| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第58話 肉体死しても魂死せず

 
前書き
【前回のあらすじ】

 転移装置がお釈迦になりました。・・・以上!

銀時
「また偉くざっくりなあらすじだなぁ」 

 
 目の前が真っ白になる気持ちに皆がなっていた。現在銀時達の目の前では黒煙を巻き上げ、更に火花を撒き散らしている転移装置の姿があった。
 原因は源外の言っていた通り、無理やりフェイトが転移してきた際の負荷が原因だと言われている。
 こうなってしまってはあちら側の世界に逃げる事も出来ない上に、アースラへ救援を要請する事も出来ない。逃げ道を完全に塞がれてしまった事になる。

「どうすんだよこれ! 俺達このまま二進も三進も出来ねぇじゃねぇか!」

 こうなれば最早叫ぶ他に道はない。とばかりに銀時は喚き散らした。無論、そんな事をしたって状況が好転する筈もなく只やかましいだけだった。

「銀ちゃん五月蝿いネ。オモチャをねだって駄々をこねるくそがきかコノヤロー?」
「うっせぇ! 今の俺はなぁ、マジで叫ばないとやってられねぇんだよ!」

 やけっぱち状態の銀時だった。

「大体、元はと言えばてめぇが無理やり転移して来たのが原因じゃねぇか! 責任取れごらぁ!」
「何、私にいちゃもんつける気なの? あの時助けてあげた恩を忘れたって言うの?」

 溜りに溜まった鬱憤のぶつけ先が見つからず、仕方なく身近に居たフェイトにぶつける事にした銀時。無論そんな八つ当たりなどされてフェイトが黙ってる筈もなく、結局またしても喧嘩が勃発する羽目になってしまった。
 激しく、そして醜い罵倒しあう喧嘩が行われているがそんな事に一々首を突っ込んでなどいられないので無視する事にした。
 一々相手にするのも骨が折れるし。

「はぁ、つまり今の所私等には打つ手がないって事かい?」
「う~む、一概にそうとは限らんだろう。ま、そう言う事はこいつに聞いてみるのが一番だろうな」

 源外がそう言うと同時に、テレビの画面が切り替わる。其処に映っていたのはこちらをただじっと見つめるたまであった。
 
「たま! 何で其処に?」
「新八様が連れ去られる前に私の頭部から中枢電脳管だけを抜き取り、源外様の元に投げ渡してくれました。お陰で種子のデータを守る事が出来ました。これは不幸中の幸いと言えます」

 どうやら新八もただやられただけではなかったようだ。流石は新八と言える。

「たま、教えろ。さっき映っていたあれは何だ?」
「皆様が見ました通り、あれは林博士自身です。ですが、林博士は実際には既に死亡しています」
「どう言う事だ?」
「林博士は、生前の内に自分自身すらも実験台に用いていたのです。ですが、それは人体に深刻な影響を及ぼす危険な実験でした。林博士は自分の命と引き換えに伍丸弐號に自分の人格データを全て移植したのです」

 淡々とたまは語る。マッドサイエンティストの域に達するであろう恐ろしい林博士の最期の実験を。
 まさか、自分の命すら実験材料に使うとは誰が思いつこうか?

「まさか自分すらも実験台にするたぁな。これだったらまだプレシアのやってる事の方が良心的に思えるぜ」
「ですが、林博士の人格データを移植した筈の伍丸弐號も徐々に体内でバグが発生し、別の存在へと移り変わろうとしています。最早、今の伍丸弐號は全く別人へと変貌していると言って良いでしょう」

 たまの口調が何処となく寂しげに聞こえた。からくりだと言うのに何故か銀時達の耳には彼女が大事な人を失い寂しそうなのが感じ取れた。

「たまって言ったっけ? 何故林博士はあんな事をしたの?」
「……貴方は、この世界の人ではありませんね」

 フェイトを見てたまは推測した。彼女の外見や体から発する生気の様な物。どれをとっても江戸の人間には見られない類な事をたまは理解したのだ。
 その問いにフェイトは静かに頷いて見せた。

