡めた。ふと二人の奥に居るフェイトとはやてが視界に入る。
(うわ、なんか少し不機嫌っぽい)
フェイトはなんか膨れっ面。「手なんか繋がなくたっていいのに」ってボソッと呟いてる。そしてはやてはジト目でルシルを見てる。一瞬四角関係?とか思ったけど、はやての目はそういうものじゃない。
あの目は知ってる。ウチのパパが、あたしの恋人になりたいと立候補してきた男たち(当然それなりの御坊っちゃん)に見せる目だ。娘は渡さん、そう言った親バカにしか出来ない目・・・。はやて、あんた・・・いつからそういうキャラになったの?
「「ユニゾン・・・イン」」
リエイスさんが光となってルシルの中に消えて、ルシルの姿が眩むほどの光に包まれる。あたしはその強い発光にまぶたを閉じて、次に開けたとき、あたしは・・・
(綺麗・・・)
ルシルとリエイスさんが一つになったその姿を見て、見惚れてしまっていた。二人の髪の色は銀だったけど、今は蒼に近い銀になっている。瞳の色は微かに光る真紅に統一されて、蒼銀の長髪がフワリと広がっている。
そして背中から六枚の翼が生えていて、右側が白、左側が蒼と左右別の色だ。見ようによっては絵画とかで観る天使とか女神とかだ。男だけど。あたしの隣に座るすずかも「すごく綺麗・・・」ってウットリした目をして呟いてる。
「さて、それじゃあ全員隣の人と手を繋いで輪を作ってくれ」
ルシルにそう言われたあたし達は、理由を聞くまでもなく手を繋いで輪になった。ルシルはあたしとすずかの間。ねぇフェイト。別に疚しいことしてるんじゃないんだから、そんな不機嫌そうな顔しないでってば。フェイトの独占欲が強いことにちょっと驚き、そしてルシルの今後について心配する。万が一浮気なんてしようものなら、ルシル・・・フェイトに殺されるかも・・・。
「わ、私たちの中に在る記憶をすずかとアリサに観せ、えー・・・二人に残されているかもしれない私とシャルの記憶を呼び覚ま・・・します」
フェイトとはやての発する妙な負の気配を察してかルシルは妙に落ち着かない感じで話す。なのはやシグナムさん達もそわそわしてるし。
「では行くぞ。リエイス、術式“呼び覚ます、汝の普遍”スタンバイ・・・。よし、コード・エモニエル・・・!」
頭の中からバチって音がしたこと思ったら、視界全体が黒に塗り潰された。まどろみの中、あたしを呼ぶ声に気付く。目を開けるとそこに居たのは・・・
『子供の頃のあたし・・・達・・・?』
聖祥小学校の制服を着た子供の頃のあたし、なのは、すずかの三人が居た。子供のあたし達は仲良く下校している。そしてなのはが何かに誘われるように走りだす。今でも憶えている。この後、なのはは運命との出逢いを果たす。
『ユーノ君と初めて逢った場面だね』
なのはが懐かしそうに呟く。子供のあたし達は林道の途中で、傷ついてグッタリとしたユーノを見つけた。それから動物病院へ。そして夜。なのはが魔法を手にした瞬間・・・。
『なのはママが初めて魔導師になった時・・・これが・・・。なのはママ、すっごく可愛い♪』
『え、あ、いやぁ、その・・・ちょっと恥ずかしいかも・・・』
ヴィヴィオが感慨深そうに呟いた後、顔をキラキラ輝かせてなのはを見上げた。なのはは、文字通り魔法少女を体現したその姿を娘に見られて、顔を赤く染めて動揺してる。
なのはの魔導師としての初陣も無事に乗り切って、その翌日、夕方の神社の境内。防戦一方のなのはと、一方的な攻勢に出る化け物と化した犬と戦い。なのはがよろける。そこに犬が猛然と突進してきた。
すずかが『危ないっ!』って叫ぶんだけど、これは過去の話。この後、なのははどうにかにして乗り切るんだろうって思っていた矢先、
