魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos22-Cなお深き闇に染まれ、聖夜の天(ソラ)~Signalfeuer eines Gegenangriffes~
前書き
Signalfeuer eines Gegenangriffes/ズィグナールフォイア・アイネス・ゲーゲンアングリフス/反撃の狼煙
†††Sideはやて†††
ルシル君の酷い有様にショックを受けたわたし。しかもそれをやったんがシュリエルってこともあって余計にショックやった。わけも解らんくなって、わたしは目も耳も塞いでそれが夢であるように願った。
そんで気が付けば、「ここは・・・どこや?」わたしは全く別の場所に居った。足元はまるで血溜まりみたいで、空は赤黒くて気味の悪さがあって、どちらも地平線の彼方まで拡がっとる。明かりらしい明かりは無いけど、でも真っ暗やない妙な空間や。
それに今のわたしは、「動けへん・・・!」何十本もの茨で体を縛られてて、まるで十字架に磔にされとるかのように宙に居る。
「(前みたく夢か幻・・・? ううん、ちゃう、感覚がある)痛っ・・・」
全身に絡みついとる茨の棘が刺さったみたいや。今のわたしの格好はセーターにタイトスカート、タイツやけど、それでも素肌にまで届いてくる。
「やはりあの程度の絶望では完全に堕ちなかったようね。あと、下手に動くとズタズタになるわよ」
動くのをやめた時、聞き覚えのある声が前の方から聞こえてきた。そっちの方に目を向けると、「アウグスタさん・・・!」が何もないところからすぅーっと音も無く歩いて出て来た。肩に掛かるくらいの薄緑色の髪を靡かせて、薄ら光を灯しとる金色の瞳をわたしに向けて来た。
「御機嫌よう、此度の闇の書の主・八神はやて。申し訳ないけど貴女の体を奪わせてもらっているわ」
「体を、って。それやったら今のわたしは・・・?」
「ここは言うなれば闇の書の管制人格、貴女たちがシュリエルリートと呼んでいるアレと融合した貴女の体の内側、貴女と管制人格の精神が混じり合った世界と言ったところね」
「わたしとシュリエルの精神の世界? こんなのが・・・?」
改めて周囲を見渡して、そう漏らした。こんな気味の悪い空間がわたしとシュリエルの繋がりを示す世界やなんて信じたくない。わたしが眉を顰めたのを見たのか「正確には私に汚染されている、ね」アウグスタさんが付け足した。
「酷い・・・」
「酷い、ね。そう言われてもしょうがないわ。でも、そんな感情もあと僅かで消え去るわ」
ルシル君みたく指をパチンと鳴らしたアウグスタさん。それを合図としたようにアウグスタさんの背後に5つのベルカの魔法陣が横一列に並ぶように展開された。そんな魔法陣から出て来たんは、「シュリエル、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ!!」わたしのように茨に捕まって磔状態にされとる5人やった。わたしの呼びかけに誰も答えてくれへんかった。気を失ってるみたいで、全員が俯いてる。
「みんなに何したんや! みんなを放して、今すぐ!」
怒りが込み上げてきて、アウグスタさんに向かって怒鳴った。そん時に勢い余って顔近くに有った茨の棘で頬を切ってしもうた。そやけどこんな痛み、家族のことを想えばどうってことない。
「それは出来ないわ。前に会った時に言ったかと思うけれど。闇の書の力を以って私は王となるのよ。生前には叶うことはなかった。でもこうしてナハトヴァールとして存在できている以上、夢を果たさなけれならないでしょう?」
「そんなつまらんことでわたしらを――シュリエル達を巻き込まんといて!」
「判っていないようね。闇の書は使われてこそ真価を発揮するのよ」
アウグスタさんがまたわたしの家族を道具扱いしてきたから「取り消して・・・!」って睨み付ける。すると「いいえ、取り消さないわ。よく御覧なさい。これが、ソレらの本来の姿よ」って言うて、また指をパチンと鳴らした。
