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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第六十五話

 相変わらずの慣れない感覚とともに、意識が現実世界へと戻ってくる。人生で三回目のログアウトは、前回ほど嫌悪感を持つことはなく、《アミュスフィア》を頭から外して意識を覚醒させる。

「ふぅ……」

 久々にVRMMO空間にいすぎたせいか、身体全体を少しだけ倦怠感を襲う。しかしそれも一瞬のことで、一息つくとともに視界がクリアになっていく。カーテンを閉めた窓からは、カーテンの間から電灯の灯りが少しだけ部屋を照らしている。……もう随分と夜が更けているようだ。

 マッサージの意味も兼ねて、身体の節々をコキコキと鳴らしながら、暗い場所に眼が慣れてきてから布団から立ち上がった。部屋の中は整頓しているつもりだが、何かに躓きたくはないし、わざわざ躓くつもりもない。

 離れとなっている部屋から出ると、もう道場の方の電気は消されていたが、本宅――そんな仰々しい言い方をするほど広くはないが――の方からは灯りと、そして何やら美味しそうな匂いが立ちこめている。……そういえばもう夕飯の時間か、と慌てて本宅の方に走りだす。もう冬となって、外は寒いという事もあるが……急いでいる理由は、そのこととは関係がなかった。

 ガラリと音をたてて玄関の戸を開けて、居間の方へと走り出す。我が家は現代においては珍しくなった日本家屋だったが、広さとしては道場に敷地を取られている分そこまでではなく、部屋にしている離れから居間まで一分とかからずに到着する。

「遅刻よ、翔希」

 居間で今晩の食事を机に運んでいた、背筋がピンと伸びた黒髪の女性――というか母がやんわりと俺に注意する。何とか遅刻を注意される程度で済んだものの、これ以上この晩飯の時間に遅れてしまっていては、晩飯だと部屋に予備に来た母が、俺が《アミュスフィア》を付けているところないし、隠しているを見てしまうところだっただろう。

 ……それだけは避けたいところだ。

「ああ……ごめん、母さん」

 今、母が運んでいた料理が最後だったようで、俺と母は揃って食卓へと座る。俺と母より先客として父が先に座っていて、俺たちが揃ったのを見て腕組みを解いて向き直った。白米に味噌汁に焼き魚――と、むしろ昔ながらの朝食といった様子のメニューだったものの、長時間ALOにいた俺としてはどんな食べ物としてもありがたい。寝たきりのはずなのに、何故かそれだけ腹が減っていた。

「いただきます」

 俺と父と母、三人の礼の声が揃って食卓が始まる。我が家は三人家族であり、父はここの道場の師範に母は専業主婦をしている。……たまに、別の場所に住んでいる従姉が来襲してくることもあるが、基本的にこの三人だ。

「翔希、学校はどうだったの?」

「学校……?」

 一瞬だけ母の問いかけが分からなかったが、そういえば今日は、SAO帰還者のための学校の見学日だった。その後のALOのこともあって忘れていたものの、最低限のことは見学してきたつもりだ。

「ああ、廃校って聞いてたから不安だったけど、案外綺麗な場所だったよ」

 本当は相談会やら体験授業やらもあったのだろうが、リズに会ってから即座に帰って来てしまったので、全く記憶にない。今度リズ……いや、里香と会った時に内容を教えてもらおう……と思っていた時、父からの問いかけが来た。

「……何か良いことでもあったか?」

「ッ!? ……ゴホッ、ゴホッ……」

 いきなりの父の一言に、ついつい食べていた物で咳き込んでしまう。……里香のことを考えていただけで楽しそうだと言われるとは、まだまだ精神修行が足りないと言うべきか。後で道場に寄って、素振りでもしてこなくてはなるまい。

 父はもちろん我が家の道場の主であり、俺や直葉の剣の師である。その性格は寡黙――悪く言うと無口で無愛想――と言って差し支えなく、先程からも食卓で特に何も言う事もなく鎮座していた。しかし、寡黙であると同時に職人的でもあり、その剣術の腕も含めて精神的にも、自分の超えるべき壁とも言うべき存在である。

