蒼の使い魔は悪魔で召喚魔剣士
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ミノタウロス
とある任務の帰り道、シルフィードに乗っている俺たちは
「おねえさま、お腹が空いた。お腹が空いた。きゅいきゅい!」
タバサは相変わらず本を読んでいる。代わりに俺が言う。
「学院についたらマルトーさんに言ってご飯もらってくるから我慢するんだ」
「きゅい!もう我慢できないのね!トリステインに帰る途中、村とか街がたくさんあるのね。その地方特有の料理があるに違いないのね。たまには寄り道してそういうの食べるのも良いと思うのね!」
「寄り道はいいが、なんだか長い寄り道になりそうな予感がする」
「きゅい。予感なのね、大丈夫なのね。ほら、あそこに街発見。どんな名物があるのか気にかかるのね。ああ、気になりだしたらお腹が限界まですいたのね~~~~!もう飛べない。だめきゅい」
ふらふら落下を始めるシルフィード。演技だが。
タバサは本を閉じる。
「わあ!やっとその気になったのねお姉さま!きゅい!」
タバサは本をしまうとまた別の本を取り出す。
「期待させといてひどいのね~~~~~!」
怒ったシルフィードは地面めがけて急降下する。俺たちは途中で振り切られ、空中に投げ出される。
「シルフィード!」
俺は怒るが、そのまま地面に着地し変化するシルフィード。
俺はタバサをお姫様抱っこして、翼を出してゆっくり飛びながら降りる。タバサが顔を少し赤くしつつも本を読み続ける。
俺は地面に降りると、タバサを降ろす。そして。
「シルフィード……」
「お、お兄さまは飛べるから大丈夫と思ったのね」
そしてシルフィードは逃げるように街に行こうとするが。
「待て!そのまま行くな!裸だろ!」
「きゅい。そういえばそうなのね。お兄さま召喚術で服出せないのね?」
「無属性のならできるかもしれんが……」
とりあえずやって見ることにする。
「召喚。シルフィードの服」
ポンッという音とともにシルフィードがよく着る服が出てくる。
でてきた……あの神またなんかしたのか?今度あった時、勝手に能力つけてた時はまた仕置きだな。
「さすがおにいさまなのね!」
服を着始めるシルフィード。そして服を着たとたん駆け出していった。
金ないからまた戻ってくるだろう。
三十分くらい後にシルフィードは駆け戻ってきた。
「お金が無いのね!ダメって言われたのね!」
そしてシルフィードはタバサの体をまさぐり始め、お金を捜し始めた。
仕方なくタバサは立ち上がり。
「やったぁ!きちんとシルフィードにご飯食べさせる気になったのね!」
きゅいきゅいとシルフィードは喚いた。
街につきシルフィードは一軒の酒場を指差し、喚く。
「お姉さま!お兄さま!ここ!ここの店なのね!ほら、中からとってもいい匂いがするのね!」
シルフィードが指差した店に俺たちは入った。
すると店の店主がシルフィードを見て。
「またきやがったか!さっきも言っただろうが。金のねえやつに食わせる料理は無いってね!」
「お金は持ってきたのね!」
「ほんとか?そこの兄ちゃんはいいとして子供を連れてくるのは……」
そこまで言って店主はタバサの格好に気付く。
「へ?貴族?」
「ここにおわす方をどなたとお思いなのね。泣く子も黙るガリアの北花dむぐ!」
俺はシルフィードを止め小声で言う。
「それは言ってはだめだ」
「そ、そうだったのね」
小声で返し。
「なな、なんでもないのね。泣く子も黙るガリアのただの騎士さまなのね」
「とにかく貴族のお客様なら話は別だ。ささ、空いてる席におかけください。貴族さまをお迎えするような上品な店じゃあねえが、この辺りでは割りと評判でね」
