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戦国異伝

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第百六十話 四人の男達その十三

「命を粗末にするなと言っておる」
「その通りですな」
「確かに公方様からの文は受け取っておりますが」
「それでもですな」
「そのことは」
「そうじゃ、決してな」
 それは許さないというのだ。
「断じてな」
「しかしあの者達は自ら戦をしております」
「そして戦っております」
「あれは法主様のお言葉を聞いておりませぬ」
「それも全くです」
「考えれば考える程わからぬ」
 例え顕如でもだ、親鸞の再来とまで言われる程の頭の切れと知識、そして信仰を全て備えている彼でもだ。
「門徒達であってもな」
「ではその者達をどうしますか」
 下間一族の一人が問うてきた。
「一体」
「拙僧から止める様に言うか、いやここで止めては織田家は石山に来る」
 信長が既にここまで来ている、それではだ。
「今は織田家にあの者達と戦ってもらってじゃ」
「そして、ですな」
「今は」
「うむ、織田家には疲れてもらい時間を稼いでもらってじゃ」
 そのうえでだというのだ。
「石山を救ってもらおう」
「そうされますか、ここは」
「その様に」
「うむ」
 その通りだというのだ。
「そうしてもらう」
「あの者達が何者であろうとも」
「今はですか」
「利用させてもらう」
 これが顕如の今の考えだった。
「何としてもな」
「そうですね、それでは」
「今は」
「うむ、あの者達は気になるが何もせぬ」
 顕如は龍興達にこう告げた。
「とりあえず石山の備えを固めておくとしよう」
「敵が何時攻めてもきていいように」
「その様にですな」
「油断すれば終わりじゃ」
 例え今の織田家の兵では陥とせぬといってもというのだ。
「だからよいな」
「畏まりました、では」
「今は」
「織田家が紀伊を攻め落とすことは我等にとっても痛い」
 紀伊にも多くの門徒達がいる、彼等を手放すことになることが本願寺にとって痛い筈がない。それでこう言う。
 しかしだ、それでもだというのだ。
「だがな」
「今時間稼ぎになれば」
「それで、ですな」
「そうじゃ、今はな」
 石山を守る為にだった。
「止むを得ぬ。公方様の仲裁を受けてじゃ」
「後は武田、上杉、毛利、北条と手を組み」
「その上で織田家を」
「攻める」
 その時に反撃に転じるというのだ。
「それは石山さえ残っておればな」
「出来ますな」
「「この石山さえあれば」
「籠城は援軍がいてこそじゃ」
 それではじめて出来るものだというのだ。
「だからじゃ」
「今はですな」
「次の戦まで生き残る」
 この石山御坊がというのだ。 
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