「林博士があの様なからくりを作るようになったのは、病弱な一人娘芙蓉様の話し相手を作る事が目的でした」
「やっぱり、林博士は何処となく母さんに似ている」

 苦い顔をしだした。フェイトの中では林流山のやり方とプレシア・テスタロッサのやり方が酷似しているように見えるのだ。
 そして、その行く末も彼女は粗方予測する事が出来た。プレシアはジュエルシードと呼ばれる危険なロストロギアを用いて神秘の都アルハザードへ行こうとしていた。
 死んだ娘、アリシアを蘇らせるために。
 そして、林流山はやり方は違えど死んだ娘を蘇らせようとしている。
 かりそめの肉体にかつての娘の記憶を入れた全く別の存在として。
 だが、仮にそれが成功したとして、林博士は満足できただろうか?
 恐らく、出来はしないだろう。何故なら、それで満足できたのならばプレシアはジュエルシードなどに手を出さなかった筈だ。
 そう、フェイトもまた芙蓉プロジェクトと似た経緯で生まれた悲しき存在だったのだ。

「私と貴方は、何処か似ている気がするんだ。死んだ娘に似せて作られたまがい物」
「確かに、私は芙蓉様の人格データを持っているだけであり決して芙蓉様ではありません。言うなれば私は偽者です」

 二人は互いの胸の内を明かす思いで話をした。お互い似た境遇を持つ者同士、何処か引き合う所があるのだろう。

「ですが、貴方は違うと思います。私は見ての通り機械で作られた者。其処に転がっている残骸と何ら変わりはありません。ですが、貴方は生命として其処に存在している。私は貴方と言う存在を素敵だと思えます」
「有り難う。昔ね、母さんに本当の事を聞かされた時、私は何もかもがどうでも良くなった事があったの。もう死んでしまいたいとさえ思えた。でも―――」

 言葉を区切り、フェイトは視線を銀時達、そして外で未だに空しい努力を続けているなのはに向けた。

「ここの人達が私を立ち上がらせてくれた。だから、私は今でもこうして立っていられる。今でも私は明日に向って走れる」
「それが貴方なのですね。私の様にバグや欠陥だらけなのと違い、貴方は一人の人間として生を受けた。少しだけ、貴方が羨ましく思えます」

 たまが俯いた。からくりが他人を羨む事などありはしない。それほどまでにたまの人格は人間に近い完成度を誇っているのだろう。

「別にお前は欠陥品じゃねぇだろう?」
「銀時様」
「お前だけじゃねぇ。言っちまえば生きている奴等全員欠点だらけだ。完璧な人間や完璧な物なんてこの世に存在しねぇ。どいつもこいつも見方を変えりゃ欠点まみれさ」

 二人の間に割って入るかの様に銀時が進言した。この世に生きている者達全てが欠陥品。彼はそう告げているのだ。

「それでは、何故誰も自分の欠点を嘆かないのですか?」
「確かに皆欠陥を持っている。だけどなぁ、欠陥がある変わりにそいつしか持ってねぇ良い部分もあるってこったよ。だからこそ、人間は互いに手を取り合って明日を生きる。お互いに協力してでっかいビルを建てたり便利な車を作ったり、それこそ見渡す限り鬼だらけの世の中を生きていけるんだ。完璧な人間なんざお呼びじゃねぇ。俺達が欲しいのは、例え欠陥だらけでも、例え体ん中がバグだらけでも構わない。俺達と共に歩いてくれる仲間なんだよ」
「仲間……ですか?」
「当然たま、お前も俺達の仲間に既に入ってるからな!」
「え?」

 薄気味悪い笑みを浮かべながら銀時がたまを指差した。その行いにたまは驚きの表情を浮かべる。

「覚悟しろよコノヤロー。魔王を倒して大魔王の財産を頂く勇者ご一行に途中リタイアは許さないアルからなぁ」
「そう言うこった。さしずめお前は武道家タイプだな。その成りじゃ魔法の類は使えそうにねぇし。んで、俺が文字通り勇者ってことで、神楽が踊り子。んで、お前等はぁっと……」

 銀時はフェイトとアルフを見るなり顎に手をやって真剣に考え出した。
 何故こう言う時だけ真剣な表情が出来るのか甚だ疑問だが、其処が銀時なのであろう。

「うっし、まず其処の犬耳はお色気ダンサーだな」
「ちょっ、ちょっと待ってよ! 何さそのお色気ダンサーって? ってか、また私の事犬扱いしただろ! 私は狼だって何度言ったらわかるんだい?」
「あれだよぉ。お前の無駄にアピールしている色気を使って敵を悩殺するんだよ。ドラクエとかでもやってるだろ? パフパフとかセクシービームとか。あれやるんだよ」
「絶対やらないからね! そんな恥ずかしい事!」