「風牙真空刃」
女の子の声が静かに響く。それと同時になのはに突進していた犬の足元に何かが落ちて、犬の行く手を妨害。犬はそこで攻撃をやめて距離を取った。
「状況は分からないけど、助けてもよかったんでしょう?」
あたしは声の出所へと視線を移す。そこにその子はいた。水色の長髪を風に靡かせた女の子。シャル。なのは達がそう呼ぶ、あたしとすずかの親友だったらしい子。身長と同じくらいの刀を持って仁王立ち。顔立ちはもちろんなのはと同じくらいの子供なんだけど、その表情は大人びてる。
『なのはちゃん。この映像、って言うのかな? これは本当に起きたのことなんだよね?』
『そうだよすずかちゃん。私がユーノ君と魔法と出逢ったその次の日に、私はもう一つの奇跡と出逢った。それがシャルちゃん。シャルロッテ・フライハイト。かけがえの無い、大切な友達』
なのはが右手を胸に添えて、左手で右手の中指にはめられた指環を愛しむように覆った。そう言えばその指環の事も気にはなってた。あの男っ気の無いなのはが指環。ユーノからの贈り物・・・・かな? でもあの表情は違うわね。
フェイトからルシルのことは聞かされず、はやてからはリエイスのことを聞かされず、その果てになのはとユーノが知らぬ間に付き合ってた、なんて事になったら泣くわ、あたし。ま、話の流れからして、シャルって子から貰ったモノなんでしょうね。
そしてなのはとシャルの共闘にの末、犬を見事に元に戻すことに成功。それからなのはとユーノとシャルの自己紹介、そしてユーノとシャルによる魔法談義。なのははこの時はまだ素人だからか二人の弾む会話についていけずに、夕日を眺めて途方に暮れてた。
『私もなのはちゃんとシャルちゃんの出逢いは話で聞いただけやったけど、こうして観ると面白いな♪』
『特に、この何とも言えないなのはの途方の暮れっぷりがな』
『酷いよヴィータちゃん』
ヴィータが子供のなのはのボケーとした顔を見て笑った。なのはがヘコむ。確かに子供のなのはの顔を観ていると少し可笑しい。そして、シャルがなのはの家にホームステイするって話題になる。
『あの、これもやっぱり・・・』
『このホームステイは、世界の意思が決めたことだ。シャルと後でたぶん出る私は、界律の守護神と呼ばれる存在なんだが・・・』
映像がビデオのように一旦止まる。そしてルシルから、そのテスタメントとかいうヤツの説明を受ける。正直信じられない話だった。ただでさえルシルとシャルのことでいっぱいなのに、世界の意思だとか抑止力だとか・・・。でもなのは達、ヴィヴィオですらその表情は真剣そのもの。だから嘘じゃないのよね。
『まぁ今となっては関係ないから、その辺は流してくれていい』
ルシルがそう告げると、映像の一時停止が解かれてまた進む。高町家でシャルが見せた涙。そして少し語られたシャルの家族。シャルは泣き疲れてそのまま眠って、なのはもそれに付き添ってその日は一緒に眠った。その翌日。シャルに海鳴市を案内するなのは。会話の中にはあたしとすずかの名前が出て、
「――次はお待ちかね♪ 私の友達を紹介するね♪」
なのはがシャルの手を引いて、すずかの屋敷に連れてきた。月村家のメイド長ノエルさんに案内されて、二人はあたしとすずかの元に来た。
『すずかちゃんとアリサちゃん、二人はこうしてシャルちゃんと逢ったんだよ』
なのはがあたしとすずかを見た。でも、やっぱり思い出せない。確かに少し懐かしさを覚え始めたけど、それでも・・・。あたし達の微妙な表情を察したなのはは苦笑いして、シャルへと視線を戻した。子供のあたし達は自己紹介して、そして話に花を咲かせている。
