Element Magic Trinity
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
記憶の中で少女は笑う
はっきり言って、ザイールは苦戦を強いられていた。
正直に言って、目の前で怒り狂う青髪の少女は、簡単に倒せると思っていた。
思っていた・・・のだが。
「水流槍騎兵!」
「っ!」
水を纏って突進してきたジュビアを避け、ザイールはジュビアの後方に着地する。
体力も魔力も大した消費じゃないが、この空気が嫌だった。
怒り一色に染められた、怒る水使いの感情が溶けだしたような、重い空気が。
(かつてエレメント4と呼ばれたほどの実力者だとは聞いていたが・・・これ程とはっ!)
ぐっと拳を握りしめる。
彼女の恋する氷使い、グレイ・フルバスターに成りすましての奇襲は成功したように見えた。
が、実際にはジュビアを激怒させただけであり、ザイールからするとデメリットでしかない奇襲攻撃だったのだ。
(属性水・・・相性は悪いが、あと30秒避け続ければ問題はない)
「水流斬破!」
(あと15秒っ・・・)
向かってきた水を屈んで避け、ザイールは頭の中でカウントする。
時間を測るのには慣れている―――――2分だけだが。
「風に変換!出力規範5!痛覚襲撃!」
ザイールの両手に纏われていた光が、淡い青から淡い緑へと変わっていく。
それをチラリと確認したザイールは、思いっきり床を蹴り上げた。
飛び上がった状態から、合わせた両拳を叩きつけるようにして拳に魔力を集中させる。
瞬時に藍色の魔法陣が展開し、ザイールの声に反応して光を帯びていく。
「逆巻く疾風の回音!」
叩きつけられた拳から、眩いまでの光が溢れる。
そして―――――風が、思いっきり爆発した。
「くっ・・・ああああっ!」
持ちこたえようとしたジュビアだが、想像以上の威力に吹き飛ばされる。
タン、と小さく音を立ててザイールは着地し、すぐさまジュビアと距離を取った。
厳しい表情のまま前を見据え、小さく息を吐く。
「やはり、倒れてはくれないか」
ボソッと呟いた言葉の通り。
ジュビアは多少の傷は負っているものの、何事もなかったように立っていた。
(一応、相手の弱点はついているんだがな)
己の所属ギルドの情報網の少女に聞いた情報通りに戦っているはず、なのだが。
さっきから何発も何発も魔法を放っているが、手応えを感じない。
「恋する乙女は強敵だな。2度敵に回したくない」
「ジュビアはあなたを許さない!絶対に!」
「・・・それは何度も聞いた」
青い瞳にメラメラと怒りの炎を燃やすジュビアに、呆れたようにザイールは呟く。
先ほどからジュビアはこの調子だ。
まぁ、確かにザイールはグレイだと偽り奇襲を仕掛けたが。
「ティアさんを返しなさい!」
「ほう・・・本来の目的も覚えていたのか。偉い偉い」
「キィィィィィッ!」
明らかにバカにしている口調のザイールにジュビアの怒りは更に燃える。
「悪いがティア嬢はいるべき場所へと帰っただけ・・・お前達は邪魔だ。消えろ」
「いいえ!ジュビアは帰りません!友達を見捨てるなんて嫌ですから!」
「友達?」
はっきりとした口調で言い切ったジュビアの言葉を、ザイールは静かに繰り返す。
ザイールはぎゅっと唇を噛みしめ、拳を握りしめた。
「・・・くだらないな。正規ギルドは相変わらず甘い」
「なっ・・・!」
溜息と共に吐き出された言葉に、ジュビアは攻撃を仕掛ける為駆け出そうとする。
だが、ザイールの言葉が、その動きを止めた。
(相変わらず・・・?)
