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P3二次

作者:チップ
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XV

「ここら辺に来るのって初めてかも」
「まあ、用がなきゃ寮の方になんか来ないわな」

 翌日、俺と風花は連れだって巌戸台分寮を目指していた。
 コイツの荷物を持っているんだが……少なすぎる。
 トランク二つで生活拠点を映せるなんて、身軽すぎだ。

「あ、そう言えばキーくんもこっちに住んでるの?」
「いや俺は違う。拠点の一つとして使ってるが、ずっと居るわけじゃない」

 既に日も暮れており、街灯にも光が灯っている。
 S.E.E.S.のメンバーが揃う時間帯に合わせると遅くなってしまうのだ。
 真田や岳羽は部活があるし美鶴も生徒会、公子は――どうなんだろう?
 よくよく考えればアイツの生活パターンなんて知らない。

「そうなんだ……まあ、元から家の方にも戻ってなかったもんね」
「ああ。ヤサを一つに限定すると色々面倒だしな」

 理事長の件がなくても、俺は寮だけに腰を落ち着けるつもりはなかった。
 あの路地裏でイジメてやった馬鹿共のように俺に迷惑をかける連中は両手足の指では足りないくらいに居る。
 まあ、直接殴りこんで来るような骨のある奴は片手で数えるほどだろうが一応は、な。
 人質を取るなんて真似をする度胸のある奴が居ないとも限らない。
 それにしたって、美鶴が居る時点で殆ど警戒は要らないだろう。
 バックの桐条とことを構えるってのがどういうことか予想出来ない奴はいない。
 いたとしてもその程度の馬鹿ならば特に問題はない。
 ないのだがやはり、性分と言うべきか一所に落ち着く気にはなれないのだ。

「ありゃ? ラウンジに居ねえぞ?」

 寮の扉を開けたが誰の姿もない。
 大抵はここで本読んだり飯食ったりしているはずなんだが……

「作戦室ってメールに書いてたけど?」
「だっけか。んじゃ着いて来い。上だ」

 階段を昇って作戦室に入るともう既に全員が揃っていた。
 理事長も居るとは……いやまあ、居て当然か。

「連れて来たぜ」
「話は聞いてるよ。山岸風花くんだね?」

 まずは理事長が口を開き俺達に座るよう勧めて来る。
 そして全員を見渡して労いの言葉を一つ。
 とっとと本題に入れと目で促すと困ったような笑みを浮かべ幾月は頷く。
 こうしていると本当にどこにでもいるオッサンにしか見えない。

「例の、意識不明で見つかった女生徒達なんだけどね? 皆、意識を取り戻したらしい」
「よかった……」

 安堵に胸を撫でおろす風花。
 故意にではないとは言え、そいつらが意識不明になった原因であると自責の念を感じていたのだ。
 俺から言わせてもらえばそいつらの自業自得なんだがな。

「裏瀬から既に連絡は貰っているが、本当に良いのかな?」

 話が落ち着いたところで美鶴が切り出す。
 本当にS.E.E.S.に加入しても良いのかと言う確認だ。

「はい。もう、決めましたから。キーくんの力になりたいんです」
「そうか。歓迎するよ。うむ、特別な事情だから両親にはこちらから取り計らっておこう」

 チラリと幾月に目配せをする美鶴。
 既に風花の両親が成績や進路と言ったものに弱いと伝えているから、それ関係だろう。
 甘い言葉で釣るのだろうと予測出来る。

「はい、ありがとうございます」

 これで話はまとまった、新しい仲間が増えて万々歳――とはならなかった。

「……いいんですか? こんな簡単に人を巻き込んで……」

 岳羽が不満の言葉を口にする。
 美鶴は口では確認なんかしていたが、実際は風花を手放す気はなかったのだろう。
 それほどまでにアイツの能力は希少。
 そして岳羽は聡い、そんな美鶴の感情の動きくらいは察せる。
 だからこそ不満を口にしたのだ。

「あの、大丈夫ですから。私が自分で決めたことで、そこに後悔なんかはありません」

 凛と胸を張って答える風花を見て岳羽もひとまずは納得したのか、手を差し出す。

「まあ、本人がそう言うんなら……ってかタメ語でいいよ。同級生なんだしさ。これからよろしく」
「はい……じゃなくて、うん。よろしく」

 岳羽なら風花の良い友達になってやれるだろう。
 公子だって人付き合いは良さそうだし、問題はなさそうだ。

「ところで、今月もまた特別なシャドウが出たらしいね」
「満月のアレでしょう? 今後の指針に出来そうではあるが……」
「そうだね。来月からは満月が近付いたら要注意ってことで」
「敵の来訪周期が分かったのは大きなアドバンテージだ」