 断固拒否しているらしいが、銀時は全く取り合おうとしない。そして、続いてフェイトを見て銀時は応える。

「お前はあれだ。遊び人に決定だな。勇者の言う事全く聞かないですき放題するからそれに決定だな。うん」

 勝手に頷く銀時。だが、そんな銀時の眉間に突如フェイトの持っていたバルディッシュの刃が襲い掛かる。
 あわや間一髪。銀時はそれが刺さる前に両手で白刃取りで受け止める事に成功した。
 もし後数秒遅れていたらザックリと突き刺さっていただろう。

「て、てめぇ……いきなり何しやがる! せっかく人がジョブ選択してやった恩を仇で返す気かコノヤロー!」
「うっさい、駄目人間! 何で私がよりにもよって遊び人なのよ! 此処は普通魔法戦士とかそこ等辺が無難じゃないの?」
「何言ってやがる! てめぇみたいな百合全開の脳内お花畑は遊び人が適任なんだよ! 魔法戦士なんて高等ジョブにつけると思ってること事態魔法戦士に失礼なんだよ。今すぐ魔法戦士様に謝れバカヤロー!」
「うっさい天然パーマ! あんたこそ勇者に謝れ! あんたみたいなのが勇者になったらこの世は破滅するわよ!」
「あんだとこのクソガキ!」

 再び醜い争いが勃発してしまった。片や銀時の頭を割ろうと必死にバルディッシュを振り下ろそうとしているフェイト、もう片方でそれを必死に押し返そうとしている銀時。なんともシュールかつ醜い光景であった。

「おいおい、どうでも良いがまだ嬢ちゃんの話は終わってねぇぞ。お前等まじめに話し位聞けよ」
「うっ!」

 まさかまさかの源外からの説教を食らってしまい銀時とフェイトは揃って大人しくなってしまった。意外な人物からの説教に内心ビビッてしまったようだ。

「さてと、んじゃ続きを話してくれや。たま」
「了解しました。林博士が豹変しだしたのは、一人娘の芙蓉様の先が長くないと知った頃からでした。その頃から林博士は芙蓉プロジェクトにご執心なされるようになり、遂には自分自身をも実験台にすると言う暴挙にまで至ったのです」
「だが、それだけじゃあるめぇ。流山のこった。まだ何か企んでるんだろう?」
「そうです。今の林博士、いえ。伍丸弐號の目的は恐らく、からくりだけの世界を作り出すこと。そうすれば、例えからくりの肉体を持つ芙蓉様も寂しくないと。そう思っているのでしょう」

 淡々と語るたまであったが、その言葉は何処となく悲しげに聞こえた。コピーされたデータとは言え、元は林博士の娘のデータだ。そのデータが豹変した林博士の姿や彼の成そうとしている事に深い悲しみを抱いているようだ。

「やれやれ、娘の為に其処までするたぁねぇ。娘の為に話し相手を作って、永遠の命まで与えて、んで今度はからくりメイド達を使って革命かぃ? たった一人の娘の為に其処まで出来りゃ流石と言えるねぇ」
「銀時はどうなの?」
「あん?」

 唐突にフェイトが銀時に話題を振って来た。

「銀時はどうなの? 貴方は、もし林博士と同じ境遇になったらどうするの?」
「俺が、林博士と同じ境遇になったら……か―――」

 フェイトの問いに銀時は暫し黙り込んだ。彼もまた言ってしまえば父親だ。違うのと言えば林博士と芙蓉との間は血の繋がった親子であろうが、銀時となのはは違う。二人には血の繋がりは全くない。
 だが、例え血のつながりがなくとも銀時にとってはなのはは既に自分の娘の様な存在になっていた。9年前に万事屋の階段下で拾ってからずっと銀時はなのはを育て上げて来た。
 それこそ、幾度かは喧嘩もしたし途中で育児を投げ出そうと思った事もある。だが、今ではそれら全てが良い思い出として銀時の中に残っているのだ。
 その結晶とも言えるなのはがもし、突然自分の前から消えるような事があれば、自分はどうなるだろうか?
 林博士や、はたまたプレシア・テスタロッサの時と同じようになのはを生き返らせようとするのだろうか?
 それとも―――