まるで、正規ギルドの中身を知っているような口ぶり。
相変わらず―――――つまり、“以前と同じように”甘いと、ザイールは言った。
目の前に立つザイールに目を向け、ジュビアは考えを巡らせる。
(そういえば彼・・・どこかで見た事があるような・・・グレイ様に似てるとかじゃなくてっ)
こんな時でも頭に浮かぶのは、やっぱり実物より5倍はイケメンのグレイ。
ぶんぶんと頭を振って考えを追い出し、ジュビアは前を見据えた。
「あなたは一体誰なの?・・・その紋章、血塗れの欲望じゃないですよね」
「御名答」
乾いた拍手の音を響かせる、ザイールの右手の甲。
そこには、黒い紋章がある。
狂ったような道化師の紋章が。
「俺はザイール・フォルガ・・・災厄の道化の遊撃を担当している」
「災厄の道化・・・血塗れの欲望の傘下ギルド・・・!」
「その通り。我らがマスターの命令によって、俺はお前を消す」
「ジュビアは消えません!ティアさんを助けて、ギルドに帰ります!」
「・・・ほう」
ピクリ、と。
ザイールの眉が動いた。
小さく口角が上がり、黒い瞳に光が宿る。
「救えるものなら救ってみろ。それが本当の救済かは誰にも解らんがな」
「大空暴拳!」
「おっと」
窓が1つある、それだけの部屋。
広い空間を縦横無尽に駆け回る、風の拳。
それをマミーはヒラリヒラリと避け続け、ルーは一発でも当てようと風を操る。
「避けてばっかりじゃないかーっ!お前、戦う気あるのかーっ!」
「生憎だけどさ、アタシって攻撃系の魔法使えないんだよねっ♪」
苛ついたように叫ぶルーにマミーは変わらない調子でウインクを1つ。
トン、と着地したマミーの左手には、きらりと鈍く光る刃。
「だから・・・」
ボサボサの髪を揺らし、マミーは左手に握りしめた刃をくるりと手の中で回す。
垂れ目で真っ直ぐにルーを見つめ、矛先をその視線と同じように真っ直ぐルーへと向ける。
「短剣に突き刺さって死んでくれると嬉しいなぁっ!」
ブォン!と。
空気を切る音がルーシィとルーの耳に入り込む。
銀色の光を煌めかせた短剣は勢いよく壁へと突き刺さった。
「っ危ないなぁ、もぅ・・・あと1歩遅かったら僕の肩がグサッといってたじゃん」
「アタシ的にはグサッとが見たいんだけどね」
ギリギリで避けたルーの言葉に、マミーはケラケラと笑う。
「で?そっちの金髪令嬢サマは何もしないワケ?」
「ルーシィは何もしなくていいんだよ。こーゆー残酷な事には向いてないし、似合わない」
ルーシィはルーによって部屋の隅に押し退けられている。
最初のうちは戦闘に参加しようと思って鍵を構えたのだが、ルーとマミーの戦いに入る隙を見出せず、ルーに「そこにいて、ルーシィ」と言われてしまった為、ルーの勝利を信じて戦いを見届けているのだ。
「てゆーかさぁ、そんなに好きな女にいいトコ見せたいかね?」
「そういう訳じゃないよ。僕はティアを助けたいだけだ・・・で、お前は邪魔をする。だから潰す」
「ふーん・・・アタシからすると、アンタの方が邪魔なんだけどねー☆だからアンタを潰しても文句はないワケだ。相手を潰すって事は、自分が潰される覚悟はあるんだろうし」
「そりゃ、まぁね」
くるくると風のナイフを回しながら、ルーは何でもないように呟く。
「僕には、自分が死んだとしても守り抜きたい人達がいるから。死ぬ事だって覚悟してるよ」
スッ、と。
ルーの纏う空気が変わる。
いつもの愛らしい、幼さ全開の空気から―――鋭い刃のような空気へと。
その表情が年相応の青年のものへと変わり、ぐっと拳が握りしめられる。
「・・・へぇ、正規ギルドの奴にしては、随分度胸のある奴だね。歴代で1番戦いがいがあるよ」
ふわり、とボサボサの髪を払い、マミーは微笑む。
優しさのカケラもない冷たい微笑み、笑う仕草のカケラさえ消し去った冷酷な瞳。
漸く目の前の獲物を獲物と認識したような―――――そんな感じ。
「さて・・・アタシにここまで称賛させたのはアンタが初めてだからね。最っ高の魔法で持て成してあげよっかな」
瞳が光る。
表面上だけの笑みを浮かべたマミーの姿が煙がかっていく。
「?何を・・・」
ルーの呟きに応えるように、マミーの体がふわりと“消える”。
そこには、紫の光だけが瞬いていた。
楽しそうに、嬉しそうに。
「ルー・・・だったっけ?アンタが大好きな人を用意したよっ」