 真田はそんなことを言ってるが、アレについてもっと深く考えるべきじゃないだろうか。
 他のシャドウとは明らかに異なる巨大シャドウ。
 どれだけ居るのか、何故満月の晩限定なのか、気になることは腐るほどある。

「大きなアドバンテージとは言えねえ気もするがねえ」
「どういうことだ?」
「来るって心構えと準備が出来る程度だろ? まったく意味のないことでもないだろうがな」

 幾月に視線を飛ばす。

「巨大シャドウについては調べているんですかね?」
「うーむ、一応やってはいるんだが如何せんシャドウ自体が謎多き存在だからねえ」

 詳しいことは余り判明していないと頭を振る幾月。
 それが本当か嘘か判別がつかないのは、コイツがやり手だからか、俺が未熟だからか……
 どちらにしても幾月の言葉を丸々鵜呑みにするわけにはいかない。

「ま、そっちは僕らに任せてくれ。裏方には裏方にしか出来ない仕事があるからね」
「じゃあ俺ら実動組は戦いだけに専念させてもらいますかね」
「頼むよ。それじゃ、これで解散しよう。桐条くん、山岸くんの召喚器と腕章を頼むよ」
「了解です」

 それだけ言って幾月は去って行く。
 …………あの分厚い面の皮の向こうでは一体何を考えているのやら。

「さて、山岸。これを受け取ってくれ」
「ピストル?」
「安心してくれ。銃口は埋めてあるし弾も入っていない。私達はこれを使ってペルソナを召喚するんだ」
「ああ、そのことだが美鶴よ。風花にゃいらねえぜそれ。俺と同じでな」
「何? 召喚器なしで安定した召喚が出来るのか?」
「まあな。俺が見たとこでは特に問題なかった。メールに書かなかったっけ?」
「書いていなかったぞ。まったく……しっかりしてくれ」

 遊びに行ったりで忙しかったからそこら辺は許して欲しい。

「さて、山岸。君の部屋に案内しよう。荷物は私も持とう」
「す、すいません」

 美鶴と風花が二人で部屋を出て行く。
 残ったのは俺と岳羽、そして公子の三人だけだ。
 伊織は解散宣言と同時に部屋を出て行った、俺とどう接すれば良いのか分からないのだろう。

「あー……公子ちゃん、悪かったなこの間は。刺激的なもん見せちまってさ」

 流石にリーダーと何時までもぎくしゃくしているのは良くない。
 何を言おうか迷っているように見える公子に先んじて謝罪の言葉を口にする。

「え? う、ううん。別に……その、大丈夫だから」
「そうか。俺もちょっと冷静じゃなくてな。次からは気を付けるよ。ちゃんとバレないようにやる」
「いやいや! 結局やるの!?」
「時と場合によりけりだがな。それより頼みがあるんだが良いか?」
「私に?」

 心なしか嬉しそうな公子、とりあえず元のペースには戻せたようだ。

「ああ。知っての通り風花はダチがいないんだわ。男なら一応俺がいるが、幼馴染だしな」
「うん。二人、仲良さそうだよね」
「まあな。話を戻すが女友達は皆無なんだよアイツ。よければ気にかけてやってくれないか?」
「うん! 任せてよ」
「すまんね。割とコミュ力高そうな公子ちゃんなら安心して任せられそうだわ」

 実際、この子は色々な意味で人の心に深く入れる性質の人間だ。
 そんな人間と一緒に居れば風花もやりやすいだろう。

「早速で悪いが、軽く寮の中案内してやってくれないか?」
「合点承知! ついでに荷解きも手伝って来るよ」
「ああ、頼むわ」

 意気揚揚と部屋を出て行く公子を見送って、岳羽に向き合う。

「よう、やっとこ二人になれたな」
「……アンタ、本当に気が付く男よね」

 呆れ半分の岳羽だが、そもそも意味ありげな視線を送って来たのはコイツだ。
 俺に話があることぐらい分かる。
 ついでに言うなら話の内容もある程度は予想出来るのだ。

「女の顔色には敏感でね。ついでだから何が言いたいかも当ててやろうか?」
「分かんの?」

 そりゃ顔を見れば何考えてるかぐらい分かる。
 それぐらい岳羽ゆかりという女は直情的なんだ。
 人によっては短所だと捉えるが、俺はそれが美徳だと思っている。
 感情のままに生きるのが人間というものなのだから。