あたしは笑ってる。すずかも楽しそう。からかわれたなのはが頬を膨れさせて、シャルが笑いながら謝る。出逢って一時間と経たないで、シャルはもう子供のあたし達と長年の友達だったように、あたし達の輪の中に居た。
『えっと、どうかな? 何か少しは思い出しそう?』
フェイトがあたしとすずかに少し遠慮した風に訊いてきた。あたしとすずかは顔を見合して、小さく首を横に振った。
『まぁこんなにすぐに記憶が取り戻せたら苦労などしないよな』
ルシルは淡々と告げて、あたし達の記憶奪還作戦を続ける。なのはとシャルとユーノの三人によるジュエルシードっていうアイテム探索物語を眺める。プールで、あたし達が水の化け物に水着を剥ぎ取られたのとか・・・
『『ルシル君は見ちゃダメぇぇぇーーーッ!』』
『その目を閉じろぉぉぉーーーーッ!』
『痛っっったああああああっ!?』
なのはとすずか、そしてあたしは一斉にルシルの顔面にビンタを喰らわした。あたし達はルシルの顔を両手で押さえて、それでも目を開けようとするルシルにあたし達三人は突撃。
三人分の体重を支える事が出来なかったみたいで、痛みでフラついていたルシルは簡単にあたし達の下敷きになる。なのはとすずかは、ルシルの胸の上に自分の顔があることに気付いて、「きゃっ」て短い悲鳴を上げてすぐに離れたけど、
『早く先に進めろぉぉぉーーーーッ!』
あたしはルシルに馬乗りになって、両目を塞ぐように両手を付いて怒鳴る。上に乗っかってるより、子供の頃とは言え裸を見られる方がずっと恥ずかしい。
呆然としてたフェイトが『何してるのアリサっ!? ルシルの上から退いてっ!』ってあたしをルシルの上から退かそうとする。なんとかプール騒動の間、ルシルの視界を潰すことに成功してプール騒動は終了。あたしはようやくルシルの上から退く。
『酷い目に遭った』
『わ、結構腫れてる』
『それはこっちのセリフよっ!』
右手で自分の頬を擦り、ヴィヴィオに左の頬を擦られてるルシルが呟く。そんなルシルにあたしはズビシッと指を差しながら吼える。今まで黙ってあたし達のやり取りを傍観してた周囲からは、
『哀れだなセインテスト』
『ルシルさんはもうこういうキャラで確定のようですね』
『機動六課の頃から兆しはあったけどな』
『そうなんだ。あたし、JS事件の時のルシルさんのこと詳しく知らないから、なんか新鮮だなぁ』
『まぁなんや。こうゆうハプニングはこれからも何て事無い日常として捉えるんが一番やな~♪』
『そうですね~♪』
八神家は笑い話として片付けようとしてる。そりゃ被害の無いあんた達は気楽でいいわよね。そんなこんなで無駄に疲れたあたし達の記憶奪還作戦はまだまだ続く。ヌイグルミの行進、学校でのお化け退治、翠屋FCの子が持っていたジュエルシードによる大樹暴走。そして場面はすずかの家へと変わる。そしてここで、
『私とシャルちゃんは、ユーノ君と同じようにジュエルシードを探し求めてたフェイトちゃんとルシル君と出遭った』
ジュエルシードで巨大化したネコに対して容赦なく攻撃を加えるフェイト。この頃のフェイトのことは話でしか聞いたこと無いから、当時の何の表情もないフェイトに驚く。
『この時のフェイトママ、ちょっと怖いね』
『ガーン!』
ヴィヴィオの何気ない一言でフェイトは轟沈した。なんか『判ってるけど、私もそう思うけど』って念仏のように繰り返し呟いてる。で、フェイトとアルフと一緒に現れたもう一人の黒マントに神父服に仮面なんて怪しさ爆発なのが、ルシルってわけだ。
『外套と仮面は正体を隠すためだ。決して変な嗜好なわけじゃない。それと、これは守護神の正装だ。趣味が悪いとか思わないでくれ』