「は?」
意味不明な言葉に、ルーは聞き返す。
くるりと回転した光に反応するように、魔法陣が展開した。
「っ!」
「くっ」
パァァァァッ!と。
眩いまでの光が部屋を覆った。
思わず2人は目を瞑る。
ぎゅっと閉じた瞼の向こうで、光が治まっていくのを感じて――――――
「ルー」
鈴を転がすような、可愛らしい声が響いた。
「!」
その声に反応するように、ルーが目を見開く。
眩しさが消えた事をゆっくり確認しながら、ルーシィも目を開く。
「そ・・・そんな・・・まさか・・・」
ルーの声が震えている。
声だけじゃない―――――その後ろ姿を見るだけで、驚愕している事が解る。
「ルー?」
明らかに様子がおかしいルーを不思議そうにルーシィは見つめる。
ルーの見つめる先を見ようと、ルーシィは左に1歩進んだ。
そして―――――――気づく。
「久しぶりだね、ルー。あたしの事、忘れちゃった?」
まだあどけない声でそう問いかける少女。
ウェンディやココロより少し年下、ロメオより少し上ぐらいの少女は、その雰囲気に似合う可愛らしいワンピースを纏っていた。
「な、何で・・・何で・・・」
言葉が見つからないのか、ルーは戸惑うように半歩下がる。
それに合わせるように、少女は1歩前に進んだ。
「どうしたの?ルー・・・あたしを見てそんなリアクションするなんて、ルーらしくないよ?」
不思議そうに首を傾げる。
ルーはその少女から、目が離せなくなっていた。
そして・・・ルーシィも、目を離せなかった。
「あ・・・ああ・・・」
日が沈み、暗くなり始めた部屋の中で煌めく金髪。
茶色がかった、長い睫に縁どられた大きな瞳。
色白な肌に整った顔立ち、幼い中に大人びた雰囲気を持つ容姿。
その姿は、ルーにとって何よりも大事な少女の姿で、もう2度会えないと諦めていた姿で。
―――――1度でもいいから、会いたい少女だった。
「何で・・・君がここにいるんだ・・・」
嘘だ、とルーの中で声が響く。
そこにいると信じたい、とルーの願いがそれを弾く。
喜びや驚愕―――様々な感情を声に乗せて、ルーはその少女の名を呟いた。
「サヤ―――――――――――……!」
記憶の中で自分に笑いかける少女。
“ずっと一緒にいよう”と約束した友達。
あの日―――――10年前のルーの誕生日に、ルーが遺体で発見したはずの・・・!
「あ、あたし?」
思わずルーシィが呟く。
そう―――――目の前で微笑むサヤという名の少女は、ルーシィにそっくりなのだ。
揺れる金髪も茶色がかった瞳も、声も。
「よかった。あたしの事、忘れたんじゃないんだね」
「忘れてなんかないよ・・・ずっと、会いたかったんだ」
「うん・・・あたしも会いたかったよ、ルー」
サヤの言葉に、ルーは今にも泣きだしそうな表情を無理矢理微笑ませ、答える。
それに安心したように、サヤは目を伏せた。
「だから、ね」
微笑みは変わらない。
雰囲気も変わらない。
ルーの記憶の中と変わらない姿のサヤの左手に、鈍い光が見える。
「あたし、ずっとルーと一緒にいたいから・・・」
ふわり、と微笑む。
ゆっくりと、左手が上がる。
先ほどまでと何も変わらない優しい微笑みで―――――サヤは告げた。
「あたしのいる天国に、ルーも来て」
鋭く、斬り裂いた。
何が?―――――サヤが投げた、ナイフが。
何を?―――――驚愕するルーの、右肩を。
「っ――――――――!」
視界に飛び散る血が映り、ルーの目が見開かれる。
重力の通りに血が落ちて―――――ズキリと、肩に痛みが走った。
「ルー!」
「来ないでルーシィ!大空治癒!」
慌てて駆け出そうとしたルーシィを止め、ルーは肩を抑えて治癒系の魔法をかける。
淡い緑の光がゆっくりと傷口を塞いでいく。
数秒後には薄い傷跡と破けたブレザー、シャツだけが残った。
「あ・・・そっか、ルーって治癒も出来るんだっけ」
「サヤ・・・?君、一体何を・・・」
「あたしはただルーと一緒にいたいだけだよ」
ルーの言葉を遮るようにしてサヤはいい、再びナイフを投げる。
「くっ・・・」
苦しげな表情でルーはそれを避け、サヤに目を向ける。
10年前の記憶と何も変わっていないサヤの姿。
だが・・・ルーの知るサヤは、ナイフなんて投げられない。
「ルーもあたしのトコにおいでよ。ずっと一緒にいようって、約束したよね?」