店主は次々と料理を運んでくる。
なるほど、シルフィードが反応しただけあって、どの料理もなかなかうまそうだ。
シルフィードはさっそくぱくぱくと食べ始め、俺とタバサもそれに続く。
タバサは食べ始めると速い。小さな体のどこにそんなに入るんだ?と疑問に思いつつ自分も食べてる量が体と比例してなかったり……
そんな中、俺達を見てくる婆さんがいて、こちらによってくる。
シルフィードが気付き尋ねる。
「ん?どうしたのね?」
「騎士さま!騎士さまにお願いがありますのじゃ!」
シルフィードはお腹が空いてるのかと勘違いをしたりしたが。
奥から店主が来て婆さんに怒鳴り、婆さんは黙ってておくれ!と怒鳴り返したが咳をし始めそんな婆さんを店主は殴ろうとしたが俺が腕を掴み止める。
「止めねえでください!」
「かまわない」
タバサが首を振る。
「俺の主人はどうやら婆さんの話を聞くようだ」
俺がフォローする。
だが店主はほっときなせえ!と言うなんでも婆さんは昨日から来る客たちに同じことを話すらしい。
だがタバサは店主を無視して、老婆に話を促す。
老婆の話をまとめると。
エレズ村と言う所で、最近村の近くにミノタウロスが住み着き、若い娘を毎月一人生贄に差し出さないと村人を皆殺しにすると脅してるらしい。
そして婆さんは泣きながら訴えてくる。
十年ほど前にもミノタウロスが現われ、その時もこうやって騎士に頼んで退治してもらったらしい。店主は領主に訴えろというがもうすでにやったが多忙を理由に断られたとか、それを店主は困ったように、最近子供の誘拐事件が流行っているとかで怪物退治どころではないから先にそっちを優先しているのだろうという。
それ以上は婆さんは店主に耳を貸さずタバサに懇願するが、シルフィードが婆さんの肩に手を置き
「おばあさん、可哀想だけど、ミノタウロスはまずいのね。お姉さまは相当なやり手だけど、今回ばかりは相手が悪いのね。したがって辞退させていただきます」
「そんなにミノタウロスってやつは強いのか?」
俺が聞くと、シルフィードは、首をはねられてもしばらく動く生命力を持ってるだとか巨大ゴーレム並みの力を持ってるとか、刃や矢弾などを受け付けない硬い皮膚、そして狭い洞窟に住むから身軽なタバサは動きを封じられ、よどんだ空気の中で風魔法は威力を発揮できないなど説明してくれた。
店主もタバサはまだ子供だし、一文にもならない仕事を貴族はしないと言う。
金ならあるという婆さんが出した金は三エキューもなかった。
タバサは立ち上がり、店主はその金で命捨てろって方が無茶だと納得。シルフィードはすまなさそうに頭を下げ、村を捨てることをお勧めした。
だがタバサは。
「どこ?」
「え?」
「村の場所はどこだってさ」
その言葉に婆さんは泣き崩れ、感謝の言葉を叫ぶ。
「お姉さま!さすがにミノタウロスはまずいのね!洞窟の中で勝負するしかないのね!お姉さまみたいな風使いには、それが激しく危険なのね!お兄さまならともかく」
タバサは老婆を促しすたすた歩き出す。
「ああもう!知らないのね!穴の中で戦うなんてごめんなのね!シルフィはここで待ってるのね!」と床の上にドスンと座り込む。
店主はそんなシルフィードに同情した。
「行くぞシルフィード。俺もミノタウロスと戦う」
「おいおい兄ちゃん、見たところメイジでもなさそうだがそれじゃミノタウロスに太刀打ちできねえぜ?」
「それなら心配要らない。メイジを倒すほどの化け物だって相手にしたことはある。それでは騒がしてしまってすまなかったな」
俺は勘定を払い、シルフィードを連れて店を出た。