訊いてもいないのにルシルがなんか弁明を始めた。適当に『へ~』とだけ返しておく。なのはとシャルは、変装したルシル相手に負けた。次は海鳴温泉にみんなで旅行に行った場面なんだけど・・・。
『またかぁぁぁーーーーっ!!』
『『見ちゃダメぇぇぇーーーッ!』』
『ぐぼぉ・・・っ!?』
温泉の脱衣所であたし達が服を脱ぎ始めた場面になって、あたしは竜巻○風脚をルシルに喰らわす。綺麗に鳩尾に入ったあたしの華麗な蹴りにルシルがよろけ、そこになのはとすずかの左右からダブルビンタ。パチーーンってそれはいい音だった。
『いい加減にしておけよ三人ともっ! 特になのはっ! この記憶は君のだっ! 非は私じゃなくて君にある! そもそも、大して成長もしてない君たちの裸を見てどうか思うような変態じゃないっ!』
ルシルが半ばキレて怒鳴った。うん、まぁそうなんだろうけどね。でもそうやって言われるとちょっとムカつくあたしもいるんだなぁこれが。とりあえずあたし達はルシルを殴っておいた。
『ここまで理不尽なこと、そうそう無いな・・・フゥ』
仰向けで倒れながら、なんか微妙にカッコいい息を吐くルシル。フェイトとヴィヴィオがそんなルシルを労わるように『大丈夫?』って優しく声を掛ける。
そんで映像の中のあたし達は、そこを素顔を晒したルシルと初邂逅。言葉は交わさなかったけど、でも確かに会っていた。それから次々と場面は変わっていく。あたしがなのはの上の空な態度にイラついて怒鳴ってケンカ状態になって、でもシャルがあたしを諭してくれたことで、後を引くようなことにはならなかった。
『そう言えばこの時・・・あたしってどうやってなのはと仲直りしたのか憶えてない』
映像の中じゃシャルのおかげで治まった。あたしの記憶の中にはこの時のやり取りは残ってる。でも仲直りした経緯が思い出せない。またこの感覚。今まで何とも思わなかった思い出に違和感が次々と生まれてくる気持ち悪さ。
『私もだよ。いま思えばすごくおかしいのに、なのに今の今まで全然不自然に思わなかった。アルバムの事もそう。昨日、家に帰ってアルバムを見て、その不自然さに気付いたくらいだし。ねぇルシル君。これが界律とか言う世界の意思による、記憶処理が施された証拠なのかな?』
すずかの問いに、立ち上がったルシルが首肯した。
『正直ここまで界律の記憶処理が手抜きとは思わなかったが、二人が自分の記憶に違和感を持ったのは上々だ。で、どうだ? 少しは思い出したような感覚とかはないか?』
『う~ん、なんか引っかかりはあるんだけど、でもまだハッキリとは・・・』
『あたしもそうかな。あんたに抱いた懐かしさっぽいのは感じてるんだけどさ』
首を横に振る。なのは達はちょっと沈むけど、ルシルは違った。
『それでいい。やはり二人の中にもシャルが残っているようだ』
ルシルが見せた微笑にドキッとした自分がいる。ふと視線を感じてそっちを見ると、フェイトがジト目であたしとルシルを見てた。とりあえず、そんなんじゃない、って意味の首振り。フェイトはそれで安堵したのかホッと息を吐いて、ルシルの横顔を見上げた。
(こわ~。ダメだ、今のフェイトはあたしの知ってるフェイトとは違う)
ルシルに関して下手に喋ったり行動に移したりするとマジでやばそう。まぁそんなこんなでまだまだまだ続く記憶(略)の旅。いつの間にかジュエルシード争奪戦も終わって、なのは達とフェイト達がお別れの時になってた。お互いのリボンを交換するシーン。
『いいなぁ。わたしもリオやコロナ、アインハルトさんとかと私物交換とかしたくなっちゃった♪』
ヴィヴィオが友達と、なのはとフェイトがしたような事をやってみたいって顔を輝かせてる。そして時が流れての冬。フェイトやルシルとのビデオメールのやり取り。フェイト達が海鳴市に引っ越してきて、