「ぐっ!があっ!」
「ルー!」
微笑んだまま、連続でナイフを投擲するサヤ。
ルーはそれを避けていくが、時折ナイフが足や腕を斬り付けていく。
それに合わせて治癒をするが、ペースが遅く間に合わない。
「ねぇ・・・どうして?あたしはルーと一緒にいたい。ルーは、あたしと一緒にいたくないの?」
「それはっ・・・!」
「その後ろにいる女の子の方が、好きだから?」
「!」
後ろにいる女の子―――――つまり、ルーシィ。
自分が成長した姿のようにそっくりのルーシィに目を向け、サヤはナイフを握りしめた。
「そっか・・・ルーはその子の方が好きなんだ」
ルーの答えを待たず、サヤは呟いた。
その顔から微笑みが消える。
瞳に冷たい光が宿った。
「だったら・・・消さないとね」
「サヤ!」
「ルーと一緒にいるのはあたしなんだよ・・・その子でいいハズがない!」
狂ったように、サヤが叫んだ。
それと同時に、凄まじい勢いでナイフが投擲される。
空気を切る音を響かせながらルーシィへと向かって行くナイフは――――
「大空風流!」
操られた空気の流れに巻き込まれ、右へと進路を変えた。
「・・・ルー」
「はぁっ・・・ダメだよ、サヤ。ルーシィを傷つけたら」
苦しそうに息を切らしながらも、ルーは精一杯微笑む。
サヤの目から鋭さが消えた。
穏やかな微笑みが戻ってくる。
「・・・ねぇ、サヤ」
「なぁに?ルー」
サヤは首を傾げる。
そして―――――ルーは、ルーシィが驚愕する一言を吐き出した。
「僕が天国に行けば・・・ルーシィには何もしないんだよね?」
言葉の意味が、理解出来なかった。
理解したくなかった。
ルーシィの目が静かに見開かれて、頬を汗が伝う。
「うん。あたしに必要なのはルー・・・ルーが来てくれるなら、その子には何もしないよ」
「約束、出来る?」
「もちろん」
こくり、と素直にサヤは頷く。
その返事に満足したようにルーは微笑み―――――1歩、踏み出した。
「ちょ・・・ちょっとルー!アンタ何するつもり!?」
「ごめんねルーシィ・・・僕、ルーシィの返事は聞けないみたい」
「ルー・・・?」
慌ててルーシィが声を掛ける。
返ってきたのは、どこか弱々しい声だった。
弱々しくて、どうしようもなくて、今にも遠くに行ってしまいそうな。
「ルーシィ」
くるり、とルーが振り返る。
その表情はギルドで毎日見る、愛らしい笑顔ではなく。
穏やかで、弱々しくて、儚げな―――――遠い微笑みだった。
「大好きだよ―――――――――これからも、ずっと」
そんな事、とっくに知っている。
だって毎日、ルーはそう言っていたから。
子犬と評される笑みを浮かべて、時には悪戯っぽく笑って、くるくると表情を変えて、いつだって真っ直ぐに好きだと言っていた。
その言葉が・・・こんな遠くに感じる事は初めてだった。
「さあ・・・行こっか、サヤ」
「・・・待ってたよ、その言葉を」
「ルー!ダメだよ!そんなのっ・・・!」
サヤの手には、ナイフ。
そしてルーは、無防備。
ルーが何をするつもりかなんて、考えなくたって解った。
「それじゃあ・・・」
「ルー!」
必死に叫ぶ。
ルーの目を覚まさなければ、という一心で。
ここにティアがいてくれたら、と心のどこかで思いながら。
―――――ティアだったら、どうやってルーを目覚めさせるかな、と考えながら。
「ずっと一緒だよ、ルー」
鈴を転がしたような、サヤの声。
軽やかな声とは対照的な鈍い光を放つナイフが―――――投擲される。
(・・・ゴメンね、ティア。僕じゃ、助けられないみたい)
かつて自分に攻撃用の魔法を教えてくれた、姉のような存在のギルド最強の女問題児の姿を思い浮かべる。
最後の記憶に、青い髪と青い瞳の少女を焼き付けて、ルーは目を閉じた。
「ダメええええええええええええええええっ!」
その空気を、叫びが切り裂く。
「!」
その叫びに、ルーは目を開いた。
それと同時に、思いっきり突き飛ばされる感覚。
目に映る世界が斜めに傾いた。
そして・・・視界に小さく映る、サヤのものではない金髪。
(ルー・・・シィ・・・)
青いリボンが揺れたのを確かめたと同時に、ルーの目が見開かれる。
ドサッと床に倒れ込んだルーが体を起こし、まず目に飛び込んできたのは―――――
「ああああああっ!」