「あの兄ちゃん何者なんだ?」
店主は呟いた。
村に行く途中、婆さんはドミニクと名乗った。
そして俺達はエレズ村に着く。
ドミニク婆さんが村人達に騎士が来たことを伝えたが、村人は、最初は喜んだがタバサを見て。
「なんでぇ……、子供かい……そっちの兄ちゃんが騎士だったらよかったのに」
「こ、子供といったって、騎士さまにはかわるまいよ!」
ドミニク婆さんは言ったが村人は肩を落として、それぞれの家に戻った。
タバサは婆さんを促し、婆さんはタバサに謝罪する。
婆さんの家に着くと、少女とその母親らしき女性が抱き合って泣いていた。婆さんをみて少女が顔を上げ、婆さんは騎士を連れてきたと伝える。
少女はジジというらしい。今回生贄に選ばれたのはこの子の様だ。歳は十七くらい、栗色の長い髪に茶色の目、可愛らしい少女だった。
ジジは一瞬タバサを見て悲しそうに口を歪めたが次に大きな杖を見て顔を輝かせる。そして母親らしき女性がタバサに感謝の言葉を言う。
その夜。
俺達は婆さんの家で歓待された。藁にもすがる思いの一家は乏しい食材をはたいて精一杯の料理を作り、タバサの前に差し出す。
タバサはそれに手をつけず、どうやってミノタウロスが生贄を要求したか聞く。母親の方が獣の毛皮を一枚持ってきた。
革の内側に血文字で次に月が重なる晩、森の洞窟前にジジなる娘を用意するべしと書かれていた。
なぜ読めるかって?俺の、ルーンの効果の一つだと思う。
そして予告時刻は明日の晩だった。ちなみに文字はガリア語だ。
この手紙は広場の掲示板に先週張られていて、その際に森に消えていく牛頭の化け物の姿を何人も目撃したらしい。十年前も同じことがおきたらしいが……
その十年前も有り金持って街に討伐してくれる人を探したようだ。そしてラルカスという騎士がそれを快く引き受け、かなり苦戦して大怪我を負いつつも火の魔法を駆使して倒したらしい。
ジジの父がタバサになぜ頼みを聞いたかと聞かれると修行中と答え。ジジの父は実力を見せてくれないかと頼む、娘のためにこんなに小さな子供が犠牲になるのは申し訳ないと。
タバサは立ち上がり呪文を唱え氷の矢を作り窓の外に撃った。外に木でできた柵を支える杭に氷の矢が一本ずつ深々と突き刺さっていた。
正確な狙いと固い木にめり込む威力をみてジジの父は謝罪しミノタウロスを倒してくれと頼んだ。
そしてタバサは寝る前に、十年前も娘の指定はあったか聞くが、当時はただ若い娘とだけだったようだ。
それを聞いた後、俺達は寝室に向かう。
そこでシルフィードがタバサにいかにミノタウロスが危険かを話していたところジジがやってきて、このまま帰ってくださいと私のために誰かが犠牲になるのは嫌だといったが、タバサは貴方一人の問題じゃないといった。
魔法は完全無欠の、奇跡の技だとジジが言うと
魔法は完全じゃないとタバサは答えた。その後、すぐに寝てしまった。
シルフィードは寝てしまったタバサを見て。
「お姉さま、勝算はあるのかしら……」
「俺はあると思う」
「いったいなんなのね?」
「今回の件は少し不自然なところがあるということさ」
「?」
そして俺達も寝た。
翌日、朝が来てもタバサは目覚めない。
結局夜まで寝続けた。
そしていよいよ行こうという時にタバサの隣でシルフィードはぐうぐうと寝ていた。
変化の呪文を使い続けると脳が疲れるため、睡眠の量が半端じゃない。一昼夜寝ただけじゃ寝たり無いようだ。
俺は特性眠気覚ましをシルフィードに飲ませて起こす。
「きゅい!すっきりするのね!」
今回始めて使ってみたが、なるほど結構効き目はいいらしい。