「まぁここまでの女の子に囲まれると、ルシルまで女の子に見られることになるからね~。それがイヤだから残ったんだと思うよ」
「ルシルの後ろ姿を見たら誰だって女の子だと思うわよ。前から直接見ても女の子に見えるんだから」
子供のあたしはシャルに同意して笑う。
「アリサちゃん、それはルシル君に失礼だよ」
「すずかはそう思わないの? だってルシルって家事も出来るんでしょ? 生まれてくる性別を絶っっっ対間違ってるわよ。ねぇねぇ、女の子の服を着せたら似合うと思うんだけど、どうかなシャル?」
「それいい♪」
フェイトが聖祥に通うことになったり、ルシルが飛び級で海外の大学を卒業してるって聞いてあたし達は驚いたりと忙しい。そしてあたしが、昨日懐かしいと思ったセリフが出てきた。
(まさか本当に同じような事を言ってたなんてね・・・)
そんなやり取りを眺めた後、あたし達は大人となってるルシルに視線を移す。ルシルはサッとあたし達からの視線から逃れるようにそっぽを向いた。あーきっと女装させられたんだ、と察した。あたしの所為かもしれないと思うと謝りたくなった。そしてまた子供のあたしへと視線を戻して、この時のあたしってなんてバカなのかしらって呆れた。
『ていうか、なんであたしらとの初遭遇が抜けてんだよ?』
『いや、必要ないだろ? 私たちとヴィータ達の戦闘。違うか?』
『いやいやいや。だったら今までのもあんまし要らなくねぇか?』
『あ、酷い。私となのはの出逢いを要らないとか』
『だったら飛ばされるこっちのことも考えろよテスタロッサ』
『だってヴィータ達ってこの時あんまり話に絡んでこないし、戦い以外に』
『ぅぐ、確かにそうだが・・・って、お前らもほとんどそうだったじゃねぇかっ』
『はいはいストップストップだよフェイトちゃん、ヴィータちゃん』
『ビミョーにフェイトちゃんにものすごい寂しいこと言われたけど、事実そうやからしゃあないよヴィータ』
『ごめんなさい』
『実際必要なのはシャルとすずか達との絡みなんだし、まぁしばらくは我慢な』
そして、最早お約束と言ってもいいんじゃないかって感じの場面。そう、スーパー銭湯での出来事。脱衣から銭湯内での言動全てが流れる。今度はこの場に居る女性全員から青褪めるルシルへの、
『見るなぁぁぁーーーーーッ!』
『『『見ちゃダメぇぇぇーーーッ!』』』
『見たらアカーーーーーーン!!』
『『さっさと目を閉じろセインテストぉぉぉーーーーッ!』』
『きゃぁぁぁっ! セインテスト君のエッチーーーーッ!』
血も涙もない暴力を用いた、見ないでっていう訴え。自分も参加しておきながらなんだけど、これは酷いって思う。ボコボコにされて倒れたルシルに、銭湯に参加してないから平気なヴィヴィオとリインとアギトが向かった。
『きゃぁぁぁ! ルシルパパーーーッ!?』
『ちょっ、大丈夫ですかルシルさん!?』
『つうかルシルさんの中に居るリエ姐も大丈夫なんだろうな!?』
肩で息をするあたし達、そして悲鳴を上げるヴィヴィオ達。なによこれ? なんとかこのシーンも乗り越え、ルシルも死の淵から乗り越えた。そもそもここは精神世界ということらしくて、実際肉体にダメージは届いてないとのこと。
でも痛いことに変わりはないから、『少しは自重しろ』って、ルシルとリエイスさんから割と本気で全員怒られた。それからクリスマスイヴ。当時あたしとすずかが知らなかったなのは達とはやての家族との因縁。
激しく、そして悲しい戦いの後、その当時リインフォースだった頃のリエイスさんとはやてのお別れのシーン。不覚にも泣いてしまった。だって悲し過ぎるし感動過ぎるでしょっ?
