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万華鏡

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第七十話 大晦日その七

「日本シリーズ四連勝とか」
「そうよね。このテレビより前ね」
 彩夏はその古いテレビを見つつ美優に応えた。
「やっぱり相当昔ね」
「うちも昔白黒テレビだったらしいわ」
 景子はこのことも話した。
「とはいってもやっぱり大昔だけれどね」
「これ四十年代よね、昭和の」
「五十年かしら」
 この辺りの記憶は曖昧だった、景子にしても。
「まあとにかくね」
「大昔ね」
「相当にね」
 彼女達からしてはだ、確かに相当な過去のことだ。
 それでだ、景子もそのテレビを見つつ言った。
「そのテレビ実際に動くのはね」
「奇跡なのね」
「まだ動くのはね」
「何十年ものだから」
「テレビって普通はそこまでもたないから」
 三十年も四十年ももつものではない、これは他の電化製品も同じだ。
「よくもってると思うわ」
「何十年ねえ」
「凄いでしょ」
「だから奇跡よ」
 それこそだとだ、彩夏は景子に返した。
「まあ画面は結構悪いけれどね」
「今ここで壊れても不思議じゃないけれどね」
「そうね。まあとにかくね」
「ええ、紅白も終わったり」
「そろそろ除夜の鐘も聴こえてきて」
 こちらは仏教だ、百八の煩悩を祓うのだ。
「いよいよね」
「ええ、もう参拝の人も来られてるから」
 真剣な面持ちで語った景子だった、そのうえで新年を待つ。
 そしてだ、遂にだった。
 その新年になった、景子はきっとした目で言った。
「総員戦闘配置」
「もうついてるわ」
「この通りね」
「どんどん売っていくから」
 既にお守りや破魔矢、札といったものが揃えられている。そしてだった。  
 元旦のお参りをしてからお守りを買ったりおみくじを買う人達の応対に入る、神社で最も忙しい時がはじまった。その中で。
 五人はせわしく動く、そうしてだった。
 甘酒や善哉を口にする、美優はその甘酒を飲んでこう言った。
「いやあ、いいねえ」
「そうよね、あったまるわよね」
「もうお腹の中から」
「生き返るよ」
 元旦の寒さの中でもだというのだ。
「これで戦えるよ」
「この元旦の戦争ね」
「これをね」
「ああ、寒いけれどさ」
「それでもね」
「甘酒と善哉があったら」
「いいよ、戦えるよ」
 幾らでもだと言う美優だった。
「最高だよ」
「今日は本当に一日こんなのだから」
 景子は仲間達に言う、自分も甘酒を飲みながら。
「頼むわよ」
「いつも元旦はどうしてたの?」
 里香も甘酒を飲みつつ景子に尋ねる。
「今年は私達がいるけれど」
「人手ね」
「そう、そっちはアルバイト」
「そうそう、実はいつも入ってくれてる人がね」
「あっ、おられるわね」
「大学生の人がね。けれどその人が今年はどうしても冬は実家に帰らないといけなくて」
 それでだというのだ。
「人手が足りないのよ」
「いつもはその人がしてくれてるの」
「そうなの。九州の方の神社の娘さんで」
「大学はこっちなのね」
「八条大学の学生さんなの」
 五人が通っている高等部の上の、というのだ。 
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