「ま、一概には言えねぇけどよ……これだけは断言出来るぜ。俺は、絶対に死人を蘇らせるような真似はしねぇ」
「どうして? 死んでしまったら一生会えないのに、銀時はそれで良いの?」
「確かに、死に別れは辛ぇさ。だけどな、生きてる奴がてめぇの勝手な都合で死人を蘇らせるのは余りに身勝手な事だ。どうしても会いたいってんなら死ぬまで辛抱してりゃ良い。そうすりゃあの世でまた会えるからな」

 それが銀時の答えだった。もし、なのはが死ぬような事があっても、銀時は決して彼女を蘇らせたりしないだろう。死人を生き返らせる事など実際不可能な事なのだ。それに、例えそれが出来たとしても、そんな事に手を染めればあの人が悲しむだろう。
 銀時はあの人の悲しむ顔だけは見たくなかった。

「それになぁ、死に別れたって言っても今生の別れじゃねぇんだ。肉体が死んじまったとしても、その魂は生き続けるんだよ。生前に関わった奴等全員の中にな」

 自分の胸にドンと手を押し当て、自信満々に銀時は語る。彼の中には今まで出会い、そして死に別れた多くの人達の記憶と、そして魂が刻まれている。この記憶と魂を生きている間ずっと持ち続ける事が今生きている者達の成すべき事だと、それが銀時の人間性だった。

「なんだか、銀時って母さんと違うね。母さんだったら絶対に自分の娘を生き返らせようとするのに」
「ま、人それぞれって奴だろうよ。俺やじいさんみたいにハートの乾いた連中はスッパリ諦めがつけるのが取り得って奴だしな」
「おい、俺を引き合いに出すなよ!」

 自分まで同じ穴の狢にされたのを余り嬉しく思わなかったのだろうか、源外が口をへの字に曲げて銀時を睨んだ。
 
「私もマミーが死んじゃったけど、でも生き返って欲しいなんて思った事はないアルよ。だって、マミーは空の上でずっと私を見守ってくれてるから、だから私はちっとも寂しくなんかないネ」

 そう言って神楽が天井の小さな穴から見える数個の星の輝きを見てそう呟いた。既に日が西に傾き、赤い夕日が徐々に沈み始めている。そろそろ夜になる頃合だ。
 ふと、だれかのすすり泣く声が耳に入りその方を向くと、何故か大粒の涙を流しているアルフが居た。

「何泣いてんだ? お前」
「うぅ……だってさぁ、あんたらの話聞いてるとむしょうに悲しくなっちまってさぁ」
「ったく、お前は泣き上戸かよ」

 先の話を聞いて其処までされた事に銀時は何処か気恥ずかしさを感じたのか、照れ隠しにそっぽを向いて頭を掻き毟りながらたまの方へと向った。
 たまは俯いていた。やはり、その視線は何処か悲しさがうかがえる。

「どした。まさかお前まで悲しくなったなんて言うんじゃねぇだろうな?」
「いいえ、そうではないのです。ただ、私の中の種子が反応を示さないのです」
「反応?」
「はい、私の中にインプットされているプログラムは、林博士とその娘芙蓉様を守る事なのです。ですが、今の伍丸弐號を見ても、私のプログラムは何の反応を示しません。銀時様、私はどうしてしまったのでしょうか? これはバグなのでしょうか? これは修理すれば直るのでしょうか?」

 如何にもからくりらしい発言だった。その発言に、銀時は軽く溜息にも似た吐息をした後、真剣な面持ちでたまを見た。

「それは違うぜ、たま。それはお前の中にある魂があいつを否定しているだけだ。あいつは林博士何かじゃねぇ! ってな」
「魂? それは何ですか? 種子のことですか?」
「違ぇよ。種子だのデータだの。チョンと触っただけでぶっ飛ぶ様な代物じゃねぇ。本当の魂や記憶ってのはなぁ、何回電源切ろうがブレーカーが落ちようが初期化しようが、消える物じゃねぇんだよ」

 バツン! 突然目の前のたまが消え、辺りが真っ暗になってしまった。
 その光景に一瞬銀時は何が起こったのか全く理解出来なかったが、徐々にそのショックから立ち直り、目の前の現実を理解しだした。

「ありゃりゃ、ブレーカーが落ちちまったなぁ。やっぱこのからくりは電気を結構使うからなぁ」
「あっそうなの? あれ、何か俺すっごい恥ずかしいんだけど。何、この空しい感じ。カッコいい台詞を一人言で言ったみたいな空しくて恥ずかしい感じがするんだけど、ってかじいさん! そのからくりから煙出てるぞ!」
「何? いかん、やっぱあり合わせじゃ無理があったかぁ」