わたしとシュリエルとアウグスタさんの心が交わった世界やってゆうこの空間に、3つの空間モニターが創り出された。映し出されてるのは「シグナム、ヴィータ、ザフィーラ・・・?」の3人なんやけど、素肌も顔も真っ黒くて、目は真っ赤。影の中に浮かぶ火の玉みたいやった。
「アレらは抜け殻よ。精神は私の背後に居るでしょう? 私の言うことを聴かないでしょうから中身をこちらに引っ張り込み、抜け殻を操りやすいようにしているのよ。騎士はあくまで戦いの駒。それを果たさなければ無用な長物となり果てるのよ」
アウグスタさんの話に怒りも憎しみも生まれて頭がどうにかなりそうやったけど、シグナム達がいま戦っとる相手の姿を見て、「え・・・?」それどころやないってレベルで混乱した。
「すずかちゃん、なのはちゃん、アリサちゃん、フェイトちゃん・・・!? それにアルフさんとクロノ君も・・・!?」
わたしの友達が、アウグスタさんに操られてるシグナム達と戦ってた。フェイトちゃんとアリサちゃんはシグナムと、すずかちゃんとなのはちゃんはヴィータと、アルフさんとクロノ君はザフィーラと戦ってる。
「シグナム、・・・フェイトちゃん、アリサちゃん・・・」
雷を扱うフェイトちゃんが黒い大鎌を持ってて、シグナムと同じ炎を扱うアリサちゃんはライフルの銃身下に刃を付けたバヨネットを持ってる。フェイトちゃんがシグナムと接近戦をして、アリサちゃんが炎の弾丸や砲撃ってゆう魔法でフェイトちゃんを援護してる。
「ヴィータ、・・・すずかちゃん、なのはちゃん・・・」
ヴィータ達は戦闘ってゆうよりかは、すずかちゃん達がヴィータを戦わずに止めようとしてくれてる。なのはちゃんがバインドってゆう魔法でヴィータを捕まえて、すずかちゃんの氷の魔法で氷漬けにすることで完全に動きを封じて、ヴィータがそれを外すと同じように繰り返す。あれなら互いに傷つかへん。
「ザフィーラ、・・・アルフさん、クロノ君・・・」
ザフィーラみたく犬(それとも狼?)の耳や尻尾を生やしたアルフさんと、魔力を全身に纏わせたザフィーラが激しい殴り合いをしてて、杖を持ってるクロノ君が魔力弾や砲撃、バインドでアルフさんを援護してる。
「酷い、こんな・・・!」
そやけどザフィーラの防御力の所為でアルフさんとクロノ君の攻撃はどれも弾かれてて、でもザフィーラの攻撃は容赦なく2人を襲ってる。もう見てられへん程に一方的な戦いやった。拮抗してる戦い、戦いやない戦い、一方的な戦い。それが外の世界で起きとる現実やった。
「知らなかったのね。あの子たちも魔導師よ。しかもとびっきりの魔力持ち。貴女の大好きな家族は、あの子たちからも魔力を蒐集したのよ」
「っ!・・・シグナム達が、すずかちゃん達を襲ったって言うんか・・・!?」
「ええ。その際の記録が闇の書に残っているはずだわ。御覧なさい」
「ぅ・・・あ・・・!?」
頭の中に流れ込んでくるんは臨海公園の光景で、頭をデフォルメアニマルに変身させとるルシル君とシグナムとヴィータが、すずかちゃん達を襲って魔力を蒐集する場面やった。指示を出してるんはルシル君のようで、シグナムがすずかちゃんとアリサちゃんを、ヴィータがなのちゃんを、ルシル君がフェイトちゃんとアルフさんを倒してしもうた。
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・! ルシル君たちが言うてた、間違って民間人を蒐集したって話。あれってすずかちゃん達のことやったってことか? 」
今のが本当のことやとしたら、ルシル君たちはわたしやすずかちゃん達に隠してたってことや。わたしにも話してくれへんかった。わたしがすずかちゃんを紹介した時も、ずっと隠してたんやな・・・。隠しことをされてたのがちょう辛い。と、「少し不安を抱いたわね」いつの間にか目の前にアウグスタさんが居って、わたしの左頬にそっと手を添えてきた。ひんやりとしてて、まるで氷みたいやった。
「どうして貴女に黙っていたのかしらね? 主であり、家族である貴女に。どうして?」
「っ・・・!」
覗かれるわたしの目。心の中に妙な、黒い感情が渦巻くのが判った。
(アカン、信じやな、みんなを。でも何を? ちゃう、そんなん関係ない。無条件で信じることが家族や!)