叫びながら左肩を抑える、ルーシィの姿だった。
ぺたんと座り込んだルーシィが左肩を抑える手の間から、血が流れる。
「っ・・・ルーシィ!」
気づいたら、ルーは駆け出していた。
無意識のうちにその手に淡い緑の光を纏わせ、大空治癒を使う。
一瞬視界が揺れたが、今はそんな事気にしていられなかった。
「っルー・・・アンタ、何バカな事しようとしてんのよっ・・・!」
「ルーシィ・・・でも」
「でもじゃないっ!」
徐々に治っていく傷口を抑えながら叫ぶルーシィにルーが呟くが、遮られる。
「死ぬなんて許さない・・・誰が許しても、あたしとティアが許さない!アンタなんか、ティアに蹴られちゃえばいいのよっ!」
「えー・・・」
こんな状況ながら、ティアの蹴りを想像してルーは思わず顔をしかめる。
すると、それを見つめていたサヤが口を開いた。
「あーあ、標的は外れるわルーは殺せないわ・・・最悪の結果だね、こりゃ」
「え?」
「あのままルーが死んでくれたら、あとはサクッと令嬢サマの息の根止めるだけだったのにな~」
残念そうな口調で語るサヤは―――――ゆっくりと、マミーへと戻っていく。
目からハイライトを失ったサヤは・・・砂のように、消えていく。
「サヤっ!」
「あれ?もしかしてサヤが生きてるとか思っちゃった?」
思わず手を伸ばしたルーを見て、マミーは口元に弧を描く。
「んなワケないじゃん!あれはアタシの“霊化魔法”。アタシの肉体から魂抜け出して死んだ奴に取り憑く魔法さ。アンタを殺すのに丁度いいのがサヤだっただけで、別に生きてる訳じゃないんだよねぇ・・・てか、死んだ奴が生き返るなんて有り得ないし」
伸ばした手が、ゆっくりと下がる。
その拳が、痛いほどに握りしめられていく。
「アタシは“死の人形使い”だよ?死体の1つや2つ、魂憑けば簡単に操れるのさ」
「・・・ない」
「は?」
あっけらかんと語るマミー。
彼女は気づいていない。
その発言が、目の前でゆっくりと立ち上がるルーの怒りを燃え上がらせている事に。
「許さない・・・サヤを道具みたいに使って・・・ルーシィを傷つけて・・・許さない・・・」
「・・・何、コイツ・・・」
「サヤは道具じゃない・・・生きてた人間なんだよ。短い間だけど・・・生きてたんだ!」
ギッとマミーを睨みつけて、ルーが叫ぶ。
彼をうまく操っていたのは、マミーだった。
そして・・・彼をここまで怒らせたのも、マミーなのだ。
「その上ルーシィ傷つけてっ・・・もうお前に手を抜く理由なんてない!」
「はっ・・・?」
手を抜く理由なんてない。
ルーは確かにそう言った。
つまり・・・ルーはさっきまで、手を抜いていたという事になる。
「何?アンタ、アタシを舐めてたって訳?・・・随分アタシも弱い奴だと見られてたみたいだね!」
「弱いよ。お前は僕よりもずっと弱い」
「はぁ?」
ルーの言葉に、マミーはジロリと目を向ける。
その目に怒りが宿った。
「命を失ってでも守りたい人間の為に戦えないお前よりかは、僕の方が強いよ」
風が逆巻く。
ルーの足元に展開された緑色の魔法陣から、風が巻き起こる。
エメラルドグリーンの髪を乱すように揺らして、風は空気に溶け込んでいく。
はためくエメラルドグリーンの下で、黒い瞳が煌めいた。
「元素魔法・第二開放―――――発動」
静かに告げられた言葉。
それと同時に、足元の魔法陣が光を放つ。
「くっ」
「眩しっ・・・」
両腕で目を覆い、マミーとルーシィは顔を背ける。
バサバサと風で髪が靡く。
ゆっくりと目を開き―――――見開いた。
「なっ・・・!」
そこには、ルーがいた。
緑色の光を全身に纏ったルーが。
その姿から放たれるのは、圧倒的な存在感。
1度見たら2度と目が背けられないような――――そんな錯覚に陥りそうなほどの。
「ルー・・・?」
ルーシィが呟く。
それに答えるようにルーは小さく微笑み、紡いだ。
「――――――――大空の支配者」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
ルーがキレた!そして第二開放!
・・・あ、一応ですが、本物の生きてたサヤはあんなにルーを独占しようとする子じゃありませんからね。
マミーが中身なんで、あんな感じかな、と。
感想・批評、お待ちしてます。
ページ上へ戻る