なに?そういうのは実験台達で実験してからにしろ?これは材料からして安全なものだしそんなものを実験台たちに使ったら仕置きにならんだろ。(大抵実験台の人達にはへまやらかした罰で飲ませてます)実験台にはもっと危なさそうなものを試す。
「そろそろ行く」
タバサが言い、俺達は案内されて洞窟に向かう。
「こんなことだろうと思ったのね」
例の洞窟の前で囮にされるシルフィード。
ジジの父は帰した素人がいても足手まといと、俺もいるからと言う事で納得してくれた。
ちなみに囮のシルフィードは髪を茶色に染められジジの服を着せられ縛られて転がされている。なにやら恨み言が聞こえるが、まあしかたない。俺は、変身は無理だし、男だからな。
なにやらシルフィードは怖がってるようだが、耐えてもらおう。
そしてしばらくすると、洞窟の中ではなく茂みからガサリと音がし動いた。俺達とはシルフィードをはさみ逆の方向だ。
シルフィードが伝説の風韻竜とは思えない情けない悲鳴をあげている。
次の瞬間、大きな牛の頭がのそっと現れた。
シルフィードの悲鳴はさらに激しくなる。
怪物はがっちりとした大男で手に大きな斧を下げ、ゆっくり辺りをうかがうようにしてシルフィードに近づく、シルフィードは慌ててるせいか縄が解けないようで、タバサと俺に助けを求めるが、俺達は出て行かない。
そしてミノタウロスはシルフィードの腕を掴む。
「いやぁあああああ!怖い~~~~~~!きゅいきゅいきゅーい!」
変化を解けば逃げられるのに、忘れてるな……
そしてミノタウロスはシルフィードに何か呟き、抱え上げ元来た方に引き返し始める。
そこでようやくそのミノタウロスがおかしいことに気付いたシルフィードはきゅい?という声を上げ小さく怒りの声を漏らし始めた。気付いたみたいだ。
そして尾行をしていくとカンテラの明かりが見え、ならず者が五人いた。
武器は錆びた短剣が二人、ホイールロック式の拳銃を持ったやつが二人、最後は長柄の槍を握ってる。
シルフィードは怒りを抑え怯えたフリをしている。
だがジジじゃないとすぐにばれ、エレズ村の村長の名前を言えといわれて、答えられずに困ってる。
そろそろだな……
男達がそれぞれの得物をシルフィードに突きつけた。
その瞬間、氷の矢と棒手裏剣が飛ぶ。
男達の手などを正確に突き立ち、男達は握った武器を落とす。
「お姉さま!お兄さま!」
俺達は男達の前に出る。男達は残った手で、武器を拾いあげようとするが。
「動くな、次は心臓を狙う」
突然現われた貴族に男達の戦意は喪失したようだ。利き腕もやられてるしな。
小さい体から氷のような威圧感を放ちながら、タバサは小さな声で問う。
「あなたたちは、何者?」
「み、見ての通り人売りでさ」
「こいつら!このシルフィをモノ扱いしたのね~~~!許せないのね!」
「ほら、仕返しは後だ、縛り上げるぞ」
「はいなのね!」
俺とシルフィードは男達を縛り上げ、俺は棒手裏剣も回収しつつ男達の武器を拾う。
「お兄さまが言っていたのはこのことだったのね?お姉さまもそれに気付いていたのね?」
「確証はなかった」
「二人ともいつ気付いたのね?」
タバサはこちらを見る。説明して欲しいらしい。
「まず手紙だな、ミノタウロスって化け物が書いたにしちゃ整いすぎてるように感じた。それと、ミノタウロスは人を食うような化け物なんだろ?」
「きゅい、そうなのね」
「そんな化け物が娘を指定するなんておかしくないか?若い娘なら誰でもいいはずだろ」
シルフィードはじっとこちらを見て。
「……なんでシルフィに黙ってたのね」
「敵を欺くには、味方から」
「お兄さまは知っていたのね!」
「彼は自分で気付いた」