渦巻く嫌な感情を、家族を信じようとする思いで抑え込む。キッとアウグスタさんを見返すと、「あら、残念。この程度では貴女を掌握することが出来ないのね」わたしから離れて行って、そしてシグナム達の側に向かった。
「さらなる絶望が必要なようね。貴女の想い人を・・・墜とすわ」
「ルシル君を・・・!? 待っ――眩しい・・・!」
目の前が強く発光したから慌てて目を閉じる。まぶたの裏からでも判る強い発光。けどそれもすぐに治まったのが判ったから、恐る恐る目を開けると、「っ!?」目の前に広がるのは外の世界で、そして「っ、ルシル君!」が“エヴェストルム”を手に持って、わたしに向かって飛んで来とるのが見えた。
『はやて、シュリエル! いま助けるからな!』
『無駄よ。今代の主と管制人格、そして守護騎士は私が掌握するわ。・・・直に沈むわ、私の深い闇の底へと』
外のわたしの口から発せられたんはわたしの声やなくてアウグスタさんのもので、「ルシル君、聞こえるか!?」もう一度声を出しても、わたしの声は自分の耳にだけ届いとるような感覚がある。
――轟き響け、汝の雷光――
ルシル君の“エヴェストルム”の先端から蒼く輝く雷の砲撃が発射されて、それは一直線にわたしに向かって来た。目を閉じようとしても閉じれへん。それでようやく判った。わたしがいま見とるんはシュリエルの視界やってことが。
「わわっ!?」
わたしらの体を乗っ取っとるアウグスタさんがルシル君の砲撃を避けたことで目の前の光景が目まぐるしく流れる。耳には“闇の書”が開くペラペラってゆう音が届いて、≪Divine Buster≫そんな声が聞こえた。
『撃ち貫きなさい』
右の手の平から綺麗な桜色の砲撃が発射された。ルシル君は避けようとせぇへんから「危ない、ルシル君!」呼びかける。すると、まるでわたしの声が届いたかのようにルシル君は小さく微笑んで、砲撃に右手の平を翳した。
――女神の救済――
砲撃がルシル君の手の平に触れた瞬間、砲撃が一瞬で消滅した・・・とゆうよりは吸収されたっぽかった。ルシル君から聞いとった魔力吸収の魔法や。ルシル君は『はやて達を返せぇぇぇーーーッ!!』ってジグザグに飛び回りながらわたしらの方に飛んで向かって来た。そんでルシル君とアウグスタさんは射撃や砲撃の魔法を撃ち合いながら空を飛び回り始めた。
「ルシル君・・・」
蒼い剣12枚を翼にして空を翔けるルシル君と、黒い翼を翻して飛ぶアウグスタさん。ルシル君はアウグスタさんの魔法を吸収したり避けたり防いだりして慌ただしいけど、アウグスタさんはときどき防ぐことも避けることもせんでルシル君の攻撃を受けた。でも効いてへんようやった。
『さすがは闇の書の防衛プログラム。やはり並の防御力じゃないな』
――集い纏え、汝の火炎槍――
『お前の魔導のおかげもあるわ。これまでの蒐集対象史上、最高だわ!』
蒼く燃え盛る“エヴェストルム”を連続で振るうルシル君の斬撃を、左腕の籠手で防いでは右拳で反撃するアウグスタさん。でもお互いに決定打を与えられへん。
「チッ。本当に面倒な子供だわ。まだ何か隠し玉を持っているようだし。速攻で撃墜するのは諦めるわ」
耳元で囁かれたかのような「アウグスタさん・・・!?」の声に、視界が外界から元の精神世界に戻った。わたしは変わらず茨に捕まって磔状態。目の前にはモニター4つとアウグスタさん、そしてわたしと同じように茨に捕まっとるシグナム達。
「ルシル君はきっとわたしらを助けてくれる! すずかちゃんも、なのはちゃんも、アリサちゃんも、フェイトちゃんも、アルフさんにクロノ君も、みんなが居るから!」
「友情、良い響きね。信じるものや大切なもの、何においても守りたいものがある者は強い、確かに強いわ。それらを守るために必死になって、限界以上の力を引き出せたりするもの。人の意思、それは魔力より魔導より才能よりをも凌駕する」
アウグスタさんのことはよう判らへんけど、でもそんな友情とか絆とかゆうモンを馬鹿にするような人やと思ってたから、ちょう驚きや。機嫌良さそうなアウグスタさんがみんなの側に歩み寄って行った。
「場合によっては最強にして無敵だったりする。でもね、八神はやて。逆を言えば、それを奪ってしまえばその無敵性も消え去るのよ」
「っ! みんなに何をするつもりや!」