「――――何で風花を止めなかったの? だろ」

 風花がS.E.E.S.入りを承諾した時に目が険しくなり一瞬俺を見つめていた。
 この間のやり取りがあったと言うのに何をやっているんだと。

「……そうよ。あれだけ大切にしてたじゃん。なのに巻き込むなんて何考えてんの?」
「アイツが自分で決めたことだ。流されて選んだ選択じゃない。俺が思う以上に風花は強いんだよ」
「……」
「そんなアイツが選んだ道にどうこう口を挟むのなんざ、無粋にもほどがあらぁね」

 俺の言葉に納得したのかしていないのか、岳羽は深くため息を吐いた。

「私には分かんない信頼関係があるみたいね」
「そんな大層なもんじゃないさ。それと、一つアドバイスだ」
「何?」
「S.E.E.S.に――否、桐条美鶴に疑念があるなら直接本人に問い質しな。ちゃんと聞けば答えてくれるかもよ」

 美鶴は不満が爆発するまでこちらからアクションをしないと言っていたが聞けば答えてくれるだろう。
 その程度には誠実だ、まあ俺が同じ立場ならはぐらかすことを考えるかもしれんが。

「…………ホント何でも御見通しってわけか」

 苦笑を浮かべる岳羽だが、俺の言葉にはイエスともノーとも答えていない。
 彼女自身、躊躇っているのだろう。
 踏み込むべきなのかそっと疑念に蓋を閉じるべきなのか。
 その葛藤が苛立ちとなって岳羽自身を蝕んでいるのだ。

「ところでさ。裏瀬、ピアス変えた?」
「ん? よく気付いたな」
「そりゃまあね。アクセとかしてんのうちらん中じゃアンタだけだし」
「あー……成る程ね。伊織も真田も、他の女子連中も飾りっ気ないもんな」

 美鶴なんかはお抱えの職人が仕立てたであろう良いもの着てるが派手ではない。
 アクセサリーなんかは身に着けていない、質素で品の良いスタイルだ。

「結構良いデザインじゃん」
「だろ? 冥王星をモチーフにしてるらしいぜ」
「へえ……けど、裏瀬のセンスとは若干違うよね?」
「本当によく気付くなお前。確かにその通り。コイツは風花が見立ててくれたんだよ」
「風花が? 意外だわ。でも、あの子もセンス良いんだね」
「ああ。俺も意外だったよ。迷わずこれを選んだんだぜ?」

 星をモチーフにしたピアスが展示されているコーナーで冥王星を迷わず選んだ。
 どうしてかと聞いてみたら何となくだそうだが、冥王星ってのは俺からすれば意味深だった。
 占星術において破壊と再生、死と新生、無意識、変革、始まりと終わりなどの意味を持つのが冥王星。
 既知の打破を目指す俺にとってはある意味で運命の星とも言えるだろう。

「ふぅん……でも冥王星って何か不吉じゃない? 前に雑誌か何かの占いコーナーで見たんだけどさ」
「深く知ればそうでもないさ。コイツは動乱や消滅のネガティブな意味を持つ一方で新たな一歩も暗示してるからな」

 似ているので言えば天王星なんかもそうだ。
 変化と超越と言ったものを司る星だし。
 しかし、風花が選んだのは冥王星――――これはどういうことなんだろうか。
 無論、アイツからすれば深い意味はないだろう。
 だが、俺からすれば……ちょっと気になる。

「そうなんだ。あーあ、何か私も欲しくなって来たかも。ねえ、私ならどんな星が似合うと思う?」
「金星なんか割と似合ってるかもな」
「どういう意味なんだっけ?」
「愛情、恋愛、母性なんかだよ。抱えてるもんが全部解決したら……余裕が出て割とイイ女になりそうだし」
「やだ、口説いてんの?」

 からかい交じりの笑顔を浮かべているが、別に口説いてるつもりはない。
 実際、岳羽ゆかりと言う女は母性に溢れてると思う。
 抱えている荷物が重くて苦しいからそういった面が目立たないだけだと俺は考えている。
 荷物の中身に興味がないわけでもないが……個人のことだしそう深く踏み込むつもりはない。
 もっとも、それが未知ならば分からないが。