 つまり、自分が平常心ではないのがバレたのは、それこそ目標としている父だからこそ見破られたに違いな――

「あら翔希、大丈夫? ……でも確かに、何だか楽しそうね」

 ――いわけではなかったようだ。父だけではなく、母にも見抜かれているところを見ると。むせたのは無理やり麦茶を飲み干して解決すると、照れ笑いを浮かべながら母に応対する。

「ああ、友達に……会えたんだ」

「へぇ……女の子?」

 この晩飯に入ってから早くも二回咳き込んだ。何故友達と言っただけで女の子になるのか、しかも何故それが合っているのか……! そんな俺の様子を見た母は図星だと思ったのか、さらに俺へと追求の手を緩めない。

「どんな子?」

「えーっと……」

 父は剣術としても親としても父としても、いずれは超えなくてはならない壁だが、母については……恐らくは一生、母に適わないだろう気もして来る……『事件』について触れないようにしつつ、明るく話してくれる母の優しさに感謝はしているが。感情をあまり表に出さない父とは、母は対照的な性格をしていた。

 母から追求される俺の友達の女の子の――もちろん里香のことだが――質問をのらりくらりと避けつつ、食卓は穏やかに過ぎていく。SAO事件の傷痕はまだ糸を引いているものの、俺のリハビリも大体が済んだ今は、自分達の家族は事件前と大差なく生活していた。……変わったところと言えば、俺がまだ剣術が出来るほどに復帰していないことだけだ。

 日常生活をするにあたっては不都合はないものの、剣術をやれるまでには復帰出来ている訳もなく、今までずっと剣術をしてきた俺にとっては、母にも父にも申し訳がたたないでいた。あの離れを自分の部屋にしてもらったのも、それが理由の一端だが……さらに俺は再び、VRMMOの世界へと旅立っている。もう二度と関わるまいと思っていた、あの世界に。

 ……なんて、取り留めもない上に意味もない思考をしている内に、自分の前に用意されていた晩飯が無くなっていた。無意識に食べてしまうとは、何とももったいないことをしたものだ。最後に麦茶でも一杯飲もうかと思ってコップに手を伸ばしたが、運悪く空であり、麦茶が入ったボトルも食卓の上にはない。

「今、麦茶持ってくるわね」

 それぐらい自分で持ってくる――と言う間もなく、母がキッチンの方へと歩いて行ってしまう。母の緑茶も無くなっていたようなので、ついでといったところだろうが、無愛想な父とは逆で母は気配りが出来すぎる。

 俺の横では父の食事も終わったようで、静かにその箸を置いて食事に向かって礼をしていた。……その動作を見て自分が礼をしていないのを思い出し、慌てて御馳走様、と手を合わせていると父がこちらの方を向いてきた。

「翔希。何か目標でも見つけたか」

「え?」

 父からこうして話しかけてくるとは珍しい、とも思いつつ、その言葉の意味を吟味する。新しい目標とは――ALOのことだろうか。父がそのことを知っている筈がないので、ALOのことを言っているわけではないだろうが、俺にとって新しい目標と問われれば、ALOでキリトに恩返しをすること以外はない。

 ……ALOでキリトに恩返しをすることは、自分にとって新しい目標となるほどになっているのが、むしろ少し驚いている。もちろん手を抜いているわけではなく、あの今までの目標を奪ったVRMMOが、新たな目標となっている――といった事実が意外だった。

「どうなんだ?」

「あ、ああ。そんな大それたことじゃあないけど……」

 やっていることを客観的に見ればただのゲームなのだから、大それたことも何もない。だが、SAO事件を経験したものにとっては、VRMMO世界は……もう一つの世界だった筈だ。ならば、その世界で恩人であるキリトを手助けするのは、当面の目標となるほどのことの筈だ。