「うう」
後ろから誰か来てるな……そろそろ話を進めよう。
「まあ、そろそろこいつらにリーダーが誰かとか聞こう」
「そうなのね!誰がリーダーなのね!」
「私だ」
後ろから声がする。瞬間、タバサは咄嗟に振り返ったが、後ろの男……よりも俺が速かった。
俺の投げた棒手裏剣が相手の杖を持ってる手に当たる。男が杖を手放した。
一瞬で男に走って近づき無事な方の腕を背中の方にねじり押さえ込む。そして縄で縛った。
「な、なぜ気付いた」
「気配がしてな」
「そんなもので……」
男は四十過ぎほどの痩せ気味の貴族だった。いや貴族の名を捨てた、ただのメイジか。
タバサは男に聞く。
「誰?」
「はは、名前など、何年も前に捨てた。そうだなオルレアン公とでも呼んでもらおうか。あの間抜けな王弟と同じさ。兄に冷や飯を食わされてね、反発して家を出た……のにこんなあっさり捕まるとは……」
おいおい、その名前をここで使うか……タバサが目に見えて怒っているぞ。
その時また茂みの方から気配がする。
「誰だ!」
俺は気配のしたほうに向きながら言う。
ガサリと茂みから牛の頭が見えた。
それを見た男達はパニックに陥り縛られて逃げられないことに気付くと絶望して白め向いて気絶する。
俺達は警戒する。
「待ってくれ、君達に危害を加えるつもりは無い」
人の声でそう話してきた。
「……貴方は?」
「そうだな。この姿では、私が何者なのか気になるだろうな。まあいい。君達は貴族のようだから、説明しよう。こっちに来たまえ」
タバサはこちらを見る。
「どうやら普通のミノタウロスではないようだな……警戒はすべきだが行って見よう」
コクリと頷き、ついていくと先ほどの洞窟だった。ちなみに男達とメイジは俺が引きずってる。
とりあえず洞窟に入るには邪魔なので、魔法で眠らせ洞窟の入り口に転がしといた。
洞窟に入ると中は真っ暗だ。俺には見えるが、タバサ達は何も見えないだろう。
するとミノタウロスは何かに気付き。
「おお、君達はこの暗がりでは、歩けないな。これを使うといい」
そういって隅に転がってた松明に着火の呪文を唱え、火をつけて渡してきた。
「じゅ、呪文?ミノタウロスが呪文を使うなんて聞いたこと無いのね!」
「それは奥で話そう」
そして、俺達は進む。
洞窟は予想以上に広く、途中でミノタウロスが鍾乳洞だと説明した。
柱のような石筍が地面から何本も突き出し、天井からは石氷柱が垂れ下がる。松明の明かりに、それらの鍾乳石やむき出しになった石英が照らされ、きらきらと光った。
そして俺達はミノタウロスを先頭に黙々と歩く。
洞窟の壁近くに、石英の結晶がいくつも固まって輝いてる場所があり。
「うわぁ、綺麗なのね!」
シルフィードはよく見ようと近づく、するとミノタウロスが大声で叫ぶ。
「近づくな!」
「きゅい!」
「……いや、すまぬ。その辺りは土がむき出しになってて滑るから危険なんだ。さあ、こっちだ」
俺はその場所を見てから先に進んだ。
さらに奥に進むと、部屋のように開けた場所にでた。そこには雑多なものが運び込まれており、机に椅子、どれもミノタウロス用だ。
かまどもあり、その上でなべがぐつぐつと煮えたぎってる。そしていくつものガラス壜、そして秘薬が詰められた袋、マンドラゴラが栽培された苗床、洞窟の中に作られた実験室だった。
「貴方は……」
タバサがミノタウロスを見上げながら言う
「ラルカスという。元は……、いや、今もだが、貴族だ」
「十年前に、ミノタウロスを倒してのけたという」
「ああそうだ。その私が、どうしてこんな格好をしているのか、気になるだろうな」
そしてラルカスは十年前のことを語った。