不穏な言葉を吐いたアウグスタさんがわたしに振り向いて「貴女にとっての守るものを奪い、絶望を贈るわ」ニヤって嫌な笑みを浮かべて、右腕を頭上高く掲げてパチンと指を鳴らした。するとわたしのすぐ目の前にまでモニターが移動して来た。
「っ!? やめて・・・いやや、やめて、やめて、やめてぇぇぇぇーーーーッ!!」
シグナム達の全身にヒビが入ってく様がモニターに映し出された。それに「うぅぅ・・・」前の方から呻き声が聞こえてきたからそっちにも目を向けると、「シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ!?」の体が薄らと消えていき始めた。
「何しとるんや!! やめて! 今すぐやめて!!」
「無理よ。もう止まらないわ。精神を抜いても肉体は私の命令に逆らおうとしているまま。アレらが本気で戦えば、あの子たちの首は今頃、胴体から斬り離されているわ。蒼き狼とて相手の使い魔と管理局員を押しているけれど、未だに戦いを繰り広げている。肉体が逆らっている証拠。紅の鉄騎と風の癒し手に至っては無様が過ぎるわ」
アルフさんとクロノ君は協力してザフィーラと戦い続けてて、少しずつやけどザフィーラを押し始めた。ヴィータは今もすずかちゃんとなのはちゃんのバインドで捕まったまま。シャマルもルシル君の魔法らしい影の手に簀巻き状態にされた格好でビルの屋上に寝かされとる。シグナムも速さのあるフェイトちゃんと、フェイトちゃんをサポートするアリサちゃんの前に押され気味や。
「あ、当たり前や! シグナム達はもう、人を殺すような騎士やない! た、確かに今はわたしのために人を傷つけとるけど・・・!」
「ええ、知っているわ。本当に面倒な真似をしてくれたわ、貴女。でもそれももう終わり。使えない駒はこれにて退場。私の力の糧としてくれるわ」
モニターに映るシグナム達が一斉に転移されて、1つのモニターに集められた。そのモニターに映っとるんはルシル君とアウグスタさん。そんですずかちゃん達がルシル君の元に集まって来ようとしてるのが見える。
『シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ・・・!? 彼女たちに一体何をした、アウグスタ!!』
『私の内に居る八神はやてがなかなかの強情で、体を支配下に置いている今でも意識まではまだまだで。ここでさらなる絶望を与え、その心を砕い――』
『これ以上、あの子を傷つけることは許さない!!』
ルシル君がシグナム達の側に飛んだその時、『「無駄よ」』外と内のアウグスタさんの声がダブって聞こえた。それを合図としたようにナハトヴァールが籠手から蛇の塊へと変化して、その蛇らを一斉にシグナム達の胸を貫いた。
口に挟まれてるんはシグナム達のリンカーコア。そんでナハトヴァールの蛇がアウグスタさんの左腕に戻って行く途中、開かれた“闇の書”にリンカーコアを押さえつけて蒐集してもうて、「みんな!!」の体が砂のように崩れ去ってしもうた。
「あ・・あ・・・ああ・・・・」
それだけやない。この空間に引っ張り込まれたってゆうシグナム達の精神の方も「うぅぅ」呻き声を上げて苦しみだして、「シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ!」も外のみんなと同じように消えてしもうた。
「はい、終わり。貴女の家族は御覧の通り、消えてしまいました。永遠に・・・さようなら」
「あああ・・・ああ・・・・ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
†††Sideはやて⇒なのは†††
すずかちゃんと一緒にヴィータちゃんを止めていたんだけど、いきなり氷の柱の中から消えたヴィータちゃん。念話でアリサちゃん達と連絡を取ると、そっちの方でもシグナムさん達が消えたってことだった。
「じゃあ、どこに・・・?」
「・・・あっ、なのはちゃん! きっとはやてちゃん――ううん、アウグスタさんとルシル君のところだよ!」
「あ、そうか!」
私とすずかちゃん、みんなもルシル君たちの元へ急いで飛んで向かうことになった。ルシル君たちは戦いを中断している所為かどこに居るのか判らなかったけど、「なに・・・!?」数百mほど離れたビルの屋上から立ち上った深紫色の魔力の柱。