「なら、その目標を今は全力で取り組め」

「…………」

 しかし先程言った通り……客観的に見ては、ただゲームをやっているだけなのだ。アスナを助けるとは言っても、あのALOとSAO事件の未帰還者が関係しているかも定かではないのに、こんなことをやっている意味はあるのか。……自分から首を突っ込んだくせに、煮え切らないのは分かっているが。

「色々と考え過ぎて迷うのが、お前の悪い癖だ」

 父の言葉にハッとなってその顔を見る。父は普段通りの仏頂面のままだったが、俺への言葉はそのまま続いていく。父がこれだけ話すのは、久しぶりかもしれない。

「たまには迷わず、ただ真っすぐに進んでみろ」

 父の言葉がそう言って終わるとともに、俺のポケットに放り込んでいた携帯が、バイブ音でメールの受信を知らせる。父はもう言うことはないとばかりに立ち上がり、俺はその父の言葉を頭の中で反芻しながらも、とりあえず携帯を開いた。

 送信者は今日アドレスを交換したばかりの、篠崎 里香――リズからだった。

 内容は簡単にまとめると――『速く来て』。まだ決めてあった集合時間には余裕があるが、先に戻っていたレコンかリズに何かあったのだろうか。父の言葉を反芻するのもそのメールで忘れてしまい、慌てて食器を片付けながら立ち上がった。

「母さん、御馳走様!」

 キッチンにいる母にそう伝えた後に居間から出て、ついさっきのように母屋から自分の部屋である離れへと急いで移動する。食事が終わったすぐに寝たくはないが、そんなことを言っている場合ではなく、隠してあるアミュスフィアを取り出した。

 アミュスフィアを頭に装着しながら、先程まで向こうの世界にいた時のように布団に倒れ込むと、後はその言葉を言うだけで向こうの世界へと自分の意識は移動していく。随分用意にも手慣れてしまったものだと自嘲しながら、俺はその言葉を唱えた。

「リンク・スタート……!」

 その言葉とともに現実世界の一条翔希の意識は、アルヴヘイムにいるシルフの妖精ことショウキへと移行していく。それと同時にその風妖精の身体とアルヴヘイムの世界が構築されていき、自分がショウキとしてアルヴヘイムの世界へと降り立つと、ALOへのログインが完成する。

「ふう……」

 未だに慣れることはない、ログインの感覚に一息つきながら目を開ける。俺が前回ログアウトしたのは、レプラコーン領から世界樹へと向かうダンジョンの中間地点にある町であり、そこで一旦休憩という手筈になっていた。所詮はダンジョンの途中にある休憩所、というような様子の町であり、あまり発展もなく薄暗い場所だったが……休憩所としては充分なのだろう。何せ、安全にログアウトが出来るのだから。

「レコン、ショウキが来たわよ!」

 リズもレコンも先に来ていたようで――『速く来て』とメールして来たのだから当たり前だが――ログインして来た俺を二人とも見つけたようだ。俺も二人の下へ走っていくと、メールのことを問いただした。

「どうしたんだ、リズ?」

「あたしもさっき来て、レコンに頼まれてあんたをメールで呼んだんだけど……」

 この世界のことに一番詳しいのはもちろんレコンであり、俺を呼んだのは間接的にはやはりレコンだったようだ。最初に来たレコンが、何か急がざるを得ないことになったのに気づいた――と言ったところか。リズもまだ詳しい説明は受けていないようで、レコンの方を不安げに向いている。

「ええと、大変なんだ……走りながら話そう!」

 レコンも大分慌てているようで、俺たち三人にレコンの十八番である《ホロウ・ボディ》を発動すると、中立地帯である今の街から世界樹方面のダンジョンへと走り出した。ここに来るまでは、ウンディーネが使っていたという水路を使わせてもらったが、世界樹方面にはそんなものはないようで、そのままダンジョンに潜入する。