「抜かせ。今のお前じゃそそらねえっての。もっとイイ女になってから出直しな」
「偉そうに言っちゃって。こっちこそアンタなんて願い下げだっての。女遊び激しそうだしぃ?」

 茶目っ気混じりの視線でからかって来る岳羽を見ていて思う。
 コイツは誰より年頃の女の子らしいのではないかと。
 色々振り切っている美鶴、この年齢で確固たる道を見つけた風花。
 そしてどこか得体の知れない公子、異質な女の中でコイツだけは限りなく普通に近い。

「バッカ、イイ男には女の方から寄って来んのさ」
「そう? 私別に寄りたいなんて思わないけど?」
「そりゃお前がまだまだガキだからじゃねえか?」

 ソファーに背中を深く預け、煙草を咥える。
 目で一服良いか? そう問うてみると岳羽は仕方ないなぁと言った感じに頷く。

「ちょっと気になってたんだけど……煙草の匂いってこんなに甘かったっけ? バニラの香りするけど」
「洋モクにはそういうのもあるんだよ」
「ふぅん、美味しいの?」
「まあな。頭も冴えるし――つっても医学的に見りゃ良いことなんてないがな」

 百害あって一利なし、その言葉を体現していると言えるだろう。
 俺自身もそう思っているし、養父母らが生きていれば苦言を呈したのは予想に難くない。
 それでも吸ってるのは……落ち着くからだろう。
 例えそれが依存によるものだとしても。

「ねえ裏瀬」
「あ?」
「アンタさ、学校来ないの?」

 何を突拍子ないことを言い始めるのか。
 理由は全部ではないとはいえ説明したし、そもそも学校とかで授業受けてる柄じゃないだろう。
 そんな思いを込めて岳羽を見つめる。

「話してみたらそう悪い奴でもないし、ちょっとヤバいとこもあるけどさ……私、結構嫌いじゃないよ」
「それが?」
「だからさ、皆で学園生活とかも悪くないんじゃないかなって思ったの」

 私や公子、風花――ついでに順平も、そう言って笑う岳羽。
 コイツなりの気遣いなのだろうか。
 今ならドロップアウトした人生をやり直せると。

「そうだな……」
「でしょ? 風花だってきっと喜ぶと思う」

 確かに喜んでくれるだろう。
 俺の道に理解は示してくれてはいるが、根っ子の部分で風花は常識人だ。
 学校にも行かず危ないことばっかりしている俺を誰よりも心配してくれている。
 養父母亡き今、俺のことをそこまで気遣ってくれてるのはアイツくらいだ。

「まあ、気が向いたらな」

 本当に気遣ってくれている人間を無碍に扱うほど俺もガキではない。
 だから、前向きな答えを返した。
 俺を縛る鎖が総て解き放たれた時はもう一度学校に行くのも悪くはないし。

「何よそれ、煮え切らないわね」
「ほっとけ。それより岳羽、お前もう飯は済んだのか?」
「え? ああ、部活終わって直帰だったからまだだけど……」
「そうか。なら、食べに行かないか?」

 本当は寮への道すがらテキトーな店で食べるつもりだったのだが……
 風花は既に夕食を済ませていたようで、結局何も食べずにここへ来たのだ。

「私と?」
「ああ。一人で食うのも味気ないしな。勿論俺の奢りだ。どうよ?」
「んー……公子や風花に悪い気もするけど……別に私はそんなんじゃないし……」

 ブツブツ言いながら百面相をする岳羽、聞こえた内容は――聞こえていないフリをしておこう。
 風花に関しては俺達同士で暗黙の了解のようなものがあるし。
 公子に関しては――――アイツは本当に何なんだろうか?
 何故俺はあの子に惹かれているのか、今を以っても分からない。

「まあいっか。OK、だったら御馳走になるわ」

 岳羽の声で一気に現実に引き戻される。
 答えの出ない問題について考え込んでしまうのは俺の悪癖だ。

「ん、そうか。何食いたい?」
「昼もあんま食べられなかったから……ガッツリ系?」

 少し恥ずかしそうに言う辺り岳羽もやはり女の子なのだろう。
 しかしガッツリ系か、俺も良い具合に腹が減っているし悪くないかもしれん。

「オーライ、じゃあ中華とかどうだ? 上手い店知ってんだよ」
「へえ、じゃあ期待させてもらおっかな」
「ああ、存分に期待してな」

 二人並んで作戦室を後にする、こういう時間も中々に……悪くはない。 
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