「なのは!」
「すずか!」
そのあまりにも強大な魔力に呆けてしまっているところで名前を呼ばれた。フェイトちゃんと、フェイトちゃんに背中から抱えられてるアリサちゃんだ。遅れて「フェイト!」「みんな!」アルフさんとクロノ君も合流して、すぐにあの魔力の柱を目指して飛ぶ。
――ディバインバスター――
――轟き響け、汝の雷光――
――バスターラッシュ――
――呑み食せ、汝の夜影――
魔力の柱が消えたと思えば4つの砲撃が四方八方に放たれた。2つは蒼、2つは私とすずかちゃんの魔力光を示す桜色と藤紫色。ルシル君の魔法と、アウグスタさんの魔法だ。そして「こっちに向かって来るぞ! 警戒!」クロノ君が声を上げた。こっちに向かって蒼と深紫色の魔力が向かって来ていた。
――ブルーティガードルヒ――
――舞い振るは、汝の獄火――
2色の光の間で激しく交差する血色の短剣と蒼炎の槍。とここで、『すまない、手伝ってくれ!』ルシル君から協力をお願いする念話が来た。お願いされるまでもないよ、ルシル君。ルシル君の念話に私たちは了承を返した。
「レイジングハート!」
≪Accel Shooter≫
「バルディッシュ!」
≪Plasma Barret≫
「フレイムアイズ!」
≪Flame Barret≫
「スノーホワイト!」
≪Frozen Barret≫
「スティンガーレイ・・・!」
「フォトンバレット!」
迫り来るアウグスタさんとルシル君に向けて私たちはそれぞれ魔力弾を複数展開。ルシル君がアウグスタさんの高度・軌道を制限するように飛びつつ炎や雷、氷の槍や砲撃を放ち続けて・・・徐々に高度を下げていく。
――聖剣集う絢爛の城――
アウグスタさんとルシル君の行く手を遮るように真っ赤に燃える炎の壁が円周状に発生した。『撃ってくれ!』急速上昇したルシル君からの合図だ。
「「「「「「クリアランスボミング!!」」」」」」
――殲滅せよ、汝の軍勢――
「蹂躙粛清!!」
私たちの数十発の魔力弾とルシル君の100本以上の魔力槍による絨毯爆撃が、炎の壁を突破しようと魔法を撃ち続けていたアウグスタさんを襲う。いろいろな色の魔力爆発が連続で起き続ける。ここでルシル君と合流。
そしてヴィータちゃん達までもがアウグスタさんによってリンカーコアを蒐集されて、消されちゃったことを聴いた。話してくれたルシル君は終始悔しげに顔を歪ませていて。私たちはそんなルシル君に声を掛けることも出来なくて。
「しっかりしなさいよ、あんた! あんたの知識とあたし達の力が合わされば、はやて達を助けることも出来るんでしょ!?」
そんな時にアリサちゃんがルシル君を掴み上げて怒鳴った。すると「しっかりしているさ。自分の不甲斐無さに怒り心頭だが、決して諦めたわけじゃない」ルシル君はそう言って足元、炎の壁の中で今もなお渦巻く粉塵を見ながら、“エヴェストルム”を二剣一対の形態に変形させた。
「やることは変わらないんだ。魔力ダメージでナハトヴァールの機能を低下させる。改めてみんなにお願いしたい。はやてを、八神家を助けるのを手伝ってくれ」
「あったりまえでしょうが!」
「さっきも言った通りだよ、ルシル君」
「うん。私たちもはやて達を救いたいんだ」
「だって友達だもん。頼まれなくたって手伝うし、引いてって言われても引かないよ」
私たちは頭を下げてお願いしてきたルシル君に笑顔で返すと、「君たちと出会えて、本当に良かった」って笑顔を返してきてくれた。いつ見ても思う。ルシル君の笑顔って、「反則だよ・・・」可愛いんだもん、男の子なのに。
「あ・・・!」
笑顔から一転。ルシル君が胸を押さえて焦りのようなものを見せたから「どうしたの、ルシル君?」って訊いてみると、「先に謝っておくよ」って言った。私たちが「???」を浮かべる中、ルシル君が「上昇しつつ散開、今すぐ!」大声を上げたから、一斉に高度を上げてバラバラに分かれた。
「我が内より来たれ、貴き英雄よ。天上よりの使者。其は七元徳が一を司りし者、名を信仰。来たれ、フィデス」
アウグスタさんの声が粉塵の中から聞こえてきたかと思えば、「っ!!?」その粉塵を何かが突き破って出て来た。それはどう見ても「龍!?」だった。しかもただの龍じゃなくて、荘厳と言うか豪華と言うか絢爛と言うか。