はやてのために自らの終焉を選んだリインフォースさん。リインフォース――リエイスさんの遺言っぽいのを受けとったはやては魔導師としての道を選んだ・・・。そしてこの日、なのは達から魔法の存在を教えられた。
『ホントに驚いたわよこの時。いきなり次元世界だとか魔法だとか。でも実際に見ちゃったし。なのはとシャルとフェイトが戦ってんの。だから否応なく信じるしかなかったんだよね、確か』
私がそう言うと、なのは達は『え?』て呆けた。
『アリサちゃん。今すごく自然に、シャル、って・・・』
すずかにそう言われて、あたしもあまりに自然にその名前“シャル”って口にしたことに驚いた。
『順調だな。さぁ先へ行こうか。もう少しだ』
ルシルが嬉しそうに言う。なんかその笑みを見てると、こっちまで嬉しくなる。もう少しで、あたしはシャルとまた逢える。聴くだけじゃなくて観るだけじゃなくて知るだけじゃなくて、本当に思い出すことでまた親友になれる。その足音はゆっくりと近づいて来てる。そう確信が持てた。
†◦―◦―◦↓????↓◦―◦―◦†
レヴィルーシル
「・・・・・・」
ルシル
「その、なんというか・・・落ち込むな。な?」
ルーテシア
「まさかまさかの追憶編・・・しかも、そのいち、って・・・。
レヴィ
「現在じゃなくて過去なんて・・・出番があるわけが無いよ・・・」
ルシル
「いや、ミニコーナーとは言え今のところ全話出てるんだ。ほら、準レギュラーのスバルとティアナ、エリオとキャロはまだ出番じゃないから登場してない」
ルーテシア
「まだ、っていうことは出番があるんだ・・・?」
レヴィ
「それとさ、完結編の話になるけど、完結編に当然わたしはいないんだよね。だってわたし、この作品オリジナルキャラだし。なのに唯一の登場作品なのに出番無しって・・・」
ルシルーテシア
(落ち込み度がハンパじゃない・・・)
レヴィ
「いいな~。ルーテシアは原作登場キャラで。きっと完結編でも出番があるんだ。羨ましいな~~~ウフフフ、フフフ」
ルシルーテシア
(なんか病み始めた・・・?)
???
「あーっはっはっはっはっはっは! あなたが落ち込むなんてらしくないんじゃない!?」
レヴィルー
「誰!?」
ルシル
「・・・そんなバカなっ! どうして君がここに居るんだっ!?」
???
「約5ヵ月の期間を経て、Crossfire最終章に華麗に復活!
讃え、崇め、敬うがいい。我が名はシャルロッテ!
この作品の真なる主人公にして、みんなの心にいつまでも生きるみんなの友達也!」
レヴィルーシル
「バカなぁぁぁーーーーーっ!」
ルシル
「というか転生してハッピーエンドだったのに、またこの作品でアホ面を晒す気か?
大人しく引っ込んでいた方が、君の好感度が下がらないんじゃないか?」
シャル
「アホ面とか言うな。あと好感度ってなによ。アリサとすずかが私を思いだそうとしてるんでしょ?
そして次回からは子供の頃の私が出るらしいじゃない。そうと知ったら黙っているわけにはいかないぜっ♪」
レヴィ
「この作品から去ったキャラにすらミニコーナーに登場されたら、わたしはもう・・・orz」
ルーテシア
「仕方ないよレヴィ。これが主人公贔屓ってやつなんだよ」
シャル
「ま、とにかく。短い間だけど、お世話になるんでよろしく♪」
ルシル
「・・・・はぁ、また私がシャルにいじられる話がお届けされるのか・・・?」
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