まあ簡単に話すと。
退治したミノタウロスの生命力に驚き、その生命力に惹かれた。
そしてラルカスは不治の病だった。余命を使い最後の旅行中にミノタウロスに出会った。
本来は水系統の使い手で、その魔法を使い禁忌とされる脳移植をミノタウロスに自分自身の手で行った。ということらしい。
タバサはその告白に驚いている。
ラルカスはミノタウロスの体になってから、体力、生命力だけでなく魔法も強力になったのでそれからずっとここで研究に打ち込んでいるらしい。
シルフィードは聞く。
「寂しくないのね?」
「もともと独り身だ。洞窟も、城も大して変わらぬ」
そういったラルカスはう、と呻いて頭を抑えた。
「どうしたのね?」
シルフィードは近づこうとするが。
「触るな!」
そう怒鳴られた。
「きゅい!」
シルフィードは咄嗟に俺の後ろに隠れる。しばらくラルカスは荒い息をついていたが、首を振り。
「……すまぬ。たまに頭痛が激しくなるのだ。まあ、些細な副作用さ。わかったら、もういいだろう。あのメイジたちを連れて村へ帰れ」
去り際にラルカスは、私のことは誰にも言うなと釘をさした。
村に帰ると歓声で迎えられ、明日そのメイジたちを役人に引き渡すことになった。
その夜は村をあげての料理が振舞われた。とっても貧しい村だからたいしたものは出ないが、タバサはもくもくとサラダを食べている。ずいぶん苦い野菜を食べているが、そういう味が好物らしい。
そんな中、村人達にメイジ達に村人が最近の子供の誘拐もお前らだろ!と言われメイジたちはそれはやっていないという。
そんな会話を聞いて。
タバサは少し考えた後、こちらに向き。
「アル」
「ああ、多分な」
そのやり取りにワケが分からないとシルフィード。
「お兄さま?お姉さま?」
そしてタバサは黙り、再び考え始めた。
翌朝
人攫い達を役人の下に連れて行くのにタバサも同行するはずだったが、出発の直前で用事があると同行しないことになった。
「用事ってなんなのね?」
シルフィードが聞いてくるので。
「まだ確証はないからな、なんとも言えん」
そして俺達は昨日の洞窟に着く。
「ラルカスさんに用事があるのね?」
そして中に入っていく。タバサはライトを唱え、杖の先に明かりを灯しながら進む。
途中でタバサは立ち止まる。シルフィードが近づこうとしてラルカスに怒られた場所だ
俺とタバサは石英の結晶に近づく、シルフィードは慌てて止めようと喚いたが気にしない
そして硬い鍾乳洞の床の中で土がむき出しになっている場所があった。
俺とタバサは土を掘ると中から出てきたものにシルフィードは驚く。
「ほ、骨なのね……」
人骨が出てきた。小さな頭蓋は、おそらく子供のもの。それがいくつもいくつも出てくる。
それにシルフィードは青ざめた。
「十年前にここに住み着いていたミノタウロスの犠牲者なのね?」
タバサは首を振り、俺は説明する。
「いや、これは新しすぎる。それほど劣化してないしな」
そこに洞窟の奥から、野太い声が響いた。
「……帰ったのではなかったのかね?」
ラルカスの声だ。
タバサがわずかに硬い調子で問う。
「この骨はなに?」
「……この辺りに住む、サルの骨だよ」
タバサはゆっくりと、洞窟の奥に杖を構え、俺も戦闘態勢になる。
「子供をさらっていたのは、貴方」
返事はウィンディ・アイシクルで返ってくる。俺はレジスト・ヴィレでそれを防ぐ。
「下がってて」
タバサはシルフィードに命令する。
こんな狭い場所では、元の姿に戻れない。シルフィードは石筍の後ろに隠れる。
タバサはライトの魔法を解除する。そして深い闇が広がった。
そこに低い声が響く。