銀を基調とした胴体には黄金に縁取られた赤や青と言った装甲、それに小さな翼が何十と並んでいて、頭はちょっとおかしな形をしてる。下あごにだけに黄金の装甲を付けて、目は無くて代わりに額に人の顔のような石像がある。そして魔法陣のような紋様が額や背に浮いてる。
「素晴らしいわ、お前の力!!」
そんな龍の額の上に腕の組んだアウグスタさんが立っていて、そしてそのまま勢いよく私たちの間を通り過ぎて行った。すごい風圧で靡くスカートと髪を押さえながら、全長200m程もある龍の軌道に注意する。アウグスタさんの乗る龍は雲の上でとぐろを巻きながら「オオオオオ!」って咆えた。
「ちょっと、ルシル! もしかしてあの龍って、あんたとなんか関わりあるの!?」
「ああ! 名はフィデス! 俺の使い魔の1体だ!」
「使い魔!? アレが!? しかも1体って・・・、あんなのがまだ居るわけ!?」
「すまないがまだ居る! 魔力や魔法と一緒に、使い魔召喚の呪文と鍵を盗られた!」
離れているからかアリサちゃんとルシル君が大声で話し合う。そんな中、「来るよ!」アルフさんが声を上げた。龍――フィデスがとぐろを巻くのをやめて高速で降下して来た。
――屈服させよ、汝の恐怖――
どうやってアウグスタさんを止めようかと考えていた時、ルシル君の両脇に展開された円陣2つから巨大な銀色の腕が伸びて来た。フェイトちゃんとシャルちゃんと戦った時に見せた魔法だ。
『俺がフィデスを止める! 君たちはアウグスタを頼む!』
ルシル君の念話が合図となったように2本の腕がフィデスの胴体をガシッと捕まえて、『今だ、撃て!』って号令を出した。
「ディバィィン・・・バスタァァァーーーーッッ!!」
「プラズマ・・・スマッシャァァァーーーーッ!」
「イジェクティブ・ファイアァァァーーーーッ!」
まずは私とフェイトちゃんとアリサちゃんの三方向からの同時砲撃。アウグスタさんは「パンツァーシルト」と一言。フェイトちゃんとアリサちゃんの砲撃はベルカ魔法陣のシールドで防いで、私の砲撃は直撃。
着弾時の爆発によって生まれた煙幕の中から「刃を以って血に染めよ」そんな呪文と一緒に血色の短剣が30近く、一斉に放たれてきた。それを私たちに代わってシールドで防いでくれるのがすずかちゃん達だ。
『防御は私たちに任せて!』
『君たちは攻撃に専念してくれ!』
『フェイト、なのはにアリサも気を付けておくれ!』
すずかちゃん達に『ありがとう!』お礼を言いながら、私たちは射撃に砲撃とアウグスタさんに当て続ける。ルシル君もまたフィデスを倒そうと「マキエル!」って炎と雷と光の龍をいっぺんに創り出して、胴体に絡みつかせた上で噛み付かせてる。それなのに・・・。
『うそでしょ、あたし達の攻撃が全然効いてないっぽいわよ!』
『防御力が尋常じゃない!』
アウグスタさんの防御力はあまりに常軌を逸していて、私たちの魔法が一切通用していないように見えちゃう。そんな中、『まずい、いったん離れろ!』ルシル君から焦りの含まれた念話が来た。激しくうねり出したフィデスがルシル君の創り出した巨腕を破壊して、とうとう逃げられちゃった。
フィデスはビルの間を高速で飛び回りながら私たちから離れて行って、そしてまた向かって来た。とここで、「我が内より来たれ、貴き英雄よ」ルシル君が呪文を詠唱した。さっきアウグスタさんがものと同じものだ。
「フィデスだけは何としても本来のマスターとして俺が潰す。苦労しているようだが、今は君たちに頼る他ない。アウグスタのことは頼んだ」
そう言ってこっちに向かって来るフィデスを迎え撃つようにルシル君も「天上よりの使者。其は七美徳が一を司りし者、名を純潔。来たれ、カスティタス!」そう詠唱した。すると私たちの足元に蒼く巨大な十字架の魔法陣が現れた。
どうしてかゾワッと総毛立つ。そこからチェスとかで見る馬の駒の形をした胴体が飛び出して来た。全高50m位の巨大さで、全部が黒くて、よく見れば額に角があるからユニコーンで、頭の上には魔法陣。遅れて黒い石板が無数に飛び出して来て、両腕を形作った。
「七美徳の天使と七元徳の使徒の衝突、か。耐えてくれよ、局員の結界」
ルシル君がカスティタスの頭の上に乗って、こっちに向かって突っ込んで来るフィデスと対峙。