 もちろん潜入とは言っても全力で走ってはいるので、即座にモンスターに遭遇してしまうのだが……そこはレコンの魔法《ホロウ・ボディ》によって、そのモンスターに触れない限りはバレることはない。たまに俺たちを待ちかまえているようなプレイヤーがいたものの、遠距離からサーチャーをクナイで倒して、不意打ちに身構えている間に走り抜けて事なきを得ていた。

「で、どうしたのよレコン!」

 追いすがって来ていたサーチャーをメイスで叩きのめしつつ、リズが先頭を走っているレコンへと問う。足の速さならばレコンより俺の方が速いものの、土地勘やダンジョンアタックの経験があるレコンが先頭の方が、何かと都合が良い。

「サラマンダーとシグルドが、何をしようとしてるか分かったんだ!」

 俺たちとレコンが同行している、そもそもの頼み事。サラマンダーと、レコンのパーティーリーダーのシグルドが共謀していることを暴くのに協力してほしい、とのことだった。二番目に世界樹攻略に近いシルフの協力を得るために、その頼み事に応じた俺たちだったが、調査は数個のキーワードが聞こえたのみで失敗だった。

 接触していたシルフとサラマンダーは、逃げだした一人を除いて壊滅させて、俺たちは聞き取れた数個のキーワードの一つであった《蝶の谷》へと向かっていた。だが、そのキーワードを元にして、レコンは領主館にいるというシルフの友人にメッセージを送ったところ、そのメッセージの返信から、サラマンダーとシグルドの企みと数個のキーワードが繋がったのだと言う。

「領主館の友達が、今日はその《蝶の谷》で秘密裏にケットシーとの会談があるんだって、さっきメッセージが来たんだ……」

 《猫妖精》ことケットシーという種族の妖精達は、聴力や視力という基礎能力に恵まれつつ、モンスターをテイムすることに長けた種族である。弱点は、素早い分やや身体が貧弱であることだが、モンスターをテイムするという長所から世界樹攻略では第三位をキープしている種族だ。

「会談の内容って?」

「シルフとケットシー、二種族で協力して世界樹の攻略に乗りだすって話だって」

 攻略に近い二つの種族が共同戦線をして、世界樹の攻略を目指す――という話が面白くないのは、やはり、現在最も攻略に近いサラマンダーの筈だ。そして一部だけ聞いた、《蝶の谷》や《装備》、《実力者であるリーファの動向》と言ったキーワードを合わせると、誰にでも分かるキーワードが一つ。

「サラマンダーの襲撃か……」

 その可能性を無くすために、領主館にいる一部のシルフにしか、今回の会談のことは知らされていなかったのだろうが……レコンのパーティーリーダー、シグルドは領主館にも立ち入れる実力者である。そのシグルドがサラマンダーに協力しているのだから、どれだけ情報をシャットアウトしていようが意味をなす筈がない。

「うん。シグルドがなんでサラマンダーに協力してるかは分かんないけど……」

 その会談に同行している領主館の友人にメッセージを送り、レコンはサラマンダーに狙われているという情報を送ったらしいが、撤退が間に合うかどうかは……正直五分五分であるそうだ。その友人と同時にリーファにも連絡を取ったらしく、キリトとともに世界樹へと向かっていた彼女も、《蝶の谷》へと向かっているとのことだ。……キリトももちろん、向かっていることだろう。

 レプラコーン領から出発している俺たちは、ほぼ間に合わないとは思うが、同じくシルフ領から出発していて、俺たちよりスピードの速いキリトとリーファ組ならサラマンダーの襲撃に間に合う筈……と祈るしかない。ここでシルフの世界樹攻略が遅れてしまえば、協力を取り付けるのは絶望的になってしまう。だが、シルフとケットシーの会談が成功すれば……世界樹攻略のスピードも、かなり速まるはずだ。