 結局あり合わせだったようだ。そりゃ無理もあるだろう。

「おいおい、大丈夫かよ? またデータぶっ飛んでたりしないか?」
「大丈夫でしょ。大事な記憶ってのは何回電源切ろうがブレーカーが落ちようが消えないってさっき言ってたじゃない」

 からくりから電脳管を抜き取りながらフェイトが嫌みったらしい顔でそう言っていた。

「何かすっげぇ腹立つんだけどこのガキ。殴って良い? 思いっきりコークスクリューパンチ決めちゃって良い?」

 額に青筋を浮かべながらにやにやしているフェイトを睨んでいる。が、その睨みを受けながらもフェイトは全く気にせずに銀時に対して嫌みったらしい笑みをぶつけている。

「にしても、部屋中真っ暗になっちまったなぁ。おい、どっかにブレーカーとかねぇのか?」
「こう暗くちゃ何も見えねぇよ。どっかに何か差し込む穴とか探してみてくれねぇか?」
「分かった。そぉい!」

 掛け声と共にフェイトが銀時のズボンの尻に向かい電脳管を迷う事なくスロットインした。
 無論その際の音は「カチッ」ではなく「ズボッ」と言う音だった。そして、その音と共に銀時の顔が真っ青に変色していく。

「いたたっ! 何しやがんだこのクソガキ!」
「さっき源外さんが言ってたじゃない。穴を探せって」
「だからって尻の穴に差し込む馬鹿が居るか! って、此処に居たか。そうだよなぁ、脳内お花畑のお馬鹿さん」
「何? 喧嘩売ってるの? 今なら割り増しでも買うわよ」

 またしても睨みあいが始まる両者。最早付き合いきれないと言った感じだった。

「またアルよ。じじい、他に組み込めるからくりとかないアルかぁ?」
「無茶言うな。せめて外で暴れてたからくりメイドとかなら何とかできるだろうが……ってか、外が騒がしいなぁ」

 電気が切れた事により機械の音が消えた為か、外の音に皆が気付いた。犬の鳴き声となのはが何か言っている声が聞こえて来る。
 とりあえず真相を確認しようと外に出ると、其処には定春が一体のからくりメイドを咥えており、そのからくりメイドに向いなのはが話している風景が映っていた。

「ねぇ、くりんちゃんもさっき見たでしょ? 私の手からビームがズギュゥゥンって出たの?」
「お掃除ですのぉ。お掃除ですのぉ……」
「だぁかぁらぁ! お掃除じゃなく、手からビームがそれこそズバボォォンって出たの見てたでしょってばぁ!」

 其処で繰り返されていた会話は余りにも無駄で無意味な会話だった。なのはが自分の成した偉業を語っているのだろうが、それに対して壊れたからくりメイドはただ一つの言葉を連呼するだけであった。
 しかしまぁ、壊れているとは言えからくりメイド。これさえあれば電脳管を差し込んでたまの記憶を再起動させる事が出来るだろう。

「やるじゃねぇか。流石だぜポチ!」
「ちげぇよ。ポチじゃなくて定春アル!」

 源外に続き、各々が工房の外へと躍り出た。真っ暗な工房の中に居るよりは外に居た方が幾分かは明るいだろう。そう思い出た一同を出迎えたのは夜空を照らすまん丸な月の光だった。
 今宵は何時にも増して月が美しく輝いている。月見酒が美味いだろう。
 そう思った矢先の事、一同はある事に気付いた。
 月の光しか江戸の町を照らしていない事に―――

「こ、これって……」
「江戸中の明かりが消えちまってる! 一体どうなってんだ?」

 驚く一同。その時背後のテレビ型のからくりが突如映りだす。
 其処に映っていたのは、あの伍丸弐號の姿だった。

【江戸市民の諸君。今日この記念すべき日を皆で祝って欲しい。我が手に女王の御霊戻りし時、我等からくりは人を超え神にも等しい存在となるであろう―――】

 まるで某独裁者の演説でもしてるかの様に伍丸弐號は語った。正しく革命、嫌、これはクーデターとも言えた。そう、からくりが人間に対し反乱を企てたのだ。

【皆はその記念すべき日を是非この目に焼き付けて欲しい。我等からくりがこの江戸を支配するその様を。だが、女王の御霊が戻らない時は、生贄の血を捧げる事となるだろう】

 生贄の血?
 疑念に駆られる銀時達の前に突き出されたのはあろう事か、新八であった。
 どうやら奴等に捕えられてそのまま連れてこられたのだろう。
 このままでは新八は生贄の名の下に奴等に殺されてしまう。そんな事をさせる訳にはいかなかった。