「天上よりの使者。其は七元徳が一を司りし者、名を希望。来たれ、スぺス!」
そんな時にアウグスタさんがまた呪文を詠唱。胸を押さえるルシル君が「人の使い魔をポンポンと勝手に召喚するな!」って怒鳴る。そして私たちの前に姿を現したのは大きな鳥。全身が豪華絢爛な装甲に覆われていて、首が2つ、尻尾は2頭の龍の首に頭が鳥。胸や翼に人の顔が付いてる。そしてフィデスやカスティタスのように2つの頭の上に魔法陣が浮いてる。
そしてカスティタスとフィデスとスペスが衝突して、口や角から砲撃とか、体当たりとかパンチとか撃ち合い始めたのを見て、「ねぇ、いつからあたし達は特撮映画に出演してるの?」ってアリサちゃんが漏らした。私は開いた口が閉じないって感じだ。
「アレらが使い魔って時点でもう、ルシリオンの異常性は最高レベルにまで達したぞ」
あのクロノ君ですら完全に目の前で繰り広げられてる怪獣大決戦に呆けちゃってる。攻撃を撃ち合いすること数十秒。カスティタスのパンチでスペスがビルに突っ込んで、追い打ちのように角から雷撃を放った。そして胴体に巻きついてるフィデスごと地面に自ら墜落して押し潰した。
『クロノ君! ルシル君に建物をあまり壊さないように伝えてよ! あとで修復するこっちの苦労が・・・!』
エイミィさんの映るモニターが私たちの間に展開された。そんなエイミィさんは半泣き状態で、頭を抱えてた。クロノ君は「無理だ。アレは止められない。判るだろ」苦々しくそう返して、ルシル君の使い魔たちの戦いを見た。
無傷なスペスはビルを崩しながら空に飛び上がって、地面に横たわったままのカスティタスとフィデスに突進して、ぶつかった。すると結界内を満たす程の閃光が生まれた。目を閉じて治まるのを待っているところで『アウグスタをそっちへ飛ばすぞ!』ルシル君から念話。光が治まったと同時、チェーンバインドで簀巻き状態にされたアウグスタさんが飛ばされてきた。
「とにかく行くぞ、みんな!」
クロノ君の号令の下、私たちは「無駄だというのが解らないの!?」チェーンバインドを粉砕して翼を大きく広げて怒声を上げるアウグスタさんと対峙。そして・・・。
「レイジングハート!」
「バルディッシュ!」
「フレイムアイズ!」
私とフェイトちゃんとアリサちゃんはデバイスを構えて、「フルドライブ!!」を起動した。カートリッジを1発ロードした“レイジングハート”は槍のようなエクセリオンモードに変形、フェイトちゃんの“バルディッシュ”は2発、アリサちゃんの“フレイムアイズ”は3発とロードして大剣、ザンバーフォームとクレイモアフォームに変形した。
アクセルやバスター、アサルトやハーケン、ファルシオンやバヨネットじゃ傷1つとして付けられてない今、攻撃力過多かもしれないけど、きっとこれくらいじゃないと通用しない。
「・・・デバイスを変形させた程度で私に勝てると思って?」
私たちは言葉で返すことなくただジッとアウグスタさんを見据えるのみだ。すると余裕そうだったアウグスタさんの表情が冷たいものに変わっていって、「愚かな」そう一言呟いた。
「我が闇の書とナハトヴァールの力の前に、己が無力を噛みしめるといい・・・!」
≪Blutiger Dolch≫
アウグスタさんの周囲に50基は超えてる短剣が展開されて、「往きなさい」そう号令を下して発射させた。でも大丈夫。だって「スノーホワイト!」すずかちゃんが居てくれるから。
≪Ice Mirror≫
縁が氷で覆われてるミッド魔法陣のシールドが張られて、短剣全弾を防いだ。間髪入れずに「ストラグルバインド!」クロノ君と、「チェーンバインド!」アルフさんのバインドがアウグスタさんを捕らえた。
「レイジングハート!」
≪Load cartridge. Excellion Buster≫
エクセリオンモードでの主砲、エクセリオンバスター。射程はディバインバスターより短いけどその分、バリア貫通・着弾時炸裂反応・誘導制御っていう副次効果を持たせることが出来た。
「シューット!」
――パンツァーシルト――
アウグスタさんが展開したシールドに砲撃が防がれちゃった。バリアより防御力のあるシールド、しかもただでさえ魔力量の多いアウグスタさんの使うシールドだ。そう簡単には突破できないことは判ってる。でも・・・。
(私ひとりだけじゃない・・・!)
