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ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜

作者:カエサル
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剣使の帝篇
  16.神意の監視者

 

 陽射しが暑い。
 絃神島は今日もいつもと変わらず真夏のような強い陽射しが容赦なく吸血鬼の身体に降り注ぐ。

「暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い」

 呪文のように“暑い”という言葉を呟きながら緒河彩斗は歩いていた。
 いつもなら直行で家に帰宅し、そのままベッドにダイブして夜になったら目を覚まし、夜飯を食うというなんとも不健康なニートさながらの生活を送っている彩斗だったがここ最近は違った。
 彩斗は今だ呪文を呟きながら遠くに見える大きな白い建物へと向かっていた。周りを歩く通行人たちが痛い者を見る目で見てくるがそんなこと彩斗には気にならない。
 建物に入ると受付にいた女性に少し慣れたように話し、エレベーターに乗って目的の部屋を目指す。
 目的の部屋の前で一度立ち止まり身なりを整えて横引きの扉を開けた。

「よっ!」

 軽い感じで挨拶をしながら部屋の中に入る。

「また来てくれたんですね」

 部屋の中から柔らかな声が聞こえる。
 ベットの上で上半身を起こす少女の銀色の髪が風でなびく。

「どうせ家帰っても暇だしな。夏音が迷惑って言うなら帰るけど」

「迷惑なことなんてないです。彩斗さんがいつも来てくれて嬉しい、でした」

 夏音は頬を少し紅潮させる。

「そういや、夏音はいつ頃退院するんだ?」

 来る途中で買ってきたリンゴの皮を手慣れた手つきで剥きながら訊く。

「明日には退院する予定でした」

「そうか。よかったぁー」

 安堵のため息が漏れる。
 内心、彩斗は模造天使(エンジェル・フォウ)の影響で夏音が無事に回復しているのかどうか心配でしょうがなかったのだ。
 夏音の口から“退院”という二文字を聞いて心の底からもう一度安堵のため息が漏れる。

 その後、夏音に学校で起きた古城のバカ話を少し話して病室を後にした。




 学校というものは、どんな学生でも毎日面倒だと思うものだ。ごくわずかな体育祭や文化祭などの行事がある時のみ多くの学生たちは面倒という気持ちではなく、楽しもうという気持ちが上回る。
 だが、彩斗はそんな時でも少数派の行事であっても面倒と思う派閥に所属している。
 浅葱曰く、あんたは無気力を顔に出しすぎなのよ、と言われるほど自分でもなんとなくわかってはいるが顔に出るらしい。

 波朧院フェスタ。毎年十月の最終週に開催される絃神市最大の祭典だ。花火、コンサート、仮想パレードといった様々な企画で全島が大騒ぎとなる。

「面倒くせぇな」

 開催まであと五日。祭りの気配は、徐々に島を盛り上げていく。




 波朧院フェスタを控えた彩海学園も祭りの華やかな気配が漂っていた。
 それもそのはず、コンクールや展覧会などに部活がらみで参加する者、屋台やバイトで参加する者、あるいは祭りを満喫する者、それぞれのスタイルで様々だが、絃神市内の学生たちは忙しい。
 波朧院フェスタをどう過ごすかクラスの連中が話している中、彩斗は机の上で腕を枕にして熟睡モードに入っていた。

「朝から眠そうね、あんたは」

 寝ぼけ眼で声のした方に顔だけを向ける。
 そこには制服を粋に着こなした華やかな顔立ちの浅葱が彩斗の隣の席に座っていた。

「浅葱か……おやすみ」

「おやすみじゃないわよ」

 再び眠りにつこうとする彩斗の耳を浅葱が引っ張り強制的に起こされる。

「寝かせてくれよ。この時期俺がチャリで学校来てるの知ってんだろ」

「そういや、モノレールが混むからとか言ってたわね」

 それはそうと、と浅葱が一度咳払いをして話を変える。

「今日、転校生が来るって話で話題が持ちきりなのよ」

 どうやら、今日のクラスメイトたちは波朧院フェスタの話ではなく転校生の話をしていたようだが、彩斗はそんなことなど興味がない。
 彩斗の脳内では、【転校生<睡魔】という方程式が即座に完成してしまう。
 人間の三大欲求ある睡眠欲は、吸血鬼となった今でも健全である。むしろ食欲、性欲を抜いている。

 浅葱の言葉を無視して三度眠りにつこうとすると朝のSTが始まるギリギリで第四真祖の少年が息が切れ気味に入ってくる。

「あのバカは、姫柊がいながら遅刻ギリギリかよ」

 古城が席につくと同時くらいに教室の前の扉から小柄の黒いドレスの少女が現れる。
 担任教師の南宮那月が教卓の前に立ちいつものように朝のSTを行う。
 それ同時に波朧院フェスタのことをいろいろと言われる。いわゆる、はしゃぎすぎて問題を起こすなと言いたいらしい。
 那月の視線は、自然と後ろの席でほとんど話の聞いてない彩斗と古城に向けられる。攻魔官である彼女からすると“第四真祖”と“神意の暁(オリスブラッド)”である吸血鬼が何かしでかさないかということなのだろう。

「まあそれはそうと、知っているかもしれんが転校生がいる」

 那月が教室の前の扉の方に目配せする。
 すると前の扉から一人の少女が入ってくる。

 教室がざわつく。
 綺麗、可愛い、美人という単語が飛んでいるところを聞く限り転校生は少女のようだ。
 机の上に突っ伏している彩斗は、少しの興味で顔を上げた。
 寝起きの霞む視界が徐々にその少女の形を鮮明にしていく。
 そして少女の姿を完全に捉えた瞬間、一気に目が覚醒した。
 背中の半分くらいまで伸びた綺麗な長い黒髪。可愛らしく年齢よりも幼く見える顔立ち。
 クラスメイトたちは、可愛いい転校生が来たことに男子も女子もテンションが上がっている。
 だが、彩斗だけは違った。
 思考を巡らせる。しかし答えは出るわけもなく疲労が溜まるだけだ。
 転校してきた少女に彩斗は見覚えがあった。確実にみたわけではない。
 だが、彼女があの時、夏音の居場所がわからずにいた彩斗にあの無人島の情報をくれた彼女だと確信できた。
 それは情報量の一致だった。長く綺麗な黒い髪。幼い顔立ち。ここまでは他人の空似ということがいえるかもしれない。
 だが、彼女はあの時と同じく姫柊が背負っているのと同じ黒色のギターケースを背負っているのは、他人の空似という言葉で片付けられない。

「始めまして、ボクの名前は逢崎 友妃(あいさき ゆき)って言います。これからよろしくお願いします」

 逢崎友妃と名乗った少女は、無邪気な笑みで微笑みかけるのだった。 
 

 
後書き
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