「少女達よ、諦めろ。全ての利は私にある」
タバサは答えず呪文を唱える。
氷の槍ジャベリンだ。
「一つ目の利……。まずこの闇だ。お前達は私の姿が見えぬが、私には見える。闇はこの体の友だからな」
いや、この中で見えないのタバサだけだ。それも……
「お姉さまの斜め前、左三十度!」
シルフィードがタバサの目の代わりになる。
タバサはその場所に渾身のジャベリンを放つ鉄の鎧さえぶち破る鋭さを込めた氷槍だ。
ぼこっ!と鈍い音がする。命中した。だが……
「なかなか鋭いジャベリンだな。しかし、この厚い皮膚は破れぬよ。さて、次の利点はこの体だ。私の皮膚は知ってのとおり、風の刃や氷の矢などを受け付けぬ」
そしてタバサに向かって大斧を振り下ろす。念のためタバサにバリアーを使っているがタバサはその攻撃を避けた。
「利点、その三だ。私の体力は、人間など簡単にばらばらにできる」
タバサは呪文を唱え、大きなつむじ風を唱える。そして洞窟内の埃を舞い上がらせ、相手の視界をふさごうとした。俺の視界もふさがるが、まあ問題ない。
だが、同時にラルカスも呪文を唱えタバサの目論見を粉砕する。激しい風が舞い上がった埃を洞窟の奥に吹き飛ばす。
「利点、その四。言っただろう?私はこの体を得たことにより、さらに強力な精神力を得ることになった。おそらくスクウェアクラスまで成長しているだろう」
シルフィードが叫ぶ。
「お姉さま!逃げて!分が悪いのね!」
「逃げようなどと考えない方がいい。土地勘のない洞窟だ。焦って駆け出せば必ず転ぶ。それに、どんなに速く駆けても、私のほうが速い」
いや、多分逃げ切れ……もういい。
タバサは覚悟を決めたようだ。杖を構え、真正面からラルカスに対峙している。
そんなタバサの様子を見てラルカスは笑う。しかし、笑い声は出ず、ただ唇の端を吊り上げ、フゴフゴと咳き込んだような呼吸音が出るばかりだ。
「笑うなど久しぶりでね。笑い方すら忘れてしまったようだ。しかし少女よ、小さいながら見事な構えだ。お前のように潔い、貴族らしい貴族は昨今珍しいな」
ラルカスは斧を振り上げる。ラルカスにとっての杖らしい。
「貴族相手の決闘だな。いざ」
タバサは冷たい声で言う。
「貴方は、もう貴族じゃない。血に飢えたけだもの」
闇の中、ラルカスの目が一瞬赤く光った。
「私は貴族だ。貴族らしく勝負をつけようではないか。エア・ハンマーだ」
タバサとラルカスが同時にエア・ハンマーを打ち出す。
だがタバサよりラルカスのほうが強力だ。タバサは吹き飛ばされるが俺はウィンドで壁にぶつかるまえに勢いを止める。
ラルカスはタバサに近づこうとするが、俺はラルカスとタバサの前に立つ。
「悪いな、決闘の邪魔をして。だが、俺はタバサの使い魔だからな、主人は守らせてもらう」
「どきたまえ、青年。私の魔法の威力を見ただろう?青年では私に勝てんよ」
「それはどうかな、化け物」
「青年も私を貴族じゃないというのかね?」
「貴族もなにも、お前はただの人食いの化け物だろう?まあ、俺も人は食わないが悪魔だから化け物ではあるかな」
翼を出しながら言う。
「取り消せ!私は貴族だ!悪魔よ!」
そう怒鳴った瞬間、ラルカスは頭を抱え、膝をつく。
「ふお……、うぉ……、ぐぅお……」
苦しそうに身をよじり、頭を抱えてのたうちまわり、目が鈍く、深い赤に光だし、その口からよだれが垂れ始めた。
「完全に化け物になったか?」
「ト、トリケセ……」
獣のうなり声のような声だ。
「断る」
「ト、トリケセ……、ウシロ、オンナ、ウマソウ。トリ……、オンナ、ウマソウ。タベル」
「悪いがタバサをお前に食べさるわけにはいかない」