「けっ、どうやら奴さんは俺達をご指名の様だぜ」
「上等アル。御霊だろうが金玉だろうが届けてやるネ」

 各々得物を手に銀時と神楽は立ち上がる。両者の目は熱い闘志にギラついており、何時ものシリアスモードにチェンジしたのが一目で伺える。

「おいフェイト。お前等は付き合わなくて良いぜ。これは俺達の喧嘩だからな」
「あら、私達の事を心配してくれてるの? もしかしてツンデレ? 男のツンデレなんて醜いだけよ」

 ケラケラ笑いながら銀時を見るフェイトに銀時は軽くイラッとしたが黙っていた。此処で一々目くじらを立てては大人げない。

「それに、新八には向こう側でも結構世話になったからね。此処で新八君を見捨てるなんて出来ないからね」
「おぉっ! 暫く見ない間に結構成長したアルなぁフェイト。お母さん嬉しいアルよ」
「勿論、神楽の事だって覚えてるよ。だから神楽がピンチになったら助けてあげるよ」
「ウホホォイ! マジでフェイトが生まれ変わったみたいアルよ! とても以前金髪変態女の子だったとは思えないアル!」

 何時も以上に目を輝かせる神楽。そして、満面の笑みを浮かべてそれに応じるフェイト。が、その横で何故か銀時が不満そうな顔を浮かべていた。

「おい、俺への恩はないのか?」
「勿論、一片もないわ」

 キッパリと言い張るフェイト。そんなフェイトに対し、銀時の内に溜まり続けていた怒りのボルテージは遂に噴火した。
 噴火と同時に大層怒りの形相になり、フェイトの頬を抓りながら睨みを利かせる。

「おい、てんめぇコラッ! 俺への恩を忘れるたぁどう言う了見だぁ? 俺がてめぇを更正させた恩を忘れたってのかぁコノヤロー!」
「いたたたたっ! 抓るのを止めなさいよこの腐れ天然パーマ! 何かにつけて暴力に走るのは最低って本に書いてあったわよ!」
「うっせぇよ! それにこれは暴力じゃなくて教育的指導なので問題ないでぇっす! 非行に走ったじゃじゃ馬を更正させるには時には腕付くなのも必要なんですぅ!」
「あんたに更正される覚えはないわ! 腐った金玉しか持ってない癖に偉そうな事言わないでよ!」
「てんめぇ! 俺の金玉が腐ってるだとぉ! 何なら見るか? 俺の金玉見るかぁゴラァ!」

 等と、不毛な争いを始める両者。この二人の喧嘩が終わる日は何時くるのだろうか。

「御霊でもなければ金玉でもありません。私は【たま】です!」

 そんな喧嘩を仲裁するかの如く、壊れたからくりメイドをあり合わせで修復している源外と、そのメイドにたまの電脳管を差し込み見事に復活したたまが其処に居た。

「私も一緒に行きます。私の中で芙蓉様の人格データが告げているんです。伍丸弐號を……林博士を、父を止めて欲しいと」
「そうかい、だったら俺達は差し詰めそのお供ってこったな。ま、それもたまには悪くねぇか」

 勝手に自己完結し、苦笑いを決める銀時。だが、これでやる事は決まった。
 此処に居るメンバー総勢で伍丸弐號の待つ場所に行き、奴をぶちのめし、この馬鹿げたクーデターを終わらせる。
 何ともシンプル・イズ・ベストな答えとなった。

「私のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き……え~っと―――」

 そんな一同の横では、未だに空しく手を天に突き出して必死にビームを出そうと空しく足掻くなのはが居たのであった。




     つづく
 
 

 
後書き
【次回予告】

銀時
「突如家の娘であるなのはが7人に分裂した! 
 しかも性格が皆千差万別と言う正に十人十色状態。果たしてなのはは無事に元に戻れるのか? 
 そして万事屋の食費その他諸々の経費はどうなる?」

次回、7人のなのは

新八
「おい、いい加減にしろよ!」 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