 そして恐らく間に合わないとは言っても、諦めて歩くわけにもいかない。俺たちも同様に、急いでダンジョン内を走り抜けていく。視界で判断するモンスターはレコンの闇魔法で欺き、プレイヤーのサーチャーは俺のクナイやリズのメイスで倒し続けて、レコンの闇魔法で欺けない敵は、《トレイン》によって他のプレイヤーに押し付ける……と言った具合で。

 そんなマナー違反なダンジョンアタックをしていると、遂にトンネル状のダンジョンを抜ける。ようやく外に出たかと思ったが、残念ながら着いたのは開けた空間に吊り橋がある場所だった。吊り橋の下では激流が流れていて、その向こうには日光のような日差しが見て取れる。……どうやら、この吊り橋を渡った向こう側が外のようだった。

「ようやく外か……!」

 走るのではなく、飛べるとなればもう少しスピードアップすることだろう。そう思いながら、吊り橋に向かって行こうとした時、身体から何かが抜けていくような感覚を味わった。……そう聞くと随分大げさな話だが、ただレコンの《ホロウ・ボディ》の持続時間が切れてしまっただけである。

「もう敵もいないみたいだし、かけ直さなくて良いんじゃない?」

「うん。MPも取っておきたいしね」

 ダンジョン内では切れる度にかけ直していたが、もうこれ以上使えばレコンのMPがとても保たない。幸いにもこの吊り橋には、モンスターは出ないようで、《ホロウ・ボディ》の持続時間が切れたまま、俺たちは吊り橋に足を踏み入れた。

「水中には巨大なボスがいるから、落ちないようにね」

 他にモンスターがいない代わりに、水中には巨大なモンスターがいるらしい。ウンディーネなしの水中戦は嫌というほど味わったし、わざわざ水辺に近づきたくもない。

「だってよ、リズ。気をつけろよ」

「落ちないわよ!」

 確かに、今俺たちが走り抜けようとしているこの吊り橋はガッシリとしていて、人間が三人乗って走っているにもかかわらず、びくともしない安定感を保っている。それが分かっていながらの俺の言葉に、リズはムッとしながら返答してきてくれる。……まあそれはともかくとして、吊り橋の安定感に感謝しつつ走り抜け――

「――止まれ!」

 ――ることは出来なかった。何か形容しがたい気配を感じた俺の言葉に、前を走っていたレコンと後ろにいたリズも止まる。一分一秒を争う事態で急いでいるにもかかわらず、歩みを止めた俺に対して怪訝な視線が向けられる。

「……どうしたの、ショウキ?」

「いや、何か……変な気配が、するんだ」

 どこかで感じたことのあるようなこの気配。まとわりつくような、気を抜いたら気配に殺されそうな、そんな気配。リズとレコンにはその気配が分からないようだったが、俺の言葉を聞いて回りをキョロキョロと見渡し始めた。……しかし周りには何の姿もなく、レコンが仕方なく索敵用の魔法を唱える。

 そしてレコンの索敵用闇魔法、プレイヤーに対するレーダーとなるその鏡には、一つの光点が示されていた……

「……本当にいた、そこの柱の陰!」

「Oh.バレちまったか」

 レコンに隠れていた場所を看破されたにもかかわらず、隠れていたプレイヤーは何の気負いもなく気軽に姿を現した。……そしてその姿を見た時、俺は先程の気配の主を思いだしていた……無意識に忘れようとしていたにもかかわらず。

「相変わらずcowardだなぁ《銀の月》」

 相変わらず《臆病者》――奴はそう言いながら俺を笑っていた。俺の記憶より体格は少し大きいが、身体全体を隠している死神のような印象を持たせるポンチョ姿。そこからのぞく手に無造作に持たれた、鎌の如く暗い光沢を纏う包丁。

「久々のreopenじゃないか、もっと喜べよ……なぁ?」

 そこに亡霊のように佇んでいたのは、アインクラッド最強最悪の殺人ギルドのリーダー。

「PoHっ……!?」

 激流の流れる音が響く吊り橋の上に、奴のふざけた声色の「Exactly」――その通りだ、という肯定の意を示す声が響きわたった。
 
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