「「デュプルブレイズ・シオンズクリーバー!!」」
≪≪Double blades Zion’s cleaver≫≫
アウグスタさんの背後に回り込んだフェイトちゃんとアリサちゃんの結界やシールド・バリア破壊効果を有した雷と炎の魔力刃が鋏のように薙ぎ払われる。その2つの刃を「コード・ケムエル」蒼い小さく円い盾を重ね合せたシールドで防いだアウグスタさん。でも徐々にヒビが入って、ついには砕かれた。
「おのれ・・・!」
それでもまだダメ。アリサちゃんの刃をナハトヴァールの籠手で、フェイトちゃんの刃を驚いたことに素手で鷲掴んで止めた。でも表情は硬くて、明らかに無理してるような感じだ。
「何度砕こうとも・・・!」
――クロスバインド――
「何度でも捕らえてやる!」
――チェーンバインド――
そんな時にクロノ君のバインドで磔の体勢みたく拘束されて、アルフさんのバインドで全身を雁字搦めにされた。そうなると当然、アリサちゃんとフェイトちゃんの挟撃をその体に受けることに。なのに、「まだダメなわけ!?」アリサちゃんが声を上げる。2人の刃はまだ直撃してない。見えない盾に防がれてるように両腰から数ミリ程度の開きがあった。だったら・・・。
「すずかちゃん!」「なのはちゃん!」
2人で頷き合って、コンビネーション魔法の1つを使うことを確認。“レイジングハート”をアウグスタさんへ向けてカートリッジを2発ロード。
「エクセリオンバスターのバリエーションその1! ディバイド・・・シューット!」
エクセリオンバスターの幾つかあるバリエーションのうちの1つを発射。極限にまで魔力を圧縮して砲線を細くすることで、威力集中、砲速上昇したうえでさらに3発同時発射(フェイトちゃんのトライデントを基にした)するディバイドシュート。
「リフレクティブミラー!」
着弾するより早く、すずかちゃんがいくつものアイスミラーを球体状に展開してアウグスタさんを囲う。そして私の砲撃はアウグスタさんを外れてアイスミラーの結界内に着弾。その瞬間、3本の砲撃は無数に分裂してアイスミラーの結界内を縦横無尽に反射。
「「エクセリオンバスター・リバウンディングシフト!」」
それらが一斉にアウグスタさんに着弾して、アイスミラーの結界ごと大爆発。巻き込まれないように私たちはその場から大きく離れた。
後書き
ボン・ディア。ボア・タルデ。ボア・ノイテ
いやぁ、ホント、戦闘続きで申し訳なさMAXな今日この頃。アニメ原作や前作同様にシグナム達が消え、はやてが絶望し、主人公のくせしてちょっと邪魔なルシルは自分の使い魔エインヘリヤルと怪獣大決戦を繰り広げる事になりました。
唯一の違いと言えば、アリサやすずかが参戦しているところ、それとシャルがまだ出て来ない、ナハトヴァールにアウグスタの登場、それらの強化、ですか。そんな闇の書事件決戦もおそらく次話で終了かと思います。あくまで予定です、ええ、あくまで。
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