俺はロックブレイクを相手の腹にぶち当て相手が少し浮かんだ所に
「灼熱の軌跡を以って野卑なる蛮行を滅せよ。スパイラルフレア」
俺の前から巨大な火球が生まれ、すごい勢いで飛び出しラルカスに当たった。
倒れたラルカスを覗き込むとぎりぎり生きてた。なんだかあっさりだな……魔法の威力が上がってるような……
タバサがライトの魔法を使いこちらに近寄ってくる。
ところどころ体が焼け焦げ煙をあげているが、正気を取り戻したらしいラルカスは語り始めた。
「……三年ほど前だ。子供を襲う夢を見た。獣のように、私は子供に食らいついていた。それから何度もそんな夢を見るようになった。ああ、始めは、夢だと思っていたよ。目が覚めて……、ああ、意識が戻って、そばに転がった子供の骨を見ても、それが現実のことだとは思えなかった」
「……」
ラルカスは徐々に自分の精神がミノタウロスに近づいてるとミノタウロスの意識が残ってたのと自分の心が体に近づいていった……その両方だろうとも。
死のうとしたが、己の命を絶つ勇気が無かった。色々薬を作り己の中の獣を殺そうとしたがそれも無理で日に日に自分でいられる時間は減っていったようだ。
「礼を言うぞ。少女と青年よ、最後にお前達の名を教えてくれんか」
「アルウィンだ」
「シャルロット」
タバサは本名を告げた。
「よい名だ」
「ありがとう」
タバサは頷く。
「ああ……、自分が自分でなくなるというのはイヤなものだな。実にイヤなものだ」
それが合図であるかのようにゆっくり、ラルカスの目から光が失われていった。
俺達は研究室ごとラルカスを火葬した。そして魔法学院に帰る途中。
タバサはぼーっと空を見つめている。シルフィードはタバサを心配して
「さっきのラルカスさん……、自分が自分でなくなるのがイヤだって言ってたけど……、その通りなのね。きゅい」
タバサはじっとしている。
「安心して。シルフィはお姉さまがお姉さまでなくなっても、ずっとお姉さまの味方なのね」
タバサはその言葉を聞いて俺のほうを向く。
「アルは、人間から悪魔になって変わった?」
「ストレートに聞くな……そうだな、変わったな」
「「!?」」
タバサとシルフィードは驚く。シルフィードはパニックになりながら叫ぶ。
「お、お兄さまもラルカスさんみたいになっちゃうのね!?」
「いや、ああはならないだろうが。人間だった頃より悪魔みたいになった気がする。自覚はそんなないがな」
「……」
「大丈夫!シルフィはお兄さまの味方でもあるのね!きゅい!」
「ありがとう、シルフィード」
タバサはなにか言おうとしたがやめて、小声で呟く。
「私も……」
「ありがとう、タバサ」
それを聞いて複雑そうな顔をしつつも顔を少し赤くする。
そして俺達は魔法学院に帰った。
************************************************
アルさんの魔法の熟練度が上がってきているようです。
召喚獣についてはXやグランテーゼのも出そうかどうか悩んでます。
後、なにか書きたかったことがあったような気が・・・思い出したら書きます。
では、誤字・脱字・感想・アドバイス等お待ちしております。
後書き
Xもグランテーゼもあんまり人気がない感じですが、私はどちらも好きです。ツインエッジもやりました。
というかサモンナイトシリーズは一応全部プレイ済みです。
1番好きなキャラは……なんだろう?召喚獣だったらテテともう一匹(同列1位って感じです)が1番好き